金髪さんのいる同盟軍   作:ドロップ&キック

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久しぶりに一日2話投稿っす。
今回はかなり前回とノリが違いますよ~。

ある意味、ラインハルト様無双計画。





第019話:”エコニアン・ラプソディ”

 

 

 

さてさて、捕虜収容所が主要産業と言うある意味において終わってる惑星”エコニア”にやってきた、最近の少し中二の入ってる同盟婦女子(あるいは腐女子)で流行ってる言い回しによれば”金色の獅子王子様(ゴルド・レーヴェンプリンツ)”ことラインハルト・ミューゼル中尉ではあるが……

 

「何度も何度も何度も何度も、ウンザリするほど腐れ女(B夫人)に殺されかけた俺を舐めるな!!」

 

早速、騒動に巻き込まれたでござる。

ついでに言えば、元帝国軍人の捕虜と巨漢の同盟軍人、それと謀殺の証拠として一緒に砲撃で始末されかけた若い方の捕虜と一緒に立てこもった挙句、隙を見て奪った装甲車に乗り込み、装甲車に取り付けられた重機関銃型速射ブラスターをハッピーにトリガーを引きながらラインハルトは大立ち回りを演じていた。

別の人生を経験した記憶を考えてみれば、この程度の暗殺劇なぞ人生のある時期においては日常茶飯であり、今生の体験ではなく記憶に染み付いた感覚的にはラインハルトにとって慣れっこだ。

 

「ボ、ボウズ、あんまり無茶するのはオジサンどうかと……」

 

「安心しろ! 正当防衛なのだから問題ない! さあ、どんどんかかってこい! 我がストレスの発散先となるが良い!!」

 

ちょっと皇帝陛下が復活してる臭いラインハルトに、

 

「なあ、ボウズ……お前の人生、ここに来る前に何が人生にあったんだ? 俺でよければ相談に乗るぞ?」

 

「はは~。御老体、こりゃ言っても無駄ですよ。ミューゼル中尉殿、完全にキマっておりますからな。いわゆる最高にハイな気分と言う奴です」

 

「Ha-Ha!! 我がやり場のない憤懣の炎に焼かれ、条理の中に散れ!!」

 

「言ってることと趣旨が変わってるっ!?」

 

『あれ? これもしかして同盟の捕虜になったときよりヤバいんじゃね?』と思い始めた御老体、元銀河帝国軍大佐のクリストフ・フォン・ケーフェンヒラーに対し、

 

「ハハッ、困りましたなぁ~。これはひょっとするとエコニア捕虜収容所、最後の日かもしれませんぞ?」

 

と巨漢の同盟()()()、フョードル・パトリチェフ()()は実に朗らかに笑い飛ばした。

それは単純な彼のキャラと言うより、むしろ鉄火場に慣れた者特有の余裕じみたものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 

 

 

エコニア捕虜収容所の乱痴気騒ぎは、ド派手な銃撃戦を聞きつけて大慌てでやってきたムライ中佐と率いていた憲兵隊によりあっさり鎮圧され、武器の横流しやら公金横領やら何やらで私腹を肥やしていた銭ゲバの小悪党、収容所所長のコステア大佐は捕縛された。

 

同盟の軍法は存外に厳しい。

というか特権階級たる貴族の子弟がかなりの割合で混入してる帝国軍より、実は厳しい。

というのも実に皮肉だが……”自由惑星同盟が国家としての健全性を維持し、同盟軍が市民軍としての役割を担っている”からだ。

 

同盟軍とは「市民からの徴税で運営され、市民からの同意を持って国防の為に巨大な権益を持たされることが許された公営武装組織」と定義される。

逆にそれに反するような行動をとれば、軍は市民の非難が向く前に、罪を犯した者を”血税を無為に使った公共の敵”として、民法/刑法より厳しい軍法で裁く。

 

ついでに言えば軍は厳格な併合罪で加算され、今回は例えば武器一つの横流しにつき軍刑務所の刑期何年って話になる。

仮にライフル1丁の横流しの刑期が1年だとすれば、1000丁流せば単純に刑期1000年となるのだ。

罪が明らかになり、合算すればコステアはどう考えても軽く刑期1000年を越えることだろう。

そして軍では、刑期100年を越えると自動的に銃殺刑となる。

これは、同盟軍の公式な見解だが……

 

”重犯罪に手を染め、国民の信頼を裏切り国に背き軍の信頼を著しく失墜させたのにも関わらず、服役中の衣食住まで血税が投入されるのは許しがたい”

 

と言うものである。

そして軍のしたたかなところは意図的に厳しい刑罰を設定し、国民が『嘆願にて減刑を願う行動』を容認し、そして実際に嘆願が一定以上集まれば、”国民の願いによる情状酌量”という特別減刑される場合があることだろう。

要するに、

 

『軍としては国民/市民の信頼を裏切った不逞の輩を許す気はないよ? でも、皆さんがどうしてもというなら、少しくらいは罪を軽くしてやることも吝かではない』

 

というスタンスを貫けるのだ。

そう、市民軍の体裁を保つために、あるいは国民の支持を受け続けるために同盟軍は発足してから今までずっと汗を流し続けてるのだ。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

とまあエコニアの汚職軍人の始末はこうしてつけられたが、ラインハルトは駆けつけたムライ中佐に罪は問われなかったものの、メガッさ怒られた。

そりゃそうだ。

彼が無双したせいで、収容所が半壊したのだ。

なんせ装甲車だけに飽き足らず、奪った火砲は乱射するわ採掘用に積み上げてあった爆薬でインスタント・ボンバーマンははじめるわでやりたい放題だったのだから。

 

ムライは半ギレするわけでもなく、ただ淡々と被害総額を読み上げ、その金額が何を意味するのかを滔々と言い聞かせたのだ。

これはラインハルトにとり、新鮮な経験であると同時に怒鳴りつけられるより遥かに堪えたようだ。

例えば、嗜めるような静かな口調で、

 

『君が破壊した施設の修繕費があれば、一体何人の戦災孤児が進学を諦めずに済むのだろうな?』

 

と問われたときは返す言葉がなかった。

150年もの間、少なくとも建前では戦時中の国家である以上、軍の発言権は同盟でも御多分に漏れず大きい。

それでも市民、国民が困窮してないのは同盟の経済基盤が大きく、軍も国家が破綻しては元も子もないので国防費を国家予算の20%に抑えるように努力しているからだ。

 

原作がそりゃ破綻するのも当然の国家予算の40%を軍に投じてたのに比べ、その半分と言うのは驚異的な数字だ。

それでも国防予算が不足に陥らないのは、人口が10億程度少ないにも関わらず、国内総生産で倍近いの経済規模を誇るからだ。

 

参考までに書いておけば、原作での帝国と同盟の人口比率は25:13、経済比率は6:5。つまり約半分の人口で8割の経済規模を誇っていた。

つまり一人辺りGDPは原作でさえ同盟は帝国の1.6倍の経済力を持っていたことになる。

無論、この世界の同盟は国家も経済もより健全化されているため、より足腰は粘り強くなっているだろう。

 

以上のようなことを踏まえれば、この世界の同盟は原作よりも困窮はしてないだろう。

だが、だからと言って無駄に予算を浪費していいわけじゃない。

何度も出てくるが軍事予算は血税なのだ。

 

前世でも今生でもその意識が希薄だったラインハルト、改めてその意味の重さを長い説教の間中噛み締めていたのだった。

 

 

 

 

 

 

……だが、ここで終わっては片手間落ちと言うものだろう。

 

「大した人物だな。ムライ中佐は」

 

「どういう意味ですか? 中尉殿」

 

「俺が今まで生きてきた中で気づかなかったことを気づかせてくれた。それだけでも尊敬に値する」

 

この言葉に嘘はない。

ラインハルトは前世よりずっと長かったその生涯において、尊敬すべき軍人/規範とすべき軍人を問われれば、必ずムライの名をあげていくことになる。

例えば、ムライと友人であるアッテンボローが将来言い合いになったとき、まず先に話を聞くのはムライの方だったらしい。

”えっ? ラインハルトが人の話を聞いた挙句、仲裁に入るようなシチュなんかあるの?”と聞いてはいけない。

 

「そういうものですかな?」

 

「そういうものさ。ところでパトリチェフ、」

 

あえて階級を外して呼ぶ名に、

 

「なんでしょう?」

 

「お前は一体”何者”だ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ラインハルト様、ヒャッハーした後に反省でござる(挨拶

戦争ってお金かかるもんね(lll-ω-)
そしてラインハルトにきっちりお説教を聞かせるという快挙を成し遂げた風紀委員ことムライサン。
実はこの人とラインハルトは相性よいと思うんですよ。
ラインハルトも規律正しいのは好ましいと思ってますしね。
何より理路整然としていて、バカ貴族と真反対なところが心地よいんじゃないかと。

ちなみにサブタイは、英国の誇る”Queen”の名曲”ボヘミアン・ラプソディ”より。
ラプソディとは狂詩曲って意味ですから、まあ内容的にはおkではないかと(^^
凄まじく特徴のある曲な上、かなりメジャーなので聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。



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