ある日の正午。更識家の縁側。
「うふふ〜〜!」
「ふふっ、流夏は可愛いな〜〜」
千冬さんが遊びにきており、流夏君に甘えていました。流夏君は嬉しそうであり、甘えています。そんな様子を隣に居た楯無さんや、少し後ろにいる刀奈さんは微笑み、刀奈さんの膝の上にはおしゃぶりを咥えている春奈ちゃんが居ました。
何気ない日常でしたが、千冬さんは楯無さんに言いました。
「一夏、良く立派なお父さんになったな?」
千冬さんの言葉に楯無さんは瞠目しました。突然の事でありました。しかし、千冬さんは言葉を続けます。
「一夏、お前は父親の顔を知らない中、良く立派になったな」
「あっ……う、うん」
楯無さんは表情を暗くしました。そうです、楯無さんは幼い頃に両親が蒸発した為に温もりを千冬さん以外知らなかったのです。その為、父親になった彼が、自分は父親になっても大丈夫なのかと思っていたのです。
手を挙げてしまわないのか? 子供達を充分に可愛がっているのか? と不安が有ったのです。ですが、千冬さんはそれを察したように言葉を続けました。
「私が言うのも変だが、お前が父親に不安が有るのも、誰だって同じだ」
「えっ?」
楯無さんは目を見開くと、千冬さんは微笑みました。
「お前は父親の偉大さや温もりを知らない——しかし、お前は充分に父親としての義務を果たしている」
「……そんな事は……」
「大丈夫だ、今時の父親は可愛い子達には甘くも、厳しく接している——一夏はそれに当てはまるが手を挙げるような事は悪い事をした以外、何もしていない——今のところは、な?」
「そうかもしれないけど、でも……」
「一夏、否、今は楯無だったな? ——お前はもう、立派な父親だ。誰がなんと言おうと、お前は父親だ」
「…………」
「大丈夫だ、私が言うのならば本当だ——お前は父親らしい事を充分にしている——息子や娘を、妻を大事にする姿は父として、夫として立派な役目を果たしている。誰もが見ても、羨む程にな」
「…………」
「不安ならば誰かに言えば良い。誰もお前の話を聞きたくない奴などいない——ここに居る者は皆、お前の事を理解する心優しい奴らばかりだ」
「……うん! うん!」
楯無さんは悲しい笑みを浮かべながら頷きました。
「パパ〜〜?」
すると、楯無さんの様子に流夏君は不安そうに見ていました。どうしたの〜〜? と思っている中、お父さんの楯無さんが哀しんでいる事にも気づいたのです。
楯無さんは笑っていました。嬉しいようにも思えます——しかし、千冬さんの言葉が楯無さんを励まし、勇気づけたのです。
父親以上に、温もりを感じなかった彼には父親としての器や寛大さが有るからでした。千冬さんは気づいていたのです。楯無さんは、一夏さんは弟であり、流夏君と春奈ちゃんのお父さんであり、刀奈さんの最愛の夫なのです。黒影さんや松岡さん達従者の当主にして、クロやポチの飼い主。
更識楯無と言う存在は周りの人達に大きな影響を与えていたのです。両親の温もりを知らずとも、その両親を刀奈さんと共になったからこそ、息子や娘に愛情を与えていたのです。
自分が体験しなかった事を、二人の子供達と同じ思いをさせないようにしているのです。それだけでも立派な父親なのです。良き弟であり、良き父だと言う事を、千冬さんは理解していたのです。楯無さんは笑うと流夏君に頬擦りしました。
「うふふ! きゃっきゃっ!」
流夏君は不安が飛んだかのように笑いました。お父さんが元気になった、そう思ったからです。そんな様子を刀奈さんは涙ぐみながら見ており、お母さんの膝の上に座っている春奈ちゃんは笑っていました。
千冬さんは微笑んでいました——楯無さんの頭を撫でていたのです。弟の成長を誰よりも望んでいたからです。今の彼は父親として立派になった事に安堵していたからでした。天気がいい中、更識家と織斑叔母のやり取りはとても温かく、ご機嫌はいい物でした。
流夏君と春奈ちゃんもご機嫌は良く、更識夫婦の仲はより良好かつ、深まったのでした。
「おいおいおい! お前等散歩はどうした!? 何時も好きだろうが!?」
「ワン! (うっさいわ! 今、手が離せないんだわ!)」
「クウ〜〜ン(ああ〜〜可愛い〜〜)」
その頃、松岡さんはポチとクロを散歩に連れていました。でもでも、二頭の犬は今、とある家にいる二頭のドーベルマン達を凝視していたのです。
二頭とも雌でした——でもでも、その姿は凛々しくもどこか可愛らしいのでした。老年の夫婦に遊ばれていますがそれでも可愛らしく、鳴き声も良いのです。それも、姉妹なのです。
そんな二頭の双子の兄弟は姉妹にメロメロ〜〜。松岡さんは犬紐で誘導しても頑固として動かないのです。松岡さんは困惑していても、二頭は頑に動かなかったのでした。
「あがっ……! もう、許して……!」
その頃、此処はぼろいアパート。そこには一人の男性と顔中を殴られた中年のぼろい服を来た男性が居ました。顔中を殴られた男性は殴ったで有ろう男性に命乞いをしていました。
男性を殴ったのは、黒影さんでした。彼は今、憤りを隠せませんでした。何故なら、彼の近くには幼い兄妹がおり、兄は妹を抱きしめながら覚えていたのです。
妹さんは泣いており、必死に兄に縋り付いていました。お兄ちゃんには殴られた痕が有り、痛々しい姿をしていたのです。虐待をされていたのです。
顔中を殴られた男性は彼等のお父さんであり、酒乱かつDV野郎なのです。母親は家を出た為におらず、三人しか居ないのです。そんな状況の中で男性は兄妹に虐待していたのです。黒影さんは薄々気づいており、それを察して、男性を殴ったのです。
目を当てられない程であり、警察が対応しなければならないのです。それでも、黒影さんは気にもせず、男性を殴ったのです。男性は泣きながら命乞いをする中、黒影さんはまた殴ろうとしました。
「……くずが」
しかし、黒影さんは殴るのを止めると、男性を乱暴に放しました。男性はうめき声を上げる中、黒影さんは兄妹の方へと向くと、歩きました。
兄妹はビクッとする中、黒影さんは二人の前に来ると、屈み、お兄ちゃんの頬に手を伸ばしました。お兄ちゃんはビクッとする中、黒影さんは何も言わずに悲しそうに呟きました。
「……良く、守った」
その言葉にお兄ちゃんは驚くと、徐々に顔を歪めると、泣き出しました。妹さんはお兄ちゃんの様子に戸惑いつつも、泣きそうになりました。
黒影さんは二人を抱きしめました。幼い兄妹の為にも、です。兄妹は、お兄ちゃんは泣きじゃくり、妹は泣きそうになっている中、黒影さんは悲しそうに二人を抱きしめていたのでした。
どうなるのかは彼の行動次第ですが、兄妹は幸せを掴めるかもしれません——それは、自分達の行動次第で、ですかね?