ある日の更織家の庭の近く。
「う〜〜」
「ふふっ、春奈は甘えん坊さんね〜〜ママが大好きね〜〜」
「あ〜〜う〜〜」
春奈ちゃんを抱っこしている刀奈さんが歩いていました。楯無さんと流夏君はお買い物に行っている為に居ませんでした。でもでも、近くにはポチとクロがおり、二人の近くを歩いていました。
「うふふ!」
春奈ちゃんはポチとクロに笑いました。その笑顔は赤ん坊特有と言っても良い程、穢れのない物でした。
「ク〜〜ン!(春奈様、その笑顔は反則だ〜〜!)」
「ワン!(良いよ春奈〜〜もっと笑って〜〜っ!)」
二頭の犬はそれぞれ違う反応を見せていました。ポチは恥ずかしそうに顔を逸らし、クロはにへら〜〜と笑っていました。
双子の兄弟でありながら、見た目も瓜二つの存在の彼等が其々の反応を見せるのには理由がありました。性格が違う——双子にはあり得る事であり、無い方が可笑しいのです。
双子は春奈ちゃんに対して片方は困惑し、もう片方は嬉しがる中、刀奈さんは立ち止まりました。
「来たわよ——ブランカ」
刀奈さんは悲しそうに呟きました。春奈ちゃんはキョトンとし、ポチとクロは刀奈さんの呟きに気づき、目の前を見ます。そこには立派な墓石が有りました。
その墓には『ブランカ 2000-2012』と刻まれていたのです。その名はブランカと言いました。
ブランカ——ポチとクロの父にして、更識家最強の番犬。性格はポチのように厳しく、流夏君にはダジダジであり、可愛がっていました。
また、当主の楯無さんや奥さんの刀奈さんも守る事も第一と決めており、更識家の庭全体を守る役目をも担っていました。彼には奥さんが居ましたがポチとクロを含めた四頭の犬達を産んで直に亡くなったのです。
それでも、ブランカは六頭の犬を、我が子を守る為に前を向いていたのです——しかし……、あの日がブランカの最期でした。
「あの日、動物園から逃げ出したライオンと戦った」
刀奈さんは悲しい笑みを浮かべながら寂しそうに呟きました。それは一年前、更識家は四人の従者やブランカ、幼いポチとクロと共に別荘に向かったのです。
理由は仕事から解放される意味ででした。流夏君もいましたが、刀奈さんは二人でした。それは春奈ちゃんがお腹の中にいる時でした。
しかし、近所にはある獰猛な生き物が動物園から逃げてしまったのです。ライオンが動物園から逃げ、更には森の中へ逃げ込み、更識家の別荘にまで迫ってきたのです。
更には楯無さんは松岡さんと共に森の中を警戒していた中、バラバラにならないように固まっていたのです。楯無さんはISを使えば間に合う筈でしたが、むやみに出すと、周りに被害が出る為に出せなかったのです。
別荘には黒影さんが居ましたが、ライオンに警戒するのと、煙玉で視界を遮らせていたのです。そんな中、別荘の外にいたブランカはライオンの匂いに気づき、一直線に駆け出すと、ライオンに不意打ちしたのです。
ライオンに気づかれた中、ブランカは自分の子供達を、当主の愛息と愛妻を守る為に、周りの人達を守る為に単身、ライオンと戦っていました。一回り大きな相手に、巨躯な存在に血だらけになりながらも誰かを守る為、——ブランカはその思いだけで戦っていました。
一時間程でしたがライオンは楯無さんがISを使ってが何とか捕獲しました。しかし、ブランカは大量出血で事切れる寸前でした。
楯無さんや松岡さんが駆けつけた時には虫の息であり、目を閉じそうになっていました。楯無さんや松岡さんが泣きながら呼びかける中、ブランカは薄れ行く意識の中、二人の姿を確認して、安心しきったかのように鳴くと、目を閉じました。
楯無さんや松岡さんが泣く中、追いかけてきた黒影さんはブランカに気づき俯く中、刀奈さんや流夏君、二人の従者、クロとポチもブランカに気づき、黒影さんと二頭の子犬以外の人たちは泣いていたのです。
それから一年が過ぎましたが、春奈ちゃんが産まれたからこの墓に来たのです。春奈ちゃんから見れば初めてですが、今日が命日だからです。
「春奈、この墓の下に眠っている犬さんはね、貴女や私達を助けてくれたのよ」
「あう?」
「貴女がお母さんのお腹の中にいたからまだ分からないかもしれないけど、凄い犬なのよ?」
「う〜〜?」
「春奈がまだ手を合わせるかどうかはお母さんには分からないけど、この墓にいる犬さんは私達の大切な家族なのよ?」
「うにゅ?」
刀奈さんは微笑みます。
「そうよ——でも、お母さんは手を合わせる事はできないわ——春奈を抱っこしているからね?」
刀奈さんは墓を見ます。立派な墓ですが、刀奈さんはまた悲しい笑みを浮かべます。
「ブランカ——春奈よ……貴方が命を賭けて守った命が、目の前にいるわよ……クロ、ポチ」
「「クウ〜〜ン」」
ポチとクロは墓に向かって頭を下げました。亡き父であり、偉大な父でもあるブランカに対して、です。二頭の子犬はもう、大人になっていますが、体格だけであり、精神面はまだまだ父には及びません。
それでも、二頭の犬は父親を超える為、そして意志を継ぐ為、当主とその妻を守る為の番犬として、流夏君と春奈ちゃんを守るのと友達として支えようと決めていました。
ポチとクロは頭を下げ続ける中、春奈ちゃんはキョトンとしていました。そして、墓を見ると、ニパッと笑いました。
「うにゅ〜〜」
春奈ちゃんは手を伸ばしました。何にも無いようにも思えますが、春奈ちゃんには見えていたのです。墓の前にはクロとポチを父親の目で見守るのと、春奈ちゃんを温かい目で見ているブランカの幻影が見えたからです。春奈ちゃんはブランカを見れて嬉しく、機嫌はいいみたいでした。
その頃、楯無さんは困惑していました。
「おい流夏? 他はダメか?」
「……う〜〜こ〜〜」
「マジかよ……」
楯無さんは天を仰ぎました。流夏君が持っている人形は見た目はヒーローなのです。巨大ヒーローでありますがそれは青く、スリムとした顔立ちが特徴的なヒーローの人形——所謂、ソフビ人形です。
でもでも、その人形は見た目はヒーローでも、悪役だったからでした。