「諸君らに告げねばならぬことがある……リンチ少将は死地へと赴かれた!!」
ラインハルトの群集を前にした第一声はそれだった。
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諸君らも既に知っておろう?
浅ましき帝国貴族を僭称する下種共がこともあろうに人狩りに迫ってきている……
リンチ少将は、この星の戦える船を全て率いて迎え討ちにいったのだ
しかし敵は巨大、リンチ少将の艦隊の倍以上だ
だが、少将は死にに行ったのか?
断じて否!!
リンチ少将は、同盟軍人としての責務を果たしに行ったのだ!
同盟軍人の責務とは何か?
銃を持てぬ市民に代わりその手に銃を握り、市民を守ること他ならない
だが、市民はただ守られていればいいのか?
それも否!
だが、武器を待たぬ者が戦えるのか?
きっと諸君は思うであろう。戦えるはずはないと
「だが、俺はそれを否定する! 戦場で撃ち合うだけが戦いではない! 市民には市民の戦い方がある! それは即ち”生き残る”ことだ!!」
リンチ少将は、諸君らが脱出する時間を稼ぐために自ら討って出たのだ!!
一秒でも長く耐えれば、一人多く助かるかもしれぬ
そう信じて戦いに赴いたのだ
諸君らはこのエル・ファシルを出ねばならぬ
生き延びるためにはそれが必須だ
飾らぬ言葉で言うなら、諸君らはこの星を逃げ出さねばならぬ
中には屈辱に思う者もいよう
だが、思い出して欲しい
諸君らの偉大な始祖、アレイスター・ハイネセンがどのようにして”
☆☆☆
そう、ここで注目して欲しいことがある。
原作での自由惑星同盟の英語表記は、”Free Planets Alliance”だ。
だが、この世界線では同じ自由でも単語が異なっている。
”
だが、この二つの単語は微妙にニュアンスが異なる。
Freeは「自然発生的な自由、生物としての自由」など”生まれながらの自由”という意味で、対しlibertyは「(圧政者などから)勝ち取った自由、人の手でなしえた自由」など”人の意思で後天的に得た自由”という意味がある。
蛇足ながらFreeには
フリーがリバティに化けた理由は、おそらく自由惑星同盟の成り立ちその物が異なるからだろう。
長征1万光年を成し遂げたアレイスター・ハイネセンは、ルドルフ・フォン・ゴールデンバウムと同年代の人間であった。
アレイスターは、ルドルフが政界入りし独裁政権を確立した頃から危惧を抱き始め、銀河連邦に明確な禁止事項がなかった不備を突き、銀河連邦首相と国家元首を兼任した頃から明確な危機感を抱き”大脱出”の準備を具体的に始めたといわれている。
ルドルフが終身執政官を自称するようになり、それを既存の政治に絶望しすぎていた連邦市民が何の疑問を持たずに受け入れた姿を横目に見ながら、アレイスターは独裁政権から独裁政治への移行を確信し、自らと価値観を共有……民主主義の死を予感した”少数派の市民”達を集め、船を用意していった。
宇宙暦310年のある日
衆愚政治の成れの果て……その先にある時代を逆行するような専制君主の台頭が、大多数の連邦市民の歓喜により迎えられようとした頃、連邦各惑星からまるで通常の貨物運輸航行で出港するように数え切れない数の恒星間航行輸送船が10億の民を乗せて旅立った。
当時の宇宙船舶技術から考えれば、別名”ロンゲスト・マーチ”とも揶揄される1万光年にも及ぶ逃避行、オリオン・アームからサジタリウス・アームへの長征はあまりに過酷だったといえる。
その長き旅路の中で、散り逝く命や芽生える命も数多にあった。
その旅路の中で星の大海へ還った命の一つがアレイスターだった。
彼はこんな遺言を残している。
『もし我々がいずこかの星に根付き、再び人らしい営みを始められたら……いずれ我々はルドルフの亡霊たちと戦うことになるだろう』
と……
『親愛なる同胞達よ、恐れてはならない。その時がくれば我々はルドルフの呪いを断ち切る”
そして奇しくもアレイスターが新天地を見ずに宇宙船で死去した日、生まれて10年となっていない銀河帝国では議会の永久解散が宣言され、共和制も民主主義も死滅したのだった……
アレイスターが後年、”預言者”説が実しやかに囁かれる出来事だった。
Libertyも
つまり自由惑星同盟とは、ハイネセンの遺言を嚆矢とし、いつの日か来るだろう「圧政者との戦い」に備える為に組織されたのだ。
そして同盟市民は、すべからくリベレーターとなったのだ。
同盟市民は、今も好んで自分達をリベレーターと呼称する。
アレイスター・ハイネセンの魂は、今もまだ忘れられてなどいなかった。
カリスマ・スキル発動中?
とりあえずなるべく初期に書いておきたかった「別の世界線での同盟の成り立ち」をアップできたので一安心。
英訳したときのたった1単語の違いが、どうやら国家の性質をかなり変えてるようですよ?