金髪さんのいる同盟軍   作:ドロップ&キック

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ラインハルト様、割と古典(?)が好きみたいですよ?




第063話:”ピンポイント・フォーカスショット 防護フィールドと防御スクリーンの破り方”

 

 

 

HA-HA-HA オールマイトだ。

嘘だ。

ラインハルト・ミューゼルだ。

ちなみに教師陣で一番好ましいのは、某ドライアイだな。あの仄暗さがいい。

 

「ヒロアカか……」

 

「”僕のヒーローアカデミア”のこと……だっけ? ラインハルト君、古典戯画とか読むんだ?」

 

「義理の兄(予定)の影響でそこそこな。逆にア……アオバ大尉こそよく知ってたな?」

 

古典戯画の中じゃ”鬼滅の刃”などと並んで「跳躍系」とジャンル分けされるメジャーな代物だが、かと言って万人が読むって程じゃないはずだが。

 

「エッヘン! こう見えても士官学校入る前は一応、文学少女だったのですよ♪」

 

まあ、戯画も広義な意味では古典文学……なのか? 純文学ではないだろうが。

それはともかく、

 

「4番艦と9番艦の動きが悪いな……やはり促成程度の訓練で、デクや炭治郎(ヒーロー)のような活躍できんか」

 

不満という訳ではないが、やはり現実を突きつけられるのも存外にキツいものだ。

艦長席に座る俺は、コーヒーの苦さに現実の苦みを重ね合わせる。

 

「いや、今の練度から考えたら十分な動きだと思うよ? そもそも無茶な要求だと思うんだよね……」

 

「無茶? 何がだ?」

 

「戦闘機動中の10隻の駆逐艦の砲撃を同調させて、たった1隻の目標に砲撃を集中させるってことが、だよ」

 

アヤは困ったような顔で、

 

「そんな機動戦術、私は聞いたことないんだけど?」

 

そりゃそうだろう。気づいた者もいるだろうが……

この戦術は、俺の”もう一つの記憶”、「ラインハルト・フォン・ローエングラムとしての記憶」の中にあるヤン先輩……いや、結局生涯で明確な勝利を得られなかった”宿敵ヤン・ウェンリーが最も得意としていた艦隊戦術”の「艦隊統制一点集中砲撃」。

それをベースに駆逐艦の小戦隊用に手を加えた、言うならばアレンジバージョン、

 

「何事も初めてはあるものさ。強いて名づけるなら”機動統制一点集中砲撃(ピンポイント・フォーカスショット)”ってところか?」

 

「あっ、なんかカメラの用語っぽい?」

 

言われてみればそうだな。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

唐突だが、装甲などの物理防御を除けば、同盟/帝国を問わず戦闘艦の防御法は、主に二つある。

一つは”防護フィールド”

別名”ディストーション・フィールド”とも呼ばれるそれは、循環する重力子を格子状に配列した不可視の力場帯を生成、それを多層的に織り重ねるように船の周囲に展開し防護フィールドとするものだ。

簡単に言えば、”重力子の繭状力場(グラビティ・コクーン)”で船体をすっぽり覆うと思えばいい。

わざわざ重力子(グラビトン)を格子状に配列した力場帯でコクーンを形成するのかといえば、例えば隙間なく船体を覆うフィールドでは、外部へ出さねばならない反動推進機関の噴射や各種兵装の発射がかなり面倒になってしまう。

こうイメージしてもらえばいいのだが……織り重なった力場帯と帯の隙間を広げ、その部分から噴射をフィールド外に出したり、ビームを発射したりするのだ。

 

使い勝手も燃費もいい装備だが、防護フィールドは本来、常時展開しスペースデブリなどの高速衝突体から船体を守ることや安全に超光速(ワープ)航法をすることを主目的として開発され民間船にも搭載される物であり、船全体を覆う性質もあり面積辺りのエネルギーゲイン=防御力は、出力にブーストをかける戦闘中でも後述する”防御スクリーン”ほどはなく、ぶっちゃけ同格艦からの主砲攻撃……戦艦なら敵戦艦からの主砲の直撃を防げる防御力はない。

元々はデブリを質量や速度に応じて弾いたり、受け止め押し返したりする装備なので当然と言えば当然だ。

特にその性質から大型艦の主砲として採用されることが多い集束中性子線、いわゆる中性子ビームには効果が薄いとされる。

 

また別の弱点として防護フィールド同士を接触させることで、互いの重力場干渉で中和させることができる。

通常、フィールド強度は機関出力に比例し、例えば戦艦クラスが戦闘ステータス出力で展開させた状態では、出力差のある戦闘艇の搭載火器では防護フィールドの上からでは、よほどの急所を狙わなければ有効打を与えるのは厳しい。

だからこそ上記の性質を利用し、戦闘艇が大型艦を狩る時の戦術として、極至近距離で敵艦と相対速度を合わせ、自機の防護フィールド(戦闘艇は動力炉の出力の関係上、防御スクリーンは装備できない)を両者の接触面に集中、干渉/中和させ攻撃するという物がある。

 

”もう一つの記憶”では、その戦術を駆使して”同盟戦闘艇(スパルタニアン)”より火力の劣る”帝国戦闘艇(ワルキューレ)”の搭載レーザーで同盟の戦艦を輪切りにした猛者もいたようだが、いずれにせよ中和→攻撃の間は動きが止まり自らも無防備になるハイリスク・ハイリターンの戦術だろう。

 

 

 

もう一つは前述した”防御スクリーン”だ。

別名”ディフレクター・シールド”とも呼ばれるそれは、簡潔に言えば戦闘時に艦の前方に展張する高強度光磁気防御壁だ。

敵の攻撃に晒されることが宿命の軍艦特有の防御兵器といえ、もうちょっと詳しく言うなら『指向性モノフェーズ光波』と集束された荷電粒子や中性子線を散乱させる効果のある『高強度密封磁場』を組合せ、その相互干渉で発生する電磁場も副次的に利用する物だ。

こいつは中々の優れ物で、おおよそ軍艦に搭載できるエネルギー兵器/実体弾全てに防御力を発揮し、しかも『こちらの攻撃を透過し、敵からの攻撃を遮断する』というマジックミラーみたいな事が可能なのだ。

だが、この装備にも欠点はある。

発生装置がそもそも大型な上、指向性を持った”複数エネルギーの多層防壁”であるため、基本的に艦首前方にしか展張できず、またエネルギー消費が大きい為に戦闘時にしか起動できないレベルだ。

 

そして、この上記の二つの弱点を抱えるものの”万能の防御壁”見える防御スクリーンではあるが、万能であっても決して無敵ではない。というより、防御スクリーンの破り方は既に確立されたものだ。

簡単に言えば、『オーバーフローさせる』ことだ。つまり、時間辺り/面積辺りの許容量以上のエネルギーを当てれば、防御力は徐々に減衰し貫通されやすくなる。

まあ、攻撃無効→攻撃80%減→攻撃半減みたいな感じだ。

 

ヤン先輩に言わせれば、「(ヤスリ)で装甲板を削って薄くしてゆくようなもんさ」とのことだ。

そういや、ヤン先輩……”もう一つの記憶”とは正反対に機械工学とかに詳しかったな?

なんか、軍隊に入らなければ船舶関係の技師になるつもりだったとかなんとかって聞いたことがある気がする。

考えてみれば、先輩って同盟に来るまでは船育ちって言うしな。

 

 

 

少々長くなってしまったが、これで大体理解できただろ?

”もう一つの記憶”の中のヤン・ウェンリーが用いた一点集中砲撃は、敵の”防御スクリーン”を真正面から射貫くには非常に有効なのだ。

先輩の言葉をもじるなら、火線を過剰なまでに集中させ「鑢で削るのではなく、ハンマーで一気に叩き壊す」ってことだ。

 

しかも、射程はかなり短いが”防護フィールド”の上からでもレールガンの一斉射が当たれば大型艦でも有効打を狙える「大物喰らい(ビッグイーター)狙い」帝国の駆逐艦と、大型で主砲の威力はともかく射程は巡航艦と大差ない同盟の駆逐艦は他の艦種以上に設計思想の違い(作者注:第049話参照)があり、搭載兵器の関係で同盟の方がずっと射程が長い。

 

なら、その利点を生かさない手はないだろ?

幸い、俺は”もう一つの記憶”のせいで、例え大艦隊から小戦隊まで帝国の旗艦の位置は大体わかる。

 

「アオバ大尉、戦術レベルで相手に楽に勝つ方法って思いつくか?」

 

「はぇ?」

 

俺の唐突な質問に目を白黒させるアヤだが、俺は笑みが浮かぶのを自覚しながら、

 

「まず、”頭を潰す”のさ」

 

 

 

 

 

俺としてはまだ練度的にはまだ不本意な物だったが、さっそく訓練が実戦に生かせる機会に恵まれたのは、幸運だったのだろう。

そう、艦隊総司令部から招集がかかったのはそれから数時間後の事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。

何度かネタが出てきてますが、自由惑星同盟では20~21世紀、この世界の歴史では13日戦争~90年戦争で壊滅的ダメージを受けたヲタ文化が、古典作品というジャンルでどの時代でも一定の人気があります(^^

裏設定で、アレイスター・ハイネセンをはじめとする「同盟を作った人々」の何人かの先祖が「失われる文化を後世に遺したい」と他のサブカル同様デジタル・アーカイブ化して子々孫々受け継いできたみたいです。

ただ、銀河連邦時代は娯楽が多かった為に開示されることはなく、同盟建国した時に娯楽の少なさに嘆いた当時の人々が開示、メジャーになったようですよ?


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