いせまじょ ~異世界の魔女達の夜~   作:ジト民逆脚屋

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はっはっはっ、話が進まぬよ。


共和国 ガラスの魔女
テレジア・ディートリッシュ


 絢爛豪華、正にその言葉に尽きた。

 金糸銀糸をふんだんに惜し気も無く使い、大小様々な宝石を散りばめた一室。

 それが、彼女の城であった。

 

 「あ~ぁ、暇じゃのぅ」

 

 小柄な女が豊かな金髪を長椅子に遊ばせ、敷き詰めたクッションへと沈む様に凭れ掛かる。

 

 「お~い、誰か。誰か居らぬか?」

 

 小さな手足をバタつかせながら、誰か居ないかと声を上げるが返事は無く、そこには静まり返った空間しか無かった。

 

 「なんじゃなんじゃ、妾は偉いんじゃぞ。妾が呼んだら、誰彼構わず老若男女問わずに馳せ参じるべきじゃろうに」

 

 不満気に鼻を鳴らし、近くに置かれた籠から林檎を一つ摘まみ上げかじる。

 

 「連邦には、この瑞々しい林檎をギトギトの油で揚げる料理があると言うが、真かのぅ?」

 

 一口二口三口と、軽い音を立てて果肉を咀嚼していく。

 そう言えば、公国のあの変人魔女の好物は干した林檎の蜜漬けを、これでもかとたっぷり使ったパイだった筈。

 

 干して甘味を増した林檎を更に甘い蜜に漬け、これでもかと山の様にパイ生地に敷き詰め重ねて、上からカスタードクリームをたっぷり塗りたくって蓋をする前に、干し林檎を漬けていた蜜をこれまたたっぷりとかけてから、生地で蓋をして、その上からまた蜜を塗ってから焼き上げる。

 

 思い出すだけで胸焼けがしてきた。

 何時だったか、五国会談時にそれを出されてから暫く甘味を避けた時期がある。

 最早、林檎なのかパイなのか糖なのか判別がつかないものを、あの変人魔女は五国会談で出してきた。

 味の系統としては嫌いではない味だったが、過ぎたものは及ばざるという言葉の通り、甘味が過ぎた。

 

 「何で、あやつはあれで太らんのか」

 

 しかもだ。あの変人魔女は周りが次々とギブアップしていくものを平然と1ホール平らげ、その後の会食でも豆粒一つ野菜くず一つ肉片の一つも残さず完食していた。

 魔女がいくら常識の範囲外にいるとしても、過食による体型の変化は起こる。

 しかし、あやつは子供を産む前から、正確には旦那と出会ってから、体型の変化は無いと言い放った。

 

 「思い出したら、腹が立ってきたのぅ……!」

 

 今は亡き旦那が、一番抱き着いたりスキンシップが多かった頃の体型と体重を、+-2~3㎏以内の誤差で維持していると言う。

 

 何だその、惚気話は……?!

 こちとら、相手が居ねえんだよ!

 んな、ベタベタしてた時期は何百年前だと思ってんだ?

 くそったれ!

 

 「〝陛下〟、何をなさっておいでで?」

 「おお、〝リューヌ〟。遅いではないか」

 「もう一度言います。陛下、何をなさっておいでで?」

 「暇なのじゃ」

 「それは暇でしょうね。しかし、陛下は既に隠居の身」

 「分かっておるわ~」

 

 リューヌと呼ばれた侍女は溜め息を一つ吐き、女が摘まみ上げている芯だけになった林檎を受け取り、手中へと消した。

 

 「相変わらず、便利な体じゃの」

 「お褒めに預かり光栄です。しかし、私のこの身も元は」

 「よいよい、知っておる。妾からの派生じゃろ」

 「更に特定するなら、原典は〝四回目〟の陛下です」

 

 そうかの。呟き女は背後に立つ侍女に目をやる。

 

 ーー思えば、随分と遠くに来たものじゃーー

 

 女の歴史は所属する国家である〝共和国〟と同じだ。

 共和国建国から今まで、何百何千何万と魔女を見てきたが、今世の魔女の豊かさは過去の比ではない。

 各国だけでなく各地に、村や家族単位で優秀な魔女が山程現れている。

 

 「陛下、如何なされました?」

 「うむ、やはり妾はゴイスーだとな」

 「はっ!」

 「のぅ? 何故、妾に対する当たりが厳しいのじゃ?」

 

 この侍女のリューヌもそうだ。今は侍女をしているが、これでも腕利きの魔女であり、共和国の切り札の一枚でもある。

 

 「はて、何の事でしょう?」

 「いやいや、小首傾げてカワイイ年じゃないじゃろ」

 「あア? 年齢詐称ぶっちぎり魔女が何を言ってますかね?」

 「お? やるか?」

 

 切り札であり己の右腕でもある侍女が手袋を嵌め直し、エーテルの抽出と固定を始める。

 彼女程の腕前であれば、エーテルの抽出と固定を相手に悟らせる様な不手際はしない。今は、そういう場だからか。

 パフォーマンスの面が強く出ている。

 

 「言っておくが、妾はゴイスーじゃぞ?」

 「はぁ、疲れました。今宵の夕餉は〝あのアップルパイ〟で宜しいですね」

 「待てや。妾、血糖値上がり過ぎで死ぬぞ?」

 「ご心配無く、血糖値の上がり過ぎでは急には死にません。ゆるゆると様々な病気を発病して死ぬだけです」

 「もっといかんわー!」

 

 叫び、女はリューヌに目線を合わせる。

 共和国を始めとして、公国、神皇国、帝国、連邦。長い歴史の流れの中、この五国は特に力を得た。

 国としては若い連邦が不安要素ではあるが、今の世界は一触即発の過去に比べて内外共に安定している。

 

 「ええい、よいか! 妾を誰と心得ておる?!」

 「共和国最強の魔女の癖に隠居かましたニート」

 「んぎぃー! 言い返し難い返しをしおってぇ!」

 

 〝王国〟という不安要素もあるが、あの国は中東近辺の国家の集合体。首長も暗君ではないし、〝ランプの魔女〟が王国に居る限りは暗君や暴君の類いが即位する事は有り得ない。

 王国だけでなく、共和国以外の国でも寝物語の一つとして語られる〝魔神〟を従える魔女だ。あれに嘘の類いは通じない。

 

 「なら、仕事してください」

 「え~、妾隠居してるし~」

 「火炙りには良い日和ですねぇ。あら、火炙りにちょうどいい魔女が居るではありませんか」

 「解った。解ったから、止めよ。頼むから、お主は声と顔から感情を消して喋るでない」

 

 火炙りは二度とゴメンだ。あれは〝五回目〟だったか。

 あの時は少々錯乱して重税を課したら、民衆から反乱くらって広場で火炙りにされた。

 そのお陰で〝六回目〟では善政を敷けた。

 〝五回目〟の原因はあれだ。新しい魔導の探求で、すこーしクスリを使い過ぎた。あれで頭が沸いた。

 

 それで意識が醒めたら、炎がメラメラ燃えて火炙り真っ最中だ。

 世界広しと言えど、「あー! やっちゃったかー!」が最期の言葉の魔女は妾以外に居ないだろうの。

 

 「まあ、仕事をするとして。のぅ?」

 「何です? 陛下」

 「妾が呼んだ魔女は、どうなっておる?」

 「あんな資料ばら蒔いて、誰が来ると思いますか?」

 「え? 普通、魔女なら未知が現れたら飛び付くじゃろ?」

 「陛下、時代は変わりました。帝国のウルレイカ・ルーデルハイト大佐は、公国にてナジェーリア・リトリア将軍と神皇国の天内菊代様に連邦料理を振る舞っています。また、連邦も内政のゴタゴタで動けず、他の有力魔女も陛下が信用できないと」

 「なんじゃそれぇー!」

 

 豪奢な一室に悲痛な叫びが響いた。




「ふぅむ、油と脂に塩という麦酒の為にある料理であるね」
「おば様、よく食べますわね」
「体型維持なら心配いらないよ。私はどこかのだらしない魔女とは違うのだからね……!」
「なんだか、スゴい方向に飛び火した気がするな、ボク」
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