我が清澄高校女子麻雀部が一回戦を突破した次の日、女子の全員には休養が命じられた。他校の試合を観戦するもよし、東京見物をするもよし。でも観光をするにしてもちゃんと体を休めとのことだ。
しかしそれはオレには適用されなかった。なぜなら今日もオレは練習試合の申し込みで朝から引っ張りだこであるからだ。まぁ了承したのはオレだし試合をした女子達(和と咲以外)よりは疲れはないから問題ない
今は六時四十五分。オレは東京に来る前にファックスで位置を送ってもらった“新道寺女子高校”の止まっているホテルへ向かっている。今日も暑いな…
時間十分前にホテルに着いた。そのホテルは怜や竜華さん達千里山女子が泊まっているホテルよりは小さいが外見も内面も綺麗と感じた
オレが来ることは既にロビーに話してあるとのことだったのでオレはフロントスタッフの一人に声をかけ部屋を教えてもらった。エレベーターに乗り六階まで上がって扉が開くと目の前に自動販売機とその上に何号室までが左で何号室からが右と書いてある案内があった。オレはそれを見て右の道を進む。すると…
「きゃっ!」
「うおっ!」
曲がり角から出てきた人とぶつかってしまった。運の悪いことにその人が後ろに一歩下がる際にオレの足に引っかかってしまった。よって後ろに倒れないように踏ん張る足を出せずにそのまま倒れそうになる。しかし咄嗟にオレはその人の背中に手を回し逆の手を自動販売機と壁の間に入れて壁に手を引っ掛ける。そのおかげでその人は倒れずにすんだ
「すいません。大丈夫ですか?」
「え、あ、はい…こちらこそ、すいません…」
オレはその人がしっかりと立ったことを確認して手を離す。それにしてもこの人なんでこんな袖の長いシャツ着てんだろ。手が全く出てないじゃんか
「えっと、何か?」
「あ、いえ。何でもないです。すいません」
「謝らんとも大丈夫です」
やっべ…女の人をジロジロ見てはいけなかったな。反省反省…
「では自分はこれで」
「あ、はい…」
そう言ってオレは行こうとしていた道を改めて進む
「あの…まだ何か?」
「い、いえ…うちの部屋もこっちなんで」
「そうでしたか」
こんなホテルで会うってことはここに泊まっていてこの階に泊まってる人だとは思ったが、方向まで同じとは考えてなかった
「旅行ですか?」
「いえ。部活の試合で」
「奇遇ですね。自分もそうなんですよ」
「そうなんですか」
隣を歩いてはいたがずっと俯いていたので顔をしっかりと見てなかったが、ようやくこっちを見てくれて顔を拝むことができた。そしてロビーで聞いた部屋の前に到着した
「「え?」」
同時にその人もそのドアの前で止まった
「…」
「…」
少しお互いに見つめ合って二人同時に口角が緩む
「これまた奇遇で」
「ふふっ、そうですね」
「新道寺の方だったんですね」
「そういうあなたは今日来ていただく予定の…」
「清澄高校一年、菊池 翔です。午前の間だけですけどよろしくお願いします」
オレは体をドアからその人に向き直して軽く一礼する
「え…年下だったと…?」
「あぁ…よく言われます。そんなに老けて見えます?」
「そ、そがん意味じゃなかっけん。背高かし大人っぽいし…」
「…ありがとうございます?」
「ふふっ、なして疑問形なん?」
なんとなくさっきまでの緊張は無くなったかな。新道寺も女子校らしいし男性に慣れてないだろうし
「うちは鶴田 姫子(つるた ひめこ)いいます。よろしゅうね、翔くん」
いきなり名前…それにしても鶴田さんの方言?新道寺って確か福岡だったよな。ということは博多弁?九州弁?よくわかんないけど怜や絹姉みたいな大阪弁は結構聞いてるけど初めて聞いたこの方言もなんかグッとくるものがあるな…
「ん?どげんかしとっと?」
「へっ?あぁ、大丈夫です」
「そっか。やら、入ろうか」
「なら呼んでください。いきなり入るのはよろしくないので…」
「了解!」
鶴田さんはニコッとしながらシャツの袖から出ていない手で敬礼のポーズをとり部屋に入っていった。そしてすぐに扉が少し開き鶴田さんが顔だけ出して「入ってよかよ」と言ってオレも中に入った
中に入ると鶴田さん以外の四人が横一列に並んでいて鶴田さんもオレから見てその一番左に並んだ
「よくぞ来てくれました!すばらです!」
「す、すばら…?はい、菊池 翔です。よろしくお願いします」
列の一番右の人があいさつ?をしてくれたのでさっき部屋の外でしたように自己紹介をして軽く頭を下げる
「私は花田 煌(はなだ きらめ)といいます!」
何かとすばらっ!と言っている気がする花田さん。口癖なのだろうか。それに髪型もツインテールなのはわかるのだが普通のツインテールではなく後ろから前にカーブするように曲線を描くような髪型になっている。まるでクワガタみたいだ
「あ、あの…安河内 美子(やすこうち やすこ)いいます」
豊ねぇや純さんほどではないが女子としてはなかなか背の高くメガネをかけている安河内さん
「江崎 仁美(えざき ひとみ)。なんもかんも政治が悪い」
言ってる意味がよくわからんのだが…とりあえず特徴としてはペットボトルの飲み物にもかかわらずそれにストローを指して飲んでいて、オレの感性だが髪型が羊っぽい
「うちは白水 哩(しろうず まいる)。一応部長っちいうことになっちょる」
前髪をセンターで分けて右側をヘアピンでとめて後ろも二つに分けてリボンで結んでいる白水さん。この人が一番方言が強そうだ
「そんでさっきもちょこっと話したばってん改めて、鶴田 姫子です」
そして最後に鶴田さん。う〜ん…なんとも個性がバラバラな人達だな
「今日は朝はよから来てもらっていりのっちのう」
いりのっち…?ありがとう的な意味でいいのかな…
「…い、いえ。大丈夫です」
「部長。翔くん、困っちるじゃなかですか。もっと東京弁で喋らんといけんとですよ?」
「おぉ、それは悪かけんことしたばい。ばってん東京弁なんて知らんばいね。そんにしても姫子、いつん間にそげん仲良くなりよったと?」
「そ、そんなことなかですよ!」
なんとなくわかる単語をあてに聞いているがたまにわからなくなるな。大まかな内容は把握できるけど
「ごめんなさいね。部長は生まれも育ちも佐賀で根っからの九州人なのよ」
「そうなんですか。そう言う花田さんは全然訛ってませんね」
「私は高校から福岡でそれまではずっと東京だったのよ。それにあなたと同じ部に所属している和ちゃんと優希ちゃんは私中学の後輩なんです!」
「そうだったんですか。偶然ですね」
初耳だな。確か冊子で出場校とその選手のリストみたいなのがあったはずなんだけど、和と優希は気づかなかったのか?あぁ、無理もねぇか…和は他校や選手がどこだろうと関係ないってタイプだし、優希はそもそもそんなんを見るイメージがねぇしな
「ほんやら時間もなかし、始めちゃうかね」
『はい!部長!』
今のやりとりだけでチームのみんなが白水さんを部長として信頼しているのがよくわかった
それから何局かやったが、白水さんがバカ上手ぇ!ビックリした!特に決まった型とかパターンがあるわけではなくその場その場に適した打ち方をしてきた。似ているとすれば千里山の江口さんかな。完全に全国区のエースだったな
それに途中で気づいたけど、なぜか鶴田さんは白水さんの後に卓に入っていた。それにその卓には白水さん自身は入らなかった。しかも重要なのはここから。白水さんが和了った翻の数の倍の翻で和了るようだった。でもそれは毎回ではなかった。白水さんが和了った局で鶴田さんが和了なかった局も何度かあった。でも鶴田さん自身も麻雀の実力自体も高いものだった
他の三人はというと、花田さんはどんなに和了られたとしてもめげることなくずっと自分の打ち方を貫いた。しかもどの局も絶対に飛ばなかった。オレや白水さんが無双した局でも花田さんだけは一回も飛ばなかった。これはすごいことだと思う。花田さんは先鋒ということだから順当に勝ち上がっていけば白糸台の照さんと対戦することになるだろう。そうなれば絶対に飛ばないというのは相当のアドバンテージとなるだろう
安河内さんと江崎さんは特に突飛つした能力やら打ち方をしているはわけではなかったがやはり全国に出てくるだけの学校の選手。実力はあると思った。でも照さんや咲からしてみたら凡人の部類に入るだろうとも思った…お二人には悪いが…
そんなこんなでもうオレはお暇する時間となってしまった。みなさんはお見送りのためとロビーの方までついて来てくれるらしい。廊下を二列縦隊で進んでいてオレは最後尾に位置し隣は鶴田さんとなった。てか近い…肩ぶつかりそうだよ
「そーいえば君は恋人はいるんかい?」
「へっ?」
「部長!?」
オレが鶴田さんに肩が当たらないように気をつけて歩いていると前を歩く白水さんから急にそんな質問を投げかけられた
「残念なことに今まで一度もそういうのができたことがないですね。もちろん今もいないです」
今日会ったばかりの人に何言ってんだろ…泣けてきた…
「そーか。ちゃかったな、姫子」
「ぶっ、部長!何ば言うとですか!!」
「ん?どういうことですか?」
「な、何でもなかよ!気にせんといて!!」
「は、はい…」
白水さんの口を押さえながらワナワナ震えている鶴田さんが今日一番の大声をあげる。その光景を見ている他の三人はニヤニヤしている。微笑ましいんだろうな。と先輩後輩の仲睦まじい戯れを終えた鶴田さんがオレの隣に戻ってきた…戻る必要ある?
「翔くんは…?」
「はい?」
「翔くんは、本当に彼女はおらんと?」
「そうですね…泣きたいほどに…」
鶴田さん…オレのライフはもう0に近いですよ…
「そ、そっか…」
なぜに笑顔なんですか!?泣きますよ、ホント!ていうかなぜにオレの袖を掴む…
「あの…鶴田さん…」
「……めこ…」
「?」
「…姫子、って呼んで……」
「…まぁ、いいですけど」
名前呼びくらいならもう大丈夫になったかな…
「ありがと…あと、少しこのままで…」
「どうしてか聞いても…?」
「なんか、安心するけん。お兄ちゃんみたいなんよ」
「オレの方が年下なんですけどね…」
「細かいこつは気にせんね♪」
何だろ。オレも妹に見えてきた…
そしてオレ達はロビーに着いて朝の部屋のときみたいにお互い向かい合わせに立った
「今日はこげんなとこまでのっちうね」
「いえ、楽しい時間を過ごさせていただきました」
「和ちゃんと優希ちゃんにもよろしく言っておいてください!」
「わかりました」
白水さんと花田さんからそれぞれ挨拶をされてオレもそれぞれに返す。でもその中でも姫子さんはずっとシュンとした面持ちだ
「姫子、どげんかしたっか?」
「い、いえ…」
ホントにどうしたのだろう。そう考えていると寂しそうにオレの方を見てくる。この顔は見覚えがある。ていうか昔から何度も見てる
「大丈夫ですよ。また会えますよ」
「翔くん…」
「団体戦が終わってもその後に個人戦がありますよ。だからまだ東京にはいます。それにもし福岡に行く場合は連絡しますよ」
「うん!絶対だからけんね!」
「はい」
姫子さんは笑顔に戻ってくれた。
実は既に連絡先は交換済みだった。交換というか勝手に交換されたというか…オレが対局してる最中に勝手にオレの携帯に姫子さんの連絡先を入れたみたいで、対局が終わるとオレの携帯の画面をオレに見せながら「入れといたけんね♪」って言われたときには姫子さんて引っ込み思案かと思ってたけど意外とアグレッシブと思った
「じゃあオレはこれで。お互い頑張りましょう」
「あぁ」
「すばらです!」
「は、はい…」
「何もかんも…」
「翔くん!またね!」
こうしてオレは朝よりも強くなった日差しの下、次のところに向かうのであった
白水さんの言うこと半分くらいしか理解できなかった…
方言が難しいかったので変だったらすいません!