金髪さんのいる同盟軍   作:ドロップ&キック

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なんとか寝る前に書きあがったので深夜アップ。
それにしてもこのシリーズもようやく20話になりました。

1年以上エタったのに、待っていてくれた皆様に改めて感謝を。
そして再開後から読んでくださる皆様、これからもよろしくお願いします。

20話記念という訳じゃありませんが、久しぶりというか……再開後は初めてとなる書き方をしてみました(^^




第020話:”名探偵ラインハルト”

 

 

 

「ところでパトリチェフ……お前は一体”何者”だ?」

 

俺はあえて階級を抜いて告げた。

ああ、久しぶりだな。ラインハルト・ミューゼルだ。

少々羽目をはずし、ムライ中佐にたしなめられてしまった。

ああ、格好の悪いところを見られてしまったな。

 

「中尉殿、どういう意味でしょうかな?」

 

俺はちょっと呆れてしまう。

 

「いくらなんでも俺を馬鹿にしすぎだ。フョードル・パトリチェフ……俺のエコニア着任に伴いお誂え向きに用意された”案内人”で、補給科の下士官……そんなわけあるか」

 

「ほう……その論拠は? 差し支えなければ聞かせていただきませんかね?」

 

「まずは階級だ。曹長と言えば、一兵卒にとっての将軍だ。常設されてない……その条件を満たす者が現れた場合のみ任官される上級曹長を除けば、ノンキャリアの最上位。パトリチェフ、お前は若すぎる」

 

こう見えても俺の”もう一つの記憶”じゃ、それなりに人間を見てきたんだ。

 

「大きな図体で誤魔化せると思ったのだろうけどな……老けたように振舞ってみても、俺よりは確かに年嵩だろうがまだ三十路にも届いてはいまい? それにお前の動き、補給係のそれじゃなかったしな」

 

「……なるほど」

 

「次にあの腰巾着の副所長、たしかジェニングスと言ったか? あの俗物が何故俺を不正調査にやってきた”秘密監察官”などと荒唐無稽な勘違いをした?」

 

そう、俺が謀殺されかかった理由は実につまらん。

所長も副所長も俺を秘密監察官と勘違いしたせいだ。

まったく濡れ衣にもほどがある。

 

「だが、考えてみればおかしな話だ。俺は士官学校出立ての若造で、船乗りの教育しか受けてはいない。年齢を誤魔化せばちょっとした諜報の訓練程度ならできるだろうが……面白くも無いことに、今や俺の大まかなプロフィールは多くの市民が知るところ。経歴を誤魔化しようが無い」

 

まったく。これも過剰に盛り上がったマスコミどものせいだ。

同盟にはプライバシーの侵害だの、個人情報保護だのといった概念はあるが、軍が積極的に俺たち……”エル・ファシルの三銃士”とやらをプロパガンダに使う以上、そのあたりは考慮されないらしい。

 

同盟は帝国に比べるならそう悪い国じゃないが、あの”報道の自由”とやらは、一軍人としては鬱陶しいことこの上ない。

実際、報道の自由を「無責任な放言が自由」と勘違いしてる輩が多すぎる。

 

(大人であるなら、自分の発言に責任を持たねばならんというのに。報道の公共性を考えれば尚更だ)

 

とはいえそれも必要と言うことであれば、納得せざる得ないのだがな。

 

「俺が万が一にも死ぬようなことがあれば、軍だってただでは済むまい? 自分では言いたくはないが、俺は有名人だからな。以上のような条件を踏まえれば、俺ほど捜査官に不適任な人間はいない……だが、あの小悪党共は何故信じた?」

 

それは知れたこと。

 

「そう思考を誘導する者がいたからだ。その誘導した人物こそ、本物の”秘密捜査官”だろうさ」

 

俺はパトリチェフを睨みつけ、

 

「だろう? パトリチェフ”秘密捜査官”殿」

 

 

 

「そう来ましたか……」

 

「とはいえ階級やら所属を偽るのは重大な軍規違反。だが、それを任務の関係で合法的に出来るセクションがある……」

 

そう、例えば……

 

「情報部の潜入捜査官とか、な」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

”パチパチパチ”

 

「いや~、お見事ですな! 大した推理力と洞察力ですな? 売れっ子作家の血筋は伊達ではなく、この一連の流れが推理小説なら実に面白い。遺伝子は実にいい仕事をしたもんだ。ですがね……」

 

パトリチェフはにやりと笑い、

 

「肝心の証拠が無い」

 

そりゃそうだろう。

体躯から考えればありえない機敏な身のこなしや、普段の暢気さを装った言動……こいつが俺のような捜査の素人に尻尾を掴ませるような間抜けには見えん。

 

「まあな。ムライ中佐や憲兵隊の”良すぎるタイミングの登場”を言ったところで、所詮は状況証拠にすぎん」

 

だから、こやつの身分をこれ以上掘り下げる気はない。ネタが無いならしかたないだろ? 探すだけの時間もなかったしな。

なので切り口を変えてやろう。

 

偽装身分(アンダーカバー)とのマッチングは最悪だが……」

 

「酷い言い草ですな」

 

「まあ聞け。お前は優秀すぎたよ、パトリチェフ」

 

「英雄殿にそう評されるとは子々孫々まで自慢できますな」

 

「フン……」

 

いつまでその余裕が待つかな?

 

「お前は優秀だ。こんな辺境で起きた、ケチな横流しだの横領だのなんて捜査で来るとは思えないほどにな。どちらかと言えば汚職捜査は隠れ蓑、本命の捜査は別にある」

 

「……どういう意味でしょうか?」

 

「ケーフェンヒラー元大佐の考察と史的研究」

 

”ぴくっ”

 

「あのご老体がどうかしたので?」

 

わずかに表情が動いたな?

 

「”ミヒャールゼン提督の暗殺”、”ジークマイスターの亡命”そして”ブルース・アッシュビーの軍事的成功”……繋がるはずのない三つの事象をつなげる線があるとすれば?」

 

ならばここから先は俺のターンだ。

隙を見せたお前が悪い……!!

 

「そんなに自由惑星同盟にとって都合が悪いものなのか? ”英雄ブルース・アッシュビーと銀河帝国の地下革命組織が繋がっていた”という現実は?」

 

 

 

妙だと思ったんだよ。

秘密捜査官がパトリチェフであったとしても、俺に濡れ衣を着せて身代わりにするのはリスクが高すぎる。

言いたくないが、俺は今世間で注目されすぎてる。

 

(だが……)

 

()()()()が関わってるとなれば話は別だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




以上、ラインハルト様視点でした(挨拶

今回、パトリチェフに原作とは違った立ち位置を与えてみましたが、いかがでしたか?
ラインハルト視点で描くのは大変ですが中々楽しかったです。
”らしさ”が出ていれば嬉しいのですが。


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