金髪さんのいる同盟軍   作:ドロップ&キック

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第011話:”ボーナス・ステージとその終了”

 

 

 

視点は再び、迂回運動を終え分進した第2戦隊/第3戦隊と合流したロイエンタールへと戻る。

 

突然流れてきたレジェンド・ロックンロールに軽く驚きはしたものの、

 

「中々ゴキゲンなナンバーじゃないか? うむ。悪くないセンスだ」

 

と上機嫌に小さく床を足でタップし、自らリズムを刻む始末だ。

実はこの時、ちゃっかり録音されていた”のっぽのサリー”が楽曲データとして拡散し、兵士や下士官達を中心にマールバッハ艦隊で大流行したのはほんの余談だ。

本来、敵性音楽なぞ聞いただけで懲罰物、個人端末に記録するなど以ての外なのだが……

 

『他の艦隊のお偉方にバレないように聞けよ。別に止めはせんが面倒は御免だ』

 

とはオスカー・ロイエンタール・フォン・マールバッハ伯爵のありがたーいお言葉だ。

爵位持ちの上級貴族でありながら、平民あがりの兵からも何気に人気を獲得しつつあるロイエンタールである。

 

曰く、『貴族の割には話のわかる、諧謔と放埓に不足を感じない上官』である。

 

ここにある種の不敗神話が加わり、絶大な人気を得るようになるのだが……それはまあ、後の話だ。

 

 

 

だが、彼の上機嫌も次のオペレーターの報告で一変する。

 

「コルプト少将、()()()()()反転を発令!」

 

「馬鹿なっ!! 交戦中だぞっ!?」

 

そう叫んだのはミッターマイヤーだ。

敵艦隊に差し込まれ、猛攻撃を喰らってる最中に反転命令など正気の沙汰ではなかった。

それも単艦で逃げ出すならまだ保身に長けた貴族らしいと判断も出来ようが……

 

「愚か者めが……!!」

 

ロイエンタールは拳を固く握り締め、蔑みを通り越した憎悪を込めた瞳でコルプト艦隊のいる方向を睨みつける。

 

彼は本来、打算も妥協も出来る人間だ。感情はあってもそれに流されすぎることはない。

故に今回の一件、彼なりのシナリオはあった。

端的に言ってしまえば、「貴族の名誉をかけて奮戦空しく宇宙に散ったコルプト、その敵討ちに自分は奮闘、叛徒どもに痛打を与えたり」という顛末だ。

”本国重鎮へ秘密裏に送った報告”と合わせれば、誰もが損しない……むしろ幾許かの得が出るシナリオだけに、否定する者はいないだろう。

その筈だったが、

 

「全艦、陣形を整え次第全速! 艦隊最大戦速で追撃する!!」

 

だが、この時ロイエンタールを突き動かしていたのは……打算でも妥協でもなく、確かに怒りだった。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「敵艦隊、全艦回頭を始めました!!」

 

「なぬっ!?」

 

リンチは一瞬逡巡する……

何かの策と考えられなくもないが、

 

「深く考えるなっ!! 好機と捉えよ! 全艦、デカい横っ腹を見せた相手から、ありったけの火力を叩き込んでやれっ!!」

 

リンチはどちらかと言えば思慮深い、あるいは考えすぎる提督という訳ではなく、どちらかと言えば猛将型……攻撃と防御の選択を迫られれば迷いなく攻撃を選ぶ、有体に言えば猪武者だ。

 

だから今回も勘と闘争本能に素直に従い、更なる攻撃を選んだ。

だが、それが今回の戦いでは功を奏した。

 

拡大していく破壊の連鎖……

基本、一部の特殊な艦を除けば、光波/磁場/電磁場で固められた形状変更可能なエネルギー盾、防御スクリーンは艦首前方にしか展開できない。

回頭の為に横っ腹を晒した帝国製の船は、単に被弾面積を拡大させただけでなく、物理的な防御力すら著しく減じられてるのだからこの結果も頷ける。

艦に搭載される、主噴射口の後方以外は船体を繭状に包む不可視の防護フィールドは、軍艦の至近砲撃に耐えられるほど頑強ではない。

 

無論、攻撃兵装も同じだ。

例えば、主砲である中性子ビーム砲は砲口に重力レンズを用いた偏向装置を取り付けることにより、”ある程度の射角”は確保しているが、流石に真横には撃てない。

 

 

貴族艦隊はこれまでに倍に達するペースで火球に変わってゆき、キルレシオはリンチ艦隊1に対し、コルプト艦隊は5を超えようとしていた。

つまり同盟艦が1隻沈む間に、貴族艦は5隻以上沈んでる計算になる。

 

「敵旗艦と思わしき船、捉えました!」

 

「主砲全力斉射! ドテっ腹をぶち抜けっ!!」

 

「Sir、yes sir!!」

 

32門の25cm中性子ビーム砲の一斉射を喰らったコルプト艦は一撃で轟沈、その直後から更にキルレシオは同盟有利に跳ね上がってゆく。

 

だが、ボーナスタイムはいつまでも続かない。

戦いの最中、金銀妖瞳(ヘテロクロミア)の男は、もうすぐそこまで来ていたのだから……

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

(少々、遠間合いだが仕方あるまい……)

 

普通なら戦艦の主砲とて敵艦の防御スクリーンを射抜ける距離ではないが、幸い敵艦は全て尻をこちらに向けている。

帝国、同盟を問わず宇宙船の通常空間航行は、噴射ガスを用いた反動推進式だ。

つまり船の構造上、噴射方向には堅いスクリーンだけでなく、力場式の防護フィールドすらもまともに展開できない。

 

艦隊(Flotte)全統制(Steuerung)砲撃(Hagel)、用意」

 

だからこそ、ロイエンタールに率いられた艦隊は相対的に有効射程距離……この場合は「命中が期待でき、なおかつ撃破可能な射程」が延伸されていたのだ。

 

「ファイエル!」

 

ロイエンタールの張りのあるバリトンで下された号令の元、ついにイゼルローン駐留3個戦隊1500隻による一斉射撃がはじまった!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ロイエンタール、反撃開始!(挨拶

コルプトが無能すぎて、ついにロイエンタールがキレてしまいました(^^

はてさて、リンチ少将は生き残れるか?


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