最近はこれしか更新してないずい!
「将軍、そろそろお戻り下さい」
「嫌である」
「あの、おば様?」
「私は空腹であるし、茶が飲みたいのだよ」
四角い顔のボリス大尉が、また始まったと眉間に皺を寄せる。
ナジェーリアは何と言うべきか、妙に食い意地が張っている。食事は三食欠かさず、間食夜食もしっかり摂る。
その上、酒も甘いものも好きで愛煙家でもある。生活習慣病まっしぐらな生活を送っているが、さっぱりその気配は見えず、ボリスが付き従ってきた十三年間で知る限りだが、ナジェーリアの体型が変わった事は無かった。
本人もそれを自覚してか、好きな様に食べて飲んでを大いに楽しんでいる。
「おば様、ボリス大尉も仰っていますし、ここはお帰りになられては?」
「いーやーでーあーるー」
着いていたテーブルに倒れ込みしがみつき、拒絶の意を示す。意地でも何か出すまで動かないつもりらしい。
『あの、ボリス大尉? おば様って、確か私よりダブルスコア以上トリプルスコア未満の年齢の筈では?』
『先代巫女殿と同世代ですので、確かにそうです』
『あの、少し自由過ぎでは?』
『天内殿、慣れです』
『慣れ……!?』
四十も半ばが見えてきて、テーブルにしがみついているのはどうなのかと思いはするが、ボリスにとっては見慣れた光景であり、懐かしい光景でもあった。
昔はこうやってナジェーリアが駄々を捏ねると満代による砲撃が叩き込まれ、ナジェーリアが笑いながら逃げるというのが神皇国を訪れた時の定番であった。
「あれであるよ、菊代。ほら、〝一文字違いでキリタンポー〟というものが食べたいね」
「おば様、それは冬のものですわよ?」
「そうなのかね? ふぅむ、神皇国の鍋料理は満代に馳走になったが、キリタンポーは食べた事が無かったから残念であるね」
いまだテーブルにしがみついているナジェーリアが口を尖らせ、残念だ無念だとブツブツ呟いている。
菊代は、今がテーブルから引き剥がす絶好のチャンスなのではとボリスを伺うが、彼は首を横に振る。
『ボリス大尉、まだですの?』
『まだです。まだ、将軍の手がテーブルに掛かっています』
見れば確かに指がテーブルの縁を掴んでいる。
梃子でも動かない意思表明、菊代はナジェーリアから確固たる意思を感じた。
こんなくだらない事で、そんな確固たる意思を見せないでほしいのだが、ナジェーリアらしいと言えばらしい。
そんな事を菊代が考えていると、空腹からか微妙にタレた雰囲気のナジェーリアがこちらを振り向いた。
「そう言えば菊代、神皇国語で解らないものがあるのだよ」
「なんですの?」
「〝一文字違いでキリタンポー〟と言うが、一文字違うと何になるのか。教えてくれ給えよ」
この人は……!
どの口で解らない等とほざいているのか。明らかにニヤニヤしながら言って……!
・・・待ちなさい。落ち着きなさい、天内菊代。
おば様のペースに嵌められてますわ。
「おば様、私達巫女は〝そういった話〟は穢れとして禁じられてますのよ?」
巫女としてそういった話題はNGだと言えば、流石のおば様も追求してこない筈……
ん? なんですのボリス大尉、その顔は?
「ふむ、菊代。〝そういった話〟とは一体どういった話であるのかね? 教えてくれ給えよ」
「ぬぅ……!」
やられた。何が流石のおば様も追求してこない筈、だ。
相手はあのナジェーリア・リトリア、当たり前に追求してくるに決まっている。
いつの間にか愛用のパイプを口の端に噛み、口元に笑みを湛えながら紫煙を燻らせている。
「おば様、当家は禁煙ですのよ?」
「はっはっは、話を逸らそうとしても無駄であるよ」
さあ、教えてくれ給え。
ナジェーリアがニヤニヤ笑いながら菊代を問い詰める。
茶も何も出ないなら、暇潰しに付き合い給えよ。ナジェーリアのそんな声が聞こえた気がした。
何と言うか、もう砲撃叩き込んだ方が早いかもしれない。
菊代が天内家伝統の
「どうかしたかね? 同志大尉」
「将軍、通信はお持ちでは?」
「私は電話の類いが嫌いでね」
「そうでしたね。では、こちらを」
ボリスが懐から差し出した通信機からコードを引き抜くと、賑やかな喧騒に埋もれるようにして情けなくて必死な声が聞こえてきた。
『将軍! ボリス大尉! 早く帰って来てくださーい!』
ナジェーリアのお気に入りであり、事務と炊事に特化した何故に軍人やってるか解らないシルヴィア・クシャトロワ軍曹の救援要請であった。
『同志軍曹、何があった?』
『あ、ボリス大尉! ルーデルハイト大佐が…… って、ちょっと大佐!?』
『やあ、カレンディット大尉。久し振り、リトリアは居るかな?』
『おや、ルーデルハイト大佐。どうかしたかね?』
片目を閉じ口角を僅かに吊り上げて、ナジェーリアはウルレイカの呼び掛けに答える。
『あれ? 警戒モード?』
『はっはっは、いきなり我が家に現れた鷲をどうするか考えているのだよ』
ナジェーリア周辺のエーテルが彼女の内燃エーテルに反応し、鎌刃の形に形成されていく。
『やだな~、ボクは〝福音の魔女〟の話ついでに、連邦料理をご馳走に来ただけさ』
『連邦料理、脂と肉と油であるね……!』
『その通り』
『嘗て、一度だけ連邦を訪れた時に揚げ鶏と揚げ芋を食べたが、あれはいけないね。麦酒が進み過ぎる……!』
言うが早いか、ナジェーリアは空間からエーテルを抽出、鎌を形成し目的地へと刃先を伸ばす。
「さあ、同志大尉。私に掴まり給え! 一気に帰るよ!」
「将軍、それよりも一体何時頃何をしに連邦に……?!」
ボリスが言い終わる前に彼の肩辺りを掴み、鎌による引寄せで天内家より消える二人。砲撃特化の魔女の動体視力でも影すら追えず、開かれた窓しか見えない。
一体、どんな速度で移動しているのやら?
「まったく、本当に吹雪みたいな人ですわね」
突然吹き荒んできたかと思えば、いきなりピタリと止んで何も残さない。
菊代はナジェーリアが座っていた椅子を見る。
今よりも幼い頃、母と二人で向かい合い談笑する姿。思い出してみれば、やはり口の端にパイプを噛んでいた。
「そうですわね」
あのパイプから燻らせている紫煙と同じだ。ナジェーリアが来た跡は、時間が経てば消えてしまうものばかり。
吹雪の様に、いずれ溶けて消えてしまう雪と褪せていく記憶しか残さない。
母が死に、ナジェーリアが家族を喪い、彼女はそれ以前に比べてあまり神皇国を訪れる事が減った。
何かの折にふらりと現れる事はあっても、長話をする事無く帰ってしまっていた。
先程まで賑やかだった洋室には、菊代とナジェーリアが残した紫煙の端のみが居た。
「少し、寂しいですわね」
菊代は一つ言葉を口にすると、袴を翻し洋室を後にした。
「おっと、いけない。忘れ物である」
「へ?」
「寂しいなら寂しいと、素直に言い給え。ナジェーリアおば様が頑張るのだよ」
「あの、おば様……!?」
言い終わる前に両肩を掴まれ、天内菊代の
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豪奢な部屋で長く豊かな金髪を揺らしながら、小柄な影が呟いた。
「〝福音の魔女〟、ねぇ?」
「〝陛下〟も心当たりが?」
「うむ、確かに実際見たのは妾。しかし、今までの〝数度の人生〟でも〝福音の魔女〟など見たことが無い」
「ボケたんじゃないですか?」
「あ?」
豪奢な部屋で鋭い打撃音が数分間休まず響き、長く豊かな金髪が倒れた。
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