このすば! 俺はまた魔王を倒さなきゃいけないようです   作:緋色の

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雪が降りました。
積もりました。
真っ白です。
寒いです。


第十四話 世界を滅ぼしかねない兵器

 起きた時には昼過ぎだった。

 隣にめぐみんはいない。温もりもないから結構前に起きたんだろう。

 昨夜は語るのが躊躇われるような展開になってしまった。

 結局俺は童貞のままか。

 あんなに泣いたから、お互い心を癒すために求めるかと思ったら、泣き疲れて寝ちまったからな俺。

 まさか、自分でムラムライベントぶち壊すとは思わなかった。

 それもこれもめぐみんが余計なことを言い出したのが悪いんだ。

 あいつがあんなこと言わなきゃ、多分人に話せないような展開になってたんだよ。

 あいつはもっと空気を読むべきだと思う。

 そんなことを思っていると、物凄く腹が減ってることに気づいた。俺はもそもそと起き上がって、顔を洗いに行く。

 

 めぐみん家に人の気配はなく、冷めきった朝食兼昼食を食べる。冷めてても美味しいけど、みんなで食べないと心が暖まらないな。

 ご飯を食べ終えた俺はこれからどうするか悩む。

 予定では、めぐみん家に来たシルビアをバインドで捕らえて紅魔族に提供するという、隙が全く見当たらない完璧な作戦を実行するつもりなのだが、よく考えたら絶対に来るという保証はないので、計画が破綻する恐れさえあった。

 来たら確実に捕らえてやるのに。

 いや、待てよ?

 前回はダクネスがいたわけだが、今回もそうであるとは限らないよな。もしかしたらめぐみん達と一緒に観光してる可能性が高いわけだし。

 既に元の世界とは色々と違ってるんだ。そこまで一緒と考えるのは短慮だ。

 ……。

 

「ちっ。何て運がいい奴なんだ」

 

 相手は魔王軍の幹部シルビアだ。

 あまりばかにして戦うのはやめておくべきだろう。

 ここは大事をとり、あまり挑発しないで、場の状況を見ながら行動しよう。

 幸いにも俺達がいるのは紅魔の里だ。シルビアもあまり騒ぎを起こしたくないだろうから、見つからないように慎重に動くはずだ。

 俺は潜伏を使いながら、シルビアの動きに注意を払えばいい。

 もしもあいつが危険な行為をしそうになったら、その時はじめてバインドを使えばいいんだ。

 奴が何をするつもりかは知ってる。何かをする場所に到着したら気を抜くだろうから、俺はその隙をついてバインドする。

 もし隙がなかったら帰ろう。

 幹部とか怖い連中と真っ正面から戦う必要はない。

 

「とりあえず外が見える場所まで移動するか」

 

 窓の近くに寄り、どこから来るかわからないシルビアを待ち構える。

 念のため、潜伏を使って気づかれないようにする。

 それからしばらくすると。

 シルビアが二人の部下を引き連れて現れた。

 きょろきょろと辺りを見回して、誰もいないかを確認している。

 いくら魔法耐性が高いとはいえ、紅魔族に上級魔法を連発されるのは厳しい。それに部下を見殺しにするわけにもいかないだろうから、余計に慎重になっている。

 どうにかしてシルビアを捕縛したいが、例えバインドが成功しても部下が俺の邪魔をするだろうから、ここで飛び出しても無駄死になりかねん。

 ここは様子を見よう。

 めぐみん達が戻ってきたなら、奇襲でバインドをかけてしまえばいい。戻ってこなかったら、気づかれないように尾行をする。

 この完璧な構えを崩せる者はいない。

 紅魔族を窮地に追い込んだ魔術師殺しだって、俺が封印を解けるってことをばらさなければ奪われることもない。

 部下と軽く打ち合わせをしてから、やはり例の場所に行こうとしたシルビア達の前に、観光を終えて戻ってきためぐみん達が現れる。

 何という絶好のシチュエーション。シチュエーション。

 俺は音を立てずに窓を開けて、静かに窓から出る。

 そして、シルビアをバインドで狙える位置まで移動する。挟み撃ちにしたら、俺が危険なのでそんな真似はしない。

 ここまで音を立ててないからばれていない。のだが、俺は落ちてた石を踏んでしまった。

 この石がまたいやらしい形をしていて、刺さるように痛かった。

 

「いってえ!」

「「「誰だ!」」」

 

 シルビアとその部下が過剰に反応して、突然現れた俺を警戒する。

 めぐみん達は何があったのか理解したようで、少し呆れた顔で俺を見つめる。

 石が悪いんだ。俺は悪くない。

 

「『バインド』!」

 

 動揺しているシルビアに俺はバインドを放つ!

 これでシルビアは縛られ、身動きはとれなくなる。そこを上手いこと生かせば……!

 

「危ない危ない」

 

 失敗した!

 シルビアは流石幹部というだけあって、動揺していても見事な対応を見せた。

 鞭で防いだのだ。結果、シルビアの鞭にバインドする形になり、俺の攻撃は不発に終わってしまう。

 

「これならどんな大型モンスターも捕縛できるし、時間が来るまで抜け出せそうにないわね」

 

 シルビアは縄を取り出すと……!

 

「『バインド』!」

 

 俺はバインドによって身動きをとれなくなる。

 まさか、逆にやられてしまうとは……。

 あの石さえなければ……。

 石を踏んだ痛みを我慢できなかった俺も俺だが、あんな都合のいい場所にあるのは駄目だと思う。

 こうなっては俺は何もできない。精々めぐみん達に守られるのがいいとこだ。

 ごろごろと転がる俺に。

 

「いい不意打ちね。声を出してなければ、やられていたでしょうね」

 

 まるで褒めるように言ってきた。

 確かに失敗したとはいえ、作戦そのものはよかった。ただ運がなかった。

 運がいいはずなのに駄目だった。いや、まあ、運が悪い日はあるものだから、たまたま今日が不運な日だったのかもしれないけど。

 タイミングおかしいだろ。

 

「貴様、何者だ!」

 

 ダクネスが大剣を構え、凛然たる態度を見せる。

 それを受けて、シルビアは俺を見るのをやめ、ダクネス達に視線を戻して名乗る。

 

「魔王軍幹部シルビア」

「魔王軍の幹部!?」

「なぜこんなところに?」

 

 ゆんゆんとダクネスは驚く中、同じく驚いていたはずのめぐみんは何かに気づくと、ハッとなった。

 そして、ビシッと指差す。

 

「わかりましたよ! 狙いはカズマですね!」

「あっ! そうか、カズマは古代文字が読めるから、封印を解かせるつもりか!」

「まさか、シルビアがそんなことを知ってるなんて。流石魔王の幹部だけのことはあるわね!」

 

 おい! おい!

 俺は背筋が凍る思いがした。

 不運な日だと思ってたけど、ここまで不幸とは思わなかったぞ!

 ああ……。

 仲間の顔が、私たちが守るから大丈夫、みたいになってるけど、むしろお前らのせいで酷いことになってるわけで。

 

「ばかっ! 古代文字については言わなきゃ何もわからなかったんだぞ!」

「「「えっ?」」」

 

 ばかしかいねえのかよ!

 仲間が余計なことを言ったせいで、この俺が封印を解ける唯一の男であることがシルビアに知られてしまった。

 こうなっては仕方ない。

 おそらくシルビアは俺を誘拐しようと躍起になるだろう。

 誘拐されないように最大限の努力はするが、万が一されてしまった場合は、どんな拷問にも耐えなくては……!

 

「へえ、そこの坊やがね……」

 

 シルビアは舐めるような視線で俺を見る。

 はやくも俺を狙っているか。

 そりゃそうか。あの封印が解ければ、魔王軍にとって忌々しい紅魔族を倒せるからな。

 シルビアは部下二人に指示を出そうとして、

 

「『カースド・クリスタルプリズン』!」

 

 ゆんゆんは俺とシルビア達の間に氷を走らせ、妨害する壁をつくり上げた。

 アルカンレティアで大活躍した氷の上級魔法だ。

 あの魔法、使い勝手よすぎだろ。

 攻防一体じゃん。

 ゆんゆんによって見事に邪魔をされたシルビアだが、苛立ちは見せないで、極めて冷静に対応する。

 

「可愛いお嬢ちゃんなのに、随分と立派な魔法を使うのね。流石は紅魔族と言ったところね」

「次はあなた達の番よ!」

「それは怖いわね。……ここは逃げさせてもらうわ」

 

 シルビアは部下とともに逃走する。

 それをダクネス達は追いかける真似はせず、すぐに俺のところに来た。

 シルビアが逃げると見せかけて、氷の壁を迂回する可能性もあったからありがたい。

 

「大丈夫か、カズマ!」

 

 バインドは時間が来るか、ブレイクスペル系で解除することができる。

 特に危険なこともないし、このまま放っておいても問題ないだろう。

 

「バインドかけられただけだから大丈夫だ。放っとけば解除される」

「そう。でも、これからが大変よ」

「カズマの秘密がばれてしまいましたからね」

「おそらく奴はお前を狙ってくるだろう。奴があの時、お前に向けた目は明らかに獲物を狙うものだった」

 

 凄く真剣な顔で言っているが、何でそんなに自分達は関係ない風にしてるんだ?

 

「いや、お前らがミスしたせいだろ」

「「「うっ!!」」」

 

 めぐみん達は痛いところをつかれ、気まずさのあまり俺から顔を背けた。

 こいつらがもっとしっかりしてたら、俺は余計な危険を負わなくて済んだのだ。

 余計なことをしたみんなに言ってやった。

 

「もし捕まったら拷問の限りを尽くされるだろうな」

「「「!?」」」

「みんなに助けられても、きっと恐怖のあまり何もかも忘れてるんだ」

「か、カズマ。それはいくらなんでもないと言いますか……」

「本当にそう言い切れるのか?」

「それは、その……」

 

 段々と声を小さくするめぐみんに俺は声を張り上げた。

 

「言い切れないだろ!? そうなったらお前達はどう責任をとってくれるんだ? ああん?」

 

 ここぞとばかりに責めてやる。

 立場は俺の方が上なんだ。

 今こそハーレムをつくる時だ。

 カズマハーレム帝国をつくろう、つくりたい、つくらせて。

 

「そうだな……。アクセルに帰ったら一週間ぐらいメイド服でご奉仕してもらうか!」

「んなっ!?」

「ちょ、カズマさん!?」

「この男、何を言うかと思えば……!」

「いいだろ! お前らのせいで俺は幹部に狙われる羽目になったんだぞ!? ああん!」

 

 強く言い返すことができない三人を責める。

 ここだ、ここでこいつらを屈服させられるかどうかでメイドにさせられるか決まるんだ!

 そうメイドになったこいつらにご奉仕を……?

 

「いや、その、すまん。やっぱりメイドはなしでいいや」

 

 ダクネス一人なら、めぐみん一人なら、ゆんゆん一人なら、おそらく問題はない。

 しかし、ついさっき三人で問題を起こしたこいつらを見て俺は気づいたのだ。全員にやらせたらとても大変なことになると。

 つーか、めぐみんは無理だろ。絶対に爆裂魔法を撃ちに行くので一緒に来て下さいとか言うし。撃ったあとは今日はもう働けませんとか言うんだよ。

 ダクネスなんて、セクハラしなかったら意味不明のキレ方してきそうだ。

 ゆんゆんは一番安心できそうだけど、こっちも何をするかわかんないからな。むしろ、俺が気を遣いまくることになりかねん。心労で倒れるかも。

 

「とりあえず置いておこう。シルビアがいつ襲って来てもいいように備えはしっかりしよう」

「いえ、そんなことよりどうして急に撤回したのですか? もしかして我々では何もできないと思いましたか?」

「仲間の失敗ぐらい目を瞑るだけだよ。お前達に悪気があったわけじゃないし、失敗したからってそれにつけこんで好き放題するのはどうかと思うしな」

 

 仲間の失敗ぐらい笑って水に流す男だからな俺は。

 

「ろくにできないと思って撤回したのね」

「全然。仲間の失敗を水に流すだけだよ。ゆんゆんは大事な仲間だからな」

「……カズマ、お前の言う通り、私達は大きな失敗をしてしまった。メイドが償いになるなら、私達は全力で取り組もう」

「ばかダクネス。仲間のお前達にそんなことさせられるかよ。過去のことを気にしてもしょうがない。前を向いて生きていこうぜ」

 

 俺の慈愛に溢れた言葉に、三人の視線は冷たいものになる。

 おそらく俺の本心が読めてきたのだろう。

 こういう時だけ頭の回転よくなるのやめろ。

 俺の胡散臭い笑みに、三人はにやっと笑い返す。

 

「日頃お世話になってますからメイド服着てお世話してあげますよ」

「そうだね。いつも迷惑ばかりかけてるから、たまにはお礼をしたいわ」

「遠慮するな。私達のささやかなお礼だ」

「そこまで思ってくれてるのはありがたい。なら、今度高い飯でも奢ってくれればいいさ」

「いえいえ、そんなことでは気が済みませんよ!」

 

 どうしてもメイドをしたいと申し出る三人に、俺は心底嫌な顔をしながら断る。

 

「いいつってんだろ! お前らがやったって、どうせろくでもないことにしかならねえんだから!」

「言った! とうとう言ったわよ!」

「言ったが何か? 事実だろうが!」

「この男! 私達にご奉仕されるのが嫌と言えるほどの男でもないのに!」

「少し調子に乗ってるな。こうなったら、この男に我々がどれだけ優秀か教える必要がありそうだな!」

「や、やめろお! 動けない人間に何をするつもりだよ!?」

 

 俺の汚れていない体に、男に飢えた三人の魔の手が襲いかかる!

 アッ―――――――!

 

 

 

 僕の名前は佐藤和真。

 どこにでもいるごく普通の少年さ。

 そんな僕だけど、元の世界では魔王を倒すなんて偉業もやってのけたんだ。もちろんそれは頼もしい仲間がいたからできたことだ。

 アクア、めぐみん、ダクネス、僕は君達のいる世界に帰るために今日も頑張るよ。

 ……でも、最近はちょっと困ったことがあるんだ。

 それはね? この世界でつくった仲間達のことさ。この世界ではダクネス、めぐみん、ゆんゆんと行動をともにしているんだけれど、みんな大事な仲間になってる。

 彼女達を残して、元の世界に帰るのは非常に心が痛むんだ。だけど、僕にはアクア達がいて……。

 ああ、どっちを選べばいいんだ。

 誰か、誰か教えてくれ!

 じゃないと夜も眠れない。

 神様、どうして僕にこんなにも辛く苦しい試練を与えるのですか?

 僕は誰も悲しませたくない……!

 それなのに神様は僕にどちらかを泣かせろと仰る! 僕は、僕は、みんなが幸せに暮らせる世界がほしいです!

 だからお願いです神様。

 全部都合よくいくチートアイテムを下さい。そうすれば誰も泣かずに済むんです。

 日頃から信じれば救われるとかほざいてるんですから、たまには願いを聞いて下さいよ。

 僕は窓から見える夜空を見上げながら手を組む。

 

「カズマさん、具合はどうです?」

 

 近くに座っていたゆんゆんさんが恐る恐る尋ねてきました。

 それに私は優しく返します。

 

「何も問題ありませんよ。ご心配されなくても、私は元気そのものですから」

「違う! 全然元気じゃない! ごめんなさい! 動けないのをいいことにジュース飲ませたり、おでん食べさせたり、羊羮一本食いさせて本当にごめんなさい! 階段から誤って落としたのも謝りますからいつものカズマさんに戻って下さい!」

 

 おやおや。

 ゆんゆんさんが妙に慌てていますね。

 いったいどうしたことでしょうか。いつもの彼女らしくありませんね。

 普段も普段でトランプとか使って一人遊びする可哀想な奴だが、おっと俺としたことが本音を言ってしまうとは。

 私はゆんゆんさんに優しい視線を向ける。

 

「これが本当の私ですよ。今までは悪魔か何かがとり憑いていたんですよ」

「今のがとり憑いてるわよ! お願い! 元に戻ってよ!」

「困りましたねえ……。めぐみんさん、ララティーナさん、ゆんゆんさんを説得してやって下さい」

 

 私はベッドに座るめぐみんさんとララティーナさんにお願いをする。

 しかし、肝心の二人はどういうわけか私を見て戦慄の表情を浮かべていました。

 どういうことでしょう?

 

「ま、まさかカズマが壊れるとは……」

「あああああ……。私達が意地にならなければ、カズマは、カズマは!」

 

 悲しげにされるお二人を見ると、私の胸が痛んでしまいます。メシウマ。

 私は戸惑いながら、お二方に話しかけます。

 

「いったいどうしたのですか。いつもの私でしょう? もしや、あの時シルビアさんに何かをされましたか? それなら皆さんの様子がおかしいのも納得がいきますけど」

「おかしいのはカズマですよ! いつもの横暴なあなたに戻って下さいよ!」

「や、やめて下さい。今の俺がいつもの私ですから、やめて下さい!」

 

 俺を正気に戻すべく、杖を振り回そうとしためぐみんから逃げる。くそ、何て面倒なロリッ子なんだ。

 昔はあんなにも可愛かったというのに。時の流れは残酷だ……。

 部屋を飛び出た俺は逃走を使って、めぐみん達に捕まるリスクを下げて逃げる。

 一階へと下りる階段を踏み外さないよう、全速力で駆け下りて、そのままの勢いで玄関へと向かう。

 

「待て! どうして逃げるんだ!」

 

 どうして……。

 男は時として、理由もなく何かをしようとするものだ。それこそ本当にばからしいことさえする。

 逃げるのに理由なんかいらない。

 とまあ、めぐみんが怖くて逃げてるのを格好よく言ってみた俺だ。

 ゆんゆんの家からも飛び出て、夜の闇に包まれた紅魔の里を走る。

 この時間にもなると、出歩く村人はいないのか、それなりの距離を走ってもすれ違うことはなかった。

 舗装らしい舗装がなされていない道を走る。

 しばらくして、俺は立ち止まって振り返る。そこにめぐみん達の姿はなかった。どうやら撒くのに成功したようだ。

 しかし、それも一時しのぎだ。

 ここまでほぼ一本道だったから、ここに止まっていれば、追いつかれるだろう。

 

「まあ、目が利く俺には勝てないだろうけど」

 

 そう、俺には様々なスキルがある。

 夜の舞台は、そんな俺のスキルが活躍する。昼の数倍は厄介と言われるカズマさんだからな。

 しかも敵感知もあるから、一度見失ってしまえば、俺を見つけるのも捕まえるのも無理と断言していい。

 

「敵感知はまだ平気か。もう少ししてからでいいか」

 

 めぐみん達の大体の位置は予想できる。

 それなのにスキルを使うのは無駄だ。

 紅魔の里の地理はそれなりに把握している。

 次はどこで使うか予定を立てて、走り出す。

 その瞬間、俺は何者かに襲われた。

 横手から誰かが飛び出て、俺を捕まえたのだ。

 

「やっぱり今日のあたしはラッキーみたいね」

 

 その声はシルビアのものだった。

 俺は後ろから羽交い締めにされ、抜け出すことができなかった。

 しまった。

 今日は不運な日だってのを忘れていた!

 ついてない日はとことんついてないと言うが、それにしても今日の俺は人生で一番か二番ぐらいに不運じゃねえか。

 ここまで運が悪いと、もはや笑いさえ出てくる。

 んなわけねえだろ。

 

「さあ、来てもらうわよ!」

「く、くそ! だ――」

 

 助けを呼ぼうとした俺をシルビアは強く殴った。

 

 

 

 どれほど気絶していただろうか。

 俺は目を覚ました。

 目の前には、迷惑なものが封印されてる地下格納庫があった。

 

「ようやく起きたわね。さあ、解いてもらうわよ」

 

 目覚めたばかりで頭が上手く回らないが、シルビアが何を要求してるかはわかった。

 逃がさないために俺の腕を掴んでいる。

 俺は頭をゆっくりと振り、ついでに呻き声みたいなのも出して、俺寝起きで頭回りませーんを華麗に演じる。

 しかし、これで時間を稼ぐのも数分が限度だ。

 俺は演技をやめると、シルビアをキッと睨む、

 

「ふふっ。いい目をするわね。目を見ればわかるわ。どんなことにも耐えてやるって言いたいのね」

「そうだ! 俺はバニルやデストロイヤーといった超大物を倒してきた男だ。それに何度も死んだことがあるんだ。どんな拷問も俺には通用しない……!」

 

 俺はシルビアに向き合い、言い放った。

 最強の冒険者の俺にとって拷問など恐ろしいものではない。

 いったい何回死んだと思ってやがる。

 俺はどうにかして逃げられないか、素早く目を動かして突破口を探す。

 しかし、シルビアは俺が盗賊スキルを持っているからか、逃げられるような隙を見せない。いくら逃走があると言っても、あれだって限界がある。

 そもそも腕を掴まれているから逃げようがない。

 あげくの果てには何の装備もない。

 詰んだ。

 

「どんな痛みにも屈しないと言うのね」

「そうだ! 俺をその辺の冒険者と一緒にするなよ」

 

 シルビアはようやく起きたと言っていた。

 つまり俺が誘拐されてから、それなりの時間が経過したことになる。三人で探しても見つからないなら協力を仰ぐだろうし、それに俺は錯乱してた風に見られていただろうからなおさらだ。

 時間さえ稼げれば俺の勝ちだ。

 

「でもねえ? 情報を引き出すのは、何も恐怖や暴力だけじゃないのよ」

 

 などと、妙に覚えのある台詞をシルビアは言ってくれやがりました。

 そういえばこいつは……。

 俺は驚愕の真実を思い出した。

 

「サキュバスのそれすら上回るというあたしのテクニックにどこまで耐えられるか」

「うっ、ぐあああああああ!!」

「!? ど、どうしたのよ!?」

 

 突然大声を上げた俺にシルビアは驚き戸惑う。

 

「な、何てことだ! 体が、俺の意思とは関係なく動いてしまう! くそ! 何て恐ろしい奴なんだ。まさか、お前にこんな能力があったなんて……! これは間違いなく魔眼の魔力だ!!」

 

 意思とは関係なく動く俺の体は扉のロックを解いてしまう。

 な、何てことなんだ!

 

「あなた、冒険者としてそれでいいの?」

「俺にもっと力があれば、シルビアの魔眼に抵抗できたのに……!」

 

 みんな、非力な俺を許してくれ!

 地下格納庫への入口は開かれた。

 この先に魔術師殺しがある。紅魔族の天敵であり、上級魔法すら弾くとんでもない兵器だ。

 それを破壊する武器の場所は知ってるから、全く対抗できないわけではないが、それでもこの事態は避けたかった。

 俺に何か言いたそうにしていたが、時間はかけてられないと、格納庫へと足を踏み込んだ。

 今です!

 

「そいやっ!」

 

 俺は駄目押しとばかりに、無防備な背を力一杯押して、シルビアを地下格納庫に閉じ込めた。

 

「――っ!?」

 

 扉の向こうから叫び声と扉を叩く音が聞こえた。

 やった、やってやった、やったんだ。

 シルビアを閉じ込めることには成功した。次は中の兵器を壊す。

 俺はこの場をはなれようとして、その時にちょうどめぐみん達が三人の紅魔族を連れてやって来た。

 

「カズマ! 大丈夫ですか?」

「何とかな。今シルビア閉じ込めたところだ」

「シルビアを閉じ込めた!?」

「ああ。奴は、俺が封印を解かないと見ると、よくわからないが、魔法で操り強引に……!」

 

 俺はありのままに起こったことを話す。

 めぐみん達は驚くほどあっさりと信じてくれた。そのまま俺は油断したシルビアを閉じ込めた経緯を話して、めぐみん達を納得させる。

 

「この中には兵器がある。シルビアはグロウキメラ。兵器でも取り込むことができる」

 

 そして、みんなの不安感を煽って深く考えないようにさせる。

 

「くっ……! 中の兵器は魔法を弾くものだ。今の内に逃げなくては……」

「みんなにはやく知らせないと!」

 

 やはりあれか。

 めぐみんの爆裂魔法ならダメージを与えられるだろうが、あの切り札さえあれば危険な賭けをしなくてもいい。

 俺達もここから逃走して、二手にわかれる。ゆんゆんとダクネスは族長の家へ、俺達はめぐみんの家へ。

 間もなく紅魔の里は炎に包まれる。そうなる前に避難を済ませなくては。

 

 紅魔族の多くはテレポートが使えることもあって、またシルビアが本格的に活動する前に避難できたことで人的被害はない。

 そんな中で俺は一人、切り札を探していた。

 シルビアが動く前に見つけるのは無理でも、発見さえすれば倒すことはできる。はやければはやいほど里への被害を抑えられる。

 確かレールガンは服屋にあったはず。

 物干し竿として扱ってたんじゃなかったか? 何でレールガンだけ外にあるんだよ。

 ちゃんと管理しろよ。

 文句は色々出てくるが、そのおかげで倒せるのだから不問にしよう。

 しばらく走っていた俺だったが、途中で足を止めた。疲れたわけではないが、何となくシルビアが気になり、地下格納庫の方に振り返った。

 空が赤く染まっていた。

 シルビアが格納庫から出て、手当たり次第に焼き払っているのだろう。

 急いだ方がよさそうだ。

 俺は再び走り出した。

 俺が戻る前にシルビアが出てきたら、紅魔族が注意を引きつける段取りになっている。

 ……最悪、みんなで逃亡するが。

 向こうが騒がしくなる。

 建物が壊れるような音や爆発音が聞こえてくる。

 向こうでは本格的にはじまったのか。

 おそらく紅魔族が色々と魔法をぶつけているのだろうが、シルビアが取り込んだものを考えれば効果はない。

 俺は背後から聞こえる騒音から逃げるように走り続けた。

 服屋に到着したら、元の世界の記憶を頼りにレールガンを探す。それほど時間はかからず、無事に見つけることができた。

 鈍い銀色を放つレールガンは俺の記憶そのままの姿で物干し台に鎮座していた。

 三メートルを超えるそれを持とうとして、いや持てることは持てたが、のろのろと歩くのがやっとだ。

 まさかの筋力不足。

 俺は冒険者カードを操作して、筋力アップの支援魔法を習得して、はじめての支援魔法を自分にかけた。

 よし。小走りできるぐらいには行けるぞ。

 筋力不足に軽い絶望を覚えたが、支援魔法の悪くはない性能に胸がすく。

 我ながら万能すぎるな。

 魔力さえ高ければ、爆裂魔法を習得できる俺ならそれなりに活躍できただろうに。

 天は二物を与えず、か……。

 ただでさえ世界を救うほどの冒険者の俺に多くを持たせるわけにはいかないよな。

 自分の性能に誇らしげになる俺は、数分後、疲れて一休みした。

 重いんだよ。

 

 

 

 どうにかこうにか、俺はカップル爆発しろで有名な魔神の丘に辿り着くことができた。

 里を見下ろしながら、みんなの下へのろのろと歩み寄る。

 

「持ってきたぞー」

「おおっ! それが……!」

「どうやって使うんだ!?」

 

 この兵器は魔法をチャージして発射する。

 その威力は山を削るほどで、正直魔王を倒す時に使いたい。いくらあいつでもこれは耐えられないだろ。

 魔術師殺しでも耐えられないものを耐えたら、何者だよってなるからな。

 使い方を教えると、早速紅魔族は魔法を唱え、レールガンに吸い込ませる。人数を考えたらすぐに終わるだろう。

 問題はシルビアに気づかれず、しかも上手いこと引きつけなければならない。

 そのシルビア、魔術師殺しを取り込んでいるのだが、兵器は元の世界で見たものよりでかい。

 魔術師殺しは蛇の姿をとっている。大蛇と言えるほどのもので、シルビアの上半身は蛇の頭から生えていた。

 魔術師殺しとしての性能は元の世界と変わりない。おそらくめぐみんの爆裂魔法ならダメージを通すことは可能だが、一撃というのは厳しそうである。

 

「撃つのは、狙撃ができる俺がやる」

「カズマは幸運が高いですからね」

「うん。狙撃は問題ないわね。けど……」

「あのシルビアをどう食い止めるかだ」

 

 元の世界で見た戦法で紅魔族はシルビアを翻弄している。今回はあれを利用するか。

 シルビアが呆気にとられてる内に……。いや、その前に爆裂魔法を撃ってもらおう。

 ほぼほぼ命中するだろうが、その前にダメージを与えていたら成功しやすくなる。

 あんなでかい兵器を壊し損ねるのは避けたい。

 元の世界の兵器より進化してそうな、凄く強そうな魔術師殺しを前に俺は軽くびびっている。

 シルビアの口から炎が吐かれ、大蛇の口から炎が吐かれる。

 パワーアップしてるなあれ。

 大蛇の口から、炎の玉が紅魔族に向けて放たれる。彼らは素早く動いて回避するが、続けて大蛇は炎の玉を放つ。

 移動速度そのものは巨体故に遅いのだが、攻撃の手は中々のものだ。魔法と違って詠唱を必要としない分、シルビアに分がある。

 ……ちょっと強すぎやしませんかね?

 上級魔法を無効化するだけでもとんでもないのに、どうしてあんなに強いんだよ。

 あのクソ科学者、何をそんなに頑張ってつくったんだよ。

 ここでもまた振り回されるのかと、泣きたい気持ちになってくる。

 

「めぐみん、いつでも爆裂魔法を撃てるように準備しとけ」

「わかりました! なんなら我が爆裂魔法で葬って差し上げますよ!」

「できるなら頼む。駄目でもレールガンでトドメを刺してやる」

 

 もう二度と直せないぐらいに破壊してやる。

 

「カズマ、私は何をやればいい?」

「お前はめぐみんに付き添ってくれ。爆裂魔法を撃ったら動けないからな。シルビアの攻撃からめぐみんを守れるのはダクネスだけだ」

「了解した」

 

 ダクネス以外でシルビアの炎を防げる奴はいない。俺は遠くから狙撃すれば、逃げ道も確保できるが、めぐみんはそうではないからダクネスに任せるしかない。

 俺は里に目を向ける。

 シルビアと戦う紅魔族は炎と魔術師殺しを警戒して、それなりに距離をとって戦っている。また入れ代わりながら戦うことで魔力切れを避けている。

 シルビアはまだ兵器の扱いに慣れていないからか鈍足だ。移動速度が上がる前に決着をつけたい。

 里を見下ろす俺の耳に声が届く。

 

「里が燃える……」

 

 うれいを秘めた目で、悲しそうに言った少女を俺はじっと見る。その子はめぐみんと同じ眼帯をしていた。

 こいつ……、俺は彼女が誰かわかった。元の世界で俺を苦しめた諸悪の根源だ。

 三日もあれば、里の復興はほとんど終わるのを知ってるから罪悪感なんて微塵も湧いてこない。

 むしろイラッとした。

 俺が過去の恨みを眼帯巨乳女に向けていると、レールガンをチャージしていた紅魔族の方から声が上がる。

 

「満タンになっ」

「ドーン!」

 

 シルビアの方を向いていたレールガンのトリガーをこめっこが引いた。どこかで見た光景である。

 レールガンから目も眩むような強烈な光が放たれる。反動で、レールガンを持っていた紅魔族が吹っ飛ぶが、こめっこは巻き込まれることはなかった。

 シルビアの近くにいた紅魔族の方達は、レールガンの光を見ると一目散に逃げ出した。

 シルビアが気づいて振り返る頃には、光は目と鼻の先まで来ていた。

 その光がどういうものであるのかを一瞬で理解したシルビアの顔が青ざめる。と同時に光はシルビアの右半身を吹き飛ばした。

 それだけでは終わらず、シルビアを貫いた光は後方の地面に直撃すると大爆発を起こし、周りの家屋を吹き飛ばして大地を揺らした。

 ……確かに誰も予想できないタイミングなら、敵に悟られることもない。しかも動きが鈍い時にやったから命中しやすい。

 いいところを持っていく紅魔族の本能がこめっこを突き動かし、またしてもシルビアを――。

 

「まだよ! まだ終わってないわ!」

 

 驚いたことに、右半身を失ったシルビアは憤怒の形相で憎悪に満ちた声を上げて、今までよりもはやい速度でこめっこに向かっていく!

 爆発による傷が魔術師殺しとシルビアには見られるが、それでは足りないようだ。

 

「絶対に、絶対に許さないわ! 八つ裂きにしてあげる!! あははははははははは!」

 

 背後から上級魔法を受けてもダメージは皆無だ。

 あんな傷でも死なないし、魔術師殺しは健在と来てはどうしていいかわからなくなる。

 

「こめっこを連れて逃げるぞ! そして、紅魔族はここでシルビアを撃退しろ!」

「ちょっ! 何一人で逃げようとしてんだ!」

「あんたが残りなさいよ!」

 

 パニックを起こす俺達の前で、めぐみんはこめっこの前に立って、杖の先を迫り来るシルビアに向ける。

 妹を背にしためぐみんはいつになく堂々とそれでいて頼もしく見えた。

 そして。

 

「こめっこ、よく見ておきなさい。大魔法使いが唱える最強の魔法を……『エクスプロージョン』!」

「嘘っ!?」

 

 最強の攻撃魔法、爆裂魔法がシルビアに突き刺さる。

 全てを消し飛ばさんばかりに爆発し、地面を強く揺らし、圧倒的な威力で地面に巨大なクレーターをつくる。

 この一撃で、シルビアの体は魔術師殺しと分離して地面に落ち、魔術師殺しの方は頭部が粉々になった。

 めぐみんは魔力切れで地面に倒れた。

 俺はめぐみんの隣に行き、膝をつく。

 

「倒れなきゃなあ……」

「それは言わないで下さいよ! 私だって格好悪いと思ってるんですから!」

 

 締まりがない。

 シルビアを倒したのはいいし、何だったらめぐみんも格好よかった。でも、最後まで立っててほしかったなあ。

 

 

 

 シルビアを討伐してから数日後。

 里はあいつの炎やレールガンで被害を受けたが、数日もあれば元通りで、シルビアの騒動ははじめからなかったように思える。

 魔術師殺しもろとも幹部を葬っためぐみんであったが、里での評価はネタ魔法使いで固定されている。

 事実だから否定できない。

 元の世界と違ってめぐみんが「カズマとの間に強い魔法使いがほしい……」とお願いしてくるイベントは消えていて、ぶっちゃけ何をしに来たのかわからないまま、俺達はアクセルの街に戻ってきた。

 ……本当に何しに行ったんだ?

 疑問は出てくるが、何だかんだで俺達は今回のシルビアをはじめ、ベルディア、バニル、ハンス、ルシフェル、合計で五人の幹部を討ちとった。

 ウォルバクを倒したら六人。

 場合によっては魔王の娘も倒す。俺、娘見たことないんだよな。可愛いといいな。

 そんなことを思いながら、俺は紅魔の里から持ち帰ったゲームガールで遊ぶ。

 

「ねえ、それやらせてよ」

「そうだぞ。一人占めはよくない」

「次は私、私ですよ!」

 

 俺にまとわりついてくるビッチを無視して、俺はアルティメットマリコをプレイする。

 このゲームは、最近彼氏に浮気されて別れを告げられた、美容院で働くマリコがさらわれた新店長を助けに行くストーリーだ。基本的にマリコは敵をはさみでカットして倒すが、中にはお助けアイテムもあり、はさみよりも攻撃範囲が広く熱湯をかけて敵を倒すシャワー、とると一定時間無敵になる週刊紙。

 このゲームはそれらを駆使して攻略するものだ。

 そして、ラスボスは意外にも……!

 

「おい、とるな! 今いいところなんだから!」

 

 俺は仲間にとられないようにしつつ、ゲームを楽しんだ。




幹部は五人撃破。
もう少しでこの小説も終わりかもしれませんね。
果たしてカズマは無事にハーレムエンドを迎えられるのか。それともセクハラエンドを迎えるのか。
それは読者の皆さんに委ねます。

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