逆脚屋¦『やあ、二周年だ。祝えよ』
四脚屋¦『うるせえよ。今はな、シーマ様専用ゲルググの改造と塗装してんだ。シーマ様かわいいって話ならしてやる』
逆脚屋¦『ぶれねえな、お前ホント。漫画版シーマ様がかわいいと思うのだが、どうだ?』
四脚屋¦『まったく、お前は分かってない。そんなの当たり前だ。シーマ様がどこでもかわいいのは、酸素吸ったら二酸化炭素吐くレベルの常識だ』
逆脚屋¦『生命の神秘レベルか……!』
四脚屋¦『当然だ。義務教育で習っただろうが』
逆脚屋¦『お前、学校サボり過ぎて進学どころじゃなくなってたじゃねえか』
四脚屋¦『いいんだよ、俺はこの心の義務教育で生きてきたんだから』
相変わらず、奇言の塊だ。あ、俺のリックディアスも色塗ってよ。
リューヌ・テュレイルとシルヴィア・クシャトロワ
「では、同志軍曹。答えてくれ給え」
「ふえぇぇ……」
濡れ布巾を頭に乗せ、彼女は知恵熱とプレッシャーによって発生したエーテルの煙を散らしながら、情けない声を出した。
「そんな、〝魔法〟の始祖がどこから来たとか、一介の魔女に解る訳ないじゃないですか~」
「まあ、それもそうですね」
シルヴィアの介抱をする為に、彼女に膝枕をしていたリューヌが、彼女の頭に乗った温くなった布巾をよく冷えた布巾に取り替える。
「〝魔法〟の始祖、先程の話では、存在すら定かではない筈です。それを語れというのは、些か無理があるのでは?」
「確かにそうである。だが、私は彼女の〝考え〟が聞きたいのだよ」
「〝考え〟ですか?」
「そう、〝考え〟である」
「そうですか。であるならば、一度休憩されては如何でしょうか?」
リューヌの提案に、一同が頷きを見せた。
彼女の膝の上でプルプル震えながら、頭から煙を出しているシルヴィアの事もあるが、既に何人か飽きてきている奴が居るのだ。
モチベーション維持の為にも、ここで休憩を挟んだ方が良い。リューヌはそう判断した。
「陛下、宜しいでしょうか?」
「うむ、リーリヤとか小娘とか、ちょっと飽きとるじゃろうしの」
「はぁ? 誰が飽きてるだ? 飽きる以前の問題だ」
「いや、ブレーメイヤ。それもっとダメだと思う」
ウルレイカが半目でリーリヤを見ながら言った。
全員が全員ではないが、魔女は自身が興味のあるものにしか、その好奇心を動かさず、例え動かしたとしても直ぐに飽きる習性がある。
リーリヤは今回、ナジェーリアによって半ば拉致に近い形で連れて来られており、世界の危機と言われてもいまいち集中力が長続きしなかった。
ウルレイカに至っては、単純に長い会議が苦手なだけだ。
「では、休憩にしようではないか」
「〝魔神〟様も構いませんか?」
『まあ、いいだろう』
フレスアードが長杖に宿る〝魔神〟に問い、〝魔神〟はそれに了承の意で答える。
「それでは皆様、お茶をお淹れ致します」
「あ、じゃあ、私も手伝います」
「いえ、クシャトロワ様。それには及びません」
リューヌに膝枕されたままだったシルヴィアが、手伝おうとたちあがろうとしたが、リューヌはそれを彼女の額を軽く押さえて止めた。
「共和国建国妃の侍女が、来賓にお手を煩わせるなど、テュレイル家の名が廃ります」
言い切ると、シルヴィアの視線の高さが変わった。僅かに視野が下がった。
一体何があったのかと顔を上げると、リューヌ・テュレイルが〝五人〟居た。
「ふぇ?」
「相変わらず、見事なものじゃのう」
「お褒めに預かり光栄に御座います。陛下」
膝枕をしているリューヌが頭を下げると、他の〝四人〟のリューヌも同様に頭を下げる。
「え? リューヌさんが五人?!」
「クシャトロワ軍曹、落ち着きなって。彼女の通り名忘れた?」
「あ、〝沼の魔女〟」
「その通りで御座います。クシャトロワ様」
シルヴィアの乱れた癖毛を直しつつ、五人のリューヌが肯定する。
彼女が行ったのは、エーテルの〝沼〟である己の分化だ。高濃度のエーテルで構成された彼女には、決まった姿形も数も無い。彼女は自分が知覚し認識が可能であれば、己とほぼ同等の性能を持つ〝自分〟を複製分化する事が出来る。
だが、あまり複製し過ぎると、オリジナルとなる己が薄くなり、己を認識出来なくなってしまい、薄い自我を持った分体ごと崩壊してしまうというデメリットもある。
「では、リューヌ01から04、役目を果たしなさい」
リューヌの指示に、分体達が一斉に動き出す。
シルヴィアがカートに積んできていた茶と茶菓子が、揺れもなく各人にサーブされ、分体達は一端役目を終えると、邪魔にならない位置に控える。
「それでは皆様、何なりとお申し付けください」
リューヌはそう言うと、各人が各々好き勝手に休憩に入っていく。
「しかし、あれであるね。テレジア、彼女はやはり優秀な侍女である」
「当然じゃろ、この妾の侍女じゃぞ」
「まったく、この手の掛かるなんちゃって幼女の世話をしているのだから、実に優秀であるよ」
「あァ?」
テレジアの眉間に皺が寄り、ナジェーリアのパイプから紫煙が燻る。
「おやおや、どうかしたのかね?」
「若造が、生意気な口を聞くではないか」
「はっはっはっ、今の君よりは年上であるよ」
テレジアの米神から何か音がして、ナジェーリアがゆっくりと大量の紫煙を吐き、リーリヤが溜め息混じりに腰の斧に手を添えた。
ここはテレジアの魔法杖〝パンション・ヴェルサイユ〟内部、エーテルは基本彼女の支配下に置かれているが、全魔女中最大級の内燃エーテル量を誇るナジェーリアならば、問題無く戦闘が可能だろう。
「はいはい、やめてくれません?」
響き渡る柏手と共に声が届いた。菊代だ。
彼女は二人に半目を向けると、ある方向を指差した。
「この様な戦闘をするには狭い部屋で戦闘を行えば、それ相応の被害が出ますわ」
菊代が指差した先には
「あわわわ……!」
震えるシルヴィアと、彼女を守る様にしてリューヌが新たに形成した分体六体を盾代わりにしていた。
「それに、共和国の最重要人物と公国の象徴的魔女の争い、神皇国の巫女として見過ごす訳には参りませんの」
「……ふむ、菊代。一つ聞こう」
「なんですの?」
「止まらなければ?」
「御母様からは、言って聞かない相手は聞くまで射て、と教わってますわ。後、形が無くなったら楽とも……」
「はっはっはっ、テレジア。茶でも飲もうではないか。同志軍曹が淹れた茶であるよ」
「うむ、お主が重用する者が淹れた茶じゃ。楽しみじゃの」
笑顔で魔法杖の砲口を向けてくる菊代から、白々しく目を逸らす二人。
〝巫女に砲撃戦を挑む奴はモグリか自殺志願者〟
世界の絶対的な常識であり、魔女養成学校の教科書にはっきりと記載され、実際に現役の巫女を招いて砲撃戦を体験させて、調子に乗った若い魔女と魔導師の鼻っ柱をへし折った上で擂り潰すという授業も行われている。
そして
「仲良し、仲良しであるよ、私達は」
「そうじゃぞ。だから、それ下ろせ。な?」
「……次はありませんわよ?」
争いの停止を確認したら、武装を解除しなくてはならない。神皇国の巫女として、諫め役として、それは絶対のルールである。
ここで射てば、将来の自分の仕事が減って楽になるかもしれないと思ったのは、気のせいにしておこう。
「ま、まあ、あれである。休憩がてら一つ話を進めようではないか。同志軍曹」
ナジェーリアが気が抜けた様に紫煙を吐いて、言った。
その視線と紫煙が向く先には、未だにリューヌの膝枕から解放されていないシルヴィアが、プルプル震えていた。
「は、はい! な、なんですゅか、将軍!」
「今のをどうやって発音したのか気になるが、今は置いておこう。同志軍曹、君の〝考え〟を聞かせてくれ給え」
「〝考え〟ですか? え~と、何の〝考え〟でしょうか?」
「〝魔法〟について、というよりは、〝魔導〟を含めて君はどう思っているのかね?」
ナジェーリアの問いに、シルヴィアは頭から霧散するエーテルの煙を更に濃くした。
リューヌが慌てて、濡れ布巾を新しいものに代えてくれる。
何というか、自分が膝枕されているという事もあって、全員に見下ろされているこの状態。公国だと、不敬とか言われてもおかしくない。まあ、この将軍はそんな事一切気にしないだろうが、何故ウルレイカとリーリヤは自分の胸を見てくるのか?
しかし、シルヴィアは困った。
〝魔法〟と〝魔導〟、これ等についてどう思っているのか。
どうもこうも、自分が産まれた頃には既に有ったし、それが当然の存在だ。これが無くなれば、この世界はたちまち立ち行かなくなる可能性だってある。
それについてどう思っているのかとか、難し過ぎる問いだ。
というか、自分は何時まで膝枕されているのか。やはり、あれだろうか?
自分が情けないのと、侍女式魔導生物の本能的な何かが自分を膝枕させているのだろうか?
確か、リューヌの様な侍女式
解らない。なので、巫女の茶菓子を掠め取ろうとして、失敗している将軍の問いを考えてみる。
〝魔法〟、知らない訳ではないが、見た事は無いに等しい。
〝魔法〟を扱える魔女は極少数に限られてくるし、〝魔法〟より〝魔導〟の方が便利なので、殊更使う事も無い。
今は、何かの祝い事や養成学校の特別授業で見られる位だ。
それら二つに対する考え、ある訳が無い。
大尉にそれを言えば、なら考えろと言われるだろうが、無いものは無いのだ。
また濡れ布巾が新しいものに取り替えられた。視線を上げて、リューヌの顔を見る。胸で見えない。しかし、相当な美人だという事は知っている。
自分とは違う真っ直ぐな黒髪、切れ長の冷ややかな美貌、魔導生物の家系だと、美人になるのだろうか?
ーー違う世界だな~とーー
自分の様な、通り名の元になる逸話を持っていない魔女とは違う別世界の住人、シルヴィアはそこまで考えると、ふとある事を思い出した。
ーーそういえば、初めて〝魔導〟を見たのってーー
確か、幼少の頃に祖母に無理を言って連れて行ってもらった魔導サーカス団のアクロバティック飛行。
娯楽に乏しかった故郷での思い出だ。よく覚えている。
あれを見て、自分は魔女になりたいと思ったのだった。
公国で魔女になるには、軍人になった方が手っ取り早いという事もあり軍人となり、そして今に至る。
あの時も思った事がある。
将軍達、ネームド魔女が扱う〝魔導〟を見た時も、同じ事を思った。
自分とは違う世界の住人。
「まるで、この世界のものじゃないみたい」
彼女の小さな呟きに、魔女達が目を見開いた。
気が向いたら、没キャラまとめでも書こうかな?