意味があるような無いような内容?
そして珍しい人のモノローグが……
第062話:”バーボンウイスキー&ビーフジャーキー+シガー”
その日、旗艦の巡航艦1隻と駆逐艦15隻からなる小規模水雷戦隊じみた護衛艦群と型は古いが10隻の軍正規輸送艦で編成される混成護衛船団。
ハイネセン近域で結成され、軍広報の公式発表によれば、『イゼルローン方面へ向かうが、最終的な目的地や目的は軍機につき公表は差し控える』とされた船団は、右派左派を問わずマスコミの注目の的だった。
何しろイゼルローン方面、銀河帝国との最前線には”エル・ファシルの三銃士”の内の二人、アーサー・リンチ中将とラインハルト・ミューゼル大尉が陣取っているのだ。
そこへ三銃士の最後の一人、ヤン・ウェンリーが大尉から中佐に二階級昇進して自ら艦隊を率いて合流するというのだから、マスコミが放っておく訳がない。
厳密には二階級昇進ではなく『今回の作戦限定の臨時任官』であり、艦隊ではなく船団なのだが……それを細かく注視するマスコミは圧倒的な少数派だ。
そんな些細な問題より注目されたのは、『船団が
最近、同盟で出回ってる噂は『可能な限り早く、ヴァンフリート星系第4惑星の衛星へ向かいイゼルローン方面監視用の大規模基地を設営する』というものだった。
ネットやら他のメディアやら、あるいは匿名の”関係者”や役職や階級を明らかにしない”軍高官”やらから流出した情報を纏めると、解釈による細かい差異こそあれ、そうなるように”
無論、軍広報はノーコメントを貫き通した。
軍によれば、ヤンが中佐になって船団を率いてイゼルローン方面で、”エル・ファシル特別防衛任務群”と合流するという情報開示だけで精一杯の譲歩との見解だ。
臨時編成の船団であることや、規模自体が小さいため大々的な結成式や軍楽隊付きの出港式などは行われなかったが、大手メディア本社が集中するハイネセン近海、バーラト星系での編成だった為に接近許可距離ギリギリまで望遠光学装置を満載した
一部メディア……というか公権力を叩ければ何でもいい左派マスゴミが、”エル・ファシルの三銃士”再集結という絶好のネタなのに軍機をかさに着て公式情報を出さない軍部や政府を批判してたりもしたが……
そんな中、実は船団総数16隻の倍はいそうなカメラシップに見送られながら、後年のマスコミ用語である”第一次ヤン艦隊”は出撃し、遥かイゼルローン方面を目指す。
もっとも、この”第一次ヤン艦隊”……無論、軍非公認の呼び名だが、このネーミングは後々発信元のマスコミや歴史学者の論争の火種に発展することになる。
要するにこの時ヤンが直接率いていたのは、どう贔屓目に見ても小戦隊であり、正確ではないということだ。
まあ、長い生涯のある期間、個性豊かな数々の艦隊を率いる羽目になったヤン・ウェンリーにとって、どの時期の艦隊が”第一次ヤン艦隊”に該当するかは、大いに物議を醸すところではある。
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さて、舞台は再びイゼルローン回廊方面の同盟領の端っこ……
エル・ファシル特別防衛任務群7000隻は、帝国艦隊誘引作戦の一環として一旦エル・ファシルを離れ、より外側にあるアスターテ星系に根城を移していた。
イゼルローン回廊方面の同盟領最外縁の有人惑星はエル・ファシルだが、アスターテは更にその外側にある星系だ。
同じく外側には帝国との初会戦があったダゴン星系があるが、あそこはダゴン会戦において帝国軍を率いた一人、インゴルシュタット中将が「まるで巨大な迷宮」と評したように非常に不安定な宙域であり、艦隊本体を置くには全く向いてなかった。
そして航路図を見る限り、帝国艦隊がエル・ファシルに最短距離で向かうにはアスターテ星域を通り抜けねばならず、リンチ中将が本拠地を置くのにも合理的な場所だった。
実は以前に帝国貴族艦隊が半ば奇襲という形でエル・ファシルに押し寄せられてしまったのは、このアスターテ星域の定期巡回の間隙を突かれたのも大きな要因だった。
もしあの時にアスターテ星域で貴族艦隊を発見できていれば、他星系からの救援艦隊が間に合いリンチやヤンやラインハルトがあれほど苦労することはなかったろう。
それに主要作戦宙域であるヴァンフリート星系は、アスターテから見れば隣りの星系と言っていい。
この度の作戦では勿論、今後の防衛を考えても理にかなっている。
いや、むしろそれが主目的で根拠地をエル・ファシルからアスターテに移したのだ。
☆☆☆
エル・ファシル特別防衛任務群旗艦、パトロクロス級(改アイアース級)旗艦型戦艦”ニルヴァーナ”
「クックックッ! ヤンの野郎、随分と面白ェこと考えるじゃねぇか?」
情報部主体で考えられた、俺たちが仕掛けるイゼルローンの艦隊誘引作戦の追加修正
そして、その原案を出したのが……
(ヤンの野郎、思ったよりもえげつないプラン出してきやがるなァ)
おう、悪ィ。まだ名乗ってなかったな?
アーサー・リンチだ。同盟軍で中将なんぞを仰せつかってる。ついでに言えば、エル・ファシル特別防衛任務群の総司令官、都合7000隻の
(もっとも、1000隻は実働状態にはねぇが)
まあ、面倒ならロック親父とでも覚えてくれ。
とりあえず俺は今、バーボンのロック片手に情報部から上がってきた作戦プランを確認してるんだが……
「ほい。承認と」
リスクもデメリットも皆無なプランなら、反対する理由は無ェわな。
(それに元計画より”
アイツに釣りの趣味があるってのは初耳だがな。
存外、ルアーやフライをやらせたら上手いのかもしれんな?
(今度、招待でもしてやるかねえ)
俺の住処、惑星”オールドタイマー”はアウトドアが全般的に盛んだ。緩いキャンプからガチの登山やハンティングまで相応に楽しめるんだぜ?
そういや、同盟最大手のアウトドアブランドの本社があったな。
(まあ、ヤンの場合は”リバー・ランズ・スルー・イット”ってより太公望って風情だが)
華麗に毛鉤を水面に舞わせるより、日がな一日ウキを眺めてる方が似合うかもな。
そんな時でもウキを見てるようで、別の物を見てるような気がするが。
「ほう。こいつは”当たり”だな」
喉をアルコールで湿らし、ツマミに齧ったビーフジャーキーのスパイス加減が俺好みだ。
持ち込んでた奴を切らしたのでこの間の休暇でエル・ファシルで試しに買ったもんだが、
(思ったよりイケるな。塩辛さがバーボンと合う)
スコッチもアイリッシュもウイスキーとしちゃあ悪くねぇが、やっぱり俺にはバーボンが一番舌に馴染む。
いや、確かにビールも好きだが、ありゃ水代わりだ。どんだけ飲んでも酔うに酔えん。
ヤンはブランデー、ラインハルトはワイン好きらしいが、どっちも俺には甘すぎる。
酒は苦いくらいで丁度いい。
「それにしても、よくもやるもんだ」
ヤンの思考は本質的に俺とは異なる。しかも思考の深度が深い……
この様子じゃあ、もう必要な根回しは済んでいるのだろう。
(アスターテに拠点を移したのも計算済みってわけか)
まあ、積み荷が積み荷だからな。
確かに輸送艦に積み込んだ中身から考えれば、例えそれがバレてもお題目の『ヴァンフリートへの基地設営』って名分に説得力が強くなるだけだわな。
俺は葉巻にマッチで火をつける。
アルコールと煙は妙に相性がいい。
「いや、むしろそれも意図的に漏らすか?」
(ミューゼルもだが)
「方向性は違えど、ヤンも”埒外の大器”って奴なのかもな」
読んでいただきありがとうございました。
今回は、リンチ中将のモノローグという銀英伝二次でも珍しい部類のシーンじゃないかなぁ~と個人的に思っています(^^
さて、イメージ的に”エル・ファシルの三銃士”がよく愛飲してる酒のイメージは、
リンチ→ワイルド・ターキー8年物(101プルーフ)
ヤン→カミュVSOPエレガンス
ラインハルト→シャルツホーフ・リースリング・クーベーアー
って感じです。実は21世紀の日本で一番高い酒を飲んでるのは、ラインハルトだったりして(笑
リンチは気分により”ベイカーズ”とかも飲んでそう。
ヤンは同じカミュでボルドリーVSOPを時たま飲む感じで。XOは高いので滅多に手を出さないような?
一番、ラインハルトが酒を変えない気がします。というかこだわりがあんまなさそう(苦笑