金髪さんのいる同盟軍   作:ドロップ&キック

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ちょっと色々解説回。
何やらラインハルト様が解説してくれるみたいですよ?

しかも今回は久しぶりに女の子が出てこない硬派(?)な話。






第042話:”パン屋の跡取りと駆逐艦の話”

 

 

 

『ふむ。なるほど、触雷ですか……』

 

「ええ。どうやら新型機雷のようです」

 

俺が通信を繋げて報告を行っているのは、100隻臨時編成(寄せ集め)の小戦隊旗艦、標準型戦艦”ガングート”だ。

画面に映ってるのはどこか軍人と言うより”パン屋の跡取り”と言われた方がしっくりくる風貌の男、”チュン・ウー・チェン”()()だった。

 

真新しい大佐の階級章がどうにも似合ってないように見えるが、無理も無い。

本来の彼の階級は少佐、普通なら階級的には巡航艦の艦長だ。

ところが”諸所の事情”で、()()()()扱いで中佐になっている。

 

とりあえず、野戦任官がなんなのか説明しておくか。

知ってるって? まあ聞け。

 

軍には根本的に「階級にポストがつく」あるいは「ポストに階級がつく」という考え方がある。

より詳細に言うなら「階級に相応しいポストを用意する」、「ポストに相応しいように階級を用意する」だ。

基本、軍という組織はどっちも行うのだが、必要に迫られた場合”どっちを優先するか?”は軍によって異なる。

帝国軍は前者、同盟軍は後者だ。

 

さて、今回の場合どういうことかと言えばだが……なんとも贅沢な話に聞こえるかもしれないが、リンチ中将率いる”エル・ファシル特別防衛任務群”は『戦艦余り』を起こしていたのだ。

 

 

 

元々、同盟軍は帝国軍に比べて艦隊での戦艦の比率が高い。”もう一つの記憶”じゃ曖昧だが、少なくとも今はそうだ。

標準戦艦だけで言えば、正規艦隊でも帝国軍が艦隊全体の5%程度なのに対し、同盟軍は1割前後が標準戦艦で占められている。

何もこれは同盟軍が帝国軍に比べ金持ちだという話ではない。

いや、国家と言う意味では確かに同盟の方が倍の経済力を誇るのは間違いないが、国家予算に対する軍事費の支出割合が違うので現状ではさほど金額自体に大差はない。

 

これは単純に1艦あたりの建造コストが、同盟の方が明らかに安いのだ。

帝国軍艦には惑星などの重力圏への降下/離脱機能が必須であり、その機能のために高価になりやすい(裏を返せば、帝国艦が一般に頑丈とされているのは惑星への離発着に必要な強度が最初から求められてるからだ)。

加えて、単純に図体の大きさもある。

駆逐艦を除く巡航艦、標準戦艦(帝国の場合は高速戦艦も含む)などの軍艦は、総じて同盟の同属より1回りかそれ以上にでかい。

船だけに限らんが、一般に図体が大きくなればなるほど高くなるのは自明の理だ。

 

蛇足だが、旗艦型戦艦なら図体でいい勝負できそうだが……同盟の旗艦型のアイアース級、パトロクロス(改アイアース)級(この2級を合わせてアキレウス級とする資料もある)は亜空間スタビライザーというテールフィンを含んだ全長であり船体自体の長さは900m台が普通で、やはり帝国の旗艦型であるヴィルヘルミナ級(全長1116m)の方がかなりでかい。

 

実際、調達コストを比べると同じ標準戦艦と呼ばれる艦種ながら同盟のそれは帝国の2/3以下らしいのだ。

それで倍の比率だというのもおかしいと思われるかもしれないが、正規1個艦隊の平均艦艇数は同盟の方が多いが、正規艦隊数は同盟の正規12個艦隊に対し帝国18個艦隊と逆転し、軍全体の艦艇保有数もやや帝国が上回ってるのが理由だろう。

ちゃんと計ったことはないが、標準戦艦の総保有数は実際には同盟が倍ではなく少し上回る程度なのかも知れんな。

 

しかし、これも正規艦隊の話で、地方艦隊や警備艦隊なら戦艦の比率はぐんと下がる。

例えば、”帝国(てきこく)に最も近い場所にある同盟の有人惑星”である旧エル・ファシル防衛艦隊は、『地方艦隊でも良質』と太鼓判を押されていたが、実際の内訳はアコンカグア級準旗艦型(分艦隊旗艦型)戦艦の”シャイアン”1隻を頂点に標準戦艦は50隻少々しかなかった。つまり全体の5%強だ。

”ホワンフー級”宇宙空母1隻も配備されていたが、残りは巡航艦や駆逐艦だ。

 

 

 

ところが、軍は何を思ったのか旧リンチ一家の生き残りのために300隻の新造艦を用意し、そのうち100隻が標準戦艦だったのだ。

上層部は大盤振る舞いのつもりだろうが、リンチ中将は頭を抱えたに違いない。

なんせ今回かき集められた6700隻の”地方艦隊/警備艦隊の余剰戦力”の中にも200隻以上の標準戦艦が混じっていたのだ。

 

全体比率から言えば5%程度、旧エル・ファシル防衛艦隊と同等……いや、軍はサービスではなくそれを狙ったのか?

だが、いかんせん戦艦の艦長を務めるべき士官、つまり大佐の数が不足してしまったのだ。

 

そこでリンチ中将は、めぼしい少佐階級を軒並み中佐へ野戦任官したのだ。

チュン・ウー・チェン中佐は、そのめぼしい中の一人だった。

 

 

☆☆☆

 

 

 

野戦任官は実際の昇進と違い、その階級は確固たるものではなく「作戦中、暫定的にポストに必要な階級を用意する」処置で、今回は”戦艦の艦長には大佐が必要だから”という理由だ。

 

少佐というのは本来、巡航艦の艦長だから戦艦の艦長に引き抜かれた穴埋めは大尉が野戦任官で少佐に繰り上げられ空いた巡航艦の艦長へ。またその穴埋めで中尉が大尉となり仕切られてる駆逐艦もある。

 

 

 

『なぜ新型機雷と?』

 

「”イナヅマ”に取り付けられてるセンサー類は、最新と言っていいものでしょう。オペレーターが機材に不慣れ、かつ経験不足だったとしてもかなり近づかない限り発見できなかったということは、未確認のステルス処理をされたそれだと推察されます。またライブラリにも該当する情報はありません」

 

”イナヅマ”は比較的型の新しい駆逐艦だとは前に書いたか?

だが、それ以上にイナヅマは”特別な船”といえる。

どういう意味かと言えば、イナズマはその姉妹達の長女、つまりは”雛型艦(オリジン)”となっているのだ。

 

駆逐艦と言うのは凄まじく数が多い。

例えば現在の同盟軍なら、駆逐艦の保有数は他の全ての種類の軍艦を合わせたより多い。

まさに”ワークホース”的な存在だ。

そして素人目には、いや多少は慣れた人間でもここ30年間建造された全ての駆逐艦は同じに見えるかもしれない。

 

だが、確かにデザイン的にはほとんど差はないが、実は細かなヴァージョンアップは常に繰り返されており、例えば初期艦型(ロット)の駆逐艦とイナヅマ(あるいはイナヅマ型)の性能差は相当にあるのだ。

 

現在、駆逐艦の最新艦型(ロット)は、通称”アカツキ四姉妹”と言われているアカツキ型、ヒビキ型、イカヅチ型、イナヅマ型で基本性能は同じだが、微妙に仕様が違う。

イナヅマは四姉妹の中でもセンサー類が強化された仕様だ。

 

加えて俺が乗るイナヅマは、雛型艦だ。

駆逐艦は繰り返すが凄まじく数が多く、普通は同じ艦型の末尾に数字をつけて識別しており、例えばイナズマ型は俺が知る限りもう”イナヅマ030”まで建造されてるはずだ。

そして、末尾に数字がつかない船こそ雛型、つまり後に生まれる量産型(いもうと)の原型となる船なのだ。

 

実際、イナズマは『妹達が量産に値するか?』を確かめるために試験建造され、数々のテストと欠点の洗い出しを成し遂げ、現在ここにいる。

そしてそのような経緯で作られた船だけに運用データは豊富であり、また整備ログや性能緒元も実測値に基づいた信頼できるものだ。

 

「それにしても俺、いや小官達は運がいいです」

 

『触雷したのに?』

 

「ええ。触雷したからこそですよ」

 

 

 

チュン・ウー・チェン中佐は少し驚いた顔をしたが、別に嘘ではないぞ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ラインハルト様もメガッさ人間丸くなったなー(挨拶

何気に聞き様によっては萌えキャラにも聞こえるチュン・ウー・チェン中佐あらため大佐(野戦任官)の初登場の回でした(^^

フレデリカ、パトリチェフ、ムライに続き、チュン・ウー・チェンとラインハルトも順調に独自の人脈作成中?
何やら原作ヤン・ファミリーの半分くらいは持っていきそうな勢いです。

これにきっとアオバ・アヤを筆頭にオリも絡んできたりして……


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