あとちょっと、種明かしなどを。
「馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿なァーーーッ!!? あの艦隊は何処から来たっ!? 地獄の底から湧いて出たとでもいうのかっ!!?」
リンチ率いる2000隻の選抜艦隊を見て激しく狼狽する銀河帝国の貴族将校、グスタフ・フォン・クーゲル大佐。
いや、同じく500隻ずつを率いてるハインツ・フォン・ボルツマン大佐、ハインリッヒ・フォン・メーア大佐もおそらく大同小異の反応ではないだろうか?
「ふざけるな……ふざけるなよっ!」
クーゲルは怒りのままアドミラル・シートのひじ掛けをドンと力任せに殴りつけ、
「変態同盟共めっ!!」
公的には「変態叛徒共」と言うべきなのだろうが……誤解のように言っておくが、「変態同盟」というのは帝国人が同盟人を貶める時にそこそこ使う常套句であり、何も特定の趣味や性的な志向を指してる訳ではない。訳ではないのだが……
バーボンとエレキベース&ギターをこよなく愛するロック親父に、
ちなみにYS11特務護衛船団の首脳部も負けず劣らず筋金入りで、先のブランデー漬けを筆頭に、副司令は隠れM疑惑があり、首席参謀は同棲してる恋人
ウルトラエースの卵たるパイロットは、何やら
あれ? おかしいな……フィッシャー少佐はともかく、アッテンボローとバグダッシュがまともに見えるぞ?
「それにこの耳障りな電気ノイズはなんだっ!? 頭が割れそうではないかっ!!」
どうやらクーゲル大佐殿は、ギブソン・レスポールとDimazioのスーパーディストーション・ピックアップを組み合わせたサウンドはお気に召さなかったらしい。
おそらくフェンダーのギターか、あるいはセイモア・ダンカンのピックアップなら気に入ったに違いない。無論、冗談だが。
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「タネを明かせば手品というのもおこがましいくらい、どうということはない策なんだよね」
YS11特務護衛船団旗艦、巡航艦”バーミンガム”でヤン・ウェンリーは紙コップ入りのブランデーの紅茶割を片手に苦笑する。
第081話で、『ワープアウト直後の艦隊は、満足に戦えない』旨を記した。
機関冷却時間が必要で、可能ならメンテもした方がいい。それに搭載機器や乗組員の消耗だって激しい。
しかし、である。
これらの補正、あるいは戦闘行動可能状態への正常化は、『通常空間を航行しながらでもできる』のだ。
そう、何のことはない。
ワープアウトしたリンチ艦隊はそのままヴァンフリート星系第4惑星へと向かいながら戦闘状態を回復。準備万端のリンチ艦隊へ敵を誘導せしめたのが、まさにヤン率いるYS11特務護衛船団だった
貴族艦隊からはただ真っ直ぐ後ろに逃げ、追いかけるのをやめようとすれば迂回しようとするという行動をしていただけのように見えただろうが、それは事実と少々異なる。
ヤンは、確かにリンチ艦隊との予定合流地点へ最短距離で向かったが、それは指向性/圧縮極短時間通信を用いたサイレント・データリンクで互いの位置を確認し、敵艦隊の情報を送り、細かい時間調整をしていた。
それだけではない。
ヤンは細心の注意を払い、敵の索敵隊と「あえて接触し続け、常に自分の艦隊位置を敵に教え続けた」のだ。
その為、第080話のラストにヤン本人が言っていた通り、敵の送り狼をあえて気づかぬふりをして迎え入れ、また敵が自分達の追尾をあきらめようとしたら、「敵の索敵隊の目に映るように、迂回しようとした」のだ。
無論、このような真似をしたのは『
端的に言えば、ヤン艦隊は計画通り『貴族艦隊を誘引する
だからこそ、こうして1500隻の貴族艦隊はまともな陣形維持もできないまま鼻っ面を叩かれた犬のように宇宙を引きずり回され、まんまとリンチ艦隊の前へと放り出されたのだ。
だが、ヤンからのデータを受信していたのは、あるいはヤンが存在を隠していたのはリンチ艦隊だけではなかった。
そう、ヤンは確かに『先生方』と言っていたのだから!
☆☆☆
『Ho-Ho-Ho。どうやら”
「ええ。ばっちりなタイミングですよ。”ビュコック”閣下」
ヤンがにこやかに答えたのは、1000隻を率いる好々爺然とした風格を備えた天下の老将、二等兵から一歩一歩出世の階段を登り、閣下や提督と呼ばれるまで至った『呼吸する戦争博物館』。
自由惑星同盟軍にその人ありと
「わざわざお越しくださり、ありがとうございます」
『若い者からのせっかくの招待状じゃ。無碍にはせんよ』
「なによりです」
そんなヤンが丁寧な応対をしてると……
『おう、爺さん来たか』
通信に割り込んできたのはノリノリで全力全開長距離砲戦の指揮を執っていたリンチで、
『来てやったぞい。悪ガキ』
どうやら、ビュコックとリンチは知らない仲ではないらしい。まあ、ビュコックの軍歴を考えれば別に不思議なことではないが。
『それにしても、またデケェ釣り船できたもんだな』
ビュコックの乗艦、アキレウス級旗艦型戦艦”リオ・グランデ”は、全長1230mと同級最大の長さを誇る船だ。
全長は標準仕様と同じだが縦方向にも横方向にも幅がある、同じアキレウス級の中で最もボリューミーなリンチの乗艦”ニルヴァーナ”とは、ある意味好対照だ。
『お前さんこそ、随分と太っちょな船だのう』
『ファットな感じがいいだろう? そのうち、カラーも変えてやんぜ。サンバーストとかにな』
蛇足ながら、サンバーストとはリンチお気に入りのコバーン・ジャガーのカラーだ。
『相変わらずよくわからん趣味じゃて』
二人の軽口の応酬に、ヤンは困ったように髪を掻く。
『まあ、いいさ。精々、張り切り過ぎて”年寄りの冷や水”なんて呼ばれないように気ぃつけな』
『
貴族艦隊1500隻に対し、正面から殴りつけるリンチ艦隊2000隻に、今まさに横っ面を張り倒しにかかろうとするビュコック艦隊1000隻の合計3000隻……倍の兵力差に加え、指揮官の質も艦隊の練度も違う。
もはや戦いの趨勢は決まり、貴族艦隊の命運は決したように思われた。
だが……戦いとは水物で、勝利の女神は常に気まぐれオレンジロードだ。
貴族艦隊にとってリンチやビュコックの艦隊が予想外だったように、ヤンにとっても予想外の戦力が、ヴァンフリート星系第4惑星に近づきつつあったのだった……
読んでいただきありがとうございました。
ビュコック爺さん、ついに合流♪
貴族艦隊、フルボッコ確定なのですが……まあ、このまま素直にいくわけもなくって奴です(^^
いよいよ、ヴァンフリート星系を巡る戦いも佳境、帝国の伊達男どもは果たしてどんな役割を担うのか?
銀河の歴史が、また1ページ……変な方向にw