牌に愛されし少年   作:てこの原理こそ最強

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第20話

 

いよいよ合宿日当日、バスの中は緊張と楽しみでとても静か……んなわけがなかった

 

「はいあなた、あ〜ん」

 

「あなたじゃねぇ!」

 

「いやん、怒っちゃや〜よ。あ・な・た」

 

今日も優希と京太郎の茶番は始まっていた

 

オレはというと…

 

「…」

 

「…zzz……」

 

「…すぅ…すぅ……」

 

手に本を持ってはいるが右には咲が、左には和に寄りかかられていて二人とも眠っている。朝早かったから眠いのはわかるんだが、何もオレによりかからなくてもいいじゃないか

 

「おぉおぉ、翔はモテモテじゃな」

 

「からかわないでくださいよ」

 

この様子を見て染谷先輩がニヤけながらからかってきた。オレはそれに軽く答えて本に目を戻す

 

「見えたじぇ!」

 

優希の声とともにまだ寝ている咲と和以外のみんなの目線は見えてきた合宿所に向いた

 

 

 

 

「着いたじぇ!」

 

「お、重い…」

 

今回泊まらせてもらえる部屋に行き、それぞれ荷物を降ろした。朝も思ったが京太郎はなぜか大きいリュックサックを背負っていた。様子を見る限りすごく重そうだ

 

「…」

 

「どうした?咲」

 

「すごいな〜って思って。学校の合宿所なのに旅館みたい」

 

「そうですね」

 

「人気あるけぇ、夏が近づくとスケジュールいっぱいになるんよ?」

 

「さて、着いて早々だけど…」

 

「早速特打ちか?」

 

部長が何やら始めるのか肩を回し始めた

 

「まずは…やっぱり、温泉よね!」

 

「誰に言っとるんじゃ…」

 

昔の芸人さんとかならここでずっこけるんだろうか…でもまぁ温泉好きだし、ありがたいな

 

「あ、須賀くんと菊池くんには残念だけど、ここには混浴はないわ」

 

「別に期待してないのでいいですよ」

 

「混浴!うへへへへ」

 

「このバカは…」

 

混浴という単語を聞いた瞬間京太郎は鼻の下を伸ばす。オレはそれを見てこれが幼馴染だと思うと頭を抱えてしまう

 

「あの、翔さん…」

 

「ん?どうした?和」

 

「さっきはすいませんでした」

 

「さっき?あぁ、いいよ。朝早かったもんな」

 

「は、はい…」

 

みんなが温泉に向かう中、突然和がオレに謝ってきた。おそらくバスの中でのことだろう。気にしなくていいのにな

 

「ほら京太郎。そんなバカ面してないで、オレ達も行くぞ」

 

「の、和の…うへへへ」

 

「ダメだこりゃ」

 

体を揺すっても帰ってこない京太郎はほっといてオレ一人で温泉に浸かりにいった

 

 

 

 

温泉はめっちゃ気持ちよかった。それに温泉と言えば松実館を思い出す。玄さんと宥は元気かな…今度電話してみるか

 

「ただいま戻りました〜」

 

お風呂の後だからなんとなく語尾が伸びてしまうな

 

「おかえり」

 

「翔!よくも俺を置いて行ったな!」

 

「何度も呼んだのに返事しなかったお前が悪い」

 

「うるせぇ!そのせいで俺だけ風呂入れなかったし、麻雀卓運ばされるし!」

 

「それはオレのせいじゃねぇだろ」

 

京太郎は全てオレのせいにするがオレは軽くスルーする

 

「それで、和のなんかあったのか?のぼせた?」

 

「うぅぅぅ…」

 

「しょ、翔くんは気にしなくていいの!」

 

「そ、そうか…」

 

和の顔が赤いことに気づいて聞いてみたら咲に止められたので聞けなかった

 

「さぁ!始めるわよ!」

 

そして部長の声とともに本格的に合宿が始まった

 

まずは特打ちで全員交代交代で打ちまくった。初日は特に部長からの指示もなく特打ちで終わった。ちなみにオレと京太郎は女性陣と寝るわけにもいかないので別室で寝た。ていうか普通に用意されてた

 

 

 

 

次の日、いつの間にか枕元に置かれていた目覚まし時計の音で目を覚ました

 

「…あん?こんなのあったっけ…」

 

「ほら!朝よ!早く起きなさい!」

 

まだ寝ぼけ状態のところに部長がやってきた。そしてその状態のままランニングをしに行った。それから帰ってきて朝風呂と朝ごはんを堪能し部屋に戻ってきた

 

「今回の合宿のテーマは新一年生の実力の底上げ。あなた達には今度の大会で活躍してもらう必要があるの。いい?」

 

「はい」

 

「わかったじぇ」

 

「は、はい」

 

「もちのろんです」

 

「あ、オレもか」

 

今日からはそれぞれにあったメニューをこなすみたいだ

 

「じゃあまず、優希はこれ」

 

「何これ?」

 

「算数のドリル」

 

「えーーーーー!!!!」

 

「これを一日一冊読み終えること」

 

「えー、なんでこんなものを…?」

 

「あんた、点数移動計算ダメすぎるけんね」

 

「団体戦では互いの点数の把握が重要だからね」

 

「う〜…」

 

麻雀の特訓ではなく計算ドリル、しかも小学生用のを渡された優希はやる気が一気に下がったみたいだ

 

「それから、和」

 

「はい?」

 

「あなたはネット麻雀では長期スパンで高いトップ率を取る理詰めの打ち方ができてるわ。でもリアルの対局ではネットほどの成績を出せていない…その場の勢いに流されたり、ミスが目立ったり…」

 

「そう、でしょうか…」

 

「この前のうちの店でもそうじゃった」

 

「はぁ…」

 

「いくらプロが相手だからって普段の和ならもっと善戦できたはずだ。和はそれだけの実力を持ってる」

 

「そう、ですか…」

 

和は頰を赤くして前に向き直した。今照れるとこか?

 

「これは私の推測だけど、ネットにはないリアルの情報に惑わされてるのかも」

 

「情報?」

 

「そ、麻雀だけじゃない麻雀以外の情報。否応無くあなたの精神を揺るがせるもの」

 

「例えば、咲や翔の存在とかな」

 

「えっ!」

 

私は染谷先輩の言葉に驚いてオレと咲の方を向く

 

「そ、そんなことありません…」

 

だから照れる要素ないだろ

 

「だからこの合宿中は誰かとずっと対局すること。リアルにまず慣れることね」

 

「はい…」

 

「それから、大会まで毎日一時間杯をツモって切る練習を繰り返してみて?」

 

「それって、素振り?」

 

「そ、それにどんな意味が…?」

 

「ネットにはない、雀卓での動作が思考を鈍らせてるのかも。だからとにかく牌をツモって捨てる動作に慣れて思考を鈍らせないようにするのが狙い」

 

「適当な思いつきのような気がする」

 

「にゃは、のどちゃんは牌より自分のパイの使い方を覚えるべきだじぇ」

 

「へっ!」

 

「なぜ、オレを見る…?」

 

今日和がオレの顔を見て赤くしているのを見るのは何回目だろう

 

「逆にそんなリアルな情報を読み取ってるからこそ強人もいる。宮永さんや菊池くんなんかは多分そうね」

 

「なんかって…」

 

「あははは…」

 

「普通じゃないものまで見えてそうね。そうだからなのかはわからないけど宮永さんはプロに勝った」

 

「そうじゃね」

 

「でも、もしかしらそんなリアルの情報が役に立たないときが来るかもしれない。だから宮永さんには本当の牌を使わないネット麻雀を打ってみたらどうかしら」

 

「なるほど」

 

そういえば咲は普通の麻雀しか打ったことないし、こいつがパソコンをいじってる姿なんて見たことなかったな

 

「ネット?」

 

「そう、牌の情報以外見えない相手と戦うの」

 

「でも私、パソコンとか持ってなくて…」

 

「えー!」

 

「ほんま!?」

 

「大丈夫。ほら、須賀くん」

 

「ふふふん、やっと俺の出番ですね。どうだ!」

 

京太郎は持ってきたでっかいリュックサックから部室にあったパソコンを出した

 

「すごっ!持ってきたんだ!」

 

「ノートでいいのでは?」

 

「うぅぅ、部にノートでないし!ていうか、重かった…」

 

「よしよし、偉いぞ〜!」

 

「これを使ってやってみなさい。打ち方は須賀くんが教えてあげて」

 

「はい。ほら咲、やるぞ」

 

「は、はい…」

 

そして咲はパソコンの前に座りやり方などを京太郎に教わっている

 

「そして菊池くん」

 

「はい」

 

「……」

 

「…?」

 

部長はオレの名前を呼んだだけで何も言わない

 

「…菊池くんの特訓は、ないわ!」

 

「…はぇ?」

 

「だってしょうがないじゃない。あなたに特訓なんて必要ないと思ったのよ」

 

「マジっすか」

 

「まぁ、強いて言うならみんなとずっと対局してもらいましょうかね。その方が強敵を相手にする練習になるからね」

 

「そんな人を道具みたいに…」

 

「んん〜、じゃあ菊池くんは常に和の対面で打ってもらうわ」

 

「えっ!!」

 

「その方が和の特訓になるわ」

 

「はぁ、はいはいわかりましたよ。今回はみんなのサポートにまわりますよ」

 

「悪いわね」

 

だってオレの特訓がないって言ったのは部長じゃないか。ないならサポートにまわってみんなの役に立つしかないだろ

 

そして咲はパソコンに向かい優希はドリルを、他のメンツは特打ちでそれぞれの特訓が始まった

 

『ロン』

 

「へっ!?ダメ…どうして…いつもだったらもっと牌が見えてるのに、全然見えない…」

 

咲はいつものようにいかないようだ。まぁ現実とネット上では違うってことだな

 

「苦戦してるみたいね」

 

「あいつがネット麻雀どころかパソコンをいじってるところさえ見たことないですからね」

 

「ま、苦戦ちゃぁあっちもひどい状況みたいじゃが」

 

その目線の先には計算のしすぎで目を回している優希がいた

 

「すごいことになってんな」

 

「合宿中になんとかなるんかいね」

 

「今はダメでも先に活きればいいわ。さ、続けるわよ」

 

四人は卓の目を戻す。その前にオレは和と目が合ってしまった。それに気づいた和は顔を赤くして急いで目線を下にやった。そしてそのまま{中}を切った

 

「その{中}、ポンよ」

 

「はっ!」

 

「ここでドラの三元牌切り。またリアルの情報に惑わされたのかしら?」

 

「ち!違います!」

 

「あれ、ところでオレ部長からなんの特訓の指示受けてないんすけど…」

 

「あぁ、須賀くんの特訓はないわ」

 

「えぇ!なんで!?」

 

「わりゃ覚えたてで下手すぎて手のつけようがないけんね」

 

「そんなー!」

 

「お前はとにかく多く打って麻雀に慣れろ。あ、部長、それロン」

 

「え…」

 

「24000。部長こそ気合が足らないんじゃないですか?」

 

「…いいわ、やってやろうじゃない!」

 

「受けて立ちますよ」

 

部長にも火がついたところで特打ち組はまだまだ打ち続ける

 

 

 

 

「終わったじぇ〜」

 

優希がドリル一冊がやっと終わったみたいだ

 

「なんとか埋めとるね。じゃけどえらいまちごうとる」

 

「もう限界だじぇ…」

 

優希は今にも口から魂が出て行きそうな感じで倒れ込んだ

 

「いいわ。それじゃあ優希は卓に入って。それと宮永さんも」

 

「は、はい!」

 

咲はようやく現実の麻雀を打てるとウキウキな顔をする

 

「それから和。あなたに一つお願いがあるの」

 

「はい?」

 

「今からペンギンを抱きながら打ってちょうだい」

 

「えっ!」

 

ペンギン?ペンギンってなんだ?どいうこと?

 

「エトペンを、抱いて…?」

 

「あなたは自宅でやるネット麻雀ではとても強い。ペンギンを抱くと自宅と同じように眠れるのなら、ペンギンを抱いて麻雀をやれば自宅と同じように打てるかもしれないわ」

 

「そんな〜…」

 

「私はタコスを抱くじょ!」

 

「とにかく試してみて?」

 

そういえばペンギンを持ちながら試合に出てたな。もうこっちに来てから大分立つから忘れてきてやんの…

 

「恥ずかしくて逆に落ち着かないですよ」

 

「県予選までにそれに慣れること」

 

「まさか!これを抱いて大会に!?」

 

「上手くいけばそのまさかで」

 

「えー!」

 

「正気か!」

 

「さ、始めましょう」

 

「へぇ、かわいいじゃん」

 

「なっ!み、見ないでください!」

 

「あ、わりー」

 

無意識に口から出てしまった言葉に和の顔は蒸気が出るんじゃないかってぐらい真っ赤になった

 

そのまま対局が開始され、部長と優希はそうでもないが咲の目線はその和&ペンギンに向いていた

 

「咲の番よ」

 

「あ、すいません。カン」

 

「ツモ。嶺上自摸、ドラドラ。2000・4000です」

 

『っ!』

 

「また嶺上!」

 

「これでまた咲と和の1、2か」

 

さっきから何局かやっているがほとんどが咲と和の1、2で終わっている。それに対して優希は最下位が多い

 

「ダメだー!この三人がいると得意の東場なのに全然勝てないじょー!咲ちゃんはいつの間にか槓材持ってて嶺上で和了るし、ありえない!のどちゃんはおっぱいでいかさましてるし!」

 

「…してません」

 

「私…麻雀向いてないのかな…」

 

それを聞いた部長は立ち上がる

 

「向いてないかもね」

 

「えっ!」

 

「そういうこと言って立ち止まっちゃう人はあまり向いてないかも…二年前、私が清澄に入ったころなんだけど。当時、清澄の麻雀部は廃部寸前だったわ。私が入ったとき麻雀部は幽霊部員が数人いるだけだった。いくら勧誘しても長続きしなくってみんな辞めていっちゃってね…風越に行ければよかったんだけど、そのころうちには私立に私を通わせるだけのお金はなかったの。でも今、こうやって麻雀部にはあなた達がいる。もしかしたら全国大会にも出られるかもしれない」

 

突然部長の昔話が始まった

 

「もし二年前、私がめげていたら今このときはなかった…状況が悪いとか才能がないとか、そんなことを思ったときがあったとしても立ち止まらずに一歩一歩進んでいけば、きっといつか違う景色が見えてくるものよ?」

 

部長の話はみんなの心に届いただろうか

 

「優希ちゃん、頑張ろ?」

 

「さぁ、続けましょ?」

 

「のどちゃん…咲ちゃん…」

 

「それに、あなた達は一人じゃないしね」

 

「うん!私やるじぇ!」

 

みんないい笑顔をしている。優希ももう大丈夫なようだ

 

「つまりはこうっすね?『私が部活を作って今まで残してたんだから黙って言うことを聞け!』ってことですね!?部長!」

 

『台無しだよ!』

 

オレはふざけてそんなことを言ったら全員からのツッコミをいただいた

 

「さぁ、大会まで時間がないよ?やらないんなら私が入ろうか?」

 

「やるわよー!特打ちよー!」

 

『おぉ!』

 

全員の気持ちが全国に向いたところで特打ちが再開された

 

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