金髪さんのいる同盟軍   作:ドロップ&キック

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書きあがってしまったんで深夜アップです(^^
今回は、いつもとちょっと書き方を変えて、サブタイ通りにヤン目線の考察風にしてみました。




第027話:”ヤン・ウェンリーによるイゼルローン・レポートもしくは怪文書(原案)”

 

 

 

(1)イゼルローン宙域における要塞建造の意義

帝国側から言うなれば、それは”国境の砦”、つまり純粋なる防性の施設に他ならない。

イゼルローンから出撃した艦隊、あるいは補給を受けた帝国本国よりの遠征艦隊が同盟領を侵犯する自体が多発してるが、いずれも”限定的”なものだと考える。

その論拠となるのは、イゼルローン要塞建造後も”()()()()()()()()()()同盟領”が一つもないことからも、それがわかる。

つまり、要塞建造後にどれほど帝国側が大艦隊で侵攻しようと艦隊戦で勝利しようと、今だ同盟領は陥落していない。

大雑把過ぎる言い方だが、イゼルローンのスペックから考えても攻性拠点としての能力は、極めて限定的といわざる得ない。

なぜなら本格的に同盟へと侵攻、仮に艦隊戦に勝利し領土を占領したとしても、”占領維持に必要な艦艇に対する兵站補給能力”は備わっていないからだ。

実は現在、ほぼ判明してる食糧貯蔵数/船舶修理可能ドック数/病床数などは、「2万隻程度の艦隊と要塞駐留者の篭城戦」に最適化されていると言っていい。

つまり、イゼルローンの要塞としての基本スペックは、「同盟の大艦隊に攻められた場合、本国から救援艦隊が来るまで耐える」ことを根本にしてる公算が大きい。

 

(2)イゼルローン要塞の実像

上記のことを踏まえ、さらにイゼルローン要塞が()()()()として設計/建造され、またそれ以外の使い道ができないことも、その本質が防性拠点であることを物語っている。

端的に言ってしまえば、イゼルローン要塞は「同盟が攻めない限り」は実は同盟にとりさほど脅威にはならない。言ってしまえば、「同盟がイゼルローン回廊を通り帝国へ侵攻する」場合を除いて要害としての意味は無く、「同盟と帝国との国境を明確にする物」以上の意味も無い。

例えば、要塞の代名詞ともなるγ線レーザー(トール・ハンマー)も、その実態から言うならば、輻射幅に物を言わせた広域破壊こそ脅威なれど、直線射程距離でいえば6光秒程度に過ぎない、艦砲と比べても短射程な要塞砲である。

また駐留艦隊も2万隻程度が上限とされている以上、絶対有利な要塞防衛戦以外では大きな脅威とはならないだろう。

そもそも論になってしまうが、イゼルローン要塞の建造を最初に試みたのは同盟側であり、その提唱者はかのブルース・アッシュビー提督である。

それが実現しなかったのは陰謀説などもあるが実際には当時の政治的判断、つまり「定点防御しかできない要塞より、攻防に使え機動的運用が出来る艦隊を拡充した方が費用対効果が高い」とされたからだ。

これはアッシュビー提督も納得していたようだ。

そして、この根本は例え帝国が要塞を設営しても変わらないはずだった。

 

(3)攻性拠点という虚像

では、何故同盟は”防性拠点”でしかないイゼルローン要塞を、過去4度に渡って攻めたのか?

これは帝国側のたゆまぬ努力、つまり「同盟側に”同盟侵攻の拠点”と認識」させる行為によるものだ。

具体的には(1)で示した、イゼルローン要塞の駐留艦隊やそこで補給を受けた遠征艦隊の同盟領への”()()”行為が度重なったからだろう。

(1)(2)で述べたことをまとめてしまえば、「同盟が攻めない場合は、イゼルローン要塞は無用の長物になる」だ。

逆に言えば、同盟側に攻めさせるならば、そこには途方も無い殺傷兵器になるという側面がある。

つまり、帝国側が様々な理由をつけて行ってる艦隊を用いた同盟領への侵犯行為は、”挑発”に他ならない。

そしてこれの厄介なところは、狙っているのが政府でも軍でもなく、国家主権者である”()()()()”であるところだ。

どういう意味かと言えば、度重なる侵犯は同盟市民にとり、「イゼルローンからの敵艦隊が、いつも攻めてくる」というように捉えられる。

占領が目的ではなく、軍事的にはほぼ無意味な侵犯……例えば小官がエル・ファシルで体験したようなマンハントでも、同盟市民の恐怖感を煽るには十分であろう。

 

(4)なぜ、同盟軍はイゼルローン要塞を攻めるのか?

帝国は、”同盟()の政治的弱点”をよく理解していると結論付けるしかない。

大前提として、同盟軍の本質は民間人の生命と財産を守ることを金科玉条とした”市民軍”であり、また国体の関係上、”シビリアン・コントロールを受ける”ことが当然である。

つまり、”軍は政治の下位に存在し、決して上位にはならない”だ。

こう書くと、帝国が同盟市民相手に挑発を繰り返すのも理解しやすい。市民にとって”国民を守る決断をできない政治家”も、ましてや”市民の生命や財産も守れぬ軍隊”も何の意味もない。

その様な無様を示した政治家は落選するだろう。そして繰り返すが同盟軍はシビリアン・コントロールを前提とした軍隊だ。

であるならば、「敵が溢れてくるイゼルローン要塞を潰せ」という大義名分の出兵案が4度も出てくるのは無理も無い。

言ってしまえば、イゼルローンが「同盟が攻めない限り純軍事的には無害」だとわかっていても、「同盟市民の恐怖心を払拭する」という大義名分が優先されるのはむしろ当然であろう。

 

(5)何故、同盟軍は”()()”にこだわるのか?

ただ、疑問点もある。それは即ち、なぜ単純で難易度の低い”破壊”ではなく、”攻略”計画を毎回提示するのか?であろう。

いや、破壊でなくとも単に”無力化”するだけなら他にも方法はある。

この場合の攻略とは、つまり”()()”のことだ。

歯に衣着せぬ言い方をすれば、同盟軍はイゼルローン要塞を帝国より奪い取りたいのだ。

無論、それは「同盟側が自国の要塞として使うため」であろう。

言うなれば、アッシュビー提督の時代にやらなかったことを、”帝国の要塞を奪い取ること”により実現しようとしてるのだろう。

それは当時の艦隊強化策が間違っていたということだろうか?

否である。確かに当時の同盟の判断は間違ってるとは言い切れない。

だが、「要塞に想定していたより価値がある」ことに気づいたことも確かだろう。

 

(6)イゼルローン要塞を攻略する意義と価値

政治的理由を抜きにして考えれば、同盟軍によるイゼルローン奪取の意義は、究極的に言えば”費用対効果(コスト・パフォーマンス)が良い”からに付きそうだ。

端的に言えば、「自前で作るより奪ったほうが早いし安上がり」ということだろう。

本当にそうだろうか?

過去4度行われたイゼルローン攻略戦で失われた艦艇の損失額、また失われた軍人に対する遺族年金等の補償、さらに例え奪取できたとしても、積極的に運用するなら同盟軍規格への改修や修理等々も必要になってくるだろう。

現状で手元にある資料だけ考えても、どうも安上がりと言う言葉で片付けられそうも無い。

もし政治的な理由で攻略しなくてはならないというのなら、むしろ「要塞の無効化」を考えた方が良いかもしれない。

無論、根拠はある。

例えば、要塞攻略失敗とその後の政権支持率を見れば一目瞭然だろう。当たり前だが、攻略に失敗すれば「今度こそ」と期待していた国民は落胆し、その被害に愕然とするのだからむしろ当然と言える。

現状、イゼルローン要塞攻略は政治的にもハイリスクな案件なのだ。

 

 

 

以上のことを鑑みれば、我々は”要塞攻略”という言葉に思考を固定化せず、一度原点に立ち戻りイゼルローン要塞に対する”対応”を再検討する時期に来てるのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「とまあ、こんな感じでイゼルローンのレポートをまとめてみようと思うのだけど?」

 

エコニアから返ってくるなり、こんなレポートの原案を読まされたんだ。

思わずため息を突きたくなった俺は悪くないよな?

 

「先輩……まさか、このまま提出するんじゃないよな?」

 

「そりゃ肉付けもするし、資料だって添付するよ。いくら私が自堕落だからってちゃんとレポートの体裁くらいは整えるさ」

 

「いや、そういう意味じゃないんだが……それと自分で自堕落言うな」

 

これってほとんど”()()()”に近いんじゃないのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 




俺の義兄は自重をやめたらしい(by ラインハルト・ミューゼル

とりあえず、レポートで軽く本気を出してみたヤンはいかがだったでしょうか?
なんか、早速色々と火種になりそうな予感が……(笑


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