金髪さんのいる同盟軍   作:ドロップ&キック

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今回は、GW最終日記念(?)ということで、久しぶりに一日二話投稿&このシリーズの文字数バッケンレコード(一番短い話の2倍)です(^^

これまで、伏線で引っ張って来た「とある事件」の真相と、あと『()()()()()()』が判明します。

そして、原作で暗躍を極めた”あの組織”の影が……

GW最終日、楽しんでもらえたら嬉しいです。






第095話:”ケース・ウルヴァシー Who Killed Job Trunicht ?"

 

 

 

さて、今回は一風変わった視点で物語を見てみよう。

 

それは、ヤンが帰宅したアシュリーの私室……

 

ぱぱぁ、もっとあしゅりーのここなめてぇ

 

”くちゅ……くちゅ……”

 

ヤンとの逢瀬の余韻を味わうように秘所に指を這わせていたいた時のこと……

 

”PiPiPi PiPiPi”

 

「あんっ! なんなのよ……あとちょっとだったのにぃ」

 

だが、ホログラム・フォンの着信を見ると……

 

「んげっ」

 

その名前を見ては出ないわけにはいかなかった。

彼女は、自分の画像が映らない”SOUND ONLY”で受ける。

その電話の相手とは……

 

「Hello. ”マルコム”、こんな時間に何か用?」

 

『なに。我が幼馴染殿が、喪女もしくは処女卒業を祝おうと思ってね』

 

そう、()()”マルコム・ワイドボーン”大尉だったのだ。

 

「処女は否定しないけど、誰が喪女ですって?」

 

『軽い冗談じゃないか。そう目くじら立てなくても』

 

「確か画面は”SOUND ONLY”って表示のはずだけど? それにしても、耳が早いわね?」

 

『”始祖たる家々(エスタブリッシーズ)”の横のつながりは伊達じゃないってね』

 

そう。ワイドボーンの実家も、また”始祖たる家々(エスタブリッシーズ)”の一つ、同盟における”医療用ナノマシーン(メディカル・ナノ・インプラント)”の総元締め、”ワイドボーン・メディカル・カンパニー(WMC)”を所有する一族だ。

 

マルコム・ワイドボーンは宗家の八男(末っ子)で、『八男だから宗家を継ぐことはないでしょう』と、どこぞのラノベのタイトルみたいな事を言いながら、同盟軍に入隊した一族の変わり種だった。

 

「そういうのは、お父様の時に発揮して欲しかったものね」

 

『それは……まあ、そうだろうね』

 

「ワタシ達が”地球教(クソ野郎)”共に対して、あまり無警戒だったのも事実だもの。その危険性に気付き、排斥しようと動いたのは、お父様だけだった……今はそれなりの対応はしてるのよね?」

 

『そりゃあね。だが、連中の根は思ったよりも深いし広い。根切するにしても一苦労だよ。まったく、いつの間にどんだけ侵食してるんだか……』

 

「いっそ広範囲に除草剤でも散布したくなるわね」

 

『ボクもその意見に賛成だけど、同盟は信教の自由は認めてるから、現状では限度はあるよ。地球教ってだけじゃ除草剤散布(せんめつさくせん)はできない』

 

「……気に入らないけど、仕方ないわね。お父様の件も、見事に証拠隠滅されてたしね」

 

 

 

今から数年前……先代のトリューニヒト家当主、ヨブ・トリューニヒト氏が亡くなった。

死因は『事故死』

より正確に言うなら、『公用車で移動中の事故死』だ。

 

普通なら、()()()()()

運転手付きの、幾つもの安全装置や緊急避難装置が付いた公用車が、どうやって『崖下に転落するような死亡事故』を起こせるというのだろうか?

 

詳細を語れば、その事故を起こした車は、とある惑星……比較的近年にテラフォーミングを終え、入植が始まった最も新しい有人星系の一つ、ガンダルヴァ星域の惑星”ウルヴァシー”(原作ではテラフォーミング済みだが居住者はいなく、侵攻してきた帝国軍が駐留するまで無人だった)に遊説に出た際に、現地の自治政府から貸し出されたものだったが……実はその後、関係者と思われるものが8人もの人間が不審死や謎の失踪をしているのだ。

 

それは自動車の整備士(川に溺死体として浮いていた)から始まり、さして現場検証もしてないのに……大物政治家が死んだというのにおざなりの捜査で早々に事故死と判定した地元警察関係者(3人が失踪)、ヨブ・トリューニヒトに遊説依頼をした地元の政治家(服毒自殺と断定)まで含まれる。

 

驚くべきことに、この事件はすべてハイネセンより法秩序委員会直轄で同盟領全域に捜査権限がある各自治政府警察の上位権限がある”同盟捜査局(Alliance Bureau of Investigation:通称ABI)”の捜査官が到着する前に起きたのだ。

 

無論、ウルヴァシーにもABIの事務局があったが、小規模なためマンパワーが十分でなくまた地元政府の『消極的捜査妨害』の痕跡もあり、後手に回ってしまったのだ。だからこそ、中央に応援を頼んだのだが……到着する前に証拠隠滅が図られたというわけだ。

 

 

 

トリューニヒト家やワイドボーン家、また名前だけ出てきたヒラガ家など通称始祖たる家々(エスタブリッシーズ)……簡単に言えば、アレイスター・ハイネセンと共に新天地を求めて旅だった『最初の10億人』の中でも、主導的な役割を果たした、言うならば『脱出船団の首脳陣であり幹部』であり、自由惑星同盟建国時の『主導的な役割を果たした、同盟のもっとも古い権力機構』であり、そして現在でも『同盟の各産業、各分野の重鎮』を担ってる家々の総称だ。

無論、今でも横の連携は健在であり、同盟を支える巨大権力機構としての力は衰えていない。

 

だが、同盟は大きくなった。単純に人口だけ見ても建国当時の24倍になり、領土も増えた。

どれほど注意を払っても当然のように目の届かない場所は出てくる。

それが最悪の形で出てきたのが、この”ケース・ウルヴァシー”だった。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

勿論、”エスタブリッシーズ”は一員が殺されて泣き寝入りするようなヤワな組織ではない。

同盟捜査局だけでなく、あらゆる手段を使って情報収集と真相究明をはかり……そして、突き止めたのだ。

そう、『ウルヴァシー全体が官民問わずフェザーン・マネーの重度汚染地帯』ということに。

 

いわゆる”商人組合(シャイロック)(第059話、第060話参照)”の企業から、トンネル会社やダミー会社、実体の見えないNPO法人に市民団体……左翼系の政治結社や実体のない宗教団体など、非常に巧妙に、かつ大規模に金権腐敗が深く静かに侵食していたのだ。

 

それを突き止めた”エスタブリッシーズ”の動きは早かった。まさに『報復するは我にあり』と言わんばかりに。

 

まず、自分達のコントロールできるマスコミで『ウルヴァシーの金権腐敗の実態! トリューニヒト議員は誰に殺されたのかっ!?』と大規模なネガティブキャンペーンを展開。

 

更に僅かでも違法性のある者は、地元警察ではなくABI捜査官が片っ端から逮捕した。

いや、正確に言えば、違法行為の嫌疑がかけられた司法/行政/立法の関係者から、片っ端から逮捕していったのだ。

 

確かに、同盟市民は『自分達に()()()()()()悪名』には寛容であり、時には興味本位に面白がるが、裏を返せば『自分達に()()()()()()()』にはひどく辛辣であり容赦ない。

一般的に言えば、違法性の高いもの……具体的には、

 

・売国行為全般→同盟が得るべき権益/利益を他国に渡し、国家とその市民に対してダメージを与える。

 

・公金横領→税金は、本来同盟市民に公共福祉などで還元されるべきものであり、それで私腹を肥やすなど言語道断。

 

・違法献金による便宜利き→正当に発生する経済活動(例:競争入札など)とその利益に対する阻害。

 

これが全てではないが、とにかく同盟市民は『違法行為において自分達に実害がでる』のを嫌う。「損して得取れ」というニュアンスの言葉がないわけではないが、それは「得をとれる」から許容できるのであり、上記のそれは「損しかしない=害しかない」ので嫌うのだ。

 

この辺の法解釈は、21世紀の日本とは比較ならないくらいシビアだ。

単純に刑事罰等が厳しいというのもあるが、上記の犯罪に限らず詐欺などもなのだが『明確な経済的な損失が出た犯罪の場合』は、必ず()()()()()()()()()()()()()()()()()損害賠償命令』が出るのだ。

 

これは、請求して行うものではなく、損害賠償責任その物が刑罰の一環として組み込まれている。勿論、罰金とは別枠だ。

自由惑星同盟では、『懲罰的損害賠償』という概念が存在しない。

だが、その罪が確定し損害が生じたと証明できたのなら賠償義務が同時に生じ、免責や減額はなく、問答無用で資産没収がなされる。場合によっては連座制も普通に適応されるのだ。

また、対象者が処刑されても自殺しても、関係なく資産没収はなされる。

 

加えて、同盟法で刑罰は『数罪倶発の場合、併合罪として刑を処する』とあり、平たく言えば『複数の罪を犯した人間は、その犯した罪一切合切を纏めた上で刑罰を決める』という方式になっている。

簡単すぎる例えだが、刑期10年の窃盗を三つ立証されれば、ストレートに懲役30年な上、服役中に別の罪状が証明/確定されれば普通に加算される。

また、損害賠償額が支払い不可能と判断されたり、刑期合計が同盟の平均寿命を上回った場合は即座に処刑で、腑分けされて内臓まで損害賠償に有効利用される。

更に犯罪の常習性があると判断された場合(出所しても同じ犯罪を繰り返すとか)も、まあ末路は似たようなものだ。『3ストライク・ノックアウト』とはよく言ったものである。

何やら徴兵逃れの時やエコニアの時に似たような話をした覚えがあるが……恐るべきは、軍法ではなく刑法の話でこれである。

 

 

 

150年物の常在戦時国家らしいと言えばらしい話だが、自由惑星同盟政府は『市民の命は大事でも、社会秩序を乱す犯罪者に可能な限り公金を出したくない。金には別の使い道がある』のであり、実は同盟市民も市民で『犯罪者は市民にあらず。市民不適格者に飯を食わすために税金を投入するなど以ての外』という考え方が本音である。

 

反動的左翼や無政府主義者、自称人権主義の弁護士や市民団体が、このような情勢を変えようと動くこともあるが、市民にしてみれば『じゃあ、出た損害はアンタ方が私財で支払ってくれるのか?』で終わりである。それができないなら口出しするなと。

無論、その手の集団は常套句のように『国が支払うべき』と異口同音に叫ぶが、同盟市民は国家予算が元をただせば自分たちの税金であることをよく知ってるし、その使い道もしっかり見ている。

相手が国でも、否、自分たちを代表する政治家だからこそ、無駄金も不利益も許さない。

そんな彼らがどう反論するかは、書くまでもないだろう。

 

良くも悪くも、市民も国家もマキャヴェリズム的なのが自由惑星同盟なのである。

戦争に特化した国家である自由惑星同盟にとって、命は軽くはないが、かといって必要以上に重くも扱わない。

それが同盟市民の民意であり、民主主義国家であるのなら、民意は最優先すべきものなのだろう。きっと。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

とにもかくにも、”ケース・ウルヴァシー”では、8人の不審死や失踪の後にも122人の逮捕者と15人の自殺者、有罪確定者99名を出して”表向きは”幕を閉じた。

膨大な損害賠償も発生し、元々父親の金庫番をしていたアシュリーは、損害賠償で現代日本円換算で31億円をウルヴァシーからもぎ取った。

先代トリューニヒトの命の値段として安いか高いかは判断が難しいが、とにかくそういうところで落ち着いた。

 

だが、結局”本丸”には届かなかった。

ヨブ・トリューニヒトがいち早く地球教の危険性に気付き、彼らの内偵……無害な宗教団体の仮面を剥ぎ取り、最終的に『国家転覆も視野に入れたテロ組織』として確定させようと動いた瞬間に消されたのだ。

 

そして、結局は『ヨブ・トリューニヒトが地球教に殺された』という確たる証拠も、あるいはそれ以前の『事故死ではなく殺人』だと事実を覆す証拠も発見できなかった。

 

地球教が主犯だというのは、あくまで事情を知る人間の憶測の領域を出ず、状況証拠としても不十分だろう。

流石に、それだけでは建国の理念である『信教の自由』を乗り越えて強制捜査という訳にはいかなかった。

 

「いつか化けの皮は剥がしてやるわ。だけど、残念ながら今はその時じゃない。ワタシはまだまだ弱いもの。政治家としても、お父様の足元にも及ばない」

 

『だけど、そのためのヤンだろ? 君が力を得るための触媒として最適な』

 

「……その言い方、やめてくれる?」

 

『どうして? 事実だろ?』

 

「貴方の人を試すような口調が気に入らないわ」

 

『御挨拶だね。幼馴染じゃないか?』

 

「ねえ、マルコム……”親しき仲にも礼儀あり”って言葉、知ってる?」

 

 

 

こうして今日も夜は更けてゆくのであった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました。

サブタイの英文の意味は、『誰がヨブ・トリューニヒトを殺したか?』、マザーグースや推理小説、あと懐かしの『パタリロ』で有名なフレーズのパロディですね(^^

アシュリーがオリなので当たり前ですが、これからも時には原作にはない繋がりや同盟の暗部
とかが出てきそうです。

まぁぁぁぁったく恋愛感情のないアシュリーとワイドボーンですが、利害は一致してるみたいですよ?

そして、GWで書き溜めてたストックもこれでおしまい。
正直、今夜のアップ分の前倒し投稿なので、ちょっと更新に間が空きそうですが、これからもよろしくお願いします。

もしよければ、お気に入り登録、評価などしてもらえると嬉しいです。
では、残り少なくなりましたが良いGWを(^^♪



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