大阪は生前でも行ったことがなかったためどんなところかはテレビや噂でしか知らなかった。だから着いた瞬間から驚いた。そこら辺では大阪弁が飛び回っていて、何と言ってもおばちゃん達のテンションが高い。これまでは岩手も鹿児島も静かな所で過ごしていたため、この人混みにはちょっとツラいな…
新居に着くと既に荷物が運び込まれていたのでそれぞれダンボールから自分の物を出してはタンスなどにしまっていった。二回目ともなれば慣れるもので、前のときより早く片付けを済ませられた
片付けを終えたオレは時計を確認すると四時半と微妙な時間だった。夕飯の支度にはまだ早すぎるからオレは散策がてら町を散歩することにした。
「思い切って電車乗ってみるか」
近所はそのうち母さんと回るだろうから。それに路線覚えとけば何かと使えるかもしれないしな。オレはそう思って駅に行き、電車に乗って二、三駅で降りた。そして駅の周りを歩いていると前を一人の少女がふらついて歩いていた。しかも街灯に手をついてなんか苦しそうだ。オレはすかさず声をかけた
「あの、大丈夫ですか?」
「…あぁ、いつものこと…やし…大丈夫、大丈夫…」
本人はそう言うが明らかに顔色も悪いし呼吸も安定していなかった。オレは余計なお世話かもと思いながらもこの前買ってもらったばかりの携帯を取り出す
「すいません。心配なので一応救急車呼びますね」
「…すまんなー」
「大丈夫ですよ」
119をダイヤルして繋がった先にここの位置情報を伝える。丁度近くにあった電柱にここの情報が書いてあってよかった。救急車は十分くらいで来るそうだ
「もう少しで来るので、頑張ってください」
「…せやな。ありがとう」
オレはその少女の手を握り勇気付ける声をかける
その後時間通りに救急車が到着し、オレも一応同伴した。救急隊の人からは「ご姉弟ですか?」と聞かれたが違うと答えた。すると救急隊の人は酸素マスクをつけられた少女に親御さんの連絡先を聞くとその少女は持っていたポーチを指差した。どうやらその中の財布の中に親御さんの電話番号が書いてある紙が入っていたようだ。少女はカバンを指した手をオレの方に差し伸べてきた。オレはその手を取ると少女は病院に着くまでその手を離さなかった
病院に着くやいなや少女は緊急オペ室に運ばれていった。オレは祈るように手を組みその手に顎を乗せて目を瞑ってソファに座っていた。その途中で誰が駆けてくる足音が聞こえたので目を開いた。そこに来たのは少女の母のようだった。オレは立ち上がって一礼した
「あなたが…娘をありがとうございました」
「いえ。でも、それを言うのはまだ早いと思います」
「そ、そうね」
やはりその人は少女の母親だった。彼女はオレに感謝の言葉をかけてきたがそれは少女がホントに無事とわかったときに言ってもらいたいと思ってそう答えた
もう何時間経っただろうか…オレはオペ室のライトが消える音で目を開ける。そこには先程の少女の母親ともう一人、父親と思われる男性が立っていた。オレはその人が来たのを気付かないくらい祈りに集中していたらしい。そしてオペ室から先生一人マスクを外しながら出てきた。少女の母親と男性は先生に詰め寄る
「先生。娘は…?」
「もう心配はいりません。呼吸、脈拍ともに安全域に達しました」
それを聞いた瞬間母親は口を押さえ、涙を流しながら崩れ落ちた。男性も母親の肩を支えながら涙を浮かべている。先生はどこかに行く前にオレの前に来て、オレの肩に手を置いて『君のおかげだ。ありがとう』と声をかけて行ってしまった
その後すぐにオペ室からベッドに横になったまま規則正しい寝息を立てた少女が看護師さんに引かれて出てきた。母親と男性はその少女に付き添うように行ってしまった。オレはその背中に一礼して病院を出た
家に帰って母さんと父さんに遅くなった事情を話した。すると二人はオレを抱きしめて『よくやった(わね)』と言ってくれた。そこでオレは疲れがきたのか意識が切れてしまった
ー翌日ー
オレが目を覚ましたのはもうお昼を過ぎていた。母さんが作ってくれていたお昼を食べて母さんと父さんと一緒に昨日の病院へ向かった
病院に着いたはいいものの少女の名前も知らないのを今思い出したので、受付の人に事情を話してその子の病室を教えてもらった。その病室のドアの横の壁にその子の名前が書いてあるプレートがあった。そこには“園城寺 怜”とあった。そこでオレは驚く。まさかオレが助けた子があの園城寺 怜(おんじょうじ とき)さんだったとは…
中には昨日会った母親と男性、そして園城寺さんの友達か、一人の女の子がいた
コンコン
「失礼します」
父さんが開いているが扉をノックして入る
「君は!」
「どうも。娘さん助かってホントに良かったです」
園城寺さんの母親がオレに気づいたのでオレはそう言って一礼する
「昨日急にいなくなってしまって…名前も連絡先も聞き忘れたからどうしようかと思ってたのよ」
「すみません。あ、菊池 翔といいます」
「その父です」
「母です」
「そうですか。翔くんのおかげでうちの娘が命を落とさずに済みました。本当にありがとうございました!」
やはり父親だった男性が腰を九十度に曲げて頭を下げてお礼を言ってきた。それに続いて母親の方も立ち上がり頭を下げた
「頭を上げてください」
「そうです。助かって良かった。今はそれでいいではないですか」
父さんと母さんがそう言うと二人は頭を上げた。すると園城寺さんの母親と父親は大人だけで話がしたいと父さんと母さんを連れてどっかに行ってしまった
「調子はどうですか?」
「おかげさんでバッチリや〜」
「それは良かったです」
ベッドに横になっている園城寺さんに声をかけると間の抜けたような返事が返ってきた。でも最初に会ったときよりも全然ましになっていてなんか安心した
「あの!」
「っ!はい…」
ベッドの横でずっと静かに座っていた子がいきなり大声で立ち上がったのでビックリしてしまった
「怜を助けてくださって、ほんまにありがとうございました!!」
「あ、いえ。頑張ったのは園城寺さんです」
「ん?なんでうちの名前知っとるん?」
「外にプレートがあったので」
「あぁ。まぁ改めて自己紹介させてぇな。うちは園城寺 怜や。助けてくれてほんまありがとうな」
「さっきも言いましたが菊池 翔です。これもさっきも言いましたが頑張ったのは園城寺さんですよ」
「自分、優しいな〜」
園城寺さんは笑顔でそう言った
「う、うちは清水谷 竜華(しみずだに りゅうか)いいます!」
「うちの親友や」
「そうですか。菊池 翔です」
「うちのことは怜でええよ」
「オレのことも翔でいいですよ」
オレがそういうと怜さんは布団から手を出しオレの手を握ってきた
「あの、怜さん?」
「呼び捨てでええよ」
「…じゃあ怜。この手は何?」
「何て、握ってるだけやん。やっぱずっと側にいてくれたんは翔やったやな。なんか竜華の太ももと同じくらい安心するわ〜」
「ふっ!太もも!?」
「ちょっ!怜!」
怜のいきなりの発言にオレは驚き、清水谷さんも大声を上げてしまった。でも当の本人は…
「…すぅ…すぅ……」
オレの手を握ったまま眠ってしまった
「もう…翔くんごめんな」
「いえ。なんか安心しました」ニコッ
「ー!///」
オレは笑顔で清水谷さんにそう言うと清水谷さんは頰を赤くした
「翔くんは今いくつなん?」
「小三ですね」
「ほんま!?」
「えっ、はい」
「身長高いし大人っぽいから年上かと思ったわ」
確かに身長は中学生ぐらいあるけど、大人っぽいかな…
「うちと怜は小五なんや」
「そうなんですか」
「あ、うちのことも名前でええよ」
「はい、竜華さん」
「…呼び捨てにはせんのね」
「なんとなく…すいません」
「謝らんでええよ」
その後も父さん達が返ってくるまでオレは竜華さんといろんなことを話した。オレの引っ越しのことや竜華さんと怜のこととか。すると二人も麻雀ができることを知った。まぁ知ってたけど。オレも麻雀できるのを竜華さんに話したら「今度しようや!」と誘われた。もちろんオーケーしたよ
そして三十分したぐらいで父さん達が戻ってきたので、オレは怜を起こさないようにそっと手を離し家に帰った。帰り際に竜華さんと連絡先を交換して、怜の親御さんから再度お礼を言われた