牌に愛されし少年   作:てこの原理こそ最強

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大変長らくお待たせしました。大まかな流れはできていたのですが細かいところが全然思いつきませんでした


番外編6

 

大会が始まって既に五日が経った。いよいよ準決勝が明日、明後日に迫っているしその後は遂に日本一の高校が決まる決勝でもある。そんな大事な日が前日にオレの練習試合の依頼も最後の一つなった今向かっているのはオレの練習試合のスケジュール最後の相手である”白糸台高校”だ

 

三年前に照さんの付き添いで一度訪れたときと何ら変わっていない校門のところに白糸台の制服なのか白地に青いラインの入ったセーラー服を着ていえう一人の女性が立っている。長い黒髪にスラーッとしっている姿でその人の凛々しさがわかってしまう。その人はオレに気づいて声をかけてきた

 

「君が菊池くんか?」

 

「はい。菊池 翔です」

 

「私は弘世 菫(ひろせ すみれ)だ。案内するからついてきてくれ」

 

「わかりました」

 

そう言われてオレは弘世さんに続いて校舎に入った。中に入るとすれ違う生徒はみんな弘世さんに道を空けお辞儀をしていた。これが校風なのだろうか。しかし下を向いている顔からはどうしてか鋭い視線を浴びる

 

校舎の中を進んでいき部室に着いたのかある部屋に弘世さんは「戻った」と言って入っていった。オレはそれに続いて「失礼します」と言って入る。すると…

 

「ショウ!!」

 

ソファーに座っていた淡がオレの名前を叫びながらオレに向かって両腕を広げて走ってくる。オレはそんな淡の頭を抑えて止める

 

「ぐぬぬぬ…!」

 

腕をグルグル回しながら止まる様子のない淡。元気だねー

 

「ショウー!なんでー!」

 

「オレの身に危険が迫ってるんだから止めるのが普通だろ」

 

「感動の再会だよ!?私達の愛を分かち合おうよ!」

 

「そんな愛を育んだ覚えはない」

 

淡は止まってはくれたが明らかに機嫌が悪くなった

 

「はぁ。確かに久しぶりだな。元気してたか?」

 

久しぶりに会うのは確かなので悪いことしたと思って淡の頭に置いてある手を左右にスライドさせる

 

「〜♪うん!ショウは?」

 

「元気元気。超健康だ」

 

「そっか〜♪」

 

腕を後ろで組んでさっきとは段違いに満面の笑みを浮かべる淡

 

「そろそろいいか?」

 

「あ、すいません…」

 

「なら改めて、私が「翔…」っ!」

 

「は、はい。これですね」

 

「ん。さすが」

 

おそらく弘世さんから紹介が始まろうとしたときに照さんが割って入った。弘世さんは照さんを物凄い目つきで睨んでいる。オレは急いでリュックから袋を取り出し照さんに渡す。その中身はオレが朝に作っといた照さんへのお菓子だ

 

「おい照。今私が話そうとs「わー!ショウすごい!テルー!私にもちょうだい!」…」

 

今度は淡か!弘世さんすんごい顔になってるけど大丈夫か!?

 

「照…大星…」

 

「ん?なに?菫。聞いてなかった」

 

「ふぁんへふは〜(なんですか〜)?」

 

「…」

 

淡は口ん中に頬張りすぎだから!お前も食べると思って多めに作ってあるから!大丈夫だから!照さんもお菓子に夢中になってないで弘世さんの話を聞いて!!

 

「まったく…すまんな」

 

「いえ…この原因を作ったのはおそらく自分ですから」

 

「だが君が菓子を持ってこなかったらこれの三倍はめんどくさいことになってただろうな」

 

「そうなんですか」

 

「あぁ。おっと、大分脱線してしまったな。改めて、弘世 菫だ。一応この部の部長を務めている。いろいろ言うこともあるんだがとりあえず自己紹介を済ましてしまおう。渋谷」

 

「は、はい…渋谷 尭深(しぶや たかみ)です…」

 

イスに座ってお茶の湯呑みを持っていたのを一度テーブルに置いて立ち上がり礼儀正しくお辞儀をする渋谷さん

 

「亦野 誠子です。よろしく!」

 

なんとも元気に挨拶する亦野さん。このチームも個性豊かだな〜

 

「菊池 翔です。照さんとは昔住んでた家が近所だった関係で。淡とは照さんの付き添いでこちらに来たときに雀荘で知り合った仲です。よろしくお願いします」

 

照さんや淡との関係を含んだ簡単な自己紹介を終わらして軽く頭を下げる

 

「照や大星から話は聞いている」

 

「変なこと言ってないですよね…?」

 

「大丈夫だ。昔照が負け越してたことや大星がコテンパンに負かされたことぐらいしか私の頭には残っていない」

 

なぜかしてやったかのようにニヤり顔になる弘世さん

 

「でも宮永先輩からはどこかに出かけるときはいつも付いてきてくれる優しい弟分だって聞いたよ!」

 

迷子になるか心配だからですよ…

 

「大星からは勉強教えてくれるし話し相手になってくれる大切な友達とも聞いたね!」

 

だって勉強教えてって泣きながら電話してくるから…でもそんな風に思われて悪い気はしないな

 

「こうして聞かされると恥ずかしいですね…」

 

「恥じることはない。なんなら今からでも照担当を代わって欲しいくらいだ…」

 

「担当?」

 

「こいつの迷子気質は知っているだろう。だからこいつが迷子にならないように入学当初から私が見ているというわけだ」

 

「そうでしたか。照さん、迷惑かけちゃダメですよ」

 

「…翔が言うなら、これから頑張る」

 

お菓子を頬張りながらもきちんと話を聞いてるとこが照さんのすごいところだ。飲み物飲まないで大丈夫かな

 

「あっ。お茶、淹れますね」

 

「お構いなく」

 

「ショウ!ここ座って!」

 

「ん?じゃあお邪魔して」

 

照さんと淡が座ってるソファーの淡の隣のところをパンパンと叩いてオレを呼び寄せる淡。それにした上がってそこに座ると淡が寝っ転がってオレの膝に頭を乗せてきた

 

「えへへ〜♪」

 

「淡?」

 

「んふふ〜♪ショウ♪」

 

オレの膝とお腹にスリスリしながら身悶える淡。淡はオレの知り合いの中でもトップクラスの甘え上手だな

 

「お茶です」

 

「あ、ありがとうございます」

 

淡の対応をしていると渋谷さんがお茶を渡してくれた。今時湯呑みでお茶を受け取るのも珍しいな

 

「おい、そろそろ始めるぞ」

 

「…」モグモグ

 

「んへへ〜♪」

 

弘世さんの呼びかけに全く応じる様子もなくお菓子をまたお菓子を頬張る照さんとオレから離れる気配のない淡

 

「お前ら…」

 

「く、苦労されてるんですね…」

 

「今すぐ代わってくれるか…?」

 

「遠慮しときます。ほら、淡。やるってよ?」

 

「ふぇ?何を?」

 

「お前…オレが何で今日呼ばれたのか忘れたのか…?」

 

「あ!そうだった!今日こそ勝つかんね!」

 

さっきとは打って変わってやる気に満ち溢れ勢いよく立ち上がりその勢いのまま卓につく淡

 

「照さんも。そんな勢いで食べてたらなくなっちゃいますよ…」

 

「ん、これで最後…」

 

と言いつつまた新しいお菓子に手を伸ばす照さん。オレはその手を掴み止める

 

「ダメです。さっき迷惑かけないって言いましたよね?」

 

「頑張るって…」

 

「照さ〜ん…?」

 

「…わかった」

 

照さんはようやく立ち上がり麻雀卓の席についた

 

「…本当に代わってくれないか?」

 

「やめてくださいよ…」

 

と本気で世話係の交代をお願いされたが弘世さんには申し訳ないがお断りした

 

「そうか…では君も入ってくれ。亦野と渋谷は悪いが最初は見学だ」

 

「わかりました」

 

「(コクッ)」

 

照さんと淡の中に入る弘世さんに続いてオレも席についた

 

「試合を見据えて東南戦で頼む」

 

「ショウ、今日こそ百回倒す!」

 

「…」

 

「お手並み拝見だな」

 

「よろしくお願いします」

 

百回という今日丸一日売ったとしても不可能な数字を言いつつ勝ちに行くと目で訴えている淡に無言だが目だけはこっちを捉えている照さん。そしてそんな様子をなぜか笑顔で伺う弘世さん。オレも気合入れなくては…

 

東家:弘世さん 南家:淡 西家:照さん 北家:オレ

 

ー東一局ー

 

弘世さんがサイコロを回すボタンを押し対局が始まった。その瞬間場の空気、というよりは淡から放たれているプレッシャーがヒシヒシと伝わってきた。昔より格段に強くなってる…

 

そのせいか最初の配牌はクズ手もクズ手、五向聴になっていた。おいおい、マジかよ…

 

手配から顔を上げるとオレの驚きの表情を見たからなのか淡がこっちを向いてドヤ顔をしていた。んのやろう…その顔絶対泣きっ面にしてやる

 

「ロン、3900。へへーん!」

 

回って7巡目で淡が和了った。オレが振り込んでしまった。そんでまたドヤ顔してるし。こいつ絶対泣かす!!

 

すると今度は背後から誰かに見られたような感じがした。照さんの照魔鏡も健在か…マジで厳しいな…

 

ー東二局ー

 

「ツモ、300・500」

 

ー東三局ー

 

「ロン、3900」

 

ー東三局 一本場ー

 

「ツモ、2100・4100」

 

照さんの連荘。これ以上はヤバいな…そこでオレは弘世さんと目があった

 

ー東三局二本場ー

 

「ポン」

 

開始早々オレの切った{發}を鳴いた弘世さん

 

「ロン、8600」

 

「っ!」

 

な、なんだとー!!!騙したなー!!!こういう場合は安手で流すもんじゃないのか!?いや、引っかかったオレのミスか…こりゃマジでヤバいな。()()()()()してる場合じゃないか

 

オレは一度目を閉じ精神を集中する

 

「「っ!!!」」

 

「…」

 

するとそれまでのその場の空気は一気に変わり、それを感じたオレはゆっくりと目を半分だけ開く

 

頭は動かさず他家の3人を見てみると弘世さんは目を見開いてこちらを見ている。淡は一応笑ってはいるが頰は引きつり汗もかいている。照さんは何も感じないように表情は変わってはいない。しかし卓の下でスカートを強く握りしめている

 

そしてさっきまで背中から感じていた視線のようなものもなくなっていた

 

ー東四局ー

 

{七萬八萬赤五索八索三筒九筒東東東北西發發} {九索}

 

次の牌は…

 

一巡目、{三筒}切り

 

次は…

 

二巡目、{赤五萬}ツモって{九筒}切り

 

次…

 

三巡目、{發}ツモって{北}切り

 

次…

 

四巡目、{五索}ツモって{八索}切り

 

「ポン」

 

照さんが鳴いたか。一回リセットされたからまた安手からだからすぐに和了れる手を作ってるな。弘世さんは何かを狙っているのかオレのことをじっと見ている。でも臼沢さんみたいに手が延びなくなるみたいなことはない。ならオレからの直撃を狙っているはず。淡はいつも通り。今回もあれはなかった

 

みんな何かしら狙ってるみたいだけど、今回はオレが貰う

 

五巡目、{西}ツモる

 

「リーチ」

 

{八萬}を切って{六萬}の単騎でリーチをかける。普通なら{赤五萬}切った方が待ちは広いけど、オレには確信があった

 

「ポン!」

 

淡が鳴いたか。まぁ一発はなくなったけど、()()()()()()()()()

 

「ツモ。面前、飜牌、三暗刻、赤2…裏2。12000オール」

 

オレは手牌を開き点数を申告する。照さんはともかく弘世さんは驚きを隠せていない。淡はまだ余裕があるらしく笑顔は消えていない。ただ汗は大量に書いている

 

オレは3人から点棒を受け取りすかさず宣告する

 

「一本場」

 

余韻なんていらない。このまま一気に持っていく。しかしサイコロを回した瞬間、淡から物凄いプレッシャーが襲ってきた。オレは構わず最初の牌を切る

 

「リーチ!」

 

すると淡が最初からダブルリーチをしてきた。ようやく淡も本気になったのかと思ってオレは再び目を瞑りふぅ〜っと一息つく。そして目を開く。今度は普通に

 

3人はオレから発せられていたものがなくなったのを感じたのか同時にオレを見てきた。オレはそれに対して何も言わず笑顔だけ返した

 

「ポン」

 

「チー」

 

「ポン」

 

「ロン。1300」

 

最終的には照さんにオレが1300振り込んで終了となった。淡にとっては奇妙な状態が続いただろう。なぜか。照さんが和了るまで淡に回ってこなかったからだ。もちろん意図的だオレと照さんで鳴きに鳴いて淡に回さなかった

 

「ありがとうございました」

 

「お、おつかれ…」

 

「…」

 

「…」

 

オレの言葉に返答してくれたのは弘世さんだけで、照さんはいつも通りの表情で黙って席を立ちソファーに座った。淡は卓を見続けながら黙り込んでいる

 

オレは席から動こうとしない淡の頭に手を乗せる

 

「ショウ…」

 

「強くなったな、淡」

 

「なに、それ…嫌味…?」

 

「久々に本気を出したよ。前に淡に会ったとき以来だ。この意味わかるか?」

 

「…私がいるときだけ、本気で」

 

「そういうことだ。まぁ今回は照さんもいたし弘世さんも手強い人だと思ったのもあるけど」

 

「ショウ、ショウ!」

 

さっきまでの表情とは打って変わって嬉しそうにオレに飛んでくる淡。やっぱり元気な方がいいな

 

「君は一体何者だ…」

 

「はい?普通の高校1年生ですが」

 

「私ならまだしも普通の高1が照や大星にこんなあっさり勝てるわけないだろ!」

 

な、なんか前に染谷先輩から同じようなこと言われたような…

 

「菫」

 

「なんだ、照」

 

「私は翔に負けて当たり前。翔は私の目標で、倒したい相手の1人だから」

 

照さんにそう言ってもらえて光栄なんですが、照さんには何回も負かされてるんですけどね

 

「ショウ!」

 

「ん?」

 

「今度は倒す!」

 

「おう。オレも負けないけどな」

 

淡はオレに抱きつきながら顔を上げてオレにそう宣戦布告してくる。オレも負けないように頑張らないとな

 

「あのー」

 

「なんだ、亦野」

 

「私と渋谷先輩は菊池くんの後ろで見てたんですけど…最後なんで{六萬}単騎にしたのかなって」

 

「あー、確信があったからですね」

 

「ありえん!ならば君は次にくる牌がわかっていたとでも言うのか?しかもあのときは淡が鳴いて来る牌はズレたはずだ」

 

ごもっともな意見ですね。普通はそんなことありえない。でもあなたたちの対戦相手にいるでしょう。未来をみることができる人が

 

「別に理解してもらわなくても大丈夫です」

 

「菫、翔の言ってることは本当だよ」

 

「照まで!」

 

「ショウはなんでもできるもん!」

 

「なんで淡が自慢げなんだよ」

 

照さんと淡から言われて弘世さんは納得はできないがとりあえず引き下がることにしたらしい

 

「さて、今度は私達も入れてください!」

 

「(コクッ)」

 

「えぇ、もちろん」

 

亦野さん、渋谷さんを入れて次の対局が始まった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつからできるようになったかはわからない。本人曰く「できるかなって思ったらできた」とのこと。なぜこんなことができたのか

 

それは神から受け取った特典のうちの二つ、頭の回転のよさ、麻雀のセンス、そして昔から培ってきたいろんな人との麻雀の経験と記憶。これら全てを掛け合わせてできた菊池 翔の本気のときにしか表に出ない、いわゆる奥義なるもの

 

それは菊池 翔が今まで会ってきた、一緒に麻雀をしてきた人の<麻雀スタイルのコピー>。先程の弘世 菫の疑問にはこれで説明がつく。翔はあのとき一巡先を見ることができると言われている千里山女子の園城寺 怜のスタイルをコピーしていた。しかもそれに加えて大星 淡のプレッシャーに負けないよう天江 衣の威圧までコピーし、普段から持っている自分のものに加えた。そのため来る牌は大星 淡の影響を受けなかった

 

他人からはおそらく理解できない翔の実力。ここではこの力をこ呼ぶことにしよう。《完全無欠の模倣(パーフェクトコピー)》と…


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