金髪さんのいる同盟軍   作:ドロップ&キック

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超お久しぶりです。

もし、今でもお待ちいただいてる読者様がいらっしゃったら心より感謝を。

仕事変えたり、パソコン壊れて書き溜め全滅してモチベーション0どころかマイナスになったりと、他にもプライベートで色々ありすぎて何も書けない日々が続きましたが、リハビリをかねてゆっくり連載再開と相成りました。


第04章:”同窓会と呼ぶには少々早すぎるのでは?”
第051話:”飛び火”


 

 

 

さて、舞台は遥かなる星々の世界より一転、天の川銀河サジタリウス腕のバーラト星系にある”自由(Liberty)惑星(Planets)同盟(Alliance)”首都惑星”ハイネセン”へと舞い戻る。

より正確に言うなら、地上にある軍大学、そのまた一室だ。

 

「なるほど。ありふれた資料室に偽装されているけど、実際には軍大学の内部にある情報部の拠点というわけか……」

 

と半ば感心しているのは我らが提督(予定)、最近は女運が上昇しまくっているが同時に女難も出ていそうなヤン・ウェンリー同盟軍大尉だった。

 

この部屋への呼び出し理由は、いかにもヤンがホイホイやってきそうな歴史関係、それも今どき珍しい紙媒体で記された書籍整理というお題目だった。

無論、そんな(ヤン的に)美味しい話などそうそう転がっているわけはない。

 

バグダッシュに案内され、書架に偽装された隠し扉の先で彼を待っていたのは……

 

「君とミューゼル中尉には、改めて礼を言いたかったのだ。ちょうどいい機会だったよ」

 

バグダッシュはピシッと、それに遅れてやや崩れた姿勢で敬礼するヤンの視線の先に居たのは、本来ならここにいるべき人物ではなかった。

 

「まさか、グリーンヒル准将閣下にこのような場所でお会いできるとは思いませんでした」

 

そう。軍情報部において対帝国戦略において重要な意味を持つとある解析部門の統括を担う男、”ドワイト・グリーンヒル”……まぎれもなく大物だった。

ついでに言えば、なんとなくラインハルトとレッドラインがつながっていそうなフレデリカ・グリーンヒルの実父でもある。

 

「今回は少しばかり内密な話……少々、正道から外れる話があってね」

 

グリーンヒルはスッと目を細め、

 

「ヤン大尉、本来なら君の階級で頼むような話ではないのだが……作戦の参考とするために少々、君の意見を聞きたいのだよ」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

グリーンヒルから切り出されたのは、現在ヴァンフリート星系で行われようとしている、帝国のイゼルローン要塞駐留艦隊の誘引作戦案だった。

確かに一介のまだ真新しい大尉の階級章を付けた士官に切り出す話じゃないだろう。

それにヤンはまだ大学に入りたてのほやほや、2年目から決める専攻過程すらまだ選択する前だ。

グリーンヒル本人が言うように本来ならあり得ない話だが……

 

「ヴァンフリート4=2に基地設営の虚報を帝国に流し、それを餌に帝国艦隊を誘引する、ですか? これを考え付いたのは後輩……ミューゼル中尉なのではないですか?」

 

「……どうしてそう思ったのだね?」

 

するとヤンはかすかに苦笑する。

根拠を示せと言われれば困るが、何かと士官学校のころから縁があり、今となっては義理の弟確定のラインハルト(ちなみにまだアンネローゼと入籍はしていない。とっくに外堀も内堀も埋まっているので時間の問題だろうが)の思考パターンはかなりの精度でトレースできるようになっていた。

 

「いかにも彼が考えそうな作戦だったもので。合理的な無駄のない作戦です。ただ……」

 

ヤンは頭を少し掻き、

 

「ちょっと”押し”が弱いかな? エル・ファシル周辺に展開する艦隊が備蓄する資材では、少しばかり基地設営の説得力に欠ける。怠惰な貴族子弟ならともかく、まっとうな軍事教練を受けたものなら確実に疑うし、少なくとも私なら真偽の調査くらいしますよ?」

 

『どうせフェザーンに問い合わせれば済む話でしょうから、大した手間もかからない』という続きをあえて飲み込んだ。

ヤンは元はと言えばフェザーンの自由商人の家系だが、そうであるが故に情報に関しては全く信用しないでいた。

情報は実体を持たぬ武器であり、時には巨万の富を生む商材だ。

幼少期をフェザーン所属の船乗りとして育ち、その後に否応なく同盟人となったヤンは朧気ながらフェザーンが『なぜ存続できるか?』の舞台裏を肌感覚で理解し始めていた。

ただし、その本当の深淵までには至っていないようだが。

 

(どうせ罠を張るなら、もう少し説得力を持たせた方がいいだろうな)

 

情報だけで敵を翻弄することもできなくはないが、敵に頭が回るものがいれば、逆利用されかねない。

 

(それを回避するためには……)

 

「……ヤン大尉、君ならこの計画をどう”補強”する? 参考までに聞いておきたい」

 

意図せず脳を高速回転させ始めたヤンに気付いたようにグリーンヒルが問いかけると、

 

「私が、ですか? そうですね……」

 

グリーンヒルの視線はまるで探るような、あるいは値踏みするようなそれだったがヤンは特に不快に感じることもなく、

 

空船(からぶね)でもかまわないのでそこそこの数の輸送船と、いかにも大事なものを運んでるように護衛を付けて臨時の護衛船団(コンボイ)を編成、ヴァンフリートに向けると同時にそれを意図的にリークしますかね? ついでに大々的に『上層部直々の命令でヴァンフリートにイゼルローン要塞監視用の大規模な恒久的拠点を作る』という情報も流した方がいいでしょう」

 

「その意図は?」

 

「嘘というのは存外、小さいより大きい方がバレにくかったるするものですから。それに、」

 

(複数の作戦目標を持つのは宜しくないが、この機に戦果の拡大を狙うのは悪い話じゃない)

 

ヤンは以前なら浮かべない類の笑みを浮かべ、

 

()()()()()()()()()()()()()()、例えわずかなでも恒久的な監視拠点を作られる可能性があるのなら、帝国は手を出さざる得なくなりますから」

 

「ほう?」

 

「情報だけでなく物理的な担保を用意することにより、虚報は彼らにとり疑いようのない現実の脅威……文字通り”今そこにある危機”となります。それを黙ってられるほど帝国も呑気じゃないでしょうから」

 

 

 

 

 

 

ヤンにしてみれば、この時の会話は『問われたから答えた』に過ぎないものだったろう。

少なくとも、そこに大きな意味は見いだせなかったはずだ。

当然である。この時点でヤンは一介の大尉に過ぎない。確かに将来性はすこぶる付きで高いが、少なくとも現時点では同期の出世頭でも軍人全体として見るなら決して高い地位にいるわけではないのだから。

 

 

だが、事態は様々な思惑が絡み合い少なくともヤンが予想できなかった方向へと動いてゆく。

そして口に出すか出さないかは別にしても、

 

「どうしてこうなった……?」

 

ヤンが某マジカル幼女軍人がごとく頭を抱える日は、もうすぐそこまで来ていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




本当にお待たせしてしまって申し訳ありません。

私自身もまさか、年単位で執筆できない環境になるとは思ってもいませんでした。

再開した途端に風景がヤンSideに切り替わる罠(笑

このエピソードから新章にしようかな~とか考えております。

年単位で小説書いてなかったうえに、今の仕事はあまり時間が取れない職業なので以前に比べれば恐ろしくペースが遅くなりそうですが、リハビリをかねてゆっくり更新していければと思っています。

こんな状況ですが、お付き合いくだされば幸いです。


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