金髪さんのいる同盟軍   作:ドロップ&キック

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今回は、またまたオリキャラの登場です(^^

登場が予告されていた人と、後は……とりあえず、同盟は金持ちですw





第096話:”Direct Experience Linked Feedback system”

 

 

 

その日、金髪ロングの碧眼という共通項があるが、体格的には正反対の二人の女性からの重めの愛を一身に受ける男、いや漢ヤン・ウェンリーは惑星ハイネセンにある自由惑星同盟軍大学の一角にある”技術開発研究学部・艦艇科”へと足を運んでいた。

正確には、新たな愛車となった派手なオレンジ色のコンバーチブル、ベントレーGTレプリカを走らせていた。

 

 

 

大学のキャンパスの中にある学科研究室と聞くと、日本人的にはあまり広い印象はないかもしれない(特に都市部の大学に通った経験がある人)が……だが、ここは正規軍人だけで1億人を抱える自由惑星同盟軍のれっきとした研究機関だ。

そのスケールは、まあよくSF映画に出てくるワードで言えば”エリア51”並と考えていい。

そもそも、キャンパスの敷地内に軍用シャトル……大気圏内外を行き来する”宇宙往復機(スペースプレーン)”の滑走路や格納庫、あるいは地上兵器の実弾試験場があり、別学科への建屋間移動は近くても自転車、普通は地上車やリニアトラム(リニアモーターカー方式の小型路面電車)、オートエレカー(目的地を指示するだけで全自動自走する電気自動車)などが主なキャンパス内の移動手段と言えば、その広さが想像できるだろうか?

 

実は艦艇科の最大の施設は、日本の大学とは比べ物にならないくらい巨大な軍大学の地上キャンパスにあるのではなく、その大気圏の外側にあるのだ。

 

原作と違い、現代日本円換算でGDP32京円の超巨大資本を誇る自由惑星同盟らしく、特に有人惑星のインフラ整備は非常に熱心に行っている。

その一つが、”軌道エレベーター”である。

 

自由惑星同盟は、『居住惑星の必須インフラ』の一つとして”軌道エレベーター”、それに付随する”地上ターミナル”と宇宙港機能を内包する”軌道ステーション”の整備を掲げている。

加えて、何らかの理由で軌道エレベーターが使用不能になった場合に備え、スペースプレーン用の基地や大気圏離発着可能な宇宙船用のドックや港の整備もそこに含まれる。

逆にこれらを整備しなければ居住惑星とは認められず、それでも無理に居住し続ければ不法占拠となり強制対処命令、それでも粘るなら行政代執行となる。

まあ普通はテラフォーミングだけでなく、インフラ整備が終わらないと理由がない限り民間人の居住許可は下りないので、基本的にはインフラに不具合が起きたのに、予算不足だのなんだのと理由をつけて修理を先延ばしにしようとする自治政府に対する予防線と言える。

 

基本的には回避不能の天変地異や自然災害(例えば大規模な地殻変動など)が起きた場合、速やかに市民の脱出が可能なようにと定められた法律なのだが、エル・ファシルの件があったよように今は帝国軍の急襲や奇襲があった場合、速やかに脱出できるようにという意図の方がメインになっている。

他にも外国が敵国しかない自由惑星同盟にとって豊かな生活は、活発な内需経済があればこそであり、繁盛な星間貿易はその生命線だ。

そして円滑な星間貿易には宇宙交易港の整備は不可欠……というのも大きな理由だろう。

 

 

 

まあ、そんな訳で自由惑星同盟に有人惑星には(すべか)らく軌道エレベーターが起立しているのだが、流石は首都惑星ハイネセン。

同盟で唯一、二桁億人が居住(ハイネセンの人口は約18億人。2位は9億人少し)してるだけのことはあり、最多の三本の軌道エレベーターが立ち並び、贅沢なことに一つは同盟軍専用の純軍事施設だ。

 

その先端にある軌道ステーションは、第1艦隊の母港であると同時に同盟最大の軍港でもある。

そして、そのステーションの中には艦艇科専用のドックがあり、様々な装備の実験を行うために、アキレウス級(正確にはパトロクロス級)旗艦型戦艦から駆逐艦/戦闘艇まで、艦艇科の名に恥じず一通りの並んでいた。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「あの、ヤン・ウェンリー少佐です。はじめまして。あっ、こちらがヨブ・トリューニヒト・セカンドからの紹介状です」

 

とアシュリーからの紹介状と付け届けのブランデー(ロボス中将宅訪問時と同じヘネシーXOの700mlボトル)を、初老の男に手渡した。

その男は紹介状を確認してから、

「おう。ジョージ・ゲンサイ・ヒラガ中将だ。話はアシュリーの嬢ちゃんから聞いてる」

 

かつてはそれなりに整った顔立ちで、美少年あるいは美青年と呼んでもそう非難を受けなかった容姿だったが、今は確かに整っているが、威圧感の方が先に出る……細身であるが故に、何か刀剣のような雰囲気の男だった。

かつては黒かった髪も今はすっかり、白くなってしまい……それが余計にヒラガの鋭さを際立たせてる気がした。

 

(抜身の刃みたいな人だな)

 

『ホウ。相棒、コイツが”お嬢ニヒト”が言ってた小僧か?』

 

突然、空間に三次元ディスプレイが展開され、何やらおかしなキャラクターアイコンが、『まるで人間のように』しゃべりだしたのだ。

アイコン的には、なんとなく”2Pカラーのモグワイ(ストライク・ザ・ブラッド版)”と言いたくなるが……人格(?)的には多分、別物だ。

 

「まさか……疑似人格型AI? これって合法でしたっけ?」

 

そう、自由惑星同盟において実は疑似人格AIは、『問答無用で非合法とは言わないが、無条件で開発する物品としては不適切』という”かなりグレーゾーンの()()()()なのだ。

 

実はかなり古い時代……それこそ、20世紀から基礎理論はあり、急速なコンピューター/ネットワーク技術の進歩で実用的な『人のような応対をするAI』が生まれたのが21世紀初頭。

囲碁やチェスや将棋などのボードゲームで、人間がコンピューターに勝てなくなった頃と大体一致だ。

それは西暦2038年に勃発した13日戦争やその後の90年戦争で一度開発が完全に頓挫し、その手の技術が再び脚光を浴びたのは銀河連邦が発足してからだ。

 

というのもどうもはっきりしないのだが……13日戦争の勃発の理由が、どうも疑似人格型AIの”誤動作”だった可能性があるのだ。

まさか当時の地球人は、リアルで『スカイネット』でも作ったのだろうか……?

 

 

 

そして、量子コンピューターが一般化し、量子脳と呼ばれる人間の脳を模した高性能コンピューターが一般化すると、その効率的な制御のために疑似人格型AIの復権は、ある種の必然だった。

当時、量子脳は学習型が当然で、膨大な判例……人間でいう成功体験と失敗体験を延々とシミュレートする事により、『どのような状況で何が最善か?』を自己生成できるのが最大の特徴だ。

つまり、最適化されたOSを自己生成しAIを形成すると考えてよく、それを疑似人格型とすることで一気に効率化できたのだ。

 

だが、銀河連邦は大きな技術的失敗をした。

学習型量子脳と自己生成型疑似人格の組み合わせは確かに時代の最先端を走るエポックメイキングなそれだったが、『学習型疑似人格AIを()()()()()()()()()()()()()()()()』のだった。

 

つまり、『倫理観や数値化できない情報を解析不能と切り捨て、常に最適解を追求する疑似人格』の誕生だ。

それが街に氾濫すれば、果たしてどうなるか……まあ、ハリウッドの機械が人間に叛逆する系SF映画と大差ない状況になったとだけ書いておこう。

まあ、これも当然で、疑似人格を持っていようが合理的に最適解を求め続ける機械と、そもそも存在自体が不合理であり、不合理なものに惹かれる人間とでは、適当なところで折り合いが付けられなければ、衝突するのはむしろ必然だろう。

 

詳しくは書かないが……合理的な判断で『社会の効率化のために人間を間引こう』としたケースが、過去に何回もあったらしい。

その後遺症みたいなもので、銀河帝国では疑似人格型AIの開発は全面禁止とされ、同盟でも基本的には禁忌(タブー)扱いの技術だった。

 

「まあ、コイツは特例的に認められてるのさ。ちょい訳アリでな」

 

『オイラの名前は”D.E.L.F”, 正式には”Direct Experience Linked Feedback system”さ。 気軽に”デルフ”って呼んでくれていいぜ♪』

 

実はこの”デルフ”、ロストテクノロジー的な地球単独(レジェンド)時代から多くのマスターに継承された技術遺産だったりするのだが……世の中には、ヤンが知らなくてもいいことは間違いなく存在する。

言えるのは、オカルト的なものではなく純粋な科学の産物という事だろうか?

 

D.E.L.F……”Direct Experience Linked Feedback system”を無理に日本語に訳せば、『経験を直接的に連結してフィードバックできるシステム』となる。

単純な客観情報を判例として蓄積し判断材料とする”学習”ではなく、()()を判断材料に加える”経験”である。

”デルフ”にはそれができる力があった。

 

果たしてそれをできる”存在”が、『ただの疑似人格』と呼べるかは謎であるが……

 

「あ、ああ」

 

かなり困惑気味のヤンだったが、

 

「デルフは口は悪いが設計サポートAIとしては極めて優秀だ。少佐がフルダイブVR-CADを使うなら、間違いなく助けになる」

 

『へへっ。相棒、そんなに褒められたら照れるじゃねぇか』

 

「別に褒めてない。事実だ」

 

 

 

こうしてヤンは、新たな『相棒(?)』と出会った訳だが……まあ、かなり変わり種なのは確かだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました。

ヒラガ中将と、彼の元ネタの一人、平賀才人の相棒と言えば?という訳で、”デルフ”の登場です(^^

まあ、アイコンはストブラのモグワイ(色違い)なんですがw

さて、何やらヤンが原作では有り得ないルートを歩み始めたみたいですよ?


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