このすば! 俺はまた魔王を倒さなきゃいけないようです 作:緋色の
アニメなどを見て、好きになったので、書くことにしました。基本的には小説の方を基準にしていきます。
それでもいいという方はゆっくりしていってね。
俺は今猛烈に泣きたかった。
ジャイアントトードのクエストを達成して得た金で酒を飲む。
いくら俺が弱いと言っても、爆裂魔法で魔王を倒しちゃったカズマさんなら蛙ぐらい何とかなる。
今回はウィズの店でつけで購入した爆発するポーションを使って退治した。
「くそっ! あいつらのせいでえ!」
そもそも俺はもう働かなくてもいいぐらいのお金を持っていたが、予想外の事態によりないも同然になった。幸いレベルやスキル及びポイントはそのままなのでクエストでお金は稼げる。
「何でまたやらなきゃいけねえんだよおおおお!」
魔王を倒しちゃったカズマさんは、また魔王を倒さなくてはいけなくなった。ふざけんな。
そもそも俺がまた魔王を倒すことになったのは本当にあいつらのせいなんだ。
その日はよく晴れていた。
俺はアクアたちとウィズの店に来て、世間話をしていた。
平和になったからか、暇な時間も増えた。お金持ちの俺は働く必要はないのだが、暇さえあれば何かを作ってはウィズの店に持ち込んだりする。
今日は何も持ち込まなかったが、バニルと別の街の流行の品を見て、この街でも通用するのか、もしくはどう改良するか、そんな話をした。
「むう、爆裂魔法を汚す悪しきものが売られているなんて」
厳重に保存される形で、ダイナマイトは販売されている。今でも難色を示すめぐみんだが、これが工事などで活躍していて、職人に必要とされていることを聞いてからは少しは見逃すようになった。
まあ、それでも難色を示すだけあって、見る度に文句を言っているが。
「そういえば面白いものを手に入れたんです! これなんですが、何と! 平行世界に行けるみたいです!」
「平行世界とは何だ?」
「平行世界とは、つまり……あの、その」
言ったのはいいが、あまり理解してないらしいウィズに代わって説明をする。
「平行世界ってのは基本的にこの世界と同じだ。だけど違う所があるんだ。例えばこの街にはウィズの店がなかったり、俺たちはあの屋敷に住んでなかったり」
「何だかもしもの話みたいですね」
「そういう風に捉えていいぞ。平行世界ってのは、別の可能性の話だからな。今日、俺は暇だからウィズの店に来たけど、別の世界の俺は屋敷で寝てたり、ギルドに行ってたりってな」
「なるほど。その時計みたいなものを使えばその平行世界に行けるのか……。だが、もし行った先がみんなと会えていない未来だったら……」
「でもでも、私を誰もが崇め甘やかしてくれるような、そういう最高の未来もあるわけで」
このばか!
「それならば私が求む最高のシチュエーションの世界が……!」
「爆裂魔法を好きなだけ使える世界も……!」
それ見たことか!
ダクネスとめぐみんがもしもの話を実現できるかもしれないと思い始めた。
「待て待て。神器でもないのにそんなのできるわけないだろ。それにウィズが仕入れたものだぞ」
「カズマさん、私だとそんなに信用なりませんか!?」
「貧乏店主、お前の何を信用しろというのだ。この前も我輩が出した稼ぎをガラクタに変えたばかりではないか」
「あれはガラクタではありませんってば! プリースト必須スキルのヒールを使えるようになるんですよ!」
「……プリーストしか使えないというオチつきだったろうが! 貴様、前にも同じようなのを買っていたではないか!」
「でも、ヒールのはプリーストが使う魔力と変わらない程度で使えます! ちょっと大きかったのが難点ですけど」
「余計な荷物を増やすぐらいなら習得するわ!」
いつもの言い争いがはじまった所で、ガラクタを見ていたアクアが自信満々に言った。
「ウィズ、安心していいわ! これは紛れもなく神器よ!」
「ほら、聞きましたか!? 私だってちゃんと商品を仕入れられるんです!」
ウィズは全身で喜びを表現しながら言った。その時に豊かな胸がダンスしたのでがっつり見た。
ガラクタ改め時計みたいな神器をテーブルに置いた。
バニルが切り出した。
「我輩の知識が確かなら、神器は認められた者でなければ力は発揮しないはずだ。一部は認められてなくとも使えるみたいだが、その場合は本来の力には及ばない」
「これは認められてなくても使えるわ。誰かが使ってたら使えないけど。あと行き先の指定はできないし、自由に行き来できないわ」
「それならだめですね」
「と思うのが素人の考えね。あくまで自由に行き来できなくなるだけよ。帰るための条件を決めてから使えば問題ないわ。それでも行き先の指定はできないけど」
「条件を満たさないと帰れないが、その条件も簡単なものにしておけば……」
りんごを買う、これを条件にすれば帰れなくなることはない。つまり害のない神器だ。これなら平行世界に気軽に遊びに行くことができる。
「ふむ、これを上手く使えば毎月売上を確保できるな」
「はあ? 悪魔が何神器を利用しようとしてんのよ。これは私たちがつくったものなんだけど。薄汚い悪魔風情が使おうなんて烏滸がましいのよ」
「これは店主が仕入れたもの。ならば、当店で使っても問題なかろう。それとも買うか? これほどの商品だ。かなりの値がつくであろう。何せ簡単な条件をつければ、実質自由に行き来できるわけだからな!」
平行世界に旅行できるとなれば、相当な金額をとっても問題ないだろう。行き先の指定こそできないが、もしかしたらそのランダム性も醍醐味になるかもしれない。
「使用者が帰ってくるまで使えないなら、使用者に使用期間中の代金をいただくまで。一日いくらにしてくれようか。五十万エリスが妥当か。ふむ、年一億エリスとして、十年使えば十億エリスの売上か。それほどのものを売るとなれば最低百億エリスになるぞ。ははははははははははははははは!!」
バニルは最後に高笑いを決めた。
話の内容からして売る気はないのだろう。
ウィズが知らずに仕入れたとはいえ、この神器があれば確実に稼げる。しかも、神器の使用予約で来た客が店の商品を見て購入したり、使った客が誰かにこの店の話をするだろう。宣伝効果も考えれば妥当な売値とも言える。
この神器を買い取ったあとは何代にも渡って使えば元手はとれる。
神器で得た利益で何か商売をはじめることも可能だろうし、あるだけで巨万の富を築けそうだ。考えれば考えるほど百億エリスが安く思えてくる。
「ひゃっ!? あんた調子乗ってんじゃないわよ! カズマ、百億エリス出し」
「ふざけんな! 出せるわけねえだろ!」
百億エリスを要求してきたアクアに怒鳴り返す。
ここで怒鳴っておかないと、マジで神器を購入してきそうだ。
神器があれば回収はできるかもしれないが、今でも十分すぎるほどの財産がある身としてはそこまで魅力的ではない。
「別にいいだろ。これはウィズがちゃんと仕入れたものだし、悪用はしないさ。そうだろ?」
「はい! 絶対に迷惑はかけません!」
ウィズの言葉にアクアは渋々引き下がる。何だかんだでウィズはアクアにとって友達なんだと思う。
「それでは記念すべき一人目は私がやりましょう」
「いや、まずは私からだろ」
「使うのは女神の私が危険がないか確認してからよ」
めぐみん、ダクネス、アクアが神器に手を伸ばし、そして相手に渡すまいと取り合う。
「ええい! 邪魔をするな!」
「ダクネスこそ! どうせろくでもないことを望んでるだけでしょうが! 無限爆裂魔法を望む私にこそ相応しいんです!」
「めぐみんこそろくでもないわよ! これは私が使うべきなのよ! 平行世界のアクシズ教を盛り上げるためにも!」
「あっ! アクア、魔力を込めるのは卑怯です! そちらがそうするなら……!」
「ふふ、貯まった所で奪ってやる」
「はあ。お前ら、ちょっと落ち着け。話し合って決め」
「騙されませんよ!! カズマはそう言って神器を取り上げて使うつもりなのでしょう! 中立に見せかけて自分に有利になるようにする、姑息なカズマらしいですね」
「はっ?」
「カズマさん、私たちがどれぐらいの付き合いだと思ってるの? あんたの考えぐらいお見通しよ!」
「お前が神器のことを聞いて大人しくしてるのはそれしかないだろ」
わー、こいつら俺のこと全然信用してねえ。
卑怯者と責める眼差しに俺の心は痛み、長年の仲間が信じてくれないという事実に泣きたくなった。
俺ほど誠実な男をどうして信じてくれないのか。
「やめんか! そんな乱暴にして壊したらどうなるかわかってるのか!?」
バニルの言葉に俺は背筋が寒くなる。そうだ、もしもあの神器を壊したら弁償することになるわけで、それを支払うのは当然……。
「お前ら、いいから一回それを置け! 百億エリスなんて弁償できないんだから!」
「「「他の二人が手をはなしたらはなす!」」」
「この駄々っ子どもが!」
仕方なく俺は取り合いに参加する。
真っ向勝負では勝てるわけがないので、ここはいつものやつを。
「『スティール』」
「「「あっ!」」」
「お前ら、いい」
〈異常感知。これより動作確認を行います〉
「はい?」
〈別の時間軸への移動を開始〉
「ちょ、ちょっと待て! 帰るための条件を決めてないぞ!」
〈動作確認の場合、条件は自動的に魔王討伐になります〉
「やめ、やめろおおお!」
俺の質問に答えたのか、それともはじめからプログラムされていたことなのか、神器は無機質に告げて、無情に俺を平行世界に送りやがった。
くそったれえ!
あいつらの下らない喧嘩のせいで俺は、俺はまた魔王討伐なんて頭の悪いことをしなくてはいけなくなったのだ。
あの異常だってめぐみんとアクアがバカみたいに魔力を注ぎ込んで、ダクネスが馬鹿力で掴んだから起きたんだ。
「あいつら、帰ったら覚えてろよ!」
恨みのこもった声で言ったら、何でか周りの人たちが怯えた顔になったのだが、どうしてだ。
「魔王か……」
あの恐ろしい魔王とまた戦うことを考えたら、いっそこの世界に住んでしまいたくなる。
先を考えると頭が痛くなってくる。
途方に暮れるカズマの前に現れた謎の人物たち。
「我が名はゆんゆん! アークウィザードにして、上級魔法を操る者! そして、やがては紅魔族の長になる者!」
「我が名はめぐみん!! アークウィザードにして、爆裂魔法を操る者! そして、魔王を滅ぼす者!」
その者たちとの出会いはカズマに何をもたらすのか。
次回、めぐみんとゆんゆん仲間になる!
何話で終わるかな……。
↓下のおまけは、短編集にしようと書いた最初のものです。知識不足感が出てます。
魔王の討伐を道連れという形で俺は成し遂げた。
そのおかげでレベルはとんでもない勢いで上がった。そうなるとスキルポイントは比例するわけで、何を覚えようか迷ってしまう。
もう危険なことをする必要もない。魔王討伐の報酬で一生遊んで暮らせる。……レベルとスキルポイントは実はそんなに必要なかったりする。
しかし、せっかく手に入れたものを使わないというのはもったいないというか。貧乏性が出た感じがするが、もったいないものはもったいない。
クエストを請けることはもうないとはいえ……、もうない……、俺は思った。
将来、子供ができて、その子が俺みたいな英雄になりたいと言った時、今のままでいいのだろうか。俺より子供が強くなることは別にいい。しかし、子供と一緒にモンスターを退治しに行き、まともに戦えないままというのはちょっと、その、父親として情けなさすぎるというか、せめて弱いモンスターぐらいは倒せないとね、うん。
そんなわけで俺は上級魔法を覚えることにした。
屋敷にウィズを呼んで、どんな魔法を覚えるか話をする。
「カズマさんの場合は覚えられても本職ほど威力は出ないでしょうから、使い勝手を重視した方がいいでしょうね」
「使い勝手か……。間違っても爆裂魔法は」
魔王を倒すためとはいえ、スキルポイントを注ぎ込んで習得したが、
「ないですね。覚えてもそこまで活躍しないでしょうし、そもそも使い勝手悪いですよ」
「ですよねー。そうなると……」
ウィズのはっきりとした否定を聞き、俺は何を習得するか考える。
ふとゆんゆんが使っていた魔法を思い出した。あれならわりと使い勝手よさそうだ。
「何とかセイバーってのはどうだ?」
「『ライト・オブ・セイバー』ですか。そうですね、カズマさんの魔力でもゴブリンやジャイアントトードは簡単に切り裂けますよ。それより強いのも倒せると思えますし、間違いないですね」
ウィズの反応はいいものだった。胸の前で手を合わせて、にこにこしているウィズに早速教えてもらおうとした所で、制止が入った。
「認めません、認めませんよ! カズマ、私より魔法使いらしくなってどうしようと言うのですか! 大体私の爆裂魔法があるのですから、カズマが上級魔法を覚える必要はありません」
パーティの中でアークウィザードという上級職についているめぐみんが熱く語った。どうやら自分のアイデンティティーが脅かされるのではないかと思っているようだ。
「大丈夫だめぐみん。俺が上級魔法を覚えても、お前が頭のおかしい爆裂娘なのは変わらないから。だから安心してくれ」
そう、俺が上級魔法を覚えても、こいつの他の追随を許さない爆裂道の前では霞むのみだ。むしろ、カズマってそんなのも覚えてたんだ知らなかったー、と言われるのが頭に浮かぶ。
「私のどこが頭おかしいのか問い質したい所ですが、今は置いておきましょう。……カズマ、私の爆裂魔法では不満ですか……?」
不安げに、俺の服を掴んで見上げてきためぐみんは爆裂可愛かった。
もしかしたらめぐみんは、俺が上級魔法を覚えることで、爆裂魔法しか使えない自分が必要とされなくなることが怖いのかもしれない。ダンジョンに潜る時はいらない子なのは言わないでおこう。
全く、俺がどんな魔法を覚えても火力不足になるのは確実なんだから、こいつの超火力が不必要になるということはあり得ない。何より大事な仲間をそんなつまらない理由で切り捨てるほど俺はクズでない。
「お前の爆裂魔法は頼りにしてる。俺が上級魔法を覚えようと思ったのは別の理由だ」
「別の理由?」
「いいか。俺はこれでも、これでも魔王を倒した勇者だ。これでもな!」
「そんな卑屈にならなくても、カズマが倒したのはわかってますよ」
めぐみんの言葉にウィズもうんうんと頷いた。
「例えば、将来俺に子供ができたとする」
子供と聞いた時、めぐみんがぴくっと反応したが、無視して続けた。
「もしかしたら俺のような偉大な英雄になりたいと言うかもしれないだろ?」
「は、はあ……」
何かウィズが軽く引いた気もしたが、やはり俺は無視して続けた。
「そうなると当然子供は俺が戦ってる所を見たいと言うに決まってる! その時! たかが! 蛙に! 苦戦! してるのを見た子供は何を思うかわかるか? わー、パパあんな雑魚モンスターにも勝てないの? って失望する。俺はそんな恥ずかしい親になりたくないんだよ!」
「り、理由は何であれ、積極的なのはいいことだと、思います、ええ」
何だかウィズがどう反応したらいいのか困ってるように見える。俺の清純な想いはリッチーのウィズにはダメージ的な要素があったのかもしれない。
「なるほど、子供ですか。そうですね、少しはかっこいい所を見せてくれないと私も困りますね」
「あんっ?」
「カズマ、上級魔法覚えて、爆裂かっこよくなって下さいね」
どうしたんだこいつ。
急に満面の笑みを浮かべためぐみんに俺は戸惑うしかなかった。
何だこいつ。
「あ、まあ……」
ウィズは俺とめぐみんを見て、微笑ましそうにしている。ただ、その目には好奇の色もある。
何なんだ。俺は状況を確認するためにめぐみんの言葉を思い出して――
「お、お前は何で……」
爆裂言葉に俺はダウン寸前だ。何度も言うが、そういうのは本当にずるい。何なの、本当に……。
俺が気づいたのを察しためぐみんが頬を赤らめて、何かを期待するように見上げてきた。
「お邪魔虫は去りますね」
ウィズの言葉を聞いても、俺は何も言えずにいた。というか、めぐみんから目をはなせない。
めぐみんは俺に何度も好きと言ってきた。それに一線を越えそうになったりもした。魔王討伐、アクアの連れ戻し、全部果たした今、一線を越えないで止まる理由は何処にもない。
めぐみんに『ライト・オブ・セイバー』して、『エクスプロージョン』してもいいということだ。
ごくりと唾を飲み込んで、俺は勇気を振り絞り、
「カズマ、はやく爆裂かっこよくなって下さいね」
めぐみんは胸の前に手を置いて、期待するように言った。
最後に爆裂綺麗な笑みを浮かべた。
それに見惚れて、ぼーっとしてる間にめぐみんは立ち去った。残された俺はぽつりと言った。
「またお預けかよおおおおお!!」