「それにしても、お前は良く成長したな〜〜立派なお兄ちゃんになったな〜〜流夏〜〜」
「う〜〜!」
あれから数分後、お祭りの休憩所には更識夫婦と二人の子供達、彼等の身内でもある二人に五反田家、幼馴染みの箒さんに鈴ちゃんと彼女の愛息でもある狼君がいました。
彼等は休憩所で休んでいましたが千冬さんは頬を緩めながら膝の上に座っている流夏君を抱き締めていました。彼女は流夏君が大好きなのです。
初めての甥っ子かつ、楯無さんと良く似ているからです。勿論、流夏君も千冬さんが大好きな為、甘えているのです。そんな千冬さんに楯無さんは言いました。
「千冬姉、そろそろ流夏を此方に渡してくれないか?」
「嫌だ」
「ハハ……」
千冬さんの即答に楯無さんは苦笑いしかありませんでした。千冬さんの子煩悩、いえ、甥っ子煩悩? と言う様子にでした。周りは千冬さんの変わりように驚いていますが流夏君が大好きな為に、仕方ない事でした。
千冬さんは流夏君を抱き締めていますが刀奈さんは言いました。
「それにしても義姉さん、流夏が好きなのは解りますが春奈はどうですか?」
「うん? 春奈も良いぞ〜〜」
千冬さんは春奈ちゃんを視ようとしますが向かい側に居る為、顔を視れませんでした。でもでも、春奈ちゃんは。
「うにゅ〜〜」
あらあら、春奈ちゃんったらお母さんを視て破顔していました。ママ〜〜と甘えているみたいです。でもでも、刀奈さんは春奈ちゃんの様子に気付きますが微笑んでいました。
「フフッ」
刀奈さんは微笑みながら春奈ちゃんの両頬を優しく摘むように触れました。
「ウフフ〜〜!」
あらあら、春奈ちゃんったら破顔していますが遊ばれていると思っているみたいです。ママと遊んでいる〜〜と。刀奈さんは微笑んでいましたが簪さんも微笑んでいました。
虚さんも微笑んでいましたが彼女は自分の膝の上に座っている澪ちゃんを視ました。澪ちゃんは流夏君を視ていましたが何処か寂しそうでした。流夏〜〜と呼んでいるようにも感じられましたが流夏君には届いていないみたいです。
「澪? どうしたの?」
「うぁあ〜〜」
お母さんの呼ぶ声に反応したのか澪ちゃんはう〜〜と哀しそうに言っていますが虚さんは微笑んでいました。気付いたのです、澪ちゃんは流夏君が好きである事に。
それは前から気付いていましたが弾さんが何かを言い出しました。
「あっ、そうだ!」
その言葉に周りは見やりますが弾さんは言いました。
「あれまで、未だ時間があるから此処は別れないか!?」
「千冬姉、刀奈の所に行ってよ!? 千冬姉が居れば、何とかなるじゃんか!?」
「嫌だ! 流夏と離れたくない!」
「下らないよ!?」
「ではお前が行けば良いだろうが!?」
「嫌だよ!? 流夏に何か遭ったら困るじゃんか!?」
「大丈夫だ! 私が居るからな!」
「それでも心配なんだよ!?」
「ふ、二人とも、止めなよ?」
「そ、そうですよ千冬さん?」
数分後、楯無さんは自分の愛息である流夏君を抱っこしている千冬さんと口喧嘩していました。他にも箒さんと簪さんがいますが彼女等は二人のやり取りを視て困惑していましたが周りは気になっているだけでした。
事の発端は弾さんが二手に別れないかと言いだしたのです。あれまで時間がある為であり、他の出店を視る為でもでした。ですがそれはある事が原因で刀奈さんと春奈ちゃんは五反田家の三人、鈴ちゃんと狼君の方へと行く事になりました。因みに楯無さんは刀奈さんと離れ離れになった事に悔し涙かつ、元凶でもある弾さんに対し。
『弾、刀奈と春奈に何か遭ったら、覚えとけよ?』と脅し文句に近い事を言いましたが弾さんは何度も頷きながら納得しており、刀奈さんは頬を紅くしながら恥ずかしいと思い、春奈ちゃんはお母さんの様子に何も解りませんでした。
でもでも、話を戻しますが周りは姉弟の様子に驚きますが……。
「う〜〜……」
流夏君は二人の様子に怯えていました、そして……。
「……う、うぇぇん〜〜!」
あらあら!? 流夏君、何故か突然泣き出してしまいました! 喧嘩している事に気付いたのです。喧嘩は止めて〜〜と訴えているみたいです。
これには楯無さんや千冬さん達は驚きますが千冬さんは慌ててあやしました。
「どうしたんだ流夏? よしよし〜〜」
千冬さんは流夏君をあやし続けましたが効果無し。
「千冬姉、俺がやるよ!」
楯無さんが流夏君を千冬さんから取り上げました。
「良々、流夏、お父さんだぞ〜〜?」
楯無さんは流夏君をあやしますがこれも効果無しでした。流夏君は泣き続けていますが楯無さんと千冬さんは困惑していました。流夏君は泣き続けている為、効果無しでした。
簪さんは困惑していますが……そんな中。
「全く、一夏もだらしないな……?」
そんな中、箒さんが少し呆れながら楯無さんから流夏君を取り上げました。これには楯無さんも驚きますが箒さんは流夏君を視ながら微笑んでいました。
「大丈夫、大丈夫だ?」
「ウグッ……エグッ……」
箒さんは微笑みながら流夏君をあやしていました。そんな箒さんに流夏君は泣きながら視ていましたが箒さんは。
「大丈夫だ……誰も喧嘩しない……否、喧嘩する気は失せたのだぞ?」
箒さんはそう言いました。その言葉に楯無さんと千冬さんはハッとしました。そうです、流夏君が泣いたのは二人が喧嘩したからです。二人はその事に気付いていませんでした。
何故なら、二人は流夏君を巡って喧嘩していたからです。その為、流夏君が自分達のせいで泣いた事に気付かなかったのです。ですが、箒さんは。
「お前、中々、可愛いな……一夏と良く似ている」
「……う〜〜」
「そう怯えるな……私はお前が可愛いと言ってるだけだ……」
箒さんは流夏君を視ながらそう呟きました。無理もありません、彼女は流夏君を可愛いと思っているだけなのです。誘拐する事なんて考えていないのです。
流夏君は箒さんを見続けていましたが箒さんは言いました。
「……せめて、お前の母親が……っ」
「箒?」
箒さんは何かを思うように言葉を閉ざしましたがそれを楯無さんは聞き逃しませんでした。少し、聴こえたのです。彼女の口から母親と言う言葉がはっきりと。
それは何を意味しているのかを理解していませんでした。ですが、千冬さんは何かを思うように視ていました。否、気付いたのです。
彼女は自分の弟が好きである事に。しかし、彼は刀奈さんを選んだ為に彼女は失恋しているのです。未練たらたらと言いますが千冬さんは何も言いませんでした。
母親とは自分の事であり、流夏君の母親は刀奈さんではなく、箒さんだった場合でした。彼が彼女と結婚した場合、流夏君は……いえ、産まれなかったのかもしれません。
流夏君は楯無さんと刀奈さんの子であり、彼等の宝物なのです。その為、母親は刀奈さんであり、彼女ではないのです。酷とも言えるかもしれませんが真実でもあるのです。
千冬さんはその事に気付いていますが彼女も気付いていました。
「えっ……箒?」
刹那、楯無さんは驚きました。簪さんも驚きましたが千冬さんは何も言いませんでした。彼は、彼女等は箒さんを視て驚いていたのです。
彼女は……涙を流していたのです。
「(私は……絶対……いい人、見つける、から、な……!)」
箒さんは涙ながらに心の中で呟きました。幼馴染みであり、初恋の人である織斑一夏……いえ、更識楯無さんが刀奈さんを選んだ事は悔しいと思っていました。
母親は自分ではない事に気付きながらもそれを、母親の先でもあったであろう『自分だったら……』とは口にはしませんでした。楯無さんを心配させたくないーーそれだけが彼女のせめてもの気遣いでした。
そうさせたのは時間が箒さんを、彼女を変えてくれたのです、社会の厳しさや微かに残る優しさが彼女を支えてくれたのです。それだけではありません、彼女を献身的に支えてくれたのは家族です。
家族の存在があるのもそうです。しかし、一番気に掛けてくれた人がいる事を、彼女は知りませんでした。その人は彼女が一番嫌う人でもありましたが千冬さんの知り合いでもありました。
そして、彼女は千冬さんにある事を言ったのでした。千冬さんは箒さんを視て何も言いませんでしたがある人物の言葉が脳裏を過ったのです。
『ちーちゃん……箒ちゃんは大丈夫かな? ……ううん、私が言うのもあれだけど、心配なんだ……姉らしい事はしてやれなかったからね……』
その人は寂しそうに語りました。自分のせいで彼女を困らせた。同時に、後悔もしました。自分があれを造らなければ……彼女の人生は変わっていたのかもしれないのです。
否、それは出来ませんでした。彼女は夢の為に造ったのです。しかし、その代償は大きかったのです。家族や想い人である少年と離れ離れになった事。それは過去として、最悪な事件でもありました。
それは必然だったとしても、彼女は得た物があるのです。IS学園での、かけがえのない友人達との出逢いや楯無さんーー一夏さんとの再会を果たしたのです。
学園生活では様々な事件がありましたが騒動もありました。ですが……彼女は失恋しました。一夏さんは楯無さんを、否……楯無さんは刀奈さんを選んだのです。
彼と彼女の間には流夏君と春奈ちゃんと言う愛息と愛娘の宝達がいますが彼女が失恋した切っ掛けでもありません。彼女は前に進もうとしていました。
彼女は一人ではないのと、弱い頃の篠ノ之箒でもないのです。千冬さんはそれに気付いていましたが敢えて何も言いませんでした。
彼女は変わっている。それだけでも気付いているのと見守るのも教師として、いえ、姉の友人としてもそう思ったからです。
力を貸すのは何時でも出来る。しかし、それでは彼女の為にもならないと思ったからです。
「「箒……」」
そんな箒さんに楯無さんと簪さんは見据えていましたが声を掛ける気配はありませんでした。周りの騒音が聴こえる中、彼等はその場を動きませんでした。
「ウグッ、エグッ……」
そんな中、箒さんの腕の中にいる流夏君は泣きながら箒さんを視ていましたが箒さんは泣きながらも微笑んでいました……。