次の日の朝には雨は止んでいた。朝から咲と図書室に来ているところに竹井先輩が現れた
「何が貸出中だって?」
「生徒会長!」
「学生議会長」
「こまいのぅ」
竹井先輩の後ろには緑のリボンをしたメガネの人もいた。染谷(そめや) まこ先輩だろう
「どれどれ」
「覗くなよ」
竹井先輩は本来図書委員の人だけしか見てはいけないだろうパソコンを覗き込み、咲が借りようとしている本を確認しているようだ
「あぁ、この本持っとるよ。全集もある。なんなら貸そうか?」
「え、いいんですか?」
「その代わり、宮永さんと菊池くんに一つお願いがあるの」
「オレもですか?」
「えぇ」
竹井先輩から言われたお願いとは今日の放課後もう一度麻雀を打ってくれってことだった。オレは打ってないが
そして放課後オレは咲と昨日の旧校舎に赴いた
「待ち人来たる。須賀くん、優希呼んできて」
「あぁ、はい」
「おぉそうか、この文学少女が例のプラマイ0子か」
「今頃気づくか」
「じゃあ君はなんなんじゃ?」
「知りませんよ」
そりゃ昨日打ったのは咲だけだから会話の中にオレが出なくても仕方ない。そして京太郎が片岡を連れてきた
「宮永さん、和、まこ、優希」
「咲ちゃんだ」
「この四人で二回戦を戦って」
「会長やらないんですか?」
「あたしが入ったらみんな飛んじゃうでしょ」
「ははは」
「言ってんさい」
「今回は東風戦、赤4枚ね」
「やった!」
「って、それどう意味っすか」
「わりゃそれでも麻雀部員なんか?」
「最近の麻雀は東四局と南四局からなる半荘戦が主流だが今からやる東風戦はその半分、東一局から東四局までのたった四局での勝負となるんだ。わかったか?麻雀部員の京太郎くん」
「なんでお前は一言多いんだよ、翔。ということは時間が半分になるってことか?」
「まぁ簡単に言うとな。そんで赤ってのは赤く塗られた五の牌の赤ドラな。今回はこれが4枚入るってことだ」
「えっ!ドラが8枚になる!そんな恐ろしいことが〜!」
よくわからんが説明を聞いた京太郎がムンクの叫びみたいにクネクネしだした
「25000点持ちの30000点返しね」
「はーい」
そんな京太郎はどうでもいいかのように対局は始まった
「咲、お前の自由にやっていいぞ?」
「わかった」
「咲ちゃんはまたプラマイ0にするのか〜?」
さてどうなるかな
ー東一局ー
「きたー!親リーチ、行っくじぇー!」
早いな。まだ二巡目だぞ
「ドン!立直、一発、自摸、ドラ3親ッパネ!」
それに点数も高い
「いきなりかよ」
「これ、見てみそ」
竹井先輩がパソコンの画面を京太郎に見せる
「優希の過去の平均獲得点数のグラフ。東場では強いけど南場では失速して弱くなるタイプね」
「天才なんですけどね。集中力が持続しないのだ」
「飽きっぽいの間違いでは?」
「それだ!」
ー東一局 一本場ー
「ロン、8300です」
「今染谷先輩が捨てた牌だじぇ…?」
「直撃狙いです」
今度は原村が片岡から満貫直撃を食らわす
ー東二局ー
「それだ!1000点」
「なぬ!」
「さくさく行くじぇー」
「逃げる気ですね、優希のやつ」
「そうね、おもしろい展開ね」
おもしろい?それはどういう意味のだ?
ー東三局ー
十巡目、咲が聴牌した
「張っとる?」
「はい」
染谷先輩は咲にそう確認して牌を切り出す
「ロンです」
「あぁぁぁぁ」
「タンピン、ドラドラ、
「あー、いたたたた」
ー東三局 一本場ー
「これで連荘」
「今回のルールでは100の位を五捨六入で計算する。だからプラマイ0は29600点から30500点の僅かな範囲だけ」
竹井先輩が京太郎にそう説明していると
「ツモ!面本自摸、中、ドラ1。3000・6000の一本付けじゃ!」
「いやー!そんな長い呪文聞きたくないじぇ!」
染谷先輩のハネ満で咲の親被り。まぁでも5200点なら狙いやすいか
ーオーラスー
九巡目、今度は咲が面本聴牌。出和了り5200でちょうどプラマイ0だな
「うりゃ!」
「…」
咲は片岡が切った和了り牌の{五筒}をスルー
そして次の原村が切った山越しの{赤五筒}もスルー。まぁ咲の自由に打てって言ったのはオレだからな。今回も勝ちには拘らないらしい
「なぁ翔」
「ん?」
「咲はなんで和了らないんだ?」
咲の打ち方に疑問を持った京太郎がオレにこっそりと聞いてきた
「それはだな、片岡の{五筒}で和了ればプラマイ0完成だがトップで丘が付くし、原村の{赤五筒}で和了ったらプラマイ0じゃなくなる。今日の咲もプラマイ0しか見ていないからかな」
オレは卓から目を離さないで京太郎に説明した。すると
「リーチ!」
立直棒、そう来たか。原村は何が何でも咲にプラマイ0をやらせない気だな。だけどそれで止められるほど咲は弱くねぇ
「これって場に1000点増えたってことですよね?」
「そ、こうなるとプラマイ0にするには4100から5000点まで…つまり、70符の2翻のみ」
「70符って!」
京太郎は驚いてホワイトボードにある点数表を見る
「部の記録を見る限り、70符なんて1000局に一回出るかどうか」
「役満以上の役ですか」
「それを2翻で作るとなるともっと難しい」
立直棒を出した原村はコーヒを飲みながらそんな役出るわけがないかのように余裕の感じだ
「大丈夫ですよ」
「え?」
「咲ならその不可能を可能にしますよ」
オレはそう言って全く心配せずにその局を見守る。そして
「カン」
「「っ!」」
「ふぇ!」
まぁ70符2翻なんて滅多に出ないもので上がるなんて運も必要だ。それもこの空間を支配するだけの超人的な強運がな。だが咲にはそれがある!!
「嶺上ツモ。70符2翻は1200・2300」
オレはその結果に笑顔が出る。70符2翻を和了っただけではなく嶺上開花というこれもまた滅多には出ない役出る和了った先に原村は呆然とその手配を眺めている
「すげぇな!」
「さすがだな、咲」
「うん。ありがとう、翔くん」
咲はなぜかオレをジーっと見上げてきたのでオレは頭を撫でてやると少し頰を赤くして顔を緩める
「咲ちゃんはまたプラマイ0。昨日のを入れて四連続、ありえないじぇ…」
「宮永さん」
「あ、はい!」
「麻雀は勝利を目指すものよ?」
「はぁ…」
「次は、勝つための麻雀を打ってみてくれないかしら」
「う〜ん…翔くん、どうする?」
「さっきも言ったがお前の好きに打っていいぞ」
別にオレに一々確認取んなくていいのにな。何でか昔からオレに指示を仰いでくるんだよね
「…わかりました」
「えっ!」
「わかりましたって!」
「うちらには確実に勝てるっちゅうことか」
咲はそんなこと思ってないだろうが、まぁその通りだな。実際咲が勝つ麻雀を打ったら、全員
ー東一局ー
「リーチ」
いきなりの咲の先制ダブル立直
「ダブリー!」
「はい!?」
そりゃ驚くよな。でもこんなんで驚いてたら後々持たないぞ?
「ダブル立直、一発、自摸。2000・3900」
「そそそそういうのはうちのお株なんですけど!」
「積み込みか!?」
「全自動卓です」
原村はこれを一時の運だとか偶然とか思ってんだよな
ー東二局ー
「カン」
「ツモ。嶺上開花、4000オール」
ー東二局 一本場ー
「カン」
「もう一個、カン」
「カン」
「れ、連槓!」
「ツモ。嶺上開花、清一色、対々和、三暗刻、三槓子。8100オール」
ー東二局 二本場ー
「カン」
「また!?」
「おい、まさか!」
「ツモ、四暗刻」
「や、役満!」
そこで全員が飛んで終了となった。手も足も出てなかったな
「あ、ありえないじぇ…」
「そんな…」
「ふぅ」
「お疲れ、咲」
「うん、ありがとう。翔くん」
そこで原村が部屋から走り去ってしまった
「またですか!」
「また?」
「でも咲ちゃん強すぎるじぇ…」
「あははは…」
「そうそう、宮永さん。本はここにあるから。待ち時間に読むようだから部に入れば読み放題」
「勧誘下手っすか」
本をダシに咲を部に引き入れることがバレバレだ
「さて、今度は君の番だね」
「オレもやるんすか?」
「当然!彼女にだけやらせる気?」
「か!彼女!?」
「咲はそんなんじゃないですよ。ただの幼馴染ですよ」
「あら、そうなの。ずっと一緒にいるからてっきり」
「咲は目を離すとすぐ迷子になるからな」
「つうことです」
オレの代わりに京太郎が言ってくれた
「まぁいいわ。卓についてちょうだい。和の抜けたとこにはわたしが入るわ」
「はぁ…わかりました」
オレは拒否権はなさそうだと思いながら席についた
ー東一局ー
今気づいたがさっきの局もその前も昨日もずっと始まりの親は片岡からだ。原作通りだな。これもある意味すげぇな
「翔くん…」
「言うな。オレのせいじゃねぇよ」
手牌をキレイに並び替えたら背後の咲が呆れた声で言ってきた。なぜなら
{九萬九萬七索八索白白白中中中發發發}
だからだ…
そしてそれを知らない染谷先輩が何の疑いもなく{九索}を出してしまった
「ロン」
「なっ!」
「じぇ!?」
「…っ!」
「大三元。終了ですね」
「マジかよ…」
「翔くん、それはさすがに酷いよ…」
「仕方ねぇだろ…牌達に言ってくれよ」
全自動の卓だし完全に運だろ。なのにオレが悪いみたいに見てくるのやめて、咲
「まいったわね…」
「こが無理じゃ…」
「人間じゃないじぇ…」
「失敬な。ちゃんと人間だ」
失礼すぎるだろ
「でもこれはぜひ部に入ってもらいたいわ!」
「はぁ…どうする?翔くん」
「咲に任せるよ。入ったとしても男子は個人戦だけっぽいしな」
「申し訳ないけどそうなるわね。今の所男子部員は須賀くんだけなんよ」
「でも咲が入れば女子は五人揃って団体戦が出れるってわけですね」
「その通りよ」
「だから咲が決めな」
「う〜ん」
「まぁ実際全国には強い人もいるし、もしかしたら照さんとまたできるかもよ?」
「そっか」
「待って、照ってあの宮永 照のこと…?」
「?そうですよ?」
「まさかあの全国チャンピオンと知り合いなの…?」
「えぇ、まぁ。てか全国に出てる何校かの強豪校には知り合いがいますけど」
「そうなの!?例えば!?」
「う〜ん。永水女子の神代 小蒔さんとか姫松高校の愛宕 洋榎さん、あとは個人戦二位の荒川 憩さんとかですかね」
「有名人ばっかじゃない!どうして!」
「翔くん、小さいころからお父さんの都合で引っ越しを繰り返してたんです」
「そういうことです」
「そうだったのね。それで、入ってくれるかしら」
「…はい。よろしくお願いします」
「てことはオレも入ることになったんで、よろしくお願いします」
「えぇ、ありがとう。歓迎するわ」
こうしてオレと咲も“清澄高校麻雀部”に入ることになった