今回は、
自由惑星同盟市民の多数派、アレイスター・ハイネセンと共に銀河を渡った人々の末裔を標榜する、いわゆる”
もっと根源的で単純な、『500年もかからずに人口を1/10以下にした帝国に屈すれば、240億人を誇る同盟の人口は20億人にされかねない』という恐怖があるからこそ、帝国と徹底抗戦するのだと思う。
少なくとも同盟市民主流派は表立って、『圧政に苦しむ帝国民を救え』とか『圧政者から民衆の開放を!』というお題目を立てて行動することはない。
いや、言う者がいても、よほど上手くマスコミ……いや、この場合はマスゴミか?などを使って世論誘導やら扇動でもしない限り、基本的に相手にされず白けるだけだ。
理由もこれまたシンプルで、主流派にとり自分達は『独裁者ルドルフ・フォン・ゴールデンバウムを見限って新天地を目指した民』の末裔なのに対し、帝国臣民は『ルドルフの独裁を望んで受け入れた愚者』の末裔というスタンスだ。
その認識は今も大差なく、帝国民は未だに”皇帝”だの”貴族”だの”農奴”だのと旧態依然とした政治を、自ら変革することもなく甘んじて受け入れてる民だと思われている。
今も昔も帝国建国時から現在に至るまで、自浄作用すら働かない、議会を自力で再建することもできない、大した根拠もない古き因習にすがってるだけの怠惰で無知蒙昧な国民というところだろう。
当然、亡命者からの情報なりなんなりで、同盟市民はかなり正確に帝国の内情を”知っては”いる。
例えば、貴族に逆らうことは農奴どころか平民でさえ死に直結することであり、皇帝家や貴族、あるいはそれに連なる官僚や役人のみがこの世の春を謳歌し、農奴は人ではなく私有財産として扱われ、平民は貴族や役人に目を付けられぬように細々と生きるしかない。
言論や思想の自由はなく、人権という概念もなく、同盟人にとってそこは先祖たちが『見捨てる』のも当然な息苦しく生き苦しい”この世に再現された地獄”のイメージなのだろう。
だが、決して幸福とは言えない平民やそれ以下の帝国臣民のそれら現状を知識としては知ってはいても、それは結局のところ今昔を問わず『帝国民の自業自得』なのであり、表面的には同情したところで自らの血を流してまで救出したいとは誰も思ってはいまい。
所詮、他人事だ。
(それも当然だろうな……)
”もう一つの俺の記憶”では、国父とされているのはルドルフと同じ時代に生きたアレイスター・ハイネセンではなく、その末裔であるアーレ・ハイネセン(もっとも、彼自身は建国前に道中で事故死しているが)。
今では”同盟中興の祖”として知られる、生まれも育ちも同盟のアーレ・ハイネセンが政治家として初当選したのが宇宙歴473年のことだ。
そして”もう一つの記憶”では、同じ名前の人物が帝国生まれで
あちらの”
この差は、あまりに大きい。
この世界の同盟主流派は、断じて『帝国逃亡奴隷の末裔』などではなく、帝国成立直前に
もっとも、今の同盟市民は、決して当時の銀河連邦民、特にかの地に残った『進んでルドルフの独裁を積極的に受け入れた民=銀河帝国民』なので、好意的には見ていない。
ここも『銀河連邦の継承者を自認』していた”もう一つの記憶”の
今の”同盟市民
では、なぜ銀河連邦で使われていた西暦2801年を元年とする”宇宙歴”を公歴と継続使用しているかと言えば……別に『自分たちが銀河連邦の継承者だから、ルドルフによって抹消された宇宙歴を復活させた』などという”もう一つの記憶”のような熱い理由ではない。
もっとドライな、『たかが連邦が自滅しただけで、人類全体が滅んだわけではあるまいし、わざわざ別の暦を用意する必要はない』という理由だ。
ヤン先輩の勧めで読んだいくつかの歴史書から推察するに、始祖であり国父、時には『宇宙時代に蘇ったモーゼ』の如く神格的解釈をされることもあるアレイスター・ハイネセンではあるが、彼自身は『
先輩は口にこそ出さないが、”淡々と世紀の大事業を遂行した”アレイスター・ハイネセンの端的に言えばファンらしく、そういうニュアンスの話を時たましていたもんだ。
『ルドルフと彼を熱狂的あるいは狂信的に支持する当時の連邦市民を横目に見ながら、その危険性を見抜く冷静な思考と先見性を持ち、来るべき日に備え入念な準備を行う先見性……だが、私が何よりもアレイスター・ハイネセンを評価するのは、「自由や民主主義を守護継承する」なんて気負いを持たず、突き詰めれば長征一万光年を「ただ、連邦が住みにくくなったから新天地見つけて移民する」という、スケールは大きくても行動そのものは全く特別視してなかったことなのさ』
そして、こう締めくくった。
『アレイスター・ハイネセンにとって、その生涯の後半をつぎ込んだ長征一万光年とて「人類史全体からみれば、取るに足らない些事」ととらえていたのかもね。彼にしてみれば、自分の行為は「人類が地球から飛び立ち、他の惑星を開拓し始めた」時となんら変わらず、自分は発起人や移民の代表者であっても”国父”なんて持て囃されることになるなんて考えもしなかったんじゃないかな? もしかしたら、もう高齢だった自分がその道中で死ぬことさえ計算に入れていたのかもしれない』
☆☆☆
他にも重要な要素は、建国時期だ。
なんというか……色々末期的だった”もう一つの自由惑星同盟”の建国は、銀河帝国から200年以上遅れている。
そして、同盟として帝国と初めて大規模会敵した”ダゴン星域会戦”は、その100年と少し後……逃亡奴隷の末裔として生きてきた人々にとっては、さぞ恐怖と憎悪を刺激されたに違いない。
だが、”
前出の通り、アレイスター・ハイネセン達が旅立ったのは、宇宙歴310年。帝国建国とほぼ同時であり、可能な限り準備を重ねた脱出行だったため、”もう一つの同盟”の半分以下の年月……四半世紀も置かず同盟の建国に成功している。
少なくとも、ルドルフが死んだ352年には、同盟は複数星系国家として完全に機能していた。
そして、”ダゴン星域会戦”が起きたのは、同じく640年……当時の同盟は市民は、いずれ帝国が攻めてくるだろうことは予見していたが、『300年も待って、ようやく来たか』という心境だったんじゃないだろうか?
その後、数多の亡命者により、ルドルフが築き上げ粛清の連鎖のせいで人口を壊滅的に減らした銀河帝国に、同盟市民は改めて恐怖を抱くことになるのだが……
だが、国家としての成立も時期も大きく異なる”二つの自由惑星同盟”が、同じ心境で帝国と対峙するわけはないのだ。
俺が、最終的に銀河再統一王朝の初代皇帝(今の俺には、ひどく違和感があるパワーワードだ……)にまで上り詰めた、あの世界の自由惑星同盟は、究極的には『愚かしい感情論を捨てられず、
元々、無理がある国家だったことは否めないが、それでも暗愚すぎる終焉だ。
だが、成り立ちから違う”今生の自由惑星同盟”は、銀河帝国に対するイデオロギー対立もなく、また450年以上前に決別した、言い方を変えれば見限った集団に今更、怨嗟などの感情を持つはずもない。
それは市民軍である自由惑星同盟軍もそれは同じで、その立ち位置はあくまで”国防軍”。同盟市民の生命と財産を守るための軍隊であり、少なくとも現状ではそれ以上の役割は求められていない。
そもそも、同盟は多少
そして、同盟軍人は国民から抽出された勢力であり、同時に有権者集団でもあるのだ。無論、その家族も成人してれば有権者……大多数である主流派が、『自業自得な敵性国家民のための出血を望まない』という考えを持っている以上、軍の発想も必然的にそれに準じたものになる。
同盟軍はあくまで有権者と納税者を守るための軍隊……『独裁者やら貴族やらが同盟を征服すれば、銀河帝国の二の舞になる』から戦うであり、国防以上の意味はない。
シビリアン・コントロールを本懐とする軍の、まさに正道と言えよう。
(だが、それだけでは同盟は語れない)
”
だが、”
それが、帝国よりの亡命者集団である”
読んでいただきあいがとうございます。
う~ん……書いておいてなんですが、銀英伝二次なのに、このシリーズって驚くほど戦闘シーンが無い!
いや、原作では同盟を滅ぼした張本人であるラインハルトの口から、同盟をどこか客観的に語らせるのが想像以上に面白く、つい興が乗ってしまってますが……読者の皆様が退屈でなければ良いのですが(汗
次回も、まだ彼のモノローグが続きそうな気配が……
ヤンもだけど、この世界線のラインハルト君は、コミュ力高いようです(^^