金髪さんのいる同盟軍   作:ドロップ&キック

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超久しぶりな気がする二日連続一日2話投稿です(^^
我ながら阿呆ですね~(苦笑 まあ書きあがったのだから仕方ない。

さて、今回はヨブ・トリューニヒト・セカンド(アシュリー・トリューニヒト)との邂逅篇、そのラスト・エピソードです。

果たしてヤン、アシュリー、アンネローゼの選択は……?

そして、相変わらず”彼女(アシュリー)”はウソツキです。



第039話:”ねぇヤン、ワタシと契約して……”

 

 

 

「これでわかったでしょ? リンチ中将は色んな意味でキャラが強すぎて駄目。ラインハルト君は人気キャラ過ぎて政治的面倒が常に付きまといそうで駄目。ほら、残ったのはヤンしかいないじゃない?」

 

「本当に嫌な包囲の仕方するな~。脱出路の見当さえつかないなんて」

 

ちょっと拗ねるような、どこか幼さを感じる表情のヤンに、そんな表情に母性本能をきゅんきゅん刺激されてるアンネローゼ……

 

そして、「ここいらが反転攻勢点かしら?」と判断したヨブ・トリューニヒト・セカンド(アシュリー・トリューニヒト)は……

 

「よっと♪」

 

”ぷにゅ”

 

ついにヤンの対女性用絶対防御壁(かみそうこう)を射抜き、小柄な肢体を生かしヤンの膝に座るという暴挙に出た!

 

「ヲイヲイ」

 

「へへ~ん♪」

 

困ったような顔をするヤンにドヤ顔のアシュリー。

どうやらヤンのATフィールドは、貫通されたのではなく侵食されたようだ。

まあ、ミューゼル家に来てから、ずっとアンネローゼに拒絶型の心の壁を削られてきたのだから無理も無いだろう。

 

ちなみにそのアンネローゼは「微笑ましいものを見た」と言いたげに、母性全開でニコニコしていた。

彼女は甘えるのも好きだが、どちらかと言えば『脳みそが溶けて耳から流れ落ちるくらいに、とろっとろに甘やかしたい』願望の方がずっと強い。

膝に座るのではなく膝枕をしてあげたい派である。

夕雲は夕立とケンカしたりしないのだ。

 

アンネローゼ・ミューゼルの駄目提督製造機としてのスペックを甘く見てはいけない。

初日の夜に「サクランボ、ごちそうさま」をしてから、ヤンから「自分のことは自分でやる」という人として当たり前の意識を奪い去り、思考からも「洗脳したの?」と言いたくなるほど鮮やかに「自分で何かをやる」という選択肢を削り取り、どっぷり肩や首どころか頭の天辺まで依存させた手際のよさと圧倒的な各種家事スキルと端麗な容姿と胸部超弾性装甲の厚みに物を言わせた、姉属性を凌駕せしママ属性を!!

 

ある意味において、アンネローゼはヤンにとって”強烈な毒婦(ベラドンナ)”なのだ。

ちなみにベラドンナとは猛毒を持つ植物の名であると同時に、イタリア語で”美しい女性”を意味する。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「ヤン、聞いて」

 

アシュリーは、小さなお尻の谷間でヤンの脚の間を刺激するように座りなおし、

 

「これは”契約”よ」

 

”むくっ”

 

(えっ?)

 

微かに、ほんの僅かにではあるが何かが隆起し小さく尻が押し上げられる感触に、アシュリーは……

 

(うそ……)

 

それが男性特有の生理現象だっていうことは無論、理解している。

その意味もだ。

そして、彼女の胸中を駆け抜けたのは嫌悪などではなく、

 

(ど、どうしよう……凄く嬉しいカモ♪)

 

背筋を走ったのは明確な、いや明確すぎる歓喜!!

政治家ヨブ・トリューニヒト・セカンドではなく、アシュリー・トリューニヒトという少女と言う観点から見れば自分の幼い容姿や体格に少なからずコンプレックスを持っていた。

老いることは無いが大人になることも無く、子供を生み命を後世に繋ぐということすらも難しい。

それに女としての寂しさが、その平たい胸の内にはあった。

 

アシュリーは、おそらくは幼児性愛者(ペドフィリア)と思われる異性から求愛を受けることは何度かあった。

ただ、そういう男達には「世の中って需要と供給が一致しないことが多々あるものね」と思うだけで関心は向かなかったし、中には凶行に及ぼうとする者もいたが……そういう不埒者は、ウォルター・アイランズにより「少々生まれてきたことを後悔する憂き目」に合うのがお約束だった。

 

だが、彼女の見立てではヤンはその手の男ではない。

だからこそ、嬉しかったのだ。

 

(ワタシにちゃんと”女”を感じてくれてるんだぁ~……うふっ☆)

 

どうせ好意をもたれるなら、幼女ではなく女として愛されたい……アシュリーとて見た目はともかく、中身はアンネローゼと同じく一人前の女なのだ。

子供っぽいところはあっても、外見どおりの子供じゃない。

考えてみれば当然の話だった。

 

(駄目駄目駄目……今は一気に契約を締結するシーン、頬を緩ませたままなんて格好つかないじゃない!)

 

ふにゃりと勝手に緩みそうになった相好に気づき、アシュリーは自分に渇を入れようとするが……不意にまだヤンの腕を豊かな胸に挟みこんでいたアンネローゼと視線が合った。

そして何故かウインクされた。

 

(なんか色々バレてるっぽーい! Tell me Why? どうして? なんで?)

 

 

 

これはアシュリーの名誉(?)のため少しだけ補足しておこう。

ヤンの下宿開始初日の僅かな期間でそれまで持ち前の「私は誰かに愛されるに値しない人間だよ」というヤンのコンプレックスを徹底的に破壊し、「貴方が誰にも愛されないと思っていても、それ以上に私が愛せばいいだけですよね?」と上書きし、更には追撃で「貴方は私が愛するに値する素敵な人ですよ♪」と塗り替えてる最中で、眠っていたヤンの男性自身を強制的に覚醒させたのは他ならぬアンネローゼなのだ。

 

だからこそ、急激な内面変化に戸惑いつつも受け入れ始めている「思春期の少年のように異性に敏感に反応するヤン」の状態など手に取るようにわかっていた。

それはそうだろう。

原作と呼ばれる世界で、今わの際の言葉を聞く限り最後の瞬間まで自身のコンプレックスを拭いきれなかったような()を、この世界で宿業から解き放ち根本的に存在の定義を変えてしまったのはアンネローゼなのだから……

 

アシュリー・トリューニヒトも只者じゃないが、同時にアンネローゼ・ミューゼルもまた別の意味で只者ではなかった。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

さて、ヤンはヤンで自分の思わぬ”()()()()()”に小さな驚愕があったようだが、それを口にするほど若くもなければ無粋でもない。

それを察したアシュリーはコホンと咳払いし、

 

「もう一度言うわね? ワタシを愛してとは言わない。だけど、ワタシと契約して欲しいの。ヤンが正式にアンネローゼと結婚した後、ワタシを公式に愛人とするって契約をね」

 

「アシュリー、もう一度聞くけど……君は私に何を求める?」

 

「アナタの名声を。ワタシはまだ若くお父様と違って実績もない。幼い容姿から頼りないと侮られることも多々あるわ。このままじゃあ、安定して選挙に勝ち続けることは難しいのよ」

 

「私の名声とやらはどこまでアテになりそうなんだい?」

 

「アナタの地位/階級が向上するほど効果的ね。だから見返りにワタシはアナタの出世を全力でサポートするわ。ワタシは選挙での勝利をより確実にするためにアナタの出世は望ましいし、アナタは究極的にはアンネローゼとの豊かで幸せな老後を迎えるために地位はあったほうがいいでしょ? 退役時の階級で年金の金額が決まる以上は。これっていわゆる”Win - Win”の関係よね?」

 

「その方法は?」

 

アシュリーはくすりと微笑み、

 

「”同盟軍はシビリアン・コントロールを前提とした軍隊”はアナタ自身が書いた言葉よ? 民主主義、あるいは資本主義において経済力を上回る政治力は社会工学的に存在しないわ。なら存外、軍内部より軍の外側の方が色々サポートできることが多いのよ。特にワタシが利益代表を務めることになるだろう、軍需産業複合体なら尚更にね」

 

「要するに君が私の愛人となると同時に、私は”トリューニヒト派軍人”となるわけだね……少なくとも周囲にそう認識されるわけだ」

 

「そう思ってくれると嬉しいわ♪」

 

そしてヤンはアンネローゼを見て、

 

「アンネ、どうしよう? どうやら私は”全うな同盟軍人”として歩むことはできそうもないようだよ。下手をすれば同盟最悪の金権主義軍人の誕生だ」

 

だが、アンネローゼは朗らかな表情で、

 

「全てはウェンリー様の御心のままに。貴方がアシュリーちゃんを受け入れ()でるというのなら、私はアシュリーちゃんごと貴方を愛すだけですもの♪」

 

ヤンは空いてる手を膝に座るアシュリーの細い腰を抱きしめるように回し、

 

「困ったな。()()()にまで問題ないと言われてしまったよ。どうやら、私の()は思っていたよりもずっと大物だったらしい」

 

アンネローゼは嬉しそうに頬を染め、

 

「はぁ? 今更、何言ってんの? この三人の中で一番器が大きいのは誰がどう見てもアンネローゼでしょ?」

 

「違いない」

 

「あらあら、ご挨拶ですわね」

 

 

 

三人の暖かで柔らかな笑い声がミューゼル家のリビングに広がっていった。

 

 

 

 

 

そんな三人を邪魔せぬよう口を控え温かい目で見守っていたトリューニヒト家家令、ウォルター・アイランズは、気づかれぬようそっと白いハンカチで目頭の涙を拭った。

 

(お嬢様があのような笑顔でいるのは、いつ以来でしょうか……)

 

思えば先代トリューニヒトが死んでから、彼女は本当の笑顔が出来なくなっていたように思う。

何とかしたかったが、どうにもできない自分がどうしようもなく歯がゆかった。

 

(旦那様、お嬢様はまた再び笑えるようになりました。そして伴侶となる方も見つけられたようですぞ)

 

残念なのは、その姿を故ヨブ・トリューニヒトに届けられないことだ。

いかにできる執事のアイランズとはいえ、ヴァルハラのアドレスは人の身である以上は知りようはなかった。

だからせめて、今は亡き父君の代わりにこう呟く。

 

「お嬢様をお頼み申し上げましたぞ。ヤン殿」

 

 

 

 

 

 

 

 

後に歴史家は語る。

アンネローゼ・ミューゼル、アシュリー・トリューニヒト……この二人の女性との巡り合いこそが、ヤン・ウェンリーの運命を大きく変えたのだと。

彼女たちこそ、”英雄ヤン・ウェンリーの()()()()()()”だったのだと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




リトル・エレクチオン!(挨拶・意味深

ヤン、ついに二回目の敗北です(^^
アンネローゼにあれだけ防壁削られれば仕方ない?

ちょっと楽屋裏ネタ……
アシュリー・トリューニヒトのキーコンセプトの一つに「可愛いだけの女の子じゃない。怖いだけの女の子じゃない」だったんですが、それが表現できてると嬉しいです。
彼女は意外と純情なのかもしれないです。

ちなみにアンネローゼのキーコンセプトの一つは「綺麗な花には、甘い甘い毒がある」だったりします(笑
甘すぎて色々麻痺して、それが毒だと浸りきっても気づかない的な?

あー、でも最後にアイランズ視点が書けてよかったー。

次回からは久しぶりの金髪さん目線かな?


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