ある日の昼下がり。ここは更識家の、流夏君の遊び部屋。そこには私服姿の刀奈さんと息子の流夏君がいました。
「ほらおいで流夏、もうちょっとよ」
刀奈さんは部屋の中央で正座しながら手を叩きます。目の前の少し先には我が子の流夏君が笑いながらママの刀奈さんの所へと進んでいました。
でも、四つん這いで進むのは少し難しいのです。もうちょっと先であり、今はなんとか頑張って進んでいました。お母さんの刀奈さんは手を伸ばして促しています。
「あ〜〜う〜〜」
流夏君はなんとかママの所まで来ました。お母さんの膝下まで来ると……。
「流夏、よく頑張ったわね」
刀奈さんは微笑むと、流夏君を引き寄せるように抱っこすると流夏君を抱き締めました。
「あうぁ〜〜う〜」
流夏君はお母さんの温もりを感じているのかキャッキャッと笑っています。ですが、刀奈さんは流夏君を見て笑みを零しますが流夏君の頭を撫でました。
「流夏……ふふふ」
刀奈さんは流夏君の頭を撫でながら笑みを浮かべ続けていました。それもその筈です、流夏君は愛する夫との間に産まれた子であり、宝なのです。
自分にもお仕事はありますが今日は休日であり、我が子と遊べることは嬉しいのです。夫である楯無さんは書類の仕事をしていますが彼は自分に流夏の傍にいるよう言ったのです。
これには刀奈さんも嬉しかったのですが楯無さんは流夏は大事な息子であり、愛情を与えたかったからです。刀奈さんは楯無さん、夫に感謝しながらも流夏君と遊んでいました。
すると、刀奈さんは何かを思い出したのか流夏君に言いました。
「あっ、そうだわ流夏、今日、伯母さんが来るわよ?」
「あう?」
お母さんの言葉に流夏君はキョトンとしていました。判らないのです。赤ちゃんですがお母さんが教えてくれました。
「伯母さんって言うのは簪ちゃん、お母さんの妹よ?」
お母さんの言葉に誰かの名前が出てきましたが流夏君には判らないみたいです。同時にその人はお母さんの妹ですが流夏君は知らないようです。
だって仕方ありませんよね? 名前は愚か、逢ってみなきゃ判らないのです。流夏君はお母さんの言葉にキョトンとし続けています。
「刀奈様」
おや? 誰かが襖の向こう側から,誰かがお母さんを呼んでいました。すると、お母さんが襖の方を見ながら聞き返しました
「どうしたの?」
「はい、簪様がお見えになりました。客間へと案内しておりますが、もうそろそろお願い致します」
「そう……ありがとう」
お母さんは襖の向こう側にいる人と何かを話していましたが直ぐに流夏君を見ると。
「流夏、伯母さんが来たわよ? 私達も客間に行きましょう?」
お母さんは微笑むと、流夏君を抱っこしながら立ち上がりました。
「うぁあ〜〜」
あらあら、流夏君たらお母さんに抱っこされていることに気づいて笑いました。お母さんは微笑みますが、流夏君を連れて部屋から出ました。
「ここよ流夏」
「?」
お母さんに抱っこされている流夏君はお母さんの言葉に何も解らないみたいです。ですがここは客間を出入りできる襖の前です。流夏君はここがどこかは判らないみたいですが、刀奈さんは微笑むと、襖を開けました。
「あっお姉ちゃん」
客間には一人の女性が座っていました。白いブラウスに、膝まである青いスカートを穿いていました。ですが見た目はお母さんそっくりでした。
水色の長い髪で紅い瞳。お母さんソックリですがどこか大人しそうで眼鏡をかけていました。
「ふぁあ〜〜」
あらあら、流夏君ったら、その人を見て破顔してしまいました。そんな流夏君にその人は微笑みますが立ち上がると、刀奈さんに近づきました。
「ひさしぶり、流夏君」
その人は流夏君を知っていました。そうです、その人が伯母さん、つまり刀奈さんの妹である更識簪さんでした。簪さんは今日は近くに来たから寄ったのです。勿論、少し前に連絡したために刀奈さんは了承したのです。
「久しぶり、お姉ちゃん」
「久しぶり、簪ちゃん」
そんな中、簪さんは刀奈さんと話をしました、久しぶりの再会でしたが、流夏君は簪さんに必死に手を伸ばしていたのです。
「それで、学園の方は色々と大丈夫だよ?」
「そう……良かったわ」
あれから数分後、刀奈さんは簪さんとお話をしていました、勿論、姉妹での話でもありますが仕事のことや世間のことでした。二人は客間にあるテーブルの近くで正座しながらお話をしているのです。
それは、楯無さんは仕事が終わった後に来るまでの間ですがね。
「あうぁ〜〜」
流夏君は刀奈さんに抱っこされながら刀奈さんに甘えていました。これには刀奈さんも微笑みますが簪さんも微笑みます。
「流夏君、相変わらず、お姉ちゃんが好きなんだね?」
「ふふっ、流夏はお母さんが好きだからね?」
「う〜〜〜」
お母さんが言うと、流夏君は理解したのか更に笑いました。刀奈さんは頭を撫でました。流夏君は嬉しそうでありましたが刀奈さんは微笑んでいます。
そんな二人に簪さんは微笑んでいましたが、あることを思い出し、それを言いました。
「そういえば、あれは大変だったね?」
「あれ?」
簪さんの言葉に刀奈さんはキョトンとしました。でも、簪ちゃんは微笑むと、あることを言いはじめました。
「結婚式の時、凄く大変だった……」
「……あれ?」
「うん」
刀奈さんの言葉に簪さんは頷きましたが刀奈さんは「あっ……」と少し驚きましたが直ぐに苦笑しました。それは、あの時とは結婚式の日でした。
でも、それはそれは大変でした。あれは数年前の織斑一夏……つまり更識楯無と更識刀奈の結婚式の日。この日は快晴で大安吉日。結婚式の日にはうってつけの日でした。
しかし、一夏さんと刀奈さんの結婚式はマスコミにとってはうってつけでした。世界初の男性操縦者とロシア代表の結婚式。周りから見れば羨ましく、恰好のネタでもありました。
マスコミは記事を得ようと、撮影しょうと押し寄せてきたのです。勿論、それはお姉さんや従者達のお陰で黙らせたのです。どうやって黙らせたのかは伏せておきましょう。
同時に招待客も有名人ばかりでありますが一夏さんのお姉さん、刀奈さんの両親や簪さんに従者達、IS学園でお世話になった学園長夫妻に教員方、同級生達に顔見知りの人達もいました。
皆さんは二人の結婚を祝っていました。祝っていましたが……。
「あの時……お姉ちゃん凄く綺麗だったよ?」
「そう……ありがとう」
刀奈さんは簪さんに褒められて少し嬉しそうでした。流夏君はお母さんを見てキョトンとしていますが刀奈さんは流夏君を見て微笑むと、流夏君の頭を撫でました。
「あうぁ〜〜」
流夏君はお母さんに頭を撫でられて嬉しそうに声を上げていました。刀奈さんと簪さんは微笑みますが、刀奈さんは何かを思い出したのか、それを簪さんに言いました。
話が逸れているのと、本題に入る意味でもです。
「でも、確かに……あれは凄かったわね……」
「うん……箒達、物凄く悔しそうだった……呪わんばかりに」
「う〜〜ん、あれは,彼が私を選んでくれたから……」
刀奈さんは頬を紅くしていますが、流夏君の頭を撫で続けていました。流夏君はキャッキャッと笑っていますが、刀奈さんは簪さんと共に、あることを思い出して、それを耽っていました。
結婚式の日の招待客には一夏さんの幼馴染みの二人、イギリス、フランス、ドイツの五人も招待されていました。ですが五人は一夏さんが刀奈さんを選んだことで失恋したのです。
仕方ないとはいえ、凄く悔しそうに涙を浮かべていたのです。周りも五人に気づきますが近寄り難く、中には苦笑いする人達もいました。幸いなことに武力的な反乱はありませんでしたが式は無事に終わったのです。
ですが最後まで,五人は悔しがっていたのは言う間でもありませんでしたがね……。
「五人はそれぞれの道を進んでいるけど、それぞれの幸せを掴めるよ……きっと」
「そうね……箒ちゃん達は強いわ」
刀奈さんは顔を上げると、簪さんを見ました。
「それより簪ちゃんはどうなの?」
「仕事は、順調だよ?」
「違うわよ?」
「えっ?」
簪さんはキョトンとしていますが、刀奈さんは微笑みます。
「好きな人よ?」
「えっ!?」
刀奈さんの言葉に簪さんは目を見開きますが徐々に顔を真っ赤にしました。
「す、好きな人っていないよ!? そ、それに好きな人は……う〜〜」
簪さんは顔を真っ赤にしながら唸りました。誰かいるみたいにも思えますが刀奈さんはフフッと微笑んでいました。
ですが、刀奈さんは簪さんを見て不意にあることを思い出しました。彼女は一夏……つまり、今の夫でもある楯無さんが好きでした。ですが楯無さんは自分、つまり今の妻である自分を選んだのです。
刀奈さんから見ればつらかったのですが、簪さんは気にしませんでした。なぜなら、簪さんは一夏さんが自分は愚か、刀奈さんを選ぼうが関係なかったのです。
自分を選んでくれなくても、もしも一夏がお姉ちゃんを選んだなら、それでもいい。でも、お姉ちゃんは私のために色々と頑張ってくれた。
お姉ちゃんは幸せになってほしいと願っていました。そしてそれが、一夏さんが刀奈さんを選ばせる切っ掛けともなったのです。刀奈さんを選んだ時には微かに泣いていましたが失恋を乗り越え、二人を祝福しました。
刀奈さんは泣きながら感謝の言葉を述べていましたが、一夏さんは刀奈さんを幸せにし、絶対に守ると約束してくれたのです。因みに五人は一夏と楯無にISを使って襲い掛りましたが千冬さんにボコボコにされ、束さんは千冬さんにきつく言われて泣く泣く諦めました。
そしてそれは現実になり、彼は自分を幸せにしてくれたのです。
流夏君の父親でもありますが簪さんは一夏さんが好きであることに変わりは無いでしょう。刀奈さんはそう思っていましたが簪さんは何かを思い出したかのように刀奈さんに訊きました。
「それよりもお姉ちゃん?」
簪さんの言葉に気づき、刀奈さんは表情を戻すように明るく訊き返しました。
「どうしたの?」
「お姉ちゃんは今、幸せ?」
「えっ?」
簪さんの言葉に刀奈さんはキョトンとしました。ですが、直ぐに笑いながら頷きました。
「ええ! 勿論幸せよ!」
刀奈さんはそう言いました。自分はもう、楯無さんの妻であり、流夏君の母親。それだけでも幸せなのです。それを聞いた簪さんは嬉しそうでありますが姉妹仲は良好であることを意味していました。
「うにゅ?」
そんな刀奈さんに抱き締められている流夏君は何も解らないみたいです。ですが、そんな流夏君に簪ちゃんは流夏君を見て微笑んでいますが何も言いませんでした。
彼がもう少し成長したら教えよう。それも自分がお父さんかお母さん、他の人に教えられるまで、黙っておこう、と。すると、客間の襖が開き、二人はそっちの方を見ました。
「久しぶり、簪」
襖を開けたのは楯無さんでした。仕事が一段落したのです。
「ふぁあ〜〜」
流夏君はお父さんを見て声を上げました。刀奈さんと簪さんは流夏君を見て微笑みますが、流夏君は片手だけでも必死に伸ばしていました。
ですが流夏君はお父さんやお母さん、伯母さんに囲まれて、嬉しそうでした。今日もまた、流夏君は幸せですね。