今回はちょっと今までと違う書き出しにしてみました(^^
一体誰が、何がウソツキなんでしょうね?
「どうせ愛人として名乗りを上げるなら、”エル・ファシルの三英雄”の中でも最初からヤン・ウェンリーしかないと思っていたわ」
後年、
「ワタシはお父様譲りの鑑識眼が確かだったことに、自分自身で感謝してる」
少し膨らみ始めた小さなお腹を撫でながら、
「だって今のワタシ、こんなにも幸せなんだもの♪」
不思議とその瞳のハイライトが仕事を『働いたら負けた気がする』とばかりに拒否しつつ代わりに妖しい艶を浮かべ、笑みを浮かべる唇はなまめかしく濡れ、頬は上気していたという。
その姿はまるで……
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うそつきな”彼女”は言った。
『ヤン・ウェンリー、アナタを選んだのは消去法よ』
と。
「とりあえず、
とアシュリー・トリューニヒトは悪戯っぽく微笑み、
「でも、弁証としては”何故、他の二人じゃ駄目なのか?”よね。消去法でアナタを選んだとこの口で言う以上は」
舌でぺろりと自分の唇を舐めた。
幼い容姿に相反し妙になまめかしいその仕草は、彼女が「外見と中身が別の存在」であることを印象付ける。
「まずはリンチ少将改めリンチ中将だけど……」
と微笑を苦笑に作り変え、
「現時点で中将って時点で色々アウトよ。そりゃ軍需産業複合体をバックにつけてるワタシの方が政治力……軍への影響力はあるかもしれないけど、それだけ。容姿を抜きにしても小童新人議員と歴戦の宇宙軍提督じゃ話にならないわ。野うさぎが獅子を飼いならそうとするようなものよ。それに、」
アシュリーは一度言葉を切り、
「ワタシがしたいのは”青田刈り”なの。”10年後の宇宙艦隊司令長官最右翼候補”なんて目されている、よほどのことがなければ安定した評価と将来がある男なんてつまらないないもの。どうせなら、”どう化けるかわからない 奇貨”の方が魅力的だし、先行投資のし甲斐があるわ♪」
「”奇貨居くべし”かい? やれやれ、いきなり話が生臭くなってきたもんだ」
「何言ってるのよ? 人間自体が生臭い生き物である以上、それを凝縮させた政治って物はむしろ生臭くてナンボってモンでしょうが? 清廉潔白なだけの政治なんて百害あって一利も無いわよ。だって清廉であることで幸せになれる人間なんて、この世に何人いるのよ? 本当にそんな人間が実在していたとして、銀行の預金残高が気になる人間と比べてどっちが多いと思う?」
政治家らしい切り返しに、ヤンはなぜか楽しそうに、
「”最大多数の最大幸福(The greatest happiness of the greatest number)”かい? 確かに民主主義の基本理念その物だけどね」
「個人の幸福を誰に憚ることなく追求できるのが、民主主義の醍醐味でしょ? 究極的に言えば、政治家の評価に高邁さなんて必要ないのよ。重要なのは、”どれだけ大勢の人間に飯を満足に食わせられるか?”よ。飯が食える対価に票を寄越すのが選挙ってもんでしょ? 自分たちを飢えさせる政治家に大衆は決してついてこないわ」
「あえて加えて言うなら、年齢差もそうだけどワタシ自身がリンチ中将を許容できると思えないのよねー。いや、人間としてとか軍人と政治家って関係なら特に問題ないけど?」
「? どういう意味だい?」
「リンチ中将が離婚歴があるって知ってる?」
急に話題を変えるようなアシュリーだったが、
「初耳だけど」
「ヤン、じゃなくてアンネローゼ……離婚の原因、特に旦那が嫁に愛想をつかされる場合の理由って何が考え付く?」
ヤンではなくアンネローゼに振りなおす辺り、アシュリーもよくわかっているようだ。
「えっと……酒に女にお金にギャンブルというところかしら?」
「まっ、普通はそんな感じよね?」
アシュリーはウンウンと頷き、、
「でも、そこが並みの御仁と一味違うのよ。あの中将閣下は」
「というと?」
「端的に言えばロック過ぎるのよ、あのオヤジ……ライフスタイルまで徹頭徹尾ね」
☆☆☆
居を構える星は、同盟の中でも僻地にある死んだ動物の遺骸が腐る前に干からびるような乾き寂れた星、”オールドタイマー”。
どこかアメリカ開拓時代の西部を思わせる風土と気候のこの星には、華やかな都市生活に背を向けたような偏屈者達が好んで移り住んだ。
主な特産品は”火薬式銃器”、バグダッシュが所有していたコルト・パイソン・レプリカもその一つだが、実に同盟で流通する火薬式銃と弾丸の半数以上がオールドタイマー製と言われている。
最もブラスターやレーザーガンなどの光学銃が全盛のこの時代、確かに弾丸のチョイスによっては前者を凌ぐがキツイ反動に取り扱いの難しさから火薬式の実体銃は需要が多いとはいえない。
リンチ中将はそんな星に住み、現代の主流の
酒と言えばバーボンのストレートで、ベースが好きで現代で言うフェンダー系のベースを好み、休みとなれば決まって地元の仲間とグラス片手にジャムセッションにポーカー、そしてバーベキュー。
朝食にはカリカリに焼いたベーコンが欠かせない……
プライベートじゃ、テンガロンハットとカウボーイブーツは外さない。
不便さ、不自由ささえもあえて楽しむ。
それがアーサー・リンチと言う
「どっからどう考えても、ワタシには無理。ワタシだけじゃなく並の女が手におえる相手じゃないわ。むしろ、結婚しようと思った元妻がすごいと思うわよ?」
「……今更ながらすごい上官だったんだな、あの人。痺れも憧れもしないけどね」
と妙な感心な仕方をするヤンに、
「でしょ?」
「ならもう一つの選択肢はどうなんだい? 愛人を狙うなら、むしろ彼の方が適任だろう。容姿を筆頭に、才覚も頭脳も軍人としての将来性も私が勝てる要素が何一つないラインハルトさ」
むしろささやかなドヤ顔をするヤンにアシュリーはため息を突き、
「姉であるアンネローゼには申し訳ないけど……」
「いえいえ。むしろ遠慮なくどうぞ♪」
視線を向けられたアンネローゼはむしろニコニコしていた。
「あの金髪君はもっと無理よ。ロックオヤジ閣下よりもね」
「そりゃまたどうして?」
「だってワタシ、まだ嫉妬に狂った女
冒頭のシーンは未来の描写のようですが、確定した未来ではないことを明記しておきます(挨拶
いや、デレデレのアシュリーお嬢を書いてみたかっただけなんてことはナイデスヨ?
まあ、ヤンも結構興味、あるいはそれ以外の感情を惹かれてるような……?
そして、私生活が暴露されてしまったリンチ中将……私生活も生き様もロックでした(笑
次回は、現在金髪さんが同盟軍でどういう立場でどういう扱いなのか書けるかな?