「やあ、ポ○であるよ……!」
こんな感じで
しかし、よく食べるし呑む。
公国、バーバヤーガ基地にて
「はっはっはっ、どうしたのかね? ルーデルハイト大佐、手が止まっているよ」
魔女は健啖家が多い。菊代もそうであるし、ウルレイカもそうだ。しかし、目の前のナジェーリアの飲食量は、少々魔女の常識からも逸脱している。
「いやね、流石のボクもここまで食べるのは予想外だよ」
「ふむ、そうかね? ならば、ほら、菊代も食べなさい」
「あの、おば様? 話の前後が繋がってませんのよ?」
パイプを口の端に挟む彼女を見れば、ほんのりと色白の頬に紅が差している。
ナジェーリアの酒量は知らないが、公国産の度の強い酒を一晩中呑み明かす彼女が、酒精の強さが半分に満たない麦酒で酔うのかとも思ったが、よくよくナジェーリアの周りを見てみると、帝国産の麦酒の瓶に混じって公国産のヴォートカの瓶が散乱していた。
俗に言う、チャンポンをした様だ。
「ほら、菊代。神皇国産の清酒もあるよ! それに、サシミもね……!」
フォークに赤身の短冊を刺して勧めてくる。
いつもスキンシップが過剰とは言わないまでも多い彼女だが、今日はえらく構ってくる。
何故かと考えていた菊代だが、ふとナジェーリアが片手で持つ大瓶のラベルに目がいった。
「あの、おば様?」
「何であるかね? 菊代」
「おば様が持っている大瓶ですけど、何故にそれがここに?」
ナジェーリアが持つ酒の大瓶は本来、公国にある筈の無いものであり神皇国でも一部の者しか、その存在を知らないものであった。
「これが、どうかしたのかね?」
「その酒は神皇国の
「む?」
菊代の言う通りに、ナジェーリアが持つ酒は神皇国において、神事に用いられる酒を醸造する神酒司でのみ生産されるものであり、諸外国へは輸出されていない。
神皇国でも、天内家を始めとした有力家以外では、それがどの様な酒なのか知る者は居ない。
そんな酒を、何故かナジェーリアが所持している。
菊代にはそんなつもりは無いが、口喧しい者達が見れば盗人だの何だのと、ナジェーリアを責め立てるだろう。
彼女がそれを聞くかは別であるが。
「ふむ、この酒かね? これは、満代に貰ったのだよ」
「御母様に?!」
「うむ、私がヴォートカばかりを呑んでいると、満代に本当に美味い酒を教えてやると言われてね……!」
「御母様ー!」
思わず叫ぶ菊代に、笑うナジェーリア。それを見て、呆れるウルレイカが口を横にしながら言った。
「菊代の家ってさ、神皇国でもかなりの家柄でしょ?」
「ま、まあ、そうですわね。天内家は太陽神の御遣いを預かる家ですから」
「神皇国の序列一位なのだよ!」
「で、その序列一位の先代巫女が、隣国の魔女に門外不出の酒を譲渡した、と」
「ル、ルーデルハイトも中々攻めてきますわね……!」
尊敬する母の不祥事に猛る菊代を宥めて、ウルレイカは素揚げにした鳥ももをかじる。
ーーあ、香辛料効かせ過ぎたーー
あまりにナジェーリアが食べるので、途中で味付けの加減を誤ってしまった様だ。舌に僅かだが、痺れがある。
「ルーデルハイト大佐、こちらを」
「クシャトロワ軍曹、これは?」
「ヨーグルトで作ったドレッシングソースです。味は甘味より酸味を強く出してますので、揚げ物にも合うかと」
厨房からやって来たシルヴィアが持ってきた小皿には、白く僅かに粘りのある液体が入っていた。
「ありがと」
「いえいえ~」
少し着けて食べると、ヨーグルト独特の酸味と僅かな甘味が油と香辛料の辛味を流してくれる。
蒸し野菜も挟んでいたが、連邦料理は香辛料と油を多用する。どうにも、口の中がそれ一色になっていて、気分を変えたかったところに、これは嬉しい。
「同志軍曹、私もそれをくれないかね?」
「あ! おば様、まだ話は済んでませんわよ!」
「人数分用意してますよ~」
シルヴィアが盆に小皿を、人数分載せてやって来る。
ウルレイカと居た時は緊張していたのだが、隣国のネームド魔女、しかも親子共に上官と親交があり、世界を救った英雄の娘で巨乳巫女、なんて者が現れたのだ。
シルヴィア・クシャトロワ軍曹のキャパシティは瞬間で破綻崩壊し、緊張などは逆に吹っ飛んでしまった。
ーー私みたいな一般魔女が、こんな所に居るなんて、何か起きたら死体も残らず消えるかな?ーー
公国において、〝対ナジェーリア・リトリア用最終決戦魔女〟と影で呼ばれる一般魔女は、何も起きるなと祈りながら、酸味の強い柑橘をドレッシングに使ったサラダを準備する事にした。
「まあ、いいではないか。満代も酒一本で崩れる伝統なら、最初から無いも同然だと言っていたよ?」
「くうぅ、御母様なら言いそうですわ……」
「というかさ、菊代のカーちゃん、マッシブな生き方してるよね」
「はっはっはっ、満代は伝統を軽んじる性分ではなかったが、無い方がいい無視した方がいい伝統なら、容赦なく切り捨てていっていたよ」
「巫女として、良いの、それ?」
「いやもう、母だからとしか……」
頭を押さえ項垂れる菊代、確かに記憶にある母、天内満代はそういった節があった。
普段はおしとやかなのに、有事の際にはそれらは鳴りを潜め、必要を突き詰め不要を切り捨てる。そんな人物だった。
それらが行き過ぎなかったのは、目の前の酔っ払いがちょっかい掛けていたからだろうが、母もそれが解っていたのだろうか。
〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃
「将軍、ご機嫌ですね」
「ああ、そうだな」
「やっぱり、天内さんが居るからですかね?」
「恐らく、な」
「将軍、言ってましたもんね。いつか、天内さんとお酒を呑みたいって」
いつか、嘗ての友と呑み交わした様に、もう一人の娘とも言えるあの子と、美味い酒を呑んでみたいものである。
「だが、あれは少々、酔いすぎだ」
「へ?」
ボリスが溜め息を吐き、シルヴィアが見た先には
「はっはっはっ、しかし菊代。君、凄い撫で肩ではないか……!」
「おば様? それは酒瓶ですのよー!」
空いた酒瓶を菊代だと勘違いして、ダル絡みしている酔っ払いの姿があった。
次回
ガラスの宮殿?