いせまじょ ~異世界の魔女達の夜~   作:ジト民逆脚屋

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やあ、今回もふざけた内容なのです。
ギャグとかコメディとか、そういったタグ付けた方が良いかな?


過去の

 ーー少し、やり過ぎましたか?ーー

 

 天内菊代は目の前に煙るエーテルを見ながら思った。

 射ち込んだのは、砲弾形成も圧縮もしていない只の抽出エーテル。攻撃力は無く、有るのは圧力のみで室内で射っても安心安全仕様の超巨大な霧吹き。

 ナジェーリアの側に居た筈のボリス大尉が、瞬時に彼女を見捨てて効果範囲外へと逃げたのが気になるが、只の抽出エーテルを勢い良く噴射しただけの安心安全仕様に変わりはない。

 

 菊代の背後に浮かぶ弩にも似たシルエットの大弓〝火輪日輪〟(ひのわにちりん)が解けていくのを背後に、菊代はエーテルの霧が晴れるのを待った。

 ナジェーリアの鎌槌ヴォジャノーイとは違い、天内家に代々伝わる魔法杖であり、特定の姿形を持たない奇特な魔法杖である。

 代々の巫女に最も適した姿をとり、先代巫女であり菊代の母は薙刀、当代の菊代は大弓の姿を取っている。

 

 その空中に解けていく火輪日輪で射ち出したエーテルの手応えから、ナジェーリアに被害は無い筈だが反応が無い。

 内心で、少しやり過ぎたかもしれないという思いが強くなってくるが、華の乙女の胸を異性の前で揉んだのだ。

 多段式弾頭を〝形成しかけていた〟のだから、霧吹きズドンくらいは覚悟してほしい。

 

 しかし、霧が晴れない。いくら室内とは言え、流石にこれはおかしい。

 ボリスも怪訝な様子だ。さあどうしてだと、考えてみるが答えは出ない。

 しかし菊代は、ふと思い出す。自分が火輪日輪の砲身内で何を形成しかけていたのかを。

 

 ーー多段式弾頭……!ーー

 

 通常、敵魔女の魔法杖破壊に用いられるエーテル弾頭、一段目が着弾すると同時に二段目三段目が炸裂し、内部に仕込まれた超高圧縮エーテル弾芯三発を同時に叩き込むというもの。

 そんなものを形成するエーテルを霧状に噴射したのだ。エーテルが空間に還るのが遅いのは当然であった。

 

 ーーそう言えば、おば様は多段式弾頭を〝ロケット鉛筆弾〟と呼んでましたけど、〝ロケット鉛筆〟ってなんですの?ーー

 

 ナジェーリアが聞けば拗ねる事は間違いないという気がするので、後で四角い顔の優秀なボリス大尉に聞こう。

 菊代はそう決め、前を見る。エーテルの霧はまだ晴れないが、見通しは効き始めた。

 

 「おば様?」

 

 菊代が晴れてきた霧を見詰めるが、ナジェーリアらしき人影は見当たらない。

 窓も扉も開いてはいない。床も、カーペットや家具が大変な事になっているだけで、穴は開いていない。

 自分の足元に開いている細い穴以外は。

 

 「……やはり、満代と同じであるな!」

 

 言うが早いか、次は尻を揉まれた。

 袴の上から、押し上げる様に両手の五指を満遍なく使って揉み上げられ、

 

 「ひゃあああああっ!?」

 

 下へ広げる様に揉み引かれた。

 

 「む? 同志大尉、大発見である! 胸は満代の方が大きいが、尻は菊代の方が大きいぞ!」

 

 思わず尻を押さえてしゃがみこむ菊代に対し、ナジェーリアは実に嬉しそうに五指をわきわきと動かしている。

 

 「将軍」

 「はっはっは、気にするな同志大尉。これしきの事、満代とは日常茶飯時であったとも」

 「お・ば・さ・ま?」

 

 紫煙を燻らせ、愉快そうに笑うナジェーリアの背後から、菊代がゆらりと立ち上がり幽鬼の如く笑みを浮かべた。

 

 「おっと、これはいけない。パイが焼ける時間ではないか」

 「おば様? おば様は、パイ、焼けないでしょう?」

 

 鎌の引寄せで洋室から逃げ出そうとしたナジェーリアだが、三日月の笑みを浮かべた菊代がそれを許さない。

 見れば、仕掛けていた鎌は全て砕かれていた。

 

 「菊代、やるではないか」

 「ふふふ、母の娘ですから当然ですわ」

 「そうか、それもそうであるな。満代の娘であるなら、私如きを超えるのは自明の理である」

 

 先程までの笑みは何処かへ姿を消し、寂しそうな今にも泣き出してしまいそうな顔で、ナジェーリアは菊代の頬や髪を撫でた。

 

 「本当に、満代に似たものである」

 「あの、おば様? 一体何を?」

 

 天内菊代は何が起きているのか解らなかった。先程までふざけて、こちらの胸やら尻やらを揉んでいた人物と同一人物とは思えない程だ。

 菊代は何も解らなかったが、母、天内満代(あまうち みつよ)に似ていると言われて誇らしかった、嬉しさがあった。

 だが、その誇らしさと嬉しさを表に出す事は出来なかった。

 

 「嗚呼、本当に似てきた。まさに生き写しだ」

 

 今にも泣き出してしまいそうな母の親友が、目の前であまり見せた事の無い寂しげな微笑みを見せていたから。

 

 

 

 

 

 〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

 「お、お茶のおかわりです」

 「ああ、ありがとう」

 「次のお茶請けは、神皇国の水饅頭です」

 「へえ、神皇国のか。あまり日持ちしないって聞くから、珍しいね」

 「レシピと材料が手に入りまして」

 「流石だね。クシャトロワ軍曹」

 「い、いえ、レシピと材料があれば、誰でも出来ます」

 

 今すぐにでも逃げ出したい。シルヴィアは、基地の外へと向こうとする足を必死に宥めすかしていた。

 自分でも慣れたつもりだった。

 ナジェーリアやリーリヤと言った常識という枠からすっぽ抜けて、まったくもって新しい別の常識を構築している人々には慣れたつもりだった。

 

 だが、現実は違った。

 ナジェーリアもボリスも居ない日、他の隊員達も忙しく走り回っていたが、昼を過ぎた辺りで落ち着きが出て各々の時間を過ごしていた。

 そんな時だった。彼女がいきなり現れたのは。

 シルヴィアも他の隊員達も、完全に油断していた。

 いや、仮に油断していなくても、あれは無い。

 つい最近までドンパチやっていた隣国、この間も国境沿いで小競り合いしてた隣国最強の魔女〝ウルレイカ・ルーデルハイト〟がごく普通に、隊舍の扉を開いて現れたのだ。

 

 公国最強の空戦魔導部隊〝バーバヤーガ〟であっても、こんな事は予想外だ。

 書類を落とす者やサインを失敗し書類を破いてしまう者が居れば、話を聞き飛行訓練中に隊列を乱し墜落する者まで居た。

 ナジェーリアかボリスが居れば、もしくはどちらかが居ればここまでの混乱は起こらなかったかもしれないが、ナジェーリアは朝からいきなり仕事をサボり逃走、ボリスはそれを追跡し不在。

 最早バーバヤーガには、混乱を治める方法は一つしかなかった。

 

 「あれ? 皆さん、お茶が出来ましたよ……?」

 「やあ、クシャトロワ軍曹。久し振り」

 「あ……」

 

 隊員達は迷い無く、シルヴィア・クシャトロワ軍曹を人身御供として捧げた。

 仲間を見捨てるのは心苦しかったが、部隊が全滅するよりマシだ。

 だから、同志軍曹が気を引いている間に、自分達はなんとかして対策を練らなくてはならない。

 

 と言うか、何故にいきなり現れたんだ。

 お前の国とはこの間までドンパチしてたし、つい最近はいきなり突っ掛かってきやがって、あれで将軍の機嫌が最悪だったんだぞ?

 軍曹が将軍の一番好きな茶と茶菓子を用意してなかったら、今頃どうなってたか解るか? んン?

 

 隊員達が警戒し構える横で、シルヴィアは内心ビクビクしながらも呑気に次のお茶は何にしようとか考えていた。

 そんな混乱のバーバヤーガ隊舍の中で、何食わぬ顔でウルレイカが口を開いた。

 

 「神皇国か、多分リトリアも神皇国かな?」

 「え? どうして、分かるんですか?」

 「明日は何日だい?」

 「明日? あ……?!」

 「そう、天内家先代巫女の命日さ」

 

 世界を救った英雄の、ね。




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