金髪さんのいる同盟軍   作:ドロップ&キック

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今回は、ちょっとこの世界線の宇宙戦艦の話などを(^^

閑話休題的な話……というか、ヤンの意外な才能が発覚?





第098話:”プロジェクト・ラインバレル 熱核反応炉と中性子砲の逸話”

 

 

 

「結局、突き詰めてしまえば必要なのは長間合いの武器と直撃をある程度防げる防御力なんだよね。機動力は従来型の戦艦並みで十分。指揮能力は巡航艦程度で十分。むしろ搭載電子機器のデータリンクと遠距離射撃にリソースを割きたいとこだ。あと艦載戦闘艇は全部無人機……というか防空用の無人機動砲台として使いたいね。設計思想的に近接に潜り込まれると弱いはずだから」

 

『はーん……随分な極端な設定の船だな? 既存のコンポーネントを使う以上、革命的とは言わべぇけどよ』

 

「いや、ここまでやらないと現行の艦種に一つ加える意味はないよ。可能な限り自動化と省人数化はしたいとこだ。ダメコンは応急処理用ロボットの増強と効率化はいるだろうね」

 

『ざっと人員200名以下くらいにしたいってか?』

 

「まあ、そのくらいにできたら上出来だよ。というより、現在のコンピューターの性能を考えれば、同盟の船の定員数は多すぎるんだ。充足できてないのがほとんどとはいえね。我ながら性格の悪い台詞だとは思うけど、沈んだ時に死ぬ人間は少ないほうがいい」

 

一応、同盟の艦種それぞれには定員数が定められているが、完全に定員が充足されているのは全体の半数にも満たず、残りは定員割れという状況が続いている。

例えば、今やアスターテに本拠地を移したエル・ファシル特別防衛任務群が再編の折、1000隻くらい”()()()”が出てしまっているのも、実はそういう現状が響いていた。

 

『事実だわな。んじゃあ、ベースにするのはコイツでどうでい? まだ実艦のないペーパープランの船だけどな』

 

D.E.L.F(デルフ)”がクローズアップしたのは、浮かべていた”次世代発展型戦艦”の計画案の一つだった。

 

「”アバイ・ゲセル”型?」

 

『ああ。次世代戦艦のポイントは、火力/指揮能力の強化ってのが肝になってんだ。”ムフウエセ”型ってもっとハイエンドのプランもあるが、ヤン坊の要求にはちっとばかしオーバースペックだろうな。その口ぶりじゃあ、建艦コストも維持/運用コストも抑えたいんだろ?』

 

「まあね。数が用意できるのに越したことはないさ。それにしても……20㎝中性子ビーム砲を25㎝砲に換装するのはいいんだけど、動力炉が従来型のままじゃ流石に出力不足か……」

 

 

 

一概に中性子ビーム砲と言っても21世紀の艦砲と違い砲システム単体で完結してるのであり、そのシステムは動力炉と密接に関係している。

というのも、砲弾(あるいは砲弾の材料と言うべきか?)である中性子線は、通常空間のメイン動力炉である”熱核反応炉(核融合炉)”から発生するものだからだ。

21世紀で実用化に向けて開発されている永続的なD-T反応を狙ったトカマク型やヘリカル型、レーザー型と違い、この宇宙歴700年代での主流は”重力縮退型”と呼ばれる褐色矮星の核融合を模したより高度なもので、簡単に言えば重力子縮退力場で炉心温度を250万K以上まで加熱(この超高温生成が、核融合の中でも特に熱核反応と呼ばれる所以)し、重水素核融合(=”D-D反応”)を発生させるものである。

将来的には、炉心温度を1000万K以上まで引き上げ、純粋水素(軽水素)核融合を実現する”疑似太陽炉”を目指しているが、あと一歩というところだった。

 

そして、このD-D反応で発生する高速中性子を集束/加速して集束中性子線として発射するのが中性子ビーム砲だ。

そして、1門当たりの威力は集束器の大きさ……正確には、その面積と砲口初速(加速度×加速距離)に比例すると考えていい。

中性子の集束密度は同盟と帝国の間でもほぼ差がない。逆に言えば、現状における技術的上限に達してると言っていい。

なので、標準戦艦の20㎝中性子ビーム砲と旗艦型戦艦のそれとの威力差は、仮に砲口初速が同じなら下記のようになる。

 

・円の面積=半径×半径×π

・直径25cm集束器:直径20㎝集束器=1.25:1

・威力比→1.25×1.25:1=1.5625:1

 

つまり25㎝ビーム砲は、20㎝ビーム砲の約1.56倍の投射中性子線量=威力があることになる。

ただ、それは同時にそれに比例した中性子線量が必要という意味でもあった。

つまり、同じ砲門数を維持して20㎝から25㎝砲に換装するなら、従来の動力炉ではどうしても中性子量が不足してしまうのだ。

乗せる大砲の威力は上がっても、肝心の砲弾がすぐに底をつくのでは意味がない。

集中砲火での短時間の撃ち合いで話が済めば良いのだが、艦隊戦は時にはだらだらと長時間の持続砲戦になることも珍しくない。

そんな状況で、瞬発力はあっても持久力が劣る戦艦では、扱いや取り回しが難しくなるのは必然だった。

 

 

 

「ついでに言えば、これ旗艦型戦艦の指揮モジュールをそのまま使ってるから、そこはむしろオーバースペックだしなぁ……ん? デルフ、”ムフウエセ”の反応炉、あるいは機関ブロックってもう完成してるのかい?」

 

『ああ。そもそも、”ムフウエセ”の反応炉は、開発メーカーから提言されたものでな……』

 

デルフの言葉をまとめると、今の標準型戦艦の1番艦がロールアウトしたのが、今から約半世紀前だが、今まで細かいアップデートはあっても、基本性能はほぼ変わらなかったのだ。

だが、半世紀も経てば当然のように産業分野全体で技術革新は起こるし、反応炉に必要な様々な部品の改良も進む。時には技術的なブレイクスルーも起きるだろう。

そして、開発企業連合体から提言されたのが、ベンチャー開発(軍からのオーダーではなく自主開発)した、さほど大きさは変わらないのに倍近い出力(=中性子発生量)の新型熱核反応炉だったという訳だ。

 

ただ、誤解して欲しくないのは、同盟軍艦政本部が怠惰で50年も大して出力上昇をしてない機関を使い続けたのではないということだ。

将兵が命を預ける兵器は、性能より信頼性を優先することはままある。

そして、信頼性は実戦で使い不具合や欠点や弱点、あるいは過剰な部分や不要な部分を洗い出す……これを”戦場での磨き上げ(バトル・プルーフ)”というのだが、そこで得られたデータを生産現場にフィードバックし、改良する事により初めて得られるのだ。

カタログスペックがご立派でも、信頼性が低くて故障や不具合が多く実戦では使い物にならない……なんてことは、古今東西の兵器開発でよくあることなのだ。

であるならば、「特に性能不足を感じない状況」、つまり帝国の標準戦艦(どうぞく)と互角に撃ち合えるのなら、あえて冒険しないというのも納得できる選択肢だった。

 

とはいえ、今回提出された新型反応炉は、どうやら現行型反応炉をたたき台にして艦政本部のお眼鏡に叶う完成度があるらしく、とりあえず次世代型標準型戦艦のプランに組み込むことが了承されたようだ。

 

「”ムフウエセ”型の総合火力は、現行の約1.82倍か……」

 

一応、計算式的には、ムフウエセに搭載されるのは現在試作が完成している18㎝中性子ビーム砲で、1門あたりの威力と中性子線量は現行の20㎝砲に比較して0.81倍、ただし搭載砲数は2.25倍の18門なので、0.81×2.25=1.8225倍となる。

 

「デルフ、”アバイ・ゲセル”の機関ブロックを”ムフウエセ”の物に変更、指揮モジュールを現行戦艦レベルにダウングレード設定。いや、搭載電子/量子機器を現行型の処理能力を基準に軍で調達できる同等かつ最新のものに置換。主砲はそのままでいい。とりあえず、それで概算設計出してくれるかい?」

 

『いいぜ。それにしても面白ぇ船になりそうだな? さしずめ、”装甲砲艦”(アーマード・モニター)ってとこか?』

 

「悪くないセンスだ。イメージ的には”重甲冑をまとった騎馬長弓兵”……うん。使い出がありそうだ」

 

『開発計画名はどうすんだ? 提出するならいるだろ?』

 

「そうだな……」

 

ヤンは楽しそうな笑みを浮かべ、

 

戦列砲兵(ラインバレル)、”プロジェクト・ラインバレル”っていうのはどうだい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました。

今回も結構な難産でした(^^
というか、ちょっとGWで飛ばし過ぎたので、その反動ガガガ(汗

技術系の話だと、やっぱり下調べが大変っすね~。



ちょっと今日は忙しいので、返信が遅くなりそうですがご勘弁を(^^


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