このすば! 俺はまた魔王を倒さなきゃいけないようです   作:緋色の

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コミック六巻で戦士っぽいのがファイアーボールを使ってましたね。
ミスなのか、それとも新たな要素として入れたのか……。


第九話 俺に混浴を

 温泉旅行。

 同行者は皆レベルの高い美女。

 これだけを聞けば、男性諸君なら夢のような時間を想像するが、内実を知る俺は溜め息しか出ない。

 向こうには魔王の幹部がいる。

 それを倒すためには当然のことだが、ウィズの協力が必要となる。

 なので、今回の温泉旅行にはウィズを連れて行こうと思い、バニルに言いに行ったら……。

 

「連れていってくれて構わん」

「そこそこ客いるのに大丈夫なのかよ」

「これぐらい我輩一人でもできる。問題は店主だ。奴め、利益が出たらすぐにガラクタにしてしまう。おかげで赤字が出ていてな。ぽんこつ店主がいない方が助かるのだ」

「それなら遠慮なく借りるけど……」

「うむ。連れていってくれ」

 

 こっちでもウィズは厄介者扱いされているみたいだ。

 ウィズの店に客がそこそこいるというのも変な話だが、しかし俺の知的財産を使ってるわりには少ないような……。

 もしかして小出しにしてるのか?

 こたつとか今売りに出してもしょうがないのもあるし、商売上手なこいつのことだから小出しにすることで常連客をつくろうとしているのだろう。

 あとは時期を見ているとか。

 考えが読めない悪魔の経営戦略を推測するのはやめておこう。

 こっちの頭がおかしくなるかもしれん。

 

 

 

 水と温泉の都アルカンレティア(理想)へは馬車で一日半ほどかかる。

 朝一番の馬車を使えば野宿は一日で済む。

 馬車は予約でとっていたので、元の世界とは違って五人分の席を確保できている。

 冒険者の俺達は護衛として雇われることもできたが、戦いたくない俺は一般人として乗り込んでいる。

 何だかデジャビュに思えたが、気のせいだろう。

 ゆんゆんが窓際の席に座りたそうにしていたので素直に譲った。

 俺は背もたれに体を預ける。

 朝はやくに起きたこともあり、まだ眠気はある。

 少し寝て、すっきりしたい。

 寝ることだけをみんなに伝えて、俺は眠りについた。

 

 夢?

 それにしてはやけにリアルというか。

 いや、夢だな。

 窓際にはゆんゆんが座っているのに、俺が座ってるし。

 というか、こんな感じになるのは夢だ。

 窓の外を見れば、砂煙が巻き上がって……。

 砂煙?

 モンスター来てる?

 そういえば道中でモンスターに遭遇したような。

 したな。

 モンスターに遭遇した。

 確か名前は…………走り鷹鳶だっけか?

 もしかして、こっちでも遭遇するのか?

 あいつら硬いのが好きと聞いてるし……。

 けど、俺の魔剣は……。

 違う!

 ダクネスだ。防御特化してる攻撃が当たらないクルセイダーのダクネスだよ!

 思い出した。

 ダクネスに釣られて走り鷹鳶が来るんだ。

 

「わっしょい!」

「「「「きゃあ!」」」」

 

 夢で全てを思い出した俺は窓の外を見るためにそっちに体を寄せる。

 するとゆんゆんが文句を言ってくる。

 

「ちょ、ちょっと! いきなり何なの!? 苦しいんだけど!」

「うるさい。文句言うとちゅっちゅっするぞ」

「ちゅっ!?」

 

 想像力と胸が豊かなゆんゆんは顔を真っ赤にした。何を想像したのか言わせたい気持ちになるが、それをしたら殺される予感がするので静かにする。

 微妙にゆんゆんのお胸がゆんゆんしてるが、夢サービスで鍛えられた俺が今更おっぱいぐらいで動揺するはずもない。

 いいおっぱいだ。

 ちょっと息がしにくくなってるけど、酸素足りてねえなこの馬車。

 何だか冷ややかな視線を感じるが、炎のように熱く火照る顔には通用しない。

 千里眼で遠くを見て、砂煙を確認する。

 

「走り鷹鳶か、あれ?」

「走り鷹鳶?」

「ああ。繁殖期になると、雄は硬いものにギリギリまで近づいて避けるという変わった求愛行動をとるんだ。普通はその辺の岩や木に向かうんだが……」

 

 話してる間にも、走り鷹鳶はこちらにどんどん近づいてくる。

 硬いものを求める奴らは、もしかしたらこの世で最も硬いダクネスを本能的に求めているのだろう。

 俺が何も言わずにダクネスを見ると、みんなも気づいた。

 

「私か。確かに私はアダマンタイトより硬い自信はある。奴らが私に目をつけるのは納得のいく話だ」

「倒さねえとな……」

「そうだな。ところで、奴らは私に向かって来るわけだが……、突撃とかはしないのか?」

「ミスをしない限りはしない」

「そうか……」

 

 しないと聞いたダクネスは残念そうにするが、あの数に突撃されたら流石のお前でも死ぬぞ。

 そろそろこいつの変態性癖をどうにかしないといけないな。

 などと危機感を抱くが、走り鷹鳶のこともあり、ダクネスのことは後回しに。

 さて、どうやって倒すか。

 

「こうなったらダクネスを囮に倒すしかないだろうな……」

「遠慮なく囮にするって言ったわね」

「馬車をダクネスから遠ざけて安全を確保。奴らはダクネスに向かって来るから、俺達は左右からひたすら攻撃する。単純だが、これが一番だろうな」

「護衛の冒険者も手を貸してくれるでしょうから、何とかなるでしょう」

「決まりだな」

 

 早速俺は御者のおっちゃんに話をする。

 

「おっちゃん、走り鷹鳶がこっちに来てる」

 

 俺の話におっちゃんは馬車の速度を落として、向こうの砂煙の正体を見極めようと目を細め。

 

「確かに走り鷹鳶ですね。しかし、その辺の石や木に向かうと思うので」

「いや、そうじゃない。俺の仲間には防御力が桁外れに高い奴がいるんだ。だから、奴らはこっちに来る」

「嘘、ではなさそうですね。どうしましょうか」

「作戦ならもうある。とりあえず他の馬車を停めてくれ。それでこの馬車はもう少し先で停めてほしい」

「わかりました!」

 

 おっちゃんは筒のようなものを取り出す。

 何だそれ? 見たことないんだけど。

 その筒をライターで火をつける。

 筒の先端が激しく燃え上がり、おっちゃんが手を横に伸ばす。

 遅れて赤い煙が流れ出る。

 まさかの発煙筒である。

 ライターは俺がつくらなきゃなかったのに、発煙筒はあるとかどういうことだよ。

 ライターや魔法なしだと発煙筒あんまり役に立たないだろ。

 いや、まあ、危険を知らせるには一番手っ取り早いのかもしれんが。

 俺は考えるのをやめた。

 発煙筒を受けて、後続の馬車は停車した。

 俺達の馬車は少し先で停車し、後続の馬車とそこそこ距離をとった。

 

「ウィズは後続の馬車に乗ってる護衛の冒険者に走り鷹鳶について言ってきてくれ」

「はい!」

「ダクネスは俺についてこい。めぐみんとゆんゆんは馬車から降りて待っててくれ」

 

 走り鷹鳶が来る前に済ませなくては。

 ダクネスは俺達の馬車と後続の馬車の間に待機させる。

 後続の馬車とは距離をとってあるから、ぶつかる心配もない。

 あとは俺達が左右からちまちまと走り鷹鳶の群れを攻撃するだけだ。

 問題なのは走り鷹鳶がとんでもなく多いことだ。

 あの数を相手にするのはかなりきついが、俺達が招いたことなので、俺達の手で解決しなくてはならない。

 アクアいないからこういうこと起きないと思ってたのになあ。

 これが油断というやつか……。

 

 

 

 

 

 俺の作戦は見事に決まり、走り鷹鳶の群れを討伐した。

 元の世界ではアクア目当てにアンデッドが来たものだが、今回はアクアがいないのでそれもなく。

 俺達は無事、目的地のアルカンレティアに到着した。

 ここが数多のアクシズ教徒が生息する、恐怖と絶望の都アルカンレティア(真実)だ。

 一度足を踏み入れれば、アクシズ教徒に身も心もズタズタにされる。

 水の都と言われるだけあって、街のあちこちに水路はあり、温泉が湧き出る山と美しい湖が隣接しているが、それに騙されてはいけない。

 

「いいか。ここは恐怖と絶望と悲劇の都アルカンレティアだ。いつアクシズ教徒が襲ってくるかわからないから、心は強く持っておけよ」

 

 俺は大事な仲間達に真剣そのものの気持ちで言った。

 俺の話に頭が足りないめぐみんは。

 

「カズマ、いくらなんでも言い過ぎですよ」

「ばか! ばかみん! いいか、断言してやる! 魔法禁止で素手で巨大スライムと戦う方がまだ生存率は高いからな! 魔王とレベル1で戦う方がまだ怖くないからな!」

「あの、カズマさんの中でアクシズ教徒はどんな存在なんですか?」

「はっきり言って魔王軍と和平交渉する方が現実的だと思えるからな」

 

 アクシズ教徒、危険、絶対。

 しかし、俺の話を聞いてもみんなは俺が大袈裟に言ってるだけと思ったのか、肩を竦めるのみだ。

 そうか、こいつらはまだ知らないのか。

 

「無知って幸せだな」

 

 俺は幸せなこいつらを見て、優しく微笑む。

 魔王軍ですら関わりたくないと言うほどのアクシズ教徒をわかっていない。

 俺は宿の場所を覚えているので、一足先に、逃げるようにして宿へと向かった。

 すまん、許してくれ。

 

 で。

 俺のあとにめぐみん達は来て、荷物を置いて散策しに行ったわけなのだが……。

 数時間後に戻ってきた彼女達は、何というか、見ていられなかった。

 ゆんゆんは暗い顔で俺の隣に座り。

 

「カズマさん、ごめんなさい」

「聞くけど、何があったんだ?」

「人とね、ぶつかったの」

「うん」

「その人が転んで、凄く痛そうにしながら叫んでね? 見物する人もできたりで大変だったの」

「うん」

「相手の人が骨折したとか言ってね? 私に名前とか住所とか紙に書けって怒鳴ってきたの」

「入信書か」

「うん。それでこれはアクシズ教徒の入信書だから別のをと言ったら相手の人が怒って、よくわかんないこと言ってきたの。でも、これはいい方なの」

「いい方?」

「見物の人が責任とるつもりないのかー! とか、アクシズ教徒だから差別してんかー! とか、色々言ってきて……、私、ダクネスさん達来なかったら、うう……」

 

 何て恐ろしい勧誘のやり方だ。

 もはや脅迫だ。

 警察は何やってんだよ……。

 ゆんゆんの心に深い傷ができてしまった。

 同じことされたら、大体の人はトラウマになると思う勧誘だ。

 酷すぎるな……。

 温泉旅行に来たばかりだが、もう帰ってもいいんじゃないか?

 このままここにいたら、いつか死ぬと思うんだけど。

 めぐみんとウィズも表情は暗いが、ゆんゆんほどではない。それでもアクシズ教徒は怖いと言っているから、それなりの目には遭ったんだろう。

 ダクネスは……、いつも通りか。

 

「とりあえず、みんな温泉行かないか? 入れば、少しは気分もすっきりするだろ」

 

 俺の提案を四人は快く受け入れてくれた。

 そんなわけで準備をして、温泉まで来たわけだが。

 

「お前ら揃いも揃って女湯かよ。一人ぐらい来いよ。一人ぼっちとか寂しすぎだろ」

 

 当然と言えば当然だが、めぐみん達は女湯に入ろうとしていた。

 俺としては今度こそ混浴を堪能したいので誰か一人は来てほしいのだが……。

 

「嫌ですよ。一緒に入ったらカズマに何をされるかわかったものではありません」

「安心しろ。俺はロリコンじゃない。おい、ゆんゆん。お前俺を一人ぼっちにするのか? 一人ぼっちがどんなに辛いかわかるだろ? お前らが女湯で楽しんでる中、俺は一人で温泉に浸かって。上がったら上がったで四人の会話についていけないから、部屋の隅で黙って聞いてるしかない。そのまま夕食になって、でもみんなの輪に入ることができなくて一人で泣きそうになりながらご飯を食べて、最後はみんなが楽しそうに遊んでいるのを見ながら、部屋を出て、自分の部屋に行き、敷かれた布団に潜り込んで枕を濡らすことになるんだぞ。朝になって変わるかと思ったら、みんなはとっくに街に散策に出てて、俺は冷たくなった朝ごはんを泣きながら食べて、このままじゃだめだと思い、街に出るんだけど、俺抜きでも凄く楽しそうにする姿を遠くから見て邪魔できないってなって、一人とぼとぼと宿に戻って布団に潜って泣き、話ができないまま最終日を迎え、みんなに忘れられて一人アルカンレティアに取り残される俺の気持ちを考えてみろよ!!」

「ごめんなさい! 私、私、そんな酷いことしようとしてたなんて……! そうよね、一人は寂しいもんね。わかった。カズマさんと一緒に入るわ!」

 

 俺の話を聞いたゆんゆんは泣きながら謝り、俺と混浴してくれると言ってくれた。

 

「前々から思ってたが、やっぱり最後に頼るのはゆんゆんだな。他がだめでもゆんゆんなら聞いてくれるって思うんだ」

「そ、そんなことないわよ。私だっていつもカズマさんに助けられてるし」

 

 上目遣いで、照れ臭そうにしながらそう言ってくるゆんゆんは可愛らしい顔立ちもあって、何というか凄かった。

 こんなんされたら並みの男は一撃で堕ちるな。

 だけどこの俺に隙は……!?

 ゆんゆんの頬はほんのりと赤く染まり、自分の言ったことが恥ずかしくなったのか、恥ずかしげに視線を外す。

 反則的に可愛い。

 こんな子と一緒に入浴できるのか。

 流石、水と温泉と夢と希望と愛の都アルカンレティア(現実)だけのことはある。

 ゆんゆんと一緒に混浴風呂に行こうとしたら。

 

「いやいや! ゆんゆん、何騙されてるんですか! その男は欲望を満たすために嘘を並べてるだけですから!」

「止めないでめぐみん! 私、カズマさんを一人にしないって決めたの!」

「あなたって本当におかしいところで頑固ですよね! しかし、友人が危険な目に遭うとわかってて行かせるわけにはいきません!」

「おい。危険な目って何だよ? お前ら隣にいるんだから何もできないだろ、普通に考えて。それともめぐみんは俺がそういうことをすると思ったのか? とんだ変態だな!」

「んなっ!?」

 

 図星をつかれためぐみんは顔を真っ赤にして、後ずさる。

 ゆんゆんのことを想像力豊かとか言うくせに、肝心のめぐみんもいやらしい妄想をする。それでよくゆんゆんのことを言えたもんだ。

 勝利を確認した俺はゆんゆんを連れて混浴風呂へ。

 滅茶苦茶高笑いしたいけど我慢した。

 脱ぐところを見てやろうかと思ったが、流石にまだ死にたくないのと、ここで逃がすわけにはいかないと思い、ここは我慢した。

 まあ、俺とゆんゆんの間には衣類を入れる棚があるから、振り返っても見えないんだけどな。

 扉の前に立つと、ゆんゆんは顔を真っ赤にする。

 俺を見ることはできないと、顔を反対に向ける。

 一枚のタオルで体を隠すが、しかしよく育った一部分は完璧に隠すことなどできない。

 どれだけ肥えているかよくわかる。

 というか、年齢に似合わずスタイルがいいな。

 あと数年したら、めぐみんをガチ泣きさせる体になるんじゃないか?

 ゆんゆんの将来に期待していると……!

 

「ふう。これでようやく忌々しいアクシズ教団を終わらせられる。秘湯での破壊工作は終わった。今のところどの温泉も上手く行っている。あとは待つだけだ。長い寿命を持つ俺達にとって十年、二十年待つのは大したことない」

 

 忘れてたー!!

 そうだよ!

 ばかが悪役の台詞言ってたんだった!

 

「カズマさん、今の……!」

「しっ」

 

 俺はゆんゆんと自分に静かにするように言った。

 ゆんゆんは緊張から俺の腕に抱きついた。

 本人はまるっきり気づいていないが、俺はしっかりと気づいていた。

 お胸柔らかいですね。

 落ち着け。気づかれてはいけない。

 心を鎮めろ、佐藤和真。

 俺はゆんゆんに気づかれないよう、扉の向こうから聞こえる会話に耳を傾ける。

 

「ハンス、そんなのいちいち報告しなくていいわよ。私を巻き込まないでちょうだい。私は湯治に来てるだけなんだから」

「そんなこと言うなよ。正攻法じゃどうにもならない教団を潰せるんだぞ。また何かあったら報告しに来るから、引き続き湯治しててくれよな」

 

 話を聞いたゆんゆんはどうしようって顔で俺を見るが、俺もどうしょうか悩む。

 そろそろ俺の正義が悪の誘いに乗ってしまいそうだ。

 もしばれたりしたら、ゆんゆんにどんなことをされるかわかったもんじゃない。

 ゆんゆんは大人しそうな見かけとは違い、暴力的一面を併せ持っている。

 正義を誘惑するのはいつも悪だというのに、そんなことになる正義が悪いと悪は怒るから困る。

 このままでは俺の正義は粉々に砕かれる!

 俺はそれを避けるために、悪がいる温泉に飛び込んだ。

 

「話は聞かせてもらったぞ! 魔王軍の幹部ハンス!」

「「「!?」」」

「めぐみん! そこにいるんだろ?」

「カズマ、今魔王軍の幹部と聞こえたのですが!」

 

 俺の後ろにゆんゆんは隠れているが、俺より強いんだから前に出てほしい。いや、そうしたら俺の正義が悪は許さないと叫びかねないからいいのか。

 突然のことに驚き固まる二人の魔王軍幹部を見ながら、俺はめぐみんに指示を出す。

 

「めぐみん! 魔法を撃て! 魔王軍の幹部を仕留めろ! 男湯にいる奴はすぐに逃げてくれ!!」

「ひいいっ!」

「あたし、こわーい」

「お前のが怖いよ」

 

 男湯にオカマがいたらしい。

 向こうからキレたオカマの怒号と男性の叫びが聞こえてくる。

 どうやら男湯では思わぬ被害が発生しているらしい。

 女湯じゃないなら問題ないので放置しよう。

 俺はめぐみんにもう一度指示を出す。

 

「やれめぐみん! 弁償代は幹部討伐報酬から出すから問題ない!」

「わ、わかりました!」

 

 壁の向こうから爆裂魔法の詠唱が聞こえてくる。

 時間を稼がなくては。

 ウォルバクの方は俺がガン見して動きを止める。

 

「ゆんゆん、男に大量の魔力でカースド・クリスタルプリズンを頼む。女の方は俺に見られると恥ずかしくて動けなくなるみたいだからガン見してやる!」

「最低なのに、最低なのに……、効果があるなんて……」

 

 敵の動きを止めるだけだからしょうがない。

 俺だってこんなことをしたくてしているわけではない。他にやり方があるならそっちをとる。

 あー、本当に厄介だなあ。

 こんな酷いことするなんて本当にやだなあ。

 ここまで俺達が一方的に全てを支配しているのが原因で敵は未だに固まっている。

 それを利用しなくては。

 

「ゆんゆん、はやく魔法を」

 

 俺は小声で指示を出す。

 ゆんゆんは小さくこくりと頷き、魔法の詠唱を早口に行う。

 ワンドがないから魔法の威力は落ちてしまうが、そこは大量の魔力でごまかすしかない。

 ゆんゆんからかつてないほどの膨大な魔力を感じると、ハンスはそれで正気に戻り、俺達を睨みつけて動きを見せるが――。 

 

「『カースド・クリスタルプリズン』!」

「ぐおっ!?」

 

 それよりもはやくゆんゆんの魔法は決まり、ハンスは巨大な氷に閉じ込められる。

 流石ゆんゆんだ。杖がなくても凄まじいカースド・クリスタルプリズンをやってのけた。

 しかし、ハンスを完全に止めるためとはいえ、ゆんゆんはかなりの魔力を使った。そのせいで力を失ったように俺に寄りかかる。

 胸が凄いです……。

 ここぞとばかりに堪能したいが、爆裂魔法から逃げるためにも今の内に肩を貸さないと……。

 残念だ。

 何はともあれ、これで爆裂魔法までの時間は稼げたから、魔王の幹部を葬れるかもしれない。

 杖がないめぐみんの爆裂魔法がどれほどかは不明だが、少なくとも軽傷で済むことはないはずだ。

 

「あとは爆裂魔法が撃たれる前に逃げるだけだ。直前まで引き付けないとな」

「まさか、こんなあっさり幹部を倒せるとは思わなかった……」

「ダクネスはめぐみんを爆裂魔法で自滅しないように守ってくれ」

「わかった!」

 

 ウォルバクはめぐみんの爆裂魔法がもう少しとわかったのか、多少見られるぐらいならとばかりに動こうとした。

 俺の名は佐藤和真。油断も隙もない男だ。

 

「おっと。動いてみろ。俺のスティールがあんたのタオルを奪うことになるぞ!」

「ひっ!?」

「俺としては動いてもらっても構わんぞ! スティールで裸にしたあとは、あんたの信者にどれだけいい体してたか言い触らしてやる!」

 

 いやいや悪辣に笑いながら脅しつけた。

 

「な、何て男なの!? 悪魔なんて比じゃないんだけど! あなた本当に人間なの!?」

「か、カズマさん、良心はないの?」

「う、うるせえ! 二人の幹部を倒せるならいいんだよ! めぐみん、爆裂魔法はどうだ!?」

「間もなく撃てますよ! まさか、一度に二人の幹部を仕留められるとは……、今日ほど爆裂魔法を覚えてよかったと思う日はありませんよ! ふはははははははははは!」

 

 勝った。

 ハンスが真の姿を出す前なら、あの巨大なスライムに変身する前ならいくら魔法耐性が高くても、粉々になるはずだ。

 汚染の心配は出てくるが、そもそもハンスと戦って汚染なしで済ませるのは不可能だ。あとで浄化するしか道はない。

 俺の勝ちだ!

 確信した俺は言ってやった。

 

「ふははははは! 自分の半身と巡り会えぬまま滅び行くがいい!」

「あ、あなた本当に何者なの!? どうしてそんなことを知ってるの!?」

「なぜだろうな! 一つ教えてやれるのは、邪神ウォルバクは今日で消滅するということだ! めぐみんに爆裂魔法を教えたことを後悔するがいい!」

 

 その瞬間、爆裂魔法の気配が消え去る。

 何事だ?

 まさか、こいつらの手下がめぐみん達を襲ったのか? だが、俺の記憶にはそんなのいないんだが。

 もしかして平行世界特有の……。

 

「巨乳のお姉さんなんですね、そこにいるのは。私に爆裂魔法を教えてくれた……!」

「……まさかとは思ったけど、本当にあなたなんてね……」

 

 ばかあ!

 何で余計なこと言ったんだよ、ばかあ!

 めぐみんは戦意を失ったのか、爆裂魔法を撃とうとはせずにウォルバクと会話を続ける。

 

「私はあなたに爆裂魔法を見せるために今日まで鍛えてきました。いつか最高の爆裂魔法を見せるって誓ったから……」

 

 ウォルバクがハンスの方へ動かないように見張るが、ウォルバクはめぐみんとの会話を優先するようにハンスを見ない。

 とりあえず様子見だな。

 ウォルバクは懐かしそうにしながら、でも少し寂しげにめぐみんに問いかける。

 

「それでどうなの?」

「今は最高の爆裂魔法を見せることはできません。杖がなければ、本気の本気の本気の、本気の……、爆裂魔法を見せられません。あなたがそこにいるなら、私は爆裂魔法を使いません」

 

 めぐみんがウォルバクに対してどんな気持ちを抱いているのか、俺は知っている。

 だからこそ何も言えなかった。

 言ってもめぐみんは魔法を使わない。

 ミスったと思うと同時に俺はこれでよかったとも思った。

 ウォルバクとのことは、きちんと向き合ってやるべきなんだ。

 

「そう。……はあ。困ったわね」

 

 本来なら倒されていたかもしれないからか、ウォルバクは困った顔で考えていた。

 爆裂魔法の脅威がなくなれば、怖いものなんかないはずだ。

 ゆんゆんに魔法を使うほどの魔力はない。

 ゆんゆんを支えてる俺なんか簡単に倒せる。支えてなくても簡単に倒せるだろうけどさ。

 少しの間考え、決めたウォルバクは俺に手を向けて唱える。

 

「『ライトニング』」

「ぎゃあああああああああああああ!! 俺の足がああああああああああああ!!」

「カズマさん!?」

「ええっ!? ちょっと動けなくなる程度よ!? 大袈裟すぎよ!」

 

 俺の足にライトニングを撃ち、しばらく歩けなくしやがった。

 立つこともできず、ゆんゆんと一緒に倒れた。

 命に別状はないが、ムカつくから叫んだ。

 ウォルバクは俺を気にしながらも、ハンスのそばに寄る。

 火属性の魔法でも使ったのだろう。氷をブロック状に切り取る。

 今すぐ解かして助けないのは、逆上したハンスが俺達に襲いかからないようにするためか。

 ウォルバクは俺を見ると、軽く手を振る。

 

「また会いましょうね。あなたには半身について聞きたいわ。そして、おちびちゃん、今度は最高の爆裂魔法を見せてもらうわよ」

「……はい!! 絶対に見せます!」

 

 ウォルバクはめぐみんの返事に、敵なのに嬉しそうに笑った。

 きっと壁の向こうのめぐみんも笑っているんだろう。

 

「『テレポート』」

 

 いい雰囲気だが、足をやられた俺は腹いせに、テレポートで去ろうとするウォルバクに爆弾を投げた。

 

「あんたの半身の今の名はちょむすけ。俺達のペットとして可愛がられている」

「ちょっ、それ、どうい――」

 

 最後まで言うことはできず、ウォルバクはハンスを連れて逃げ去った。

 こうして俺達は死闘の末に魔王の幹部二人を撃退することに成功した。

 しかし……、無傷とは行かなかった。

 ゆんゆんは魔力の使いすぎで歩くこともままならず、俺も足に重傷を負い、立つこともできない。

 ゆんゆんは死闘を終え、安心したのか、それとも安心したいからなのか俺に身を寄せて尋ねる。

 

「どうしてカズマさんは色々なことを知ってるの?」

 

 その言葉を、俺はゆんゆんのお乳を感じながら、聞こえない振りをした。

 次にゆんゆんは不安げに、震える声で聞く。

 

「どうして誰も知らないことを知ってるの?」




ゆんゆん回でしたね。
後書き書いててゆんゆん回じゃんと思いました。
次はどうしましょうかね。

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