いせまじょ ~異世界の魔女達の夜~   作:ジト民逆脚屋

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やあやあ、じりじりとこの世界で、何が起きて何が起きるのかが見え始めたよ!

天内満代 フレスアード
シルヴィア
天内菊代
リューヌ
ナジェーリア
イングヒルト



ウルレイカ

テレジア







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リーリヤ


上から、何の順番で並んでいるかは、読者の皆様と次第


道化と騎士

 ーータプタプタプタプ揺らしやがって! 嫌味か、この野郎……!ーー

 

 リーリヤは額に青筋を浮かべながら、己の魔法杖である斧鉞に割砕の魔導を乗せて、慇懃な笑みを貼り付けた道化に降り下ろした。

 リーリヤ・ブレーメイヤは、公国でも上位に入る良家の出でもあり、本人もその家名に恥じぬ実力者だ。

 魔女、軍人としての実力、地位、優秀な部下、人に物に恵まれた彼女だが、それでも得られぬものがあった。

 

 それは、伴侶と胸部軟質装甲だ。

 ネームド魔女は所謂エリートで、高嶺の華。世の男達が近寄り難い、そういった面がある。しかしその反面、それを承知で権益や、おこぼれに肖ろうと近付いてくる輩も少なくない。

 なので、そういった輩を片っ端から叩き返していたら、男が寄り付かなくなった。代わりに、部下の魔女や新任の魔女がえらく寄ってきた。何故だ?

 

 しかし、しかしだ。今はそれはどうでもいい。

 そう、今はこいつだ。カタリーナ・フィーベルと名乗った、踊り子だか道化だか分からぬ格好の女。

 カタリーナの胸部軟質装甲は、重装甲だった。

 リーリヤは、なんと言うべきか、体質的に脂肪の着きにくい、所謂筋肉質な体だ。生まれてこの方、豊かな胸部装甲に臀部装甲には縁が無かった。

 それを恨めしく思ったりもしたが、自分の家系を見て諦めた。ブレーメイヤ家は代々軽装甲だった。

 

 「はれぇ!?」

 

 割砕の魔導がエーテルの飛沫を散らし、カタリーナを飲み込み、ガラスの宮殿を揺らす。割りと本気で降り下ろしたのだが、罅が入る気配すら見えないのは、テレジアの腕前故か。

 しかし、カタリーナは人間。戦場すらも割り砕く、リーリヤの割砕を無防備に浴びればどうなるか。ミンチが一部残っていれば、奇跡だろう。

 

 「うわぁ、グチャグチャ……」

 

 菊代があまり巫女らしくない発言をしたが、母親の満代はもっと過激だったのでスルーしておく。

 揺れる宮殿に合わせて、タプタプ揺れるフレスアードの肉体も、まあ許す。奴は王国での役割上、あの露出過多な服装がフォーマルだから。

 だが、あのムカつく道化は許さん。

 

 「生きてるなら返事しろ、殺すから。死んだなら死ね、殺すぞ」

 「はっはっはっ、同志リーリヤ。めちゃくちゃであるね」

 「喧しい」

 

 あの貼り付けた笑み、妙に胸部やら臀部を強調する露出の仕方の奇抜な衣装、間の抜けた喋り方、全てが気に食わない。

 何故かは解らないが、噛み合わない相手というものは確かに存在するのだ。

 

 「リューヌ、そこな小娘を守っておれ」

 「畏まりました」

 「え? え? 一体何がどうなって?」

 

 背後で、誘拐宣言された同僚の部下が混乱しているが、それに関してはこちらも同じ様なものだ。

 軍人という、戦う魔女としては、最底辺に位置する実力しか持ち合わせていないシルヴィアを誘拐して、何の意味があるのか。

 事務員や給仕としてなら、とても優秀な軍人という、ちょっと意味の分からない奴だが、仮にも公国最強部隊の隊員、人質にでもする気か。意味無いのに。

 

 「クシャトロワ様、危険です。お下がりください」

 

 リューヌの分体であるリューヌ02が、状況を確認しようとするシルヴィアの前に立ち塞がると、

 

 「そぉうですよぅ、危ないですぅ」

 

 リューヌ02の胸部が、床から生えてきたものに貫かれた。

 そして

 

 「いただきぃ!」

 「あ!」

 

 リューヌ02を貫いた〝白〟が、シルヴィアへと伸びた。

 

 

 

 

 

 〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃

 

 

 

 

 

 「さて、さてだ。アビゲイル、ちょっと話してくれないかい? ああ、勿論目的だよ。ん?」

 「誰が、貴様らに話すか……!」

 「そうかいそうかい、じゃあ、話したくなる様にしてやろう」

 

 ナディアが、アビゲイルの細剣を絡め取っている鎖を強く引き、ポンチョから新たに垂らしていた鎖を、体勢を崩したアビゲイルに巻き付ける。

 

 「舐めるな!」

 

 アビゲイルが、拘束されていない左腕を横に振ると、空だった左手に新たな細剣が握られていた。

 鎖を回避するのではなく崩した体勢のまま、アビゲイルは己を拘束しようとするナディアの鎖を穿った。

 

 「……驚いた、驚いたね。アタシの鎖をよくまあ、簡単に断つじゃないか」

 「同じエーテル製、強度の高い方が勝つに決まっている。だが、脆い継ぎ目を断ったという意味では、私の負けか」

 

 ナディアが掲げて見る鎖は、アビゲイルの言う通り、確かに鎖の輪にある継ぎ目を断っていた。

 

 「まあ、まああれだ。変な娘だね、あんた」

 「変? 私は変か?」

 「いやいや、あんたは礼儀正しい良い子さ。余程、きちんと愛され、ちゃんと教えられたんだろうね」

 「いや、その、……うん」

 

 ーー本当、素直な子だねーー

 

 ナディアが見るアビゲイルは、礼儀正しく素直な子だ。

 確かに、出会い頭にボリスを串刺しにしようとはしたが、先程その非を認めている。

 今だって、愛されていた事を素直に認めた。この年頃なら、目上の者からのこう言った問いには反抗するだろうに。

 本当に、しっかりと愛され育ったのだろう。

 だからこそ

 

 「あんたみたいな良い子が、本当にこんな場所になんの用だい?」

 「だから、言った筈だ。シルヴィア・クシャトロワの身柄だと」

 「人質、人質にでもして、将軍か誰かから金でもせびるかい? ん?」

 「馬鹿にするな! 誰がその様な下衆な真似をするか!」

 

 問い掛けに対し、怒りの感情を露にしてアビゲイルが反論する。

 その顔には、怒りとナディアに対する失望があった。

 本当に素直で真っ直ぐな良い子だと、ナディアは鎖を緩めない様手繰る。

 

 「アビゲイル、アビゲイル・フランシア」

 「……なんだ? ナディア・イヴェノヴァ」

 「あんた、あんたは本当に素直な良い子だ。だから、アタシはあんたに怪我をさせたくない。捕まってくれるかい?」

 

 油断なく、ナディアが鎖を手繰り、アビゲイルの右腕を封じ続ける。

 注意するべきは、あの細剣による刺突。単身他国に潜入して、その翌日には何事も無かった様に、将軍の側付きをしているあの大尉の反応が遅れる様な速度の刺突。

 

 ーー射程はあの子のエーテル操作技術次第ーー

 

 アビゲイルのエーテル操作技術がどれ程かは、まだ判断出来ないが、現在地である基地は余裕で範囲内だろう。

 

 「ナディア・イヴェノヴァ。済まないが、その要求は却下だ。本当に済まない」

 「そうかい。なら……!」

 

 ナディアが動きを見せた瞬間、アビゲイルの影から太い男の腕が伸びた。

 

 「なっ?!」

 「アビゲイル、アビゲイル、あんたは本当に素直な良い子だ。だがね、少し視野が狭い。家の大尉の能力も加味せずに、アタシだけに気を割きすぎさ」

 「くっ、ボリス・カレンディット。貴様、〝影渡り〟か!?」

 

 アビゲイルの影から飛び出てきたのは、ボリス・カレンディット、通称〝影渡り〟の魔導師。

 彼は、ナディアが伸ばした鎖を手繰り寄せ、アビゲイルを拘束する。

 

 「あまり、大声を出さないでもらおうか。中に居る将軍の耳に入れば面倒だ」

 「いやいや、満代の娘が来てるなら、そっちに構ってるだろうさ」

 「くそっ! 離せ!」

 

 アビゲイルが抵抗するが、ナディアの鎖で拘束された上に、ボリスに腕関節を極められていて、ろくな抵抗になっていない。

 それをナディアは見ながら、アビゲイルにある事を問うた。

 

 「アビゲイル、アビゲイル・フランシア。幾つか聞いてくれるかい?」

 「……話す事など無い」

 「話せ、話せとは、言ってないんだがね。まあ、いいか。アビゲイル、あんた何処から来たんだい?」

 

 ナディアの問いに、アビゲイルの体が強張るのをボリスは感じ取った。そして、この反応は何かが彼女琴線に触れた証拠だ。

 ボリスは油断なくナイフを抜くと、アビゲイルの首元へ刃を当てる。

 

 「あんた、あんたくらいの腕前となると、何処からか噂みたいな形で話を聞くものさ。だがね、アタシはアビゲイル・フランシアなんて名前は聞いた事が無いし、あんたが家の箱入り娘を狙う理由も皆目検討がつかない」

 「………」

 「黙り、黙りかい。しかしまあ、身代金目的じゃないとはっきり否定したんだ。家の箱入り娘に、何か秘密がある。そして、あんたはそれを知っている」

 

 ナディアの言葉に、目を伏せ黙秘を貫くアビゲイルだが、ナディアからしてみれば、分かり易い反応だ。

 人間、嘘ややましい事や隠し事があると、他人から目を逸らす。今のアビゲイルはその典型、ナディアはもう一度問い掛けた。

 

 「なあ、なあ、アビゲイル。あんたの家は何処だい?」

 「……い」

 「ん?」

 「家など無い……!」

 

 瞬間、背後の宮殿の扉が開き、アビゲイルの周囲に〝白〟が爆ぜた。




同志軍曹の謎?
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