金髪さんのいる同盟軍   作:ドロップ&キック

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またもや変な時間にアップです(^^
最近、執筆速度が微妙に安定しないな~。

今回は、めちゃくちゃ日常パートです(笑
見ようによってはかなり甘めかも?

まあ、()()()()()()()不穏な言葉の羅列もあるようですがw



第104話:”銀河指輪物語”

 

 

 

さてさて、結婚式を行うには色々と準備が必要なのは前にも書いた。

とりあえず、オーディンを主神とするゲルマン神話の神々を崇め奉る”エッダ教会”で挙式することを決める。

幸いにしてと言っていいのか微妙だが、崇める神が違うだけで挙式の手順そのものはキリスト教、どちらかと言えば緩いプロテスタントや英国国教会の方式の丸パクリだ。

 

要するにバージンロードを歩いたり、指輪交換したり、誓いのキスをする一般的に結婚式と言えばだれでも想像する”アレ”だ。

帝国本国でさえも神聖な宗教的儀式(イニシエーション)というより、結婚イベントというとらえ方のほうが正解に思える。

正直、『キリスト教でもない日本人同士がチャペルであげるキリスト教を模した結婚式』っぽい俗っぽさがそこはかとなく見え隠れしている気がするが……まあ、宗教が歴史的役割を終えて久しい思われてる時代なのだから、まだ結婚式を開くだけ伝統と格式に則ってると言えるだろう。

何しろ、法的には役所に届ければ済むご時世なのだから。

 

また、このタイプの結婚式はテーブルに着席して延々と新郎新婦の足跡を垂れ流すような披露宴はなく、式後の親族の親睦を深めることを目的とした会食は、立食パーティー形式が一般的。

なので、ここのレストランも押さえておく……のだが、ノリノリなミューゼル夫妻に先回りされて抑えられた。

なんでも2人にとっても思い出の店らしいが……

 

『うむ。ウェンリー君、店は既に押さえておいたから心配はいらんぞ? 教会と店に入る人数ならば、何人呼んでも構わないからな』

 

『そうよ~♪ あっ、お金の心配ならいらないわよ? かかった分だけで、後で払っておくからね♪』

 

娘の懐妊と結婚にグイグイと来る、割と押しの強いセバスティアン・ミューゼル&クラリベル・ミューゼルに頭を抱えるヤン・ウェンリーがそこにいた。

というかこの夫婦、式関係に至ってはヤンに一銭も支払わせる気はないらしい。というか趣味に走りまくってる。

まあ、かと言ってヤンに何か代案があるわけではないので……流されることに決めたようである。

そもそも、アンネローゼに出会うまでは結婚を人生のイベントから除外していたようなこの男に、戦争のプランニングならともかく、ウェディング・プランニングなんて土台無理な話なのだ。

アンネローゼは、両親の予想できた暴走っぷりに苦笑するだけだった。

 

という訳で本日は、ミューゼル夫妻に背中を押されてアンネローゼと共にハイネセンポリス有数の高級ショッピングモールへ結婚指輪(マリッジリング)を選びに来ていた。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

もしかしたら書いてなかったかもしれないが、遅ればせながらヤンは甲斐性を見せてアンネローゼの『できちゃった♪』発言より大分前……ヴァンフリート星系から帰国後、少佐となり初めて出たボーナスで、アンネローゼに婚約指輪をちゃんと贈っている。

まあ、少しヤンの弁護をすれば……そもそも婚約指輪(エンゲージリング)が遅れたのは、アンネローゼの一目惚れ(からの~)プロポーズ『結婚を前提にお付き合いしてください』という、グデーリアンもびっくりな電撃戦を成功させ、そのままあれよあれよという間に同棲生活(マスオさん)状態に持ち込まれたため、完全に指輪を渡すタイミングを失ってしまったのだ。

 

それにしても……出会いから結婚までの流れの間、これだけの短時間でヤンをある意味連敗させ続け、反撃の糸口さえつかませなかったのはアンネローゼくらいなのではないだろうか?

対ヤン戦の連勝記録を伸ばし続けてるという意味では、済し崩し的に愛人の座を勝ち取ったアシュリーもそうだろうが……少なくとも、この世界線においてヤンは『()()()()()』とても”不敗の魔術師”とは呼べないだろう。

女性相手には、どちらかと言えば”連敗の黒魔術師”と呼ばれかねない。

何しろ、ヤンの「穏やかに過ごしたい人生」の中に入ってくる女性が、”たった2人だけ”とは誰も決めてないのだ。

 

 

 

それはともかく……アンネローゼの誕生日は6月26日、ヤンの誕生日は4月4日、誕生石はそれぞれ真珠(パール)とダイヤモンドだ。

そこで、良質なアコヤ真珠の周りを極小粒(パヴェ)ダイヤモンドで囲むような細緻なデザインの指輪だ。具体的にどんなデザインかは”エマ・ストーン パール 指輪”あるいは”Pearl Snowflake Ring-Supreme”あたりで検索すれば一発で出てくるが……とりあえず、ボーナス艦隊の大半が轟沈するほど奮発したのは間違いない。

 

それを受け取った時のアンネローゼのはしゃっぎぷりを書こうと試みようともしたが……あまりにシュガー・オーバーフロー(砂糖吐き出す)展開だったため、作者の精神がオーバーキルになり断念した経緯がある。申し訳ない。

 

ちなみにこの男が、『婚約者と自分の誕生石に(ちな)んだエンゲージリングを贈る』なんて気の利いたことを考え付くはずもなく、入れ知恵したのは十中八九、お嬢ニヒトことアシュリー・トリューニヒト(ヨブ・トリューニヒト・セカンド)だろう。

婚約者に贈る指輪選ぶのに、婚約者どころかその家族(ただし義弟は除く)公認とはいえ愛人に相談するのはいかがなものか?とも思わなくもないが……まあ、その辺の男女の心の機微に(さと)いヤン・ウェンリーなどヤン・ウェンリーではないだろう。敏ければ、きっと偽物だ。

この男が読めるのは、きっと戦場での心理戦くらいだろう。

まあ相談した後、きっちりと結婚後に『指輪を()()()()()言質(げんち)をアシュリーに取られてしまったが、そのあたりの抜け目のなさは、流石まだ若いといっても政治家である。

 

『別に高いものでなくてもいいわ。”ウェンリーから指輪を贈られた”って事象に意味があるんだから』

 

とはアシュリー本人の弁。

アシュリーは、性格的に第二婦人(本籍地がハイネセンのままなら一夫多妻は全然おk)を狙う気はないので、エンゲージリングではなくプロミスリングとかの類になるのだろうが。もしかしたら、ペアリングになるかもしれないが……

 

話は変わるが、この世界のハーレムルート、より厳密には一夫多妻ルートを選ぶ男は大変だろう。妻一人一人にエンゲージリングを贈って、尚且つマリッジリングを買わねばならない。まあ確かに指輪に限らずアクセサリーの値段はまさにピンキリだが、仮にもハーレムを持つ身の者ががあんまり貧相な物も選べないだろう。

世間体も見栄も体裁もあるのだ。一夫多妻なんてした日には、モテる男の宿命で嫉妬と羨望の目にさらされる。人と違うことをやろうとすれば世間の見る目が厳しくなるのは古今東西世の常/人の情だ。そんな中で『見せる甲斐性もないのにハーレム持った』なんて思われたら、社会的に終わりである。

 

自由惑星同盟は、純粋な実力主義国家というより、『その地位にふさわしい実力を示す』事が必要な国家である。示す実力は別に能力でも権力でも財力でも構わないが、とにかくそういうところがある。

故事の話をすれば、ブルース・アッシュビーが自称も含め1個中隊の愛人がいたとされるが、それが社会に許容され『あの男だったらアリだな』と評されたのは、それだけの実力……”英雄の器”があったとされたからであろう。

平たく言えば、『英雄、色を好む』という奴だ。

少なくともアッシュビーは、36歳で生涯を終えるまで、その最後まで”英雄抒情詩(ヒロイックサーガ)”的であった。

 

ヤンが必ずしもアッシュビー的な生涯をおくるとは思えないが、例え同じ様な立場になるとしても全くの別物になるのは確定的だろう。

指輪の良し悪しはわからなくともアンネローゼと一緒に真剣にショーケースの中身を吟味してる様子からもそれが伺える。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「ちょっと派手過ぎないかな?」

 

「これくらい目立つ方が、良いじゃないですか♪」

 

ちょっと困ったような顔をするヤンに満面の笑みのアンネローゼ。

まあ、表情からも勝敗の結果は明らかだろう。今日もめでたくヤンは対アンネローゼ戦の連敗記録を伸ばしたようだ。

 

結局2人が選んだのは、21世紀日本の結婚指輪事情だとやや派手な感じ、幅5㎜以上のワイドリングで、黄金(ゴールド)の幅広な台座の円周上にびっしりと極小粒(パヴェ)ダイヤモンドを散りばめた、俗に言う”エターナルリング”と呼ばれるタイプだ。

デザイン的に一番近いのは、ティファニーのブライダルコレクション、”ティファニーT True ワイドリング”だろうか?

そういえば、今2人が来てる店も空色を基調とした内装といい、ティファニーっぽいと言えばティファニーっぽい。なんとなく庶民からセレブまで幅広い欲求を満たせる同盟のジュエリー&アクセサリーショップのド定番(おうどう)の風格がある。

 

日本だともっと地味なデザインで、金よりプラチナなどの白銀系の素材が一般的だが、自由惑星同盟では少し事情が違いそうだ。

例えば、日本だと最近は女性は左手の薬指に婚約指輪と結婚指輪を重ねづけするのが割とメジャーになってきてる(そして、それ用にデザインされた指輪もある)ようだが、同盟では婚約指輪だけの時は左手の薬指につけ、結婚して結婚指輪と婚約指輪両方をつける場合は、左手の薬指に結婚指輪を、右手の薬指に婚約指輪をつけるのがメジャーだ。

なので、今の日本よりやや派手めなデザインの結婚指輪が好まれる傾向がある。どちらかと言えば、欧米よりだろうか?

 

まあ、アンネローゼの場合、それだけの理由ではなく単純に『ウェンリー様の妻であることを激しく自己主張したい!』という願望が見え隠れしているが。

 

 

 

例え宇宙が生活の場になろうと、人が生きてる限りその営みはそう変わるものではない。

後世に悪魔とも英雄とも称される男も、「一皮むけば妻に頭の上がらぬどこにでもいる夫である」。同盟や帝国を問わず、銀河のどこにでもある結婚を控えたカップルの物語……ただそれだけの一日だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました。

書き終わってから、つい「銀英伝二次っぽくない話だな~」と今更ながら思ってしまい、少し反応が心配な作者です(^^

でも、結婚って人生にとって重要なイベントだし、原作のヤンって新婚生活がかなり”アレ”だったじゃないですか?
アンネローゼに至っては……
やっぱり、原作ではレア過ぎた二人の「幸せな日常」みたいな部分を描いてみたいという願望ガガガw
それにヤンの結婚生活、短すぎた原作の何十倍も続きそうですし(^^
”指輪”っていうのは、作者的には「結婚の象徴」みたいな感じですしね。
それにあの手の物って「選んでるときが一番楽しい」ものです。
「二人でまだ見ぬ幸せな結婚生活」を夢見ながら選ぶなら、なおさらでしょう(^^♪

ちなみに、ヤンがアンネローゼに贈った婚約指輪と結婚指輪のモチーフはちゃんと実在してまして、それぞれ元ネタのお値段は……

婚約指輪→¥478.000
結婚指輪→¥770.000

金持ちですね~w
まあ、同盟軍人は同じ階級の21世紀のアメリカ軍人より給料高いですし、何よりヤンはミューゼル夫妻より家賃や生活費を入れようとしても、受け取り拒否されるので、基本お給料は全額自分のお小遣いです。
なので、基本昼飯代(朝夕は基本ミューゼル家)にお酒と紅茶以外、金の使い道があんまりなさそうです。
時間の関係で、金のかかる趣味もなさそうですしね(苦笑





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