金髪さんのいる同盟軍   作:ドロップ&キック

69 / 105
前回、ギャグに走り過ぎたので今回はシリアス……否。シリアルに(^^
ついでにこのシリーズ初の4000字越えです。

あと、珍しい方がモノローグを。




第069話:”ラインハルトは天才、ワイドボーンは秀才。ではヤンは……?”

 

 

 

「バグダッシュ、悪いけどチュン・ウー・チェン中佐、グエン・バン・ヒュー中佐、ラルフ・カールセン中佐、ライオネル・モートン中佐以上四名の資料を、情報部の機密データベースからまとめておいてくれ。特に戦術面の癖や性格を重点的にだ」

 

「は、はあ?」

 

「大至急で頼むよ」

 

毎度パシらせて悪いねバグダッシュ。目が死んでたような気もするけど……貧乏クジは私も同じなんだ。付き合ってもらうよ?

それに私の権限じゃ、情報部のクローズド・データベースにはアクセスできないからね。

軍の一般考査的な人物評や、リンチ中将の主観的情報や評価は渡してもらったけど、情報部の分析屋集団がどう評価してるか目を通しておいて損はない。

全ての事象は、多角的に俯瞰して初めて”真実の姿”を現すと私は考えている。

例えば、正面から見れば確かに円かもしれないが、上下左右から見なければその物体がが球体なのか円柱なのか円錐なのか分からないのと一緒だ。

せっかく情報部の将校を借りれたんだ。精々有効活用させてもらうさ。

 

ん? ああ。自己紹介がまだだったね。

吾輩はヤン・ウェンリーである。名前はまだない。

えっ? 名乗ってるじゃないかって? ああっ、うっかりしていた。

 

じゃあ改めて。私はヤン・ウェンリー。持ちたくもない武器を押し付けられることで有名な天下御免のブラック公共機関、自由惑星同盟軍で大尉なんて事をやっている。

要するに、戦争を生業としてるだけの、ただの特別職国家公務員(こうぼく)だ。

 

そして現在、大尉のはずなのに臨時任官なんて反則人事で、中佐の役割を投げられた上に、私が率いてた船団を含め500隻弱の小艦隊を率いる羽目になってしまった。

というか、私自身囮艦隊全体の司令官をやるなんてことは、一言たりとも作戦案に書いてないんだが?

 

(だが、残念ながら軍隊とは縦社会の代表格)

 

例え民主主義国家の中にあっても、民主主義の理想と概念から一番遠い公共機関の一つが軍隊だ。

まあ、国防の要たる軍隊が敵国と交戦状態の真っただ中に団体交渉権を持ち出してストなんか起こされた日には、確かに国としてはたまったもんじゃないだろう。

ちなみに形式上、自由惑星同盟は銀河帝国と絶賛戦争中だ。ホント150年もダラダラと飽きもせずによくやるよ。

そんな訳で、まさに宮仕えの悲哀を感じてる真っただ中なんだけど、

 

(まあ、泣き言言ってる暇があったら、計画を見直す方が建設的なのは確かだ)

 

でも、こういう時こそアンネに、それが無理ならせめてアシュリーにそばにいてほしい。

ささくれだった精神に、

 

「潤いが欲しい」

 

私は切実に願ってしまう。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「ヤン、顔がこわばってるよ?」

 

私室で頭をひねらせてると、やってきたのはワイドボーンだった。

 

「らしくないのは自分でもわかってるさ」

 

端末から複数のホログラム・ディスプレイを展張させながら、私は手でもんで顔の筋肉を解きほぐす。

 

「それでも仕事は仕事。給料分くらいは働くさ」

 

労働の対価として俸給が出てる以上、資本主義の原則から外れる気はない。

それにいくら私でも、アンネのヒモ呼ばわりは心外だ。

そもそも、私は家事スキルが壊滅的……皆無というより絶無。どこぞの”腐り目の自己犠牲型少年(ひきがや・はちまん)”のように、専業主夫狙いも最初から選択肢として存在しない。

 

「それは重畳」

 

私物で持ち込んでいたスモークチーズを口の中に放り込み、ブランデーで香りを付けた紅茶を流し込む。

個人的に、ブランデーとスモチは合うと思っている。

 

「それで、率いる四人の中佐はどんな感じだい?」

 

「私が評するのもおかしなくらい、優秀な人材だよ。それぞれ癖はあるけど、”良将の卵”と言っていいんじゃないかな? もし生き残れるなら、10年後くらいに全員が中将になっててもおかしくないよ」

 

無事に経験を詰めれば、正規艦隊を率いられる逸材だと、世辞でも皮肉でもなく思う。

チュン・ウー中佐は攻守ともに優れたバランス型。グエン中佐は攻撃特化の猛将型。カールセン中佐もどちらかと言えば守りより攻めが得意な闘将型だろう。モートン中佐は熟練したバランス型の風格がある。

 

「それは君やラップも同じだけどね。アッテンボローも良将の資質はあるし。フォークは、うーん……このままパイロットを極めて、人間として円熟味が増した後に教官とかがいいかな?」

 

ワイドボーンも攻勢が得意だけど、守りも決して苦手じゃないバランス型。ラップは攻勢よりも守勢に強みを発揮するタイプの堅将型。アッテンボローは……曲者なんだよな。強いて言うならトリッキー型かな?

 

(吊り野伏の引き込み役とかやらせたら上手そうだ)

 

まあ、簡単には心折れない勇将であることは間違いないけど。

フォークはあんまり、提督や参謀に向いてない気がする。ラインハルトが珍しい事に歯に物が挟まったような迂遠な言い方で教えてくれたことがあったのだが、フォークは何やらストレス性の持病があるらしい。

精神面が過敏すぎるからと聞いたが、宇宙を飛ぶことにより、それが大幅に緩和される……というより、何らかのプラス効果がどうとか言ってたっけ。

 

「そういえばミューゼルはどうなんだい?」

 

「私程度じゃ推し量れないし、器の形すらわからないさ。我が義弟殿は」

 

それが私の偽らざる評価だ。

 

「どういう意味だい?」

 

「そのまんまの意味だよ。ラインハルトの将器は、おそらく私が会ったことのあるいかなる人間より、その戦う才に秀でている。それは圧巻……圧倒的と言っていいんじゃないかな? ラインハルトが同盟に居てくれて本当に良かったよ。もし帝国に生まれ、敵として立ちはだかったら……」

 

あまり想像したくないけど、

 

「同等の戦力を率いてたとしたら、きっと私なんか鎧袖一触だろうね」

 

 

 

「……それ程かい?」

 

「それ程、だよ。ワイドボーン、君は確か士官学校で『10年に1人の秀才』って言われてたよね?」

 

「うん、まあ。ボク自身はそう思ってないけどね」

 

いや、その評価は間違ってない。主観だけど、それまでの歴代の首席卒業者と比べても、ワイドボーンは頭一つ抜き出てると思う。

 

「だが、ラインハルトはその上を()く。彼が並び称されるとすれば、存命の人物より歴史上の偉人……あるいは英雄豪傑の類だろうね」

 

そう、ラインハルトが首席卒業するまでは、もしかしたらワイドボーンは歴代最高の士官学校卒業者だったかもしれない。

だが、ラインハルトはそれまでの記録(レコード)を全て塗り替える力がある。

戦争の基準を彼が起点となって作り替えられそうな予感……

 

(そういえば、アシュリーがブロマイドのダウンロード販売数でブルース・アッシュビーを抜いたとか言ってたっけ……)

 

だけど私の直感だと、残ってる資料から考える限りラインハルトの方がアッシュビーより戦巧者だ。

 

「まごうことなき”戦争の天才”さ」

 

きっと、”アレクサンドロスIII世(アレキサンダー大王)”の如く、ね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 

 

 

「と申しておりますが。”我が憧れの君”は」

 

「我が敬愛すべき義兄(あに)上は、一体何を言ってるんだ?」

 

というかワイドボーン先輩も何しに来たんだ?

まあ、士官学校でVRシミュレーションで無敗だったワイドボーン先輩がヤン先輩に負けて以来、「ヤン・ウェンリーのファン壱号」を自認してるのは仲間内では有名な話だけど。

 

ああっ、ラインハルト・□□□□□□□□□□だ。空白になってる苗字部分はランダムに切り替わる。無論嘘だ。

取り敢えず現在、”イナヅマ”の艦長室に居る。

というかさっきまでブリッジ・インしてたが、ワイドボーン先輩が来たんで立ち話もなんだし、私室へご招待と相成った訳だが……

 

「ありえん……ありえないですよ。俺がヤン先輩を鎧袖一触? 冗談じゃない。どこかの正規空母娘(加賀さん)じゃないけど、同等の戦力なら鎧袖一触にされるのは俺の方でしょうね」

 

もし、その評価が本当だったら、俺がフォン・ローエングラム姓だった頃にせめて一度くらいは勝ったことだろう。

”もう一つの記憶”が果たして並行世界の俺なのか前世の俺なのかは知らんが、少なくともラインハルト・フォン・ローエングラムだった頃の俺は、圧倒的に劣勢だった時のヤン・ウェンリーにすら土を付けたことは一度もないぞ?

 

「ミューゼルには悪いけど、ボクも同意見だ。ミューゼルに……って言うよりヤンが同等の戦力を持ちながら、誰かに負けるというのはちょっと想像できないな」

 

認識が同じなようで何よりだ。

 

「天才って言うなら、むしろヤン先輩の方なんじゃ?」

 

 

 

「天才ってのとちょっと違う気がするよ」

 

ワイドボーン先輩は少し難しい顔をして、

 

「ボクが思うにヤンの強さは”異質”だ。ミューゼルは確かに強いよ? だけどそれは王道の強さであり、正道の強さ……正面から敵をねじ伏せ、叩き潰す強さだね」

 

そう評されるのは悪い気分じゃないな。

 

「じゃあ、ワイドボーン先輩は何が”異質”だと?」

 

「そうだね……」

 

先輩は腕を組み、

 

「正道を十全に知りながら、()()()()()()()()()使()()ってところかな? ボクじゃあ上手くカテゴライズってぐらいに」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「ふぅ……」

 

「お疲れ様、ラインハルト君」

 

先輩が帰った頃を見計らって、アヤがコーヒーカップを下げに来る。

同時に替えのコーヒーを持ってくるあたり結構気が利く。

 

「ワイドボーン大尉、なんだって?」

 

「一言で言えば、作戦の確認だ」

 

少し言っておくと、俺の率いる駆逐艦小戦隊に限らず、各中佐の麾下戦隊から10隻ずつ、合計40隻がヤン先輩の輸送船団本隊の直掩に回される事になった。

指揮系統で言うと、チュン・ウー中佐からヤン先輩直轄に配置換えになったということだ。

 

(まあ、隙をついて小水雷戦隊が奇襲で切り込んでくる可能性は十分あるからな)

 

ワイドボーン先輩風に言うなら、『大きな魚は網で捕らえられるが、小さな魚は網目を抜けてくることがある』からな。

なら、こちらも小回りの利く部隊で対応するのは当然だろう。

 

「……大変そう?」

 

「それなりにな」

 

だが、

 

「まあ、ヤン先輩の指揮ならそうそう負けることはないだろう」

 

……アヤ、何故そこで生暖かい笑みを俺に向ける?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました。

そういえば、このエピソードで第069話、「69」……なんか妙に胸躍る言葉だ(笑

今回は珍しく(というか初めて?)、ヤンがメイン・モノローグ担当です。
基本、

ラインハルト→一人称視点
ヤン→三人称視点

って書き方だったんですが、なんか”猫と借金の文豪(なつめ・そうせき)”も読んでるらしいヤンが、割と愉快な思考してるので、つい我慢できなくなりました(^^
バグダッシュ、実はは半ば確信犯的にパシらされてた罠w


そして最近、オチ担当が板についてきたアオバ・アヤ大尉。
というか、もしかして……外堀埋めにかかってる?









▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。