鮮血のカタルシス   作:ネコ缶

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今回、いよいよ、本格的に
天宮 優香 (あまみや ゆうか)
の登場です。




制裁 後半

僕は、尻餅をつき、硬直した。

 

おじさんを殺した女性が僕の

 

存在に気づくと、

 

まだ血の垂れている包丁を持って

 

僕の方にゆっくりと、

 

間合いを詰めてきた。

 

「次は、あなたが死ぬ番よ、

『健一』くん」

 

「どうして僕の名前を知っているの」

 

「だってアナタ、

このジジイ同様、ニートでしょ。

ニートは殺さなきゃダメなの

殺す相手の名前くらい覚えるわよ」

 

少女はまるで幼い弟を

諭すような甘い口調

で、僕の首元に包丁を近づける。

 

「先月、法律が変わったのよ。

ニートは社会の勤勉な者の

税金を浪費する、国家の

害虫だから、

もう、始末していいって

国家が決めたの 」

 

僕は、もはや、『人』でなくなった。

 

「おじさん、ジジイも『人』ではなかったの?」

 

「ええ」

少女は無感情な声を出した。

「じゃあ、今、製薬会社で働いている人

みんな、偉い人は、みんな、『人』なの?」

 

僕は答えを要求した。

 

「ええ、そうよ」

 

「そう、ですか。おじさんは何か、

言っていましたか?」

 

「そうねぇ〜、他の害虫みたいに、

逃げまわらず、死ぬとき、

『ありがとう』って

 

私、天宮 優香

に言ってくれたことかな。

ほんと、殺人者に

お礼なんて馬鹿だよね。

ふふふふふ」

 

優香は笑っているようだったが

何故か哀しそうだった。

 

「そうか〜〜。

おじさん、幸せそうに死ねて、

本当に、よかった」

 

おじさんは、

天国に行ったのだ。

僕も、すぐ行くからね。

 

 

「ひとつお願いがあります」

 

「何よ。私にできる事なら

やってあげるわよ。

どうせ、五分後には殺してるんだし」

 

優香は面倒そうに呟いた。

 

「僕のこと、抱いてくれませんか」

 

「何よいきなり」

 

「僕は、今まで孤独だった。

誰かを愛したことも、

愛されたこともなかった。

僕は、どうして生きているんだろう。

そう考え続けていた。

君が僕を殺すのは理解できます。

人が、躊躇無く家畜を殺し、

金というくだらない価値観で、

売買し、

食べずにマズイと言って捨てる。

僕もおじさんの命なんて、それと

同じ。なんだよね?」

 

「ああ」

 

「人間が、食物連鎖の頂点に君臨し

動植物を罪悪感なしで殺し、食べること

が出来るのは、

他の人間に愛され、愛しているからだ。

生きる目的があるからだ。

その為に、動植物は死ぬる事が、

出来るのだ。

 

「………」

 

「だが、僕には、生きる目的、がない。

だから、本来は、生きてはいけないんだ。

でも、

最後くらい。

お願いさせてください。

 

僕は、友人たちと愛し、愛される人生

を送りたかった。

恋人と愛しあっている人たちが羨ましかった。

だから、

せめて死ぬときくらい、

可愛い女性に抱かれながら、死にたい。

一回だけで良いから。

気持ち悪いだろうけど、

お願いできませんか」

 

僕は、優香の目を見る。

優香は暫く沈黙する。

 

ダメだよね。

 

 

「いいわよ」

 

僕の予想が裏切れる。

優香は包丁を地面に置き、

僕の背中に手を通して

覆い、包み込む様にして

抱いた。

 

優香は暖かかった。

これが、人間の感触なのか。

 

 

 

一分くらい過ぎたのだろう。

 

 

「もう、良いよ。さあ、僕を

殺してくれ。なるべく痛みのない様にね」

 

僕は、最期の覚悟を決め、

優香に告げる。

 

だが、

「やだ」

優香はさっきとは違った可愛い

らしい声で言うと、僕を

うっとりとした表情で眺める。

 

さっきまでの冷酷さとは、

 

正反対だった。

 

 

「私は今まで、

組織で暗殺の仕事

をするためだけ

に幼い頃から

訓練を受けて、

生きてきた。

悪い人を、

殺す。

それが、

私の存在価値だった。

でも、

悪い人って誰なの?

私は、殺す時は、

いつも、そう考えていた。

 

殺人は、いけない事。

だけど、家畜は、

毛虫を殺すのは、

いい事なの?

どうして?

 

人間なんて、

私も含めて

みんな悪じゃない!

私は、みんな

殺さなきゃいけないの?

私は法律に従って、

命令に従って

殺す相手を選んでいる

でも、それが本当に正しいの?」

 

優香は気づいたら泣いている。

 

「私が殺した相手のほとんどが、

獣の様に争い

死ぬ最期、私を見て、

私の事を、悪魔、って呼んだ。

 

私は、正しい事をしてるはずなのに、

法律に従って、悪い人を

殺しているのに、どうして

みんな、私の事を悪魔って

呼ぶのかな」

 

優香は哀しそうだった。

 

だが、少ししたら

優香は僕の頬を撫でながら、

嬉しそうに話した。

 

「でも、おじさんと

健一くんは、

私にそんな事

言わなかった。

おじさんは私に

『ありがとう』って

言ってくれたし、

健一くんは、

私の事を好きになってくれた。」

 

優香はさらに続ける。

 

 

「嬉かった」

 

優香は涙を一滴だけ

僕の頬に落とした。

 

「でも、何故か苦しいの

こんな殺戮女は嫌われるべきなのに」

 

僕は、掛けてあげる

言葉が見当たらなかった。

 

「だから、健一くんが

優香を好きであるうちは

生かしてあげるよ」

 

そう言うと、

優香は僕にキス

をしてくれた。

 

「私の健一くん」

 

 

 

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