金髪さんのいる同盟軍   作:ドロップ&キック

5 / 105
それはきっと、ありえたかもしれない”一家の物語(ファミリア・ミィス)”……って作品違うし。




第005話:”リンチ一家、出陣!”

 

 

 

「全艦、出撃せよっ!!」

 

大きく腕を振り上げたリンチの命令一下、アコンカグア級分艦隊旗艦型戦艦”シャイアン”が、80機のスパルタニアンを抱えた宇宙空母”チャンチアン”が、50隻を超える戦艦(実はグメイヤという名の戦艦もあった)が巡航艦や駆逐艦を引きつれ軍港ステーションを出港する。

 

 

 

そして艦隊が集結し、陣形を整えたときに……

 

「全員に告げる」

 

リンチはそう切り出し、

 

「いよいよ、俺たちエル・ファシル駐留艦隊、いやさ”()()()()()”のむさ苦しいヤロー共が、漢を魅せる時がきた」

 

”女もいるぞー!”

 

ブリッジの何処からか上がった声に、ブリッジが笑いに包まれる。

 

「そうだな。だがディアナ、お前さんは男以上に立派なモンを二つもぶら下げてるから問題ねぇよ」

 

黒髪ときょぬーがトレードマークの肝っ玉操舵手、ディアナ・ヴァーデンバーグはフンスとでかい胸を張り、リンチはその姿に安堵する。

 

(それでいい。俺たちはいつも通りだ)

 

「俺たちはこれまで海賊やマフィアなんて宇宙(うみ)を荒らすクソッタレ共とと戦ってきた。さて、お前らに問う……帝国のバカ貴族は、海賊より強いのか?」

 

「「「「「否!」」」」」

 

ブリッジだけではない。

おおよそ全ての艦から返答が帰ってくる。

 

「その通りだ。敵は2500隻……一見すると2.5倍、勝ち目なんざありゃしないように見えるが、んなことぁねえ」

 

リンチは漢臭い笑みで、

 

「俺たちがぶん殴るべきは、お上品な見た目に中身は腐って糸引いてる貴族サマだけだ。もう一度問う……」

 

リンチはあえて手強いはずの正規艦隊を言葉で外に追い出し、

 

「俺たちは貴族より弱いか?」

 

「「「「「「「否! 断じて否っ!!」」」」」」」」

 

「それでいい……さあ、自由惑星同盟の心意気ってのを、腐れ貴族に見せてやろうじゃねぇかっ!!」

 

「「「「「「「応さっ!! 同盟万歳!! リンチ一家、万歳!!」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 

 

 

 

リンチが大いに士気を思う存分盛り上げてる頃、我らが紅茶先輩と金髪後輩が何をしているかと言えば……

 

 

 

「さて後輩、今の我々がすべきことはなんだい?」

 

「わかってて聞くか? 決まってる。市民達の動揺を抑え、円滑に脱出の準備を進めることだ」

 

出来のいい後輩が一緒のせいか、はたまたその有能な後輩のおかげで物理的に仕事が減ったせいかは定かではないが……別の世界線より幾分余裕があるようだ。

表情や言動からもそれがわかる。

律儀に答えるライハルトもまあ、お人よしの部類かもしれない。

 

「その通りだ。つまりリンチ少将の麾下艦隊が残らず出撃した理由を説明し、民間人を脱出船に乗せる……いや、率先して乗るように手はずを整えねばならない」

 

「それは今更だろ? ああ、ミス・グリーンヒル、すまないな」

 

ナチュラルに従兵ポジに収まっているヘイゼルの瞳の少女からコーヒーを受け取るラインハルト。

状況が状況だけに民間人の徴用……が行われたのではない。

将校としてはたった二人だけ”脱出船団要員”として残った若すぎる二人を助けるため、市民有志一同が率先してボランティアとして手伝ってくれてるのだ。

 

退役軍人や地元の名士なんかも名乗り出てくれたために、ヤンは予想以上のスムーズさで脱出船が準備できてることに気づかれないよう安堵の息を漏らしていた。

 

そんな有志の一人がフレデリカ・グリーンヒルだったのだ。

 

「いえ。私にはこんなことしかできませんから……」

 

彼女は存外に強かなのかもしれない。

もっともそうでなければ、遠くない将来に勃発するだろう”争奪戦(たたかい)”に勝利することなど夢のまた夢であろう。

まあ誰を巡ってとは言わないが。

 

「そう卑下するもんじゃない。たった一杯のコーヒーが思考を整理させることもある。特にこの状況じゃな」

 

「”一杯のコーヒーはインスピレーションを与え、一杯のブランデーは苦悩を取り除く”かい?」

 

と格言を諳んじるヤンが飲んでいるのは、ブランデーを一適垂らした……と呼ぶにはいささかブランデーの純度が高過ぎる紅茶だった。

紅茶は差し入れだったが、ブランデーは私物なのはいうまでもない。

 

「たしかルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの言葉だったか?」

 

そうあっさりと返してくる出来のよすぎる後輩にヤンは大いなる満足を覚えつつ、

 

「とりあえずミューゼル後輩、私は説明とかスピーチとは苦手でね。特に大勢の人間に語りかけるのは苦手なのさ」

 

「どの口が言うことやら……スピーチは確かに好まぬようだが、先輩の場合、無駄にスピーチを短くする努力をしなければ、十分に雄弁家になれる素養はあると思うぞ?」

 

「よしてくれ。だれが好き好んで”扇動者(アジテーター)”になりたいと思う? そういうのは軍人じゃなくて政治家の仕事さ」

 

どうやらこの世界においてもヤンの2秒スピーチと政治家嫌いは健在のようである。

まあ、あくまで”今のところ”ではあるが……

 

「とりあえず、そういうのは得意な人間に任せたいところだね。というわけでやってみないか? 後輩」

 

そして人使いが荒いのではなく、上手いのも相変わらずらしい。

 

「ふむ……まあ確かに苦手ではないな。いいだろう」

 

 

 

そしてこれこそが、また歴史の一幕……その序章だったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




雄雄しく逞しくリンチ一家が征く!(挨拶

そしてその裏で、緊迫してるのに不思議と暢気に見える二人(三人?)がいたりして……


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。