このすば! 俺はまた魔王を倒さなきゃいけないようです   作:緋色の

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最近、たまにぼけたりする。
あれ、この設定ってどれだっけ?となったりする。
頭の中で整理してるので、混乱したりします。
このすば作品を三つ出してる弊害ですな。
なので矛盾が出たら、とうとうやらかしたなこのハゲと罵って下さい。


第十五話 妹からの手紙

 シルビアを倒してからというもの、俺はだらだらしていた。

 お金があるからとかではなく、平和だからのんびりしているだけだ。

 当然のことであるが、幹部をはじめとした大物賞金首と戦うのは一生に一度あるかないかだ。向こうから襲ってきた時は別として、普通は討伐に行こうとか考えない。

 特に俺みたいな貧弱冒険者は、本来なら蛙とか狩ってるものだ。それなのに……。

 はじめの頃はやる気満々だったけど、終わりが見えてきたら、別に今日ぐらいだらだらしてても大丈夫だろ、と思うようになった。

 毎回思うが、チート武器や能力もらった連中は何をやってるんだよ。

 貧弱ステータスの俺でも倒せてるのに……。

 嫉妬のあまり冤罪で社会的死を与えたくなるような連中が何もできてない。

 まあ、あれだな。

 世の中ステータスが全てではないってことだ。

 そんなことを思いながらぐうたらしていたが、飽きてきた。

 元の世界だと、中身はともかくとして外見だけはいい奴らと同居してたんだよな。

 それで騒がしい日々を過ごして。

 そうか。

 俺が暇を持て余すのは、一人だからだ。

 ギルドであいつらと合流して話でもするか。

 

 冒険者ギルド。

 そこは俺達冒険者を支え、街の住民を守る組織だ。俺達と冒険者ギルドの間に絆のようなものがあるのは確かだ。

 その冒険者ギルドは異様な熱気に包まれていた。

 それは人の心をひりつかせるものだ。

 多くの冒険者が集まり、彼らの中央では何かが行われていた。

 この熱気はそこから出ている。

 俺は何が起こってるか確かめるべく、彼らの間を縫って進み、文句を言って絡んできた奴はドレインタッチで気絶させて、中央が見える場所まで来た。

 そこで行われていたのは、麻雀だった。

 最近チンピラとダスト、どっちが本当の名前かわからなくなった男が下手くそなイカサマをして、すぐにバレて失格負けを食らっていた。

 どこぞの日本人が伝えたであろうものを、彼らは楽しそうに遊んでいた。

 もちろんお金を賭けてる。細かい計算は抜きで、二位から四位は順位に応じて一位にお金を支払う。

 わかりやすくていい。

 ルールだけなら知ってるので、後ろで見守る。

 どこの日本人が何の目的でこれを伝えたのかは不明だが、いい暇潰しなのは確かだ。

 見たところ、高レートでやってるわけじゃないし、俺が荒稼ぎしても問題ない。

 金はあって困るものじゃない。

 

「おや、カズマ、いつ来たのですか?」

「今来たとこだよ」

「あれは中々面白いですよ。運が重要なのですが、同時に相手の手を読んだり、自分の手を読ませないことも大事です」

「奥が深いよ」

「かと思えば運で全て決まったりするし。そういう理不尽を楽しむのも麻雀というものだな」

 

 麻雀はめぐみんが言った通り運が大事だが、不運な時も当然あり、その時は振り込まないようにしたりして耐えなくてはいけない。そのためには相手の手を予想する必要がある。

 そして、自分が勝つには相手を上手く騙して振り込ませたり。

 運で全てを片づけては、本当に強い人には勝てない。対戦数が少ない内は勝てても、数を重ねると最終的には負ける。

 ただし強運の俺には全て関係ない。

 ちょうど対戦が終わったので、俺は卓に着いた。

 そこにめぐみんが入り、さっきの対戦で勝った人とビリは続行。

 カモネギが三匹、俺の前に現れた!

 

「ロン! 32000!」

 

 俺は速攻を決めた。

 先ほど一位をとった冒険者にいきなり役満を決めて、飛び終了、予め決められた持ち点をマイナスにさせて対戦を終わらせた。

 金だ。

 

「さあて、稼がせてもらうか。安心しろ、生活できるだけの金は残しておいてやる」

 

 先日最も不幸な日を迎え、恐ろしい災難を乗り越えた俺に怖いものなどない。

 俺は近くから椅子を持ってきて、そこに今稼いだ金をポンと置く。

 

「イカサマはなし、協力もなし。それが守れる奴はかかってこい」

 

 俺の自信と挑発を受けて、血気盛んな冒険者は戦いを挑んだ。

 

「ロン! 12000!」

 

 それは。

 

「ロン! 36000!」

 

 戦いと言うには。

 

「ツモ! 32000オール!」

 

 あまりにも。

 

「ロン! 24000!」

 

 一方的だった。

 

「ロン! 8000!」

 

 彼らの姿はまさに。

 

「ロン! 16000!」

 

 カモネギ。

 俺は金をどんどん稼いだ。稼ぎまくった。

 こんなに簡単に稼げると笑いが止まらない。

 彼らが頑張って稼いだお金は、お金持ちである俺に回収される。

 彼らのお金が隣の椅子に乗る度に俺の心が痛む。どうしてこの世は裕福な人間を肥えさせるのだろうか。もっとみんなに優しくてもいいと思うんだ。

 俺が言ったわけではないが、熱くなった彼らはレートを上げていく。

 その結果、稼ぎは百万エリスを超え、お金を椅子からテーブルに移し替える。

 良心が痛くてしょうがない俺は……。

 

「俺に勝ったら、ここにある金を全てやるよ」

 

 彼らに逆転の目をあげた。

 目が血走る彼らの挑戦を逃げずに受け……。

 その結果、三百万エリスまで貯まった。

 麻雀の話を聞いた冒険者が次々と集まるが、皆等しく金を巻き上げてやった。

 とうとう六百万エリスまで貯まり、金はあるところに集まるという言葉は本当だと実感する。

 

「ば、化け物だ……」

「どうやったら勝てるんだよ!」

「あの金がなかったらお酒が飲めない!」

 

 いとも簡単に勝てるのは、それはそれでつまらないものがある。

 もうちょっと、こう、苦戦したりとか、最後の最後でみたいな展開をやりたい。

 あまりにも一方的すぎて飽きてきた。

 

「諦めろん。幸運のステータスが凄まじい俺に勝てるわけない。稼いだ金で何買うかな。腕時計か靴でも買うかな」

「くそお! 俺達の金がー!」

「モンスター倒してコツコツ稼いだのに!」

「うわああああああああああああ!」

 

 泣き叫ぶ冒険者達。

 自業自得だ。ギャンブルに手を出し、はまった時からこうなることは決まっていた。

 それがたまたま今日だっただけで俺は悪くない。

 勉強代と思って泣き寝入りしてもらう他ない。

 

「お酒でもいいんだよな。五百万エリスの酒買って、残りでいいつまみを買って、月見酒でもするかな」

「誰か、誰かあいつを倒してくれ!」

「俺のために稼いでくれてありがとう」

「くっそお! あいつを倒せる奴はいないのか!?」

 

 生活費までは失えないと多くの冒険者は挑むのを諦め、金もないのに、しかもイカサマしようとしたダストはギルドの片隅に寝かされ。

 彼らが絶望に包まれる中で、ダクネスが俺の肩に手を置いた。

 

「カズマ、半分ぐらいは返してやれないか? もう十分稼いだだろ?」

「おいおい。そうしたらこいつらは何のために挑んだんだよ。お前は、強敵と命懸けで戦った冒険者に勇者ならすぐに倒せたのに、とか言うのか? 言わないだろ?」

「それはそうだが……」

 

 それに俺は、負けてる彼らに一発逆転のチャンスは与えたが、それだけで無意味に煽ったりはしてない。悪いのはギャンブルにはまったこいつらだ。

 俺は六百万エリスを持って立ち去ろうとしたのだが、強敵の気配を感じとり、手を引っ込めてギルドの入口を見る。

 

「ふはははははははっ! 中々愉快なことになっているではないか!」

「バニル!」

「ちょっとやりすぎだと思うよ」

「まさかのクリス!」

「あのポンコツ店主が出した負債を埋めさせてもらうとしよう」

「……まさか」

「いや、流石に貴様からもらって得た利益は残っておるが、それでも赤字は補填はしておきたいのでな」

 

 お前がいない隙にウィズはまたガラクタを仕入れると思うが……言わないでおこう。

 クリスは女神として、彼らを救うためにやって来たのだろう。確かにこいつの幸運は俺より上だが、じゃんけんならともかく、麻雀は他の要素も絡むから一方的に勝つのは無理だ。

 俺と他の冒険者、それぐらいの差があるなら話は変わってくるが、流石にそこまであるわけじゃない。

 

「ふっふっふ。残る席はこの私が入りましょう」

 

 挙手したのはめぐみん。

 何げにこいつは頭がいいから、手を読んだりする。振り込み率は一番低かったと思う。

 俺達の戦いについてこれるかは別だけど。

 そして、俺達の戦いははじまった。

 

「ツモ! 1000・2000」

 

 最初に決めたのはクリスだ。

 

「おおっ! はじめてカズマより先にあがる奴が出たぞ!」

 

 無駄ヅモなくあがっている。

 流石の強運だ。

 女神に恥じぬ幸運に感心するが、そこまでだ。

 俺にとって一番怖いのはバニルだ。心を読む能力は反則というか、イカサマみたいなものだから禁止されているが。

 まあ、負けても痛くないので、俺がそこまでビクビクすることはない。

 元は俺の金じゃないし。

 こいつらと違って純粋に楽しめばいい。

 

「ツモだよ」

 

 クリスはまたあがりを決めたが、そこまで高くないから痛くない。バニルも考えは同じなのか「ふむ……」と呟くのみだ。

 次もあがろうとクリスは意気込むが、ここでバニルは動きを見せた。

 

「ポン」

 

 クリスのはやさに対抗するためにバニルは鳴いた。

 そのあとも二度鳴いて、最後はクリスからあがる。

 

「ロン。8000である!」

「ううっ……」

 

 俺以外があがるから、みんなは感嘆した声を上げる。やや興奮した様子で、クリス達を応援していた。

 まさに四面楚歌。

 やっぱりバニルが厄介だな。

 クリスはわりと素直というか、罠を仕掛ければ簡単に引っ掛かるが、バニルはそうではない。

 幸運こそクリスには負けているが、人を馬鹿にすることに関してはこの中で一番だ。能力なしでもそれなりに先読みするだろうし、俺が一位になる上で一番の壁はバニルだ。

 めぐみんは置きもの。

 次は俺とバニルの鳴き合戦になり、辛うじて俺が制した。

 そこからは熾烈な戦いと言っても過言ではなく、めぐみんを置き去りにして、互いの点数を奪い合った。

 そして、最終ゲーム。

 バニルはクリスからとった8000が生きて、一位で迎え、何をあがっても勝利。

 俺とクリスは3000点以上のあがりを決めれば一位。めぐみんは8000点以上だ。

 誰が一位になってもおかしくないが、ここまでついてこれなくて、心が折れて真っ白になってるめぐみんは間違いなくビリだ。

 ここまで来たら、お金のことはどうでもいい。こいつらに勝ちたい。

 その思いで俺は戦いに挑む。

 バニルを止めるため、そして勝つために俺は鳴いて手を進めるが、それはクリスとバニルも同じで、鳴きを入れて速攻を決めようとしていた。

 俺とクリスの幸運なら簡単にノルマの点数は達成できるし、バニルは点数に関係なくあがれればいい。

 そして、俺達三人はテンパイした。

 あがり牌が出たら勝利確定。

 

「誰が決めるかだな」

「うむ。そこの小娘は我々と違ってテンパイすらしておらぬ。この三人の誰が最初にあがり牌を掴むかだが……」

「あたしが一番運がいいから分があるね」

「面白くなってきたぜ……!」

 

 クリスがいるから、俺はこれ以前の対戦のように無双できてないし一方的に進めることはできてない。引いた牌にも無駄が多くなった。

 そうなるとクリスのが有利ではあるが、それでも俺とバニルがいるからそこまで一方的にやれていない。いなかったらこいつの独壇場だったろうが。

 正直流れとか考えたら、ここまで互角にやってきたわけだから誰が勝ってもおかしくない。

 自力でツモるか、それとも燃え尽きてるめぐみんがあがり牌を捨てるか、それしか考えられない。

 バニルが勝てば、赤字の補填に。

 クリスが勝てば……何すんだこいつ?

 恵まれない子供達に寄付するのか、それとも冒険者みんなに返すのか。

 まあいい。理由なんかどうでもいい。

 目の前のことに集中しよう。

 俺達は一向にあがれないまま、とうとう最後の牌まで到達した。

 それを掴むのはめぐみんで、こいつが捨てる牌で誰かが勝つのが決まった。

 ここまで来て誰もあがれないというのはない。あり得ない。

 

「さあ、今捨てられる牌で誰が勝つか決まる」

「待って下さい。何で私が振り込むと決まっているのですか!? 誰もあがれないこともあるでしょう!」

「ねえよ。むしろここまで引っ張って誰もあがれず終わりとか、一番駄目だろ」

「お約束という奴だ。お主が捨てた牌で誰かがあがり、栄光を手にする。さあ、はやく捨てて我輩を喜ばせよ!」

「な、何なんですか本当に! いいですよ、やってやりますよ! この私の優れた頭脳であなた方のあがり牌を読んで台無しにしてあげますよ!」

 

 と意気込んだめぐみんは時間をかけて予想をはじめた。それをクリスは苦笑しながら見守る。

 素晴らしいほどにフラグを建築しためぐみんは既に振り込むことが決まっている。

 日本人ならよく知っている死亡フラグ「俺、帰ったら結婚するんだ」と同じレベルの死亡フラグを立てたからあとは時間の問題だ。

 これか? これか? と悩んでいるが、時間が経つにつれて全てが危険に思えてきためぐみんは顔にびっしりと汗を浮かべて、カタカタと震え出す。

 

「あっ、あああ……」

 

 落ちたな。俺は確信した。

 長考の末にめぐみんは牌を捨てた。

 指がはなれる。

 その瞬間。

 

「「「ロン!!」」」

「ふにゃっ!?」

 

 トリプルロンが発動した。複数によるロンは無効になったりするが、この世界の麻雀にそんなルールは存在しない。

 このあがりで勝負を制したのはバニルだった。

 

「フハハハハハハハ! フハハハ!」

 

 勝利に酔い、ギルド内に響き渡る笑いを上げる。

 上機嫌で六百万エリスを袋に詰めて、悔しそうにする俺達を見て、また笑い声を上げる。

 

「ふむ。これで当店の赤字は帳消しだ。我輩のためにこつこつと貯めてくれた小僧には感謝しなくてはな!」

 

 腹立つ!

 こいつ腹立つ!

 俺を指差しながら笑うバニルに、拳をぎゅっと握って言い放った。

 

「お前がこうして遊んでるってことは、ウィズは自由なんだよな。もしかしたら変なものを注文してるんじゃないか?」

 

 バニルがピシッと固まる。

 手にしたお金の重さと、ウィズを自由にさせた重み、さてどちらの方が重いのか。

 固まっていたバニルはお金を片手に全速力でギルドを飛び出た。間に合うといいな。

 こうして第一回アクセル麻雀大会はバニルの大勝で幕を下ろした。

 

 金をとられた奴は泣きながらモンスター討伐クエストを請けて、ギルドから立ち去った。

 俺達は貸し切り状態になったギルドでのんびりとしていた。

 めぐみんは未だに立ち直れてないが、俺はダクネスと一緒に酒を楽しんでいた。

 そんな時だった。

 ダクネスのとこの執事が大急ぎでやって来たのは。

 それを見て、最新型のパソコンを上回る俺の頭脳は即座に答えを導き出した。

 

「お、おえ、おぜ、様大変です! このままだとダスティネス家が消えてなくなるかもしれません!」

「何だと!?」

 

 王族の懐刀と言われるほどのダスティネス家が消えてなくなるという話に俺以外は表情を固くして、息を飲んだ。

 執事は一旦呼吸を整えて、ダクネスに手紙を差し出す。そんなものにダスティネス家を消すほどのものがあるのかと一同が緊張する中、ダクネスは受け取り、内容に目を通す。

 そこに書かれている内容にダクネスは目を見開き、手をぶるぶると震わせた。

 そして、手紙を戻すと、何事もなかったかのように手紙をポケットにしまおうとしたところを俺は奪いとった。

 

「ああっ! か、返せカズマ!」

「えーと、何々?」

 

 それはアイリスからの手紙で、要約すると『冒険の話聞かせて』であった。

 内容を一字一句違わず、めぐみん達に伝える。

 

「ほう。とうとう我々の時代が来ましたか……」

「な、何かあったらしょ、処刑され……」

「お姫様に俺達の輝かしい話を聞かせるぞ……!」

 

 ダクネスが泣きながら止めに入るが、俺をはじめとしたメンバーはこの上なくやる気を出していた。

 待ってろアイリス……!

 俺がまた堅苦しい生活から解放してやるからな!

 ダクネスが泣きながらめぐみんとゆんゆんを止めるのを見ながら、俺は決意した。




締まりのない、ゆるゆるなお腹を見て、筋トレをはじめた緋色です。
プロテインも飲んでます。
やりはじめたら、ここの筋肉はどうトレーニングしたら? と調べたりしてます。
筋トレ楽しいです。
えっ? 次回予告?

アイリスがカズマをお兄様と呼ぶようになります。多分。

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