金髪さんのいる同盟軍   作:ドロップ&キック

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今回も懲りずにラインハルト君のモノローグ調です(^^
ネタはサブタイ通りに、彼にとっても身近な帝国からの亡命者ネタがメインとなります。

相変わらず戦闘のセの字もありませんが、それでもよろしければどうぞ。




第058話:”フォリナー 亡命者達の虚構と実像”

 

 

 

民主主義の大原則は多数決だが、『少数意見は尊重されなければならない』というのもある。

そして尊重どころか、いかなる意味でも無視できない規模の少数勢力が同盟には少なくとも二つある。

 

一つが俺の両親もそこに該当する銀河帝国からの亡命者勢力、異邦者(フォリナー)だ。

厳密に言うなら、第一世代……帝国生まれの亡命者のみが純然たるフォリナーなのだが、勢力として考えるならその血縁者や末裔も入るだろう。

もっと広義に言うなら亡命者とその家族や末裔たちのネットワーク、あるいは生活互助組織がそう言われる。

一部のマスコミ、いやマスゴミ(後述するがフェザーンの紐付きが多い)には”フォリナー・マフィア”や”フォリナー・カルテル”などとあたかも犯罪結社のように呼ばれるが、俺に言わせれば一丸となって結社化できるほど強固なつながりはない。

というか、むしろその逆で間違っても一枚岩な組織じゃないぞ?

 

ぶっちゃけてしまえば、極右から極左まで一通りそろってる。

帝国から見るか、同盟から見るかでその意味は正反対になってしまうが……簡単な例をあげれば、俺の親父”セバスティアン・ミューゼル”だ。

ちなみ帝国での名は、”セバスティアン・()()()・ミューゼル”、フォンが付いてる通り本人曰く「しがない下級貴族」だったらしい。

そのあたりの話題に触れられたくないらしく父は詳細を語ろうとしないが、母は少し言葉を濁しながら「帝国騎士(ライヒス・ リッター)どころか、男爵位を正統に継承できる立場」だったらしいと教えてくれた。

そして、その父は大の銀河帝国嫌いで、その象徴である貴族も爵位もひどく嫌っている。

父は酔うたびに母の肩を抱きながら、

 

『平民だって理由だけで、一目惚れした花屋の娘に求婚一つできない帝国なんざさっさと滅んじまえっ! 爵位も貴族もクソ喰らえだっ! ファッ〇ン・カイザー! 自由惑星同盟、万歳(ハーレー・リバティ)っ!!』

 

と陽気に中指立ててシャウトする。

うん。我が肉親ながら、酷い絵面だな。

きっと先輩は、晩酌と一緒に「自由惑星同盟、万歳!」の合唱にも付き合わされてることだろう。

まったく、いい歳こいて酒に弱いくせに酔う感覚が好きなのだから始末におえん。

 

まあ、それはさておき……父自身は母と結婚したい一心で約束された爵位も財産も平然と捨て、手に手を取って命からがら帝国を脱走。ついでに同盟に着いて亡命申請する時に、あっさりフォンを名前記入欄から抜いた男だ。

親父にとってフォンとは、母との結婚を妨げる呪いのワードみたいなものだったんだろうが……”もう一つの記憶”の俺にとってのミューゼル姓のようなものなのかもしれない。

今更だが”もう一つの世界”の父、『母を貴族にひき殺されたショックで自暴自棄になり、姉上を皇帝陛下に売り払うセバスティアン・ミューゼル』というのは、今の俺のとってどうにもピンこない。

第一、求愛熱量の強さがしっかり父親から遺伝している姉上に、寵姫なんて務まるのか?

いや、その世界の俺の行動も大概なんだが……

 

(キルヒアイスはいわゆる『好感度が足りない』って奴だったのか?)

 

いや、”もう一つの世界”の年齢差を考えれば……もし万が一好感度を満たして亡命イベントが起きたとしたら、

 

(ショタコンの姉上というのも、なんかイヤだな……)

 

いや、流石にこの想像は荒唐無稽すぎる。何より俺のSAN値的に大変宜しくない。

 

 

 

すまん。何やら思考が”這いよる混沌(ニャルラトホテプ)”あたりに汚染されてたようだ。

とにかく、父のような『帝国死すべし慈悲はない』を地で行く”対帝国強硬派”がいる一方、逆に『帝国に帰還し、返り咲く』ことを目指す勢力、言うならば”帝国帰還派”もフォリナーには少なからず存在する。

例えば、宮廷闘争やそれに類似することで敗北し、帝国に居るに居られなくなり落ち武者った元爵位持ちの没落貴族とその家族、親類縁者、末裔なんかに多いタイプだ。

単純化すれば前者は『帝国を完全に見限った勢力』で、後者は『帝国に未練タラタラな勢力』だな。

 

まあ、幸いに多数派なのは強硬派であることか?

それも当然で、同盟に亡命してくるのは大抵が『貴族ばかりが優遇される世の中に嫌気がさした平民』や『貴族を捨てた者/貴族でいられなくなった者』とかだ。

この手の輩の共通項は、「帝国に深い失望や怨嗟を持つ者」ということだな。

まあ、そういう感情が無ければ、普通はどれほど帝国が酷い国でも、そうそう生まれ育った場所から離れたいとは思わないだろう。

そう、フォリナーの帝国強硬派の『帝国への感情的嫌悪感』は、同盟市民主流派(マジョリティ)より遥かに深く暗い。

 

また、農奴階級がごく少数しかいないのは、帝国において農奴は貴族の私有財産であり、貴族の領地惑星に縛り付けられ、宇宙に出ることもなく一生を終えるのが普通だからだ。

ドライアイスの塊にエンジン付けて宇宙へ飛び出すような、よほどの特殊事情でもない限り亡命のチャンスすらないのが帝国農奴の実態だ。

 

もちろん、この二勢力でフォリナーは成り立ってる訳じゃない。どっちつかずの中道もいれば、帝国自体にもはや無関心な層も、あるいはフォリナーを隠れ蓑に怪しい活動をしてる輩に反目してる同盟内のフェザーン勢力と(くみ)する者だっている。

中には地球教に入信してるなんて悪趣味なのもいるくらいだ。

 

 

 

片手落ちにならぬよう言っておけば、同盟市民の全般的対フォリナー感情は決して悪い物じゃない。

むしろ、”もう一つの記憶”の中の同盟と比べるなら、雲泥の差と呼べるほどに良好と言っていいだろう。

 

確かに多くの同盟市民にとり現在の帝国人は、皇族や貴族を除き表面的な同情はあれど、本質的には『現状を変えようともせず、古い因習と圧政を甘んじて受け入れる怠惰で無知蒙昧な民』だろう。

だが、亡命者……”異邦者(フォリナー)”は、『国という大きな物は変えられなかったが、自分の手の届く範囲は悲惨な現状を変えようと努力した民』であり、そこにかつて同じように国を捨て新天地を目指したアレイスター・ハイネセンや先祖たちを重ねるようだ。

だから、同盟市民の亡命者に対する感情はおおむね好意的だ。

 

これは、同盟建国から……いや、”長征一万光年(ロンゲスト・マーチ)”を覚悟した時から宿命づけられた、一種の感傷主義(センチメンタリズム)だと俺は理解している。

その国民感情そのものは両親に限らず亡命者にとり歓迎すべきものであり、特に思うところはない。

 

個人的に感謝すべきは、そんなバックボーンがあったために父が書いた手記じみた素人文芸がノンフィクション小説として大当たりし、小説家として成功したため同盟生まれの俺や姉上が生活に困ることはなかったことだろう。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

問題なのはもう一つの勢力、フェザーンを由来とする商人組合(シャイロック)だ。

まず、重要な情報を書いておく。

ヤン先輩のような例外を除けば、普通フェザーン人(便宜上、こう呼ぶぞ?)は同盟国籍をとれない。正確には『同盟籍をとることを選択肢として持てない』だ。

 

少々ややこしい話になるが……自由惑星同盟は、銀河帝国を公式に国家として認めている(同時に帝国は同盟を国家と認めていない)。

そしてフェザーンは()()()()()()()()が同盟の公式見解であり、同盟の国籍条項や関連法が変わらない限り、フェザーンという国家は存在せず、”フェザーン人=帝国臣民”なのだ。

端的に言えば、フェザーンが何を主張しようが『フェザーンは帝国の一部』であり、”国家ではない”

 

無論、膨大な資金をバックボーンとした合法/非合法を問わぬ、時折、違法収賄だの疑獄事件だのを頻発させながら一世紀に及ぶ執念じみたロビー活動により、フェザーン自治区住人への特例として商売を行える『就労ビザ』や、同盟への年単位での長期滞在を可能とし更新することでやろうと思えば生涯同盟に居住できる『特別在留許可』は発行されるようになった。

だが、永住権や選挙権を含む市民権、そして何より同盟国籍はフェザーン籍(=帝国籍)を捨てぬ限り決して与えられない。

 

同盟はそもそも二重国籍は認めてない。

当然だ。自由惑星同盟にとり、外国とは敵国である銀河帝国しか存在しないのだから。

 

では、亡命者はどうなのかと言えば、同盟の解釈では『同盟に亡命が受理された段階で、帝国の如何に関わらず()()()()()()する』からだ。

 

だが、フェザーン人は亡命できない理由がある。

何故なら、上記の解釈をとるなら亡命した段階でフェザーン籍は消滅し、フェザーンでの商売ができなくなってしまうのだ。

具体的には、『帝国は同盟を国家として認めておらず、故に同盟籍は存在しない』ため、帝国の解釈としては『無国籍の人間を入国させられない』からだ。

 

 

 

酷く退屈で、尚且つ生臭い話になってしまうかもしれんが……もう少し話すか?

まあ、俺たちの住む同盟(せかい)を知っておきたいなら、無駄な知識って訳じゃないだろうしな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございました。

原作と違ってかなり陽気なセバスティアン氏でした(^^
クラリベル(ママ・ミューゼル)さんは偉大なり!
酒の飲み方が原作との相違、きっとヤンも毎晩とは言いませんが、よく付き合わされてることでしょう。
なお、あんまりに付き合わされると夜の営みに支障が出る娘の機嫌が急降下爆撃を敢行し、1000ポンド爆弾並みの雷が落ちる模様。
父親とは、娘に弱いものです(笑

ついでにアンネローゼさんは性格的にも恋愛観的にもかなり父親似です。
まあ、散々甘やかして依存させ、無自覚に「私生活面では駄目男」量産機になってしまうあたりは、かっきり母親譲りですが(出てきてないだけで、クラリベルさんも大概な模様)


本人(笑)も言っておりましたが、すみませんがラインハルトのモノローグ、同盟語りはもうちょっと続きます。
流石に物語の都合上、フェザーンの情報を入れないわけにはいかないので(迫真



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