金髪さんのいる同盟軍   作:ドロップ&キック

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形的には超久しぶりの1日2話投稿です。

久しぶりに某女性キャラを書いてみたら、中々感覚が思い出せなくて苦労しました(^^

そして緑ヶ丘さん(パパの方)の性格ガガガ(汗




第054話:”元傾国の美女と謀将の卵、そして時々流れ弾”

 

 

 

「アンネ、どうやら私は二階級特進してしまったようだよ」

 

「あらあら。それは大変ですわね?」

 

「という訳で私としては生きてる実感というのを味わいたくてだね……」

 

参考までに言っておけば、同盟軍において二階級特進は通常、軍人から英霊にクラスチェンジした者の特権とされている。

ぽわぽわした表情と声ながら、ヤンのことなら心も体も委細承知なアンネローゼの取るべき行動は一つで、

 

「はい。ウェンリー様♪ どうかご堪能くださいね?」

 

アンネローゼが(はだ)け出した乳房にむしゃぶりつき、バブみを満足させると同時にグリーンヒルとの交渉で消耗した精神力を回復させたヤンは、翌朝のアンネローゼお手製の朝食で不思議と夜に消耗してしまった体力もついでに回復させた後に頭脳を高速回転させ作戦を練り直し始めた。

 

どうでも良いが、一連のアンネローゼを(今のところは消極的ではないが遠慮がちに)求めるヤンの行動を、肉食系と呼ぶには少々……いや、かなり違和感がある。

むしろなんというか……逆調教済み?

 

下に恐ろしきは、本来なら難攻不落を誇ったはずのヤンの精神防壁を完全侵食し、内側から瓦解させたアンネローゼのトールハンマーじみた圧倒的母性だろう。

ヤンを溺愛し、ヤンが溺れ、同時に依存させたその中毒性のある甘い毒のようなそれは、もはや魔性の一種と考えていいかもしれない。

流石は別の世界線では比喩でなく”傾国の美女”となった女の面目躍如と言ったところか?

 

もっともヤンを突き動かすほどの力を秘めた魔性の女が、アンネローゼだけとは誰も言ってない。

少なくともヨブ・トリューニヒト・セカンド(アシュリー・トリューニヒト)は、既にエントリー済みだし、この先他にもいないとも限らない。

どうやらこの世界のヤンは、ラインハルトと同じく一癖も二癖もあるような女性に好かれやすいタレントを持ってるようだ。

それが彼にとって幸いなことかは誰にもわからないが……

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

(結局、ヴァンフリートに基地を設営させると見せかけて、イゼルローンの艦隊を誘引できればいいんだよね。一応、目安は配備艦隊の1割、1500隻程度の殲滅とは言うけど……)

 

徐に自室の軍からの官給品であるセキュリティ対策バッチリのパソコンを立ち上げ、いくつものホログラム・ディスプレイを展張させた。

 

実はここで微妙な世界線の違いによる細やかな差異が発生していることがわかる。

そう、この世界のヤン・ウェンリーは機械音痴ではない。

むしろ原作とは真逆で機械工学は好きだし得意分野だ。それこそ、士官学校に合格しなければ理工系の専門学校に通って技師を目指してたレベルのようである。

 

(だが、情報操作でもう少し誘引できそうだね。まあ、対応力を引き上げないと殲滅させられるのはこちらになるけど。それに関しては対策はさほど難しくないけど)

 

現在、イゼルローン方面の同盟領最外縁に展開してるリンチ中将率いる”エル・ファシル特別防衛任務群”の実働艦は6000隻前後。寄せ集め故の練度の問題はあるが、やろうと思えば3000隻程度までは対応できる。

 

(それにイゼルローン駐留艦隊は、正規軍人が率いてる艦隊ならともかく貴族が率いてるものなら玉石混淆。それも現在、要塞に駐留してる面子を見る限り石の方が多い……)

 

フリードリヒ四世が煽りに煽ってるせいで帝国では戦争貴族という世代が台頭してきているが、全てが優秀という訳ではない。

 

「要注意なのは明らかに若手の中で権力も軍事的才能も頭一つ以上抜けてるマールバッハ伯爵、それに曲者と評判のランズベルク伯爵大佐。他にも色々といそうだが、多くの有望株はまだ若く、今はまださほど階級が高くないのが救いか」

 

だが、才能あふれる稀少な戦争貴族が生き残り出世し、将官となり提督として艦隊を率いるようになれば厄介この上ないとヤンは考える。

 

「最近の戦争貴族のトレンドは、手垢のついてない戦闘的才覚に満ちた若手軍人を青田買いで抱え込むことらしいしね」

 

情報部からの伝手で入手した最新の銀河帝国の人事表を見るとヤンはため息をつきたくなった。

権力を持つ貴族が、力のある若者を腹心に加えて一緒に出世するなんて悪夢もいいところだ。

 

 

 

「出来る事なら、将来的な脅威というものを可能な限り摘み取りたいところだけど、そう上手くはいかないだろうね……残念なことに」

 

戦場で生き残るものは、運という要素を抜きにすれば得てして何かしら秀でたものがある。

指揮官クラスなら特にそうだ。

勇気と無謀を履き違えたりしないし、時には驚くほどに慎重で罠をたやすく見破る。

理論だけでなく、大して論拠のない直感でそれを成し遂げる者すら歴史上にはいるのだからやってられない。

 

(ラインハルトの案としては、ヴァンフリートを餌に星系に分散出撃させた小艦隊を潜ませて、最終的におびき出された敵を合撃するってアイデアだろうけど……そこに一手間加えるのはアリと言えばアリか)

 

ヤンは思考を加速させる。

イメージするのは目には見えない遥か彼方にある星々。

近い未来にビーム状になった中性子や荷電粒子が飛び交うだろう世界……

 

「だが戦いは、戦場前の準備段階で八割方勝敗が決まる」

 

ならば準備はより余念なく行うべきと、ヤンは更に思考を深い闇へと沈降させた。

 

語弊を恐れずに言うのなら、今のヤンは”強い”

曖昧模糊な主義主張(イデオロギー)のためでなく、より具体的で鮮明な……守りいたいものができたヤンは間違いなくより強かな生き物になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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数日後、多数の修正を行った草案をまとめたヤンは再びバグダッシュに声をかけ、グリーンヒルのもとに出向いた。

 

「今回の作戦の肝は、事前準備。情報操作が決め手になります」

 

そう切り出したヤンは作戦の概要を話し終えた後、

 

「最後に軍上層部に掛け合って欲しいのですが……どんな戦果に終わろうと、作戦終了後の軍としての公式見解は『ヴァンフリートの基地設営は失敗した』という結論にしていただきたいのです」

 

「それは構わないが……意図は?」

 

「帝国に今回の作戦の主目的が、『イゼルローン駐留艦隊の誘引と殲滅』にあること気付かせないため……いえ、本職の軍人は気付くかもしれませんが、」

 

ヤンは一度言葉を切り、

 

「帝国のパワーエリートである貴族に『自分たちが勝利した』と思い込ませる、最低でもそう主張できる状況を作り出すためです」

 

「なぜ、貴族たちに対する配慮を?」

 

わからないのではなく確認するために質問するグリーンヒルに、

 

「将来に対する布石……あるいは予防線のようなものです。誘引作戦は何も今回が最後という訳ではないので」

 

古来より多用されてきた戦術だが、この人々が宇宙を生活の場とする時代になってもその有効性は失われていない。

いつか誰かが言っていたが、進歩したのは科学であり人は本質的には変わらない生き物なのかもしれない。

 

「できるかね?」

 

「人は冷厳な現実より、”自分にとって都合のいい真実”を信じたがる生き物です。特に自己顕示欲と名誉欲を肥大化させた貴族なら猶更でしょう」

 

「なるほどな……」

 

グリーンヒルは、何度かうなずきもう一度計画書に目を通す。

そして、

 

「ヤン()()、君は良い”謀将”になりそうだな?」

 

「……誉め言葉として受け取っておきます」

 

「最大限の賛辞さ。宜しい」

 

するとグリーンヒルは彼にしては珍しく苦みのない笑みを浮かべ、

 

「存分にやりたまえ。徹底的に、容赦なくな」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「ところでグリーンヒル閣下。閣下の配下で一人、情報参謀として貸していただきたい人材がいるのですが……」

 

ついっとヤンが同席していたバグダッシュに視線を向けた。

グリーンヒルは鷹揚にうなずき、

 

「いいだろう」

 

図式的には、ヤンに飛んで行った流れ弾が人体を貫通した後に跳弾し、バグダッシュに命中した形だ。

ヤンの場合、自業自得な気もするがバグダッシュにしてみれば完全な貰い事故だろう。

 

「ふわっ!? ちょっと閣下!」

 

だが、グリーンヒルは冷厳な瞳のまま、

 

「バグダッシュ大尉。少し現場に出て潮気を入れてきたまえ。尻で椅子を磨くだけの立場になるには、君はまだ若すぎる」

 

 

 

ヤン・ウェンリー……この男、どうやら自重という言葉を封印することしたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございました。

ヤン、対帝国戦においての危険度が増大しました(^^

しかもその根本的な、あるいは根源的な原因はアンネローゼ?
もしかしたらこの世界のヤンに一番影響与えてるのが彼女かもしれないです。

原作でもこの世界でも、意味もベクトルも違えどアンネローゼは帝国にとり鬼門なのかもしれないっす。

そして流れ弾が命中したバグダッシュェ……
恨むなら、使い勝手の良さをヤンに示してしまった自身を恨むがよい|(意訳:やったね! ヤン一味への早期参加が仮定したよ!


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