ヴァンフリート星系外縁部、第8惑星(ヴァンフリート星系最外惑星)公転軌道付近
「いよいよ、会敵だねぇ」
積荷の9割をアスターテで降ろし身軽になった輸送艦10隻を含め総勢500隻弱、小艦隊規模になってしまった”YS11特務護衛船団”と、その中心位置からやや後方に陣取った旗艦”バーミンガム”。
この極めて標準的な巡航艦のブリッジで、索敵部隊からの敵艦隊発見の報告を受けたヤン・ウェンリーは大した感慨もなく……というより、あまりにも読み通りの位置に読み通り数の敵がいたものだから、逆に拍子抜けしたような顔をしていた。
「あー、やっぱり抜け駆けしていたか」
艦隊の索敵圏内にいる艦隊は、自分たちと同じく500隻ほど。つまり、帝国のイゼルローン駐留艦隊の最小行動範囲だった。
さて、そもそもヤンの”読み”とはどういうものだったのか紹介しておきたい。
『最大出撃数は、多くても標準保有艦数の2割……3000隻程度だよ。それ以上の投入は、本国からの増援が到着する間、哨戒網に重大な影響がでる。例えば、今は1ルーチン3個小艦隊1500隻、計10ルーチン交代制で動いてるけど、仮に3000隻減れば1500隻体制を維持するなら8ルーチンで動かなければならなくなるし、10ルーチンを維持しようと思えば1ルーチン辺りは1200隻になる。どっちにしても現場の負担は増すからね。それ以上の損害は、現哨戒体制の直接的な瓦解に繋がりかねないよ……あくまで私見だけど、イゼルローン要塞って強力な防御陣地があっても、帝国貴族の我儘と戦力維持を天秤にかけて許容できる損害はこのくらいじゃないかな?』
『だから我々は、当面3000隻の敵艦の殲滅を想定すればいいんだけど……でも、3000隻を一度に相手することは考えなくていい。出てくるのは、ほぼほぼ間違いなく悪い意味で功名餓鬼な貴族たちだろう。そうなるようにお膳立てもしたしね。そして今も自分達が”喰いでのある獲物”のように振舞っている。だからこそ、彼等は連携がとれないのさ。何故かって?』
『そりゃあ、彼らがこの船団を壊滅、あるいは全滅
『だけど、彼らも”500隻を最小行動単位とする”って規範からは外れないだろうね。軽挙に走る貴族っていうのは統計学的な行動パターンから考えて、勝算のない投機的な行動をする比率が平民の職業軍人より大きいから思慮深くはないけど、反面臆病ではある。頭数が多すぎて旨味が減るのも困るけど、ある程度群れて行動するのは彼等の志向にも合ってるのさ』
このような思考から現在の行動予測をしたわけだが……
☆☆☆
『ヤン船団長、彼我の艦数はほぼ同等。それでも敵は戦いを挑んでくるかい?』
そう通信越しに確認してきたのは、戦艦”ガングート”に陣取るチュン・ウー・チェン中佐だった。
「きますよ。十中八九。帝国貴族たちの大半は同数で平民と戦えば、彼我の能力差関係なく必ず自分たちが勝利すると無条件で思い込んでますから」
『度し難いな』
そう返してきたのはラルフ・カールセン中佐だ。
彼が渋面を作るのは、500隻という敵数の多さではない。その艦隊運動がまるでなってない……いや、むしろ艦隊運動になってないからだ。
なんと言うか……500隻の小艦隊というよりも、多くても数十隻規模の集団がバラバラに前進してきてる印象なのだ。
そんな状況で、本当に戦う気なのか?とカールセンは問いたい気分だった。
『まあ、与し易い相手というのはありがたい……そう思うことにしておくか』
とはライオネル・モートン中佐の弁。
敵は哨戒も
主導権は、自分たちにある。
『んで、ヤン。どうやって蹴散らすつもりだ?』
そう犬歯を剥き出しにして獰猛に笑うのは、グエン・バン・ヒュー中佐だった。
どういう心理的動きがあったか知らないが、グエンはヤンを気に入ったらしく、既に階級抜きの気安い呼び方になっていた。
無論、それを気にするような繊細さをヤンは持ち合わせていない。
「全体的に見てバラバラですが、我々から見て右側の集団が、密度が薄い上に誤差の範囲ですが動きも悪そうだ。という訳で狙うのはまずその集団で」
流石のヤンも、敵の無様な行軍を見て、艦隊とか陣形という言葉を使えなくなってしまったようだ。
『ヤン船団長、こちらの戦術は?』
チュン・ウーの問いにヤンは少し考え、脳内でシミュレートし、
「”
”
第009話で、リンチが貴族艦隊に使った”
大きな違いは旗艦の位置取りで、原則パンツァー・カイルは紡錘の直径の最も太い部分、つまり文字通りの艦隊のど真ん中に位置し、ドリル・ブレイクは円錐の底面よりやや内側に陣取る。
また、同じ突破陣形ではあるがパンツァー・カイルは突破時の防御に優れ、ドリル・ブレイクは前方投射火力が集中できるため攻撃力に優れるとされていた。
ドイツ語と英語の揺れがあるのは、同盟標準語が元々かつて地球で使われていた言語のミックスであるというのもあるが、由来がパンツァー・カイルが第二次大戦のドイツ機甲戦陣形由来なのに対し、ドリル・ブレイクはとあるロボットアニメの必殺技からきているからだ。どうやらこの陣形の考案者が、某ドリルロボットアニメの大ファンだったらしい。
誤解のないように言っておくが、別に艦隊が螺旋しながら前進するわけではない。
蛇足ながら……同盟では、「異星人=人類外高度知的生命体が出てくるSFっぽい作品」が時代を問わずに人気がある。
人類が宇宙を生活の場にしてから1000年近く経つが、未だに人類以外の文明を持つ高度知的生命体は発見されていない。
そして現在、「異星人が攻めてくる」というシチュエーションは、同じ地球発祥の人類が相手だ。
はっきり言って、”宇宙のロマン”とやらのかけらもない。
どうやら現実が世知辛い反動で、地球だけが人類の生活の場だった時代に想像の翼を羽ばたかせ描かれた作品が人気を博してるようだ。
『ククク! 中々ゴキゲンな作戦じゃねぇか? ヤン、ドリルの切っ先は俺にまかせろよ。とびっきりの”グエン・ギガドリル・ブレイクゥッ!!”を見せてやんぜ!』
上機嫌に笑うグエンにヤンは苦笑で返し、
「あんまり張り切らないでくださいね? これはあくまで初戦ですから」
『あいよ』
その後、細かいう直前ミーティングを終え、
「敵艦隊が有効圏内に入り次第、
いよいよ二つの艦隊は激突する……!!
読んでいただきありがとうございました。
グエンさんが原作よりずっと若いせいか、元気すぎる(笑
ドリル・ブレイクの元ネタは、間違いなく某天元突破ドリルアニメです(^^
グエンさん、間違いなく好きだろうな~と。
ヤン、まともに司令官をやりみたいですが、別に螺旋力に目覚めてる訳ではありませんw