いせまじょ ~異世界の魔女達の夜~   作:ジト民逆脚屋

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〝福音の魔女〟の話は何処に行ったのか?
早く話を進めないと!

あと、一話か二話で今回名前が出てきた帝国の〝サイレンの魔女〟編に入ります?

菊代の魔法杖の名前、どうしよう?


さて、どうしてそうなる?

 「さて、菊代。茶の時間である」

 

 神皇国を訪れたナジェーリア・リトリア、天内家の洋室にて、何時もと変わらぬ様子でパイプを吹かし、椅子に座り茶の催促をする。

 その様子に天内菊代は嘆息するが、ナジェーリアには通じず、呆れを込めた嘆息は紫煙と共に消えていった。

 

 「む、どうかしたかね?」

 「いえ、なにもありませんわ」

 「そうか。では菊代、茶の時間である」

 

 再度の催促に菊代は幼少の頃の微かな記憶から、目の前の吹雪の様な銀髪の女が茶が好きだったと思い出す。

 

 何時も茶を飲みパイプを吹かし、その度に何かをして母に叱られていた。

 たまに、ナジェーリアが突如上空へ逃げ出し、母が空へ向かって弓を射っていた記憶もあるが、これは先程の水菓子とラジオドラマの件が混ざったに違いない。

 

 菊代の記憶では、母は正しく神皇国の巫女として相応しい人物であった。

 だから、鎌の引寄せで瞬間的に逃げ出し、砂粒以下の大きさになったナジェーリアを、イイ笑顔を浮かべながら狙撃していた母は記憶違いの筈だ。

 そう、記憶違いなのだ。

 幼少の頃の記憶が、なんかこう、アレして他の記憶とまざって、あれ?

 それだと結局、母はイイ笑顔で弓を射っていた事に……?!

 

 「菊代、私は緑茶より焙じ茶の気分なのだよ」

 「おば様、お茶の好み変わりましたの?」

 「神皇国の茶は苦味や渋味がはっきりしていながら甘味もあるから、嵌まると抜け出せないね。同志軍曹が嵌まって、私のティータイムは充実の一途を辿っているのだよ……!」

 

 茶の催促に加え、茶の種類まで指定してきた。

 ナジェーリアらしく遠慮が無い。

 と言うか、だ。自分達は〝福音の魔女〟について話をする筈なのに何を思ってか、優雅にティータイムを要求している。

 

 ーーおば様のペースに嵌められていますわねーー

 

 大体、ナジェーリアは強引でいきなりでありながら、こちらが拒絶の意を示せばすんなり引く振りをして、いつの間にか自分のペースに引き込んでくる。

 他人を言いくるめるのが上手いのか、はたまた変人故の奇行奇言が多い為か。

 菊代として、その両方だと見ている。

 面倒見が良く交遊関係も広かった母だが、何の臆面も無く親友と言っていたのはナジェーリア・リトリア、彼女一人しか居ない。

 

 二人の間に何があったのかは、菊代は知らない。

 しかし、ナジェーリアが神皇国に訪れると、必ず天内家に顔を見せる。

 そして

 

 「捜しましたよ、将軍」

 

 この四角い顔の副官が迎えに来るまで居座るのだ。

 

 「おお、同志大尉。早かったではないか」

 「早かったではないか、ではありません将軍。天内殿も、申し訳ない」

 「まあ、待ち給えよ。私は焙じ茶を所望しているのだが、菊代が中々出してくれなくてね」

 「将軍、帝国から〝ウルレイカ・ルーデルハイト〟が来ていますが?」

 

 ボリスの言葉にナジェーリアは首を傾げ、パイプから燻らせた紫煙で〝?〟を作る。

 エーテル操作の応用だろうが、器用な事をする。

 

 「あの、おば様? 〝ウルレイカ・ルーデルハイト〟って、帝国の〝サイレンの魔女〟ですの?」

 「はっはっは、おかしな事を言う子だね。むしろ、あの喧しい〝サイレンの魔女〟以外に誰が居るのかね?」

 

 帝国最強の魔女〝ウルレイカ・ルーデルハイト〟。

 まだ珍しい機工式魔法杖を用いる魔女であり、公国最強の魔女〝ナジェーリア・リトリア〟とは宿敵関係にあると、菊代は記憶している。

 しているのだが、そのサイレンの魔女が鎌槌の魔女を訪ねて来たと、ボリスは言った。

 

 「今は同志軍曹が応対しています」

 「まったく、面倒な娘である。大方、同志軍曹の茶と茶菓子が目当てだろう。会談で出すべきではなかったね」

 「おば様、サイレンの魔女とは宿敵では?」

 

 菊代の問いにナジェーリアは〝?〟を二つ紫煙で作る。

 

 「あれは、あっちから絡んでくるだけであるよ」

 

 ちらりとナジェーリアの背後に控えるボリスへと目を向ける。口を横にしたなんとも微妙な表情で肯定するのが見えた。

 正直、判断し難い。

 その側では、ナジェーリアが紫煙を様々な形に変えて遊んでいるから、余計に判断し難い。

 

 「仕方ない。茶も出ない事であるし、〝福音の魔女〟の話は今度にして、帰るとするか」

 「そんな事を言っていると、次からは白湯が出ますわよ?」

 「白湯か。ふむ、悪くない、か?」

 

 白湯か茶か。菊代の予想に反して、ナジェーリアは真面目に悩み出した。

 さあ、どうしたものか。悩むナジェーリアに目の辺りを押さえるボリス。

 流石に白湯か茶の選択で悩むとは、菊代も夢にも思わなかった。

 

『あの、ボリス大尉?』

『天内殿、こうなった将軍はそっとしておくのが一番です』

 

 ひっそりとアイコンタクトで会話をする。魔導を修める者なら口に出さずとも離れた相手と会話が出来るが、こんな距離で使う事になるとは二人も思わなかった。

 

 しかし、相手は奇言奇行が常のナジェーリア・リトリア。何を起こすのか、どうしたらそうなるのか解らないのが常である。

 

 「ふむ……」

 「おば様、どうかしましたの?」

 「……成る程、いや、しかし」

 

 白湯か茶か、悩んでいたナジェーリアだが、突然菊代の周りをグルグルと周りだし、不躾にジロジロと菊代の身体を見詰め何かを呟いている。

 菊代はボリスに助けを求めるが、流石の彼も何をしているのか解らない様だ。

 

 「ふむり、ならば」

 「あの、おば様?」

 

 何かを決した様な様子のナジェーリアに、菊代は思わず距離を取った。

 だが、それがいけなかった。菊代がナジェーリアから距離を取った事で二人の位置が変わり、正面で向き合う形になり、両の手を振るえるスペースが出来る。

 

 「おば様?」

 「将軍?」

 

 ナジェーリアの手は真っ直ぐに菊代へと向かい、思いっきり菊代の胸を揉んだ。

 

 一体全体何が起きているのか?

 こちらの左胸に感じる圧は、恐らく菊代のこれからの人生でも中々体験する事が無いだろうと思える程に深かく、菊代を停止させるには充分すぎた。

 

 「見給え、同志大尉! 私の指が全て埋まったよ!」

 

 心の底から嬉しそうに報告するナジェーリアに、ボリスは開いた口が塞がらなかった。

 理解も追い付かなかった。炊事と事務に特化した呑気な部下が、慌てふためいて走り回る映像が脳裏に浮かぶが、これは一体何の比喩なのだろうか?

 

 「白湯か茶か、先程の菊代の言葉で解ったのだよ! かつての満代も同じ事を同じ場面で言っていたとね!」

 

 だから何がどうして、その発言から親友の娘の胸を揉むのか?

 そして、何故にそれ程に嬉しそうなのか?

 

 解らないが、解る事が一つある。

 

 「発言もそっくりなら、胸もそっくりだ! 満代も五指が余すこと無く埋まったとも!」

 

 それは

 

 「………か」

 「おや?」

 「おば様の……バカーーー!!」

 

 全魔女中、最大最強を誇ると言われる神皇国の巫女の砲撃がゼロ距離で叩き込まれる事だ。




次回
ナジェーリア・リトリアの過去の罪?
天内家先代巫女の謎?



おまけ

「あ、あの、お茶のおかわりは如何ですか?」
「次は甘いものをもらおうかな」
「は、はい!」

『将軍、ボリス大尉。早く帰って来てくださーい!』

帝国最強の魔女の応対を一人でするシルヴィア軍曹の姿がそこにあった。
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