このすば! 俺はまた魔王を倒さなきゃいけないようです   作:緋色の

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遅くなってごめんなさい。
しかも短い。
本当にすみません。


第十六話 お姫様

 アイリスに話を聞かせる。

 これだけを抜きとると、何だとても簡単なことではないかと思われるだろう。そう思うのは当然だ。

 しかし、そのアイリスはこの国の王女というとんでもない身分にある。もうこうなったら簡単なことではなくなる。なぜなら、粗相一つで首が飛ぶ可能性があるからだ。

 そんな恐ろしい相手に話を聞かせる。元の世界ならどうってことはないのだが、流石に初対面という設定があると、アイリスを妹として愛する俺でも怖いものがある。というか怖さしかない。

 上手いことやるしかないが、まあ、何とかなるさ。

 話を盛るとあとで苦しくなるから、あくまでもありのままに話そう。流石に今回は控えないと色々とやばいもんな。やばいもんな。

 前回は調子に乗ったせいでスキルを見せてと言われた。あれは地味にやばかった。だから、今回は大人しくするつもりだ。

 決してびびってるわけじゃない。

 それに俺には元の世界に戻るという目的がある。……それを考えたら、お城に行ったり、盗賊女神にセクハラしたり、魔王軍と戦ったり、マツルギと戦ったり、スティールする暇はない。

 面白く話せる程度で済ませておけば、少し、いやもの凄く寂しいが、城に連れていかれることもないだろう。

 入れ替わりの神器もセクハラ女神が何とかしてくれるだろうから、任せておこう。

 そういう覚悟で、まさに身を切るような思いでこの俺佐藤和真はダスティネス家へと仲間とともに来て、アイリスの待つ部屋の前で深呼吸した。

 俺に倣って他の三人も深呼吸をして、俺とゆんゆんはめぐみんにしがみつき、動けないようにした!

 

「い、いきなりどうしたんですか! お姫様を前にしておかしくなるにしてもはやすぎますよ!」

「めぐみん。お前のことだ。何か隠し持っているんだろう?」

「そんなわけないじゃないですか。ダクネス、私達は仲間でしょう? 変なものは持っていませんよ。私を信じて下さい」

 

 堂々とそれでいて優しく言っためぐみんにダクネスはうっとなる。

 単純なダクネスのことだ。めぐみんの今の言葉に、心に来るものがあったんだろう。

 それに堂々としているから、やましいものは持っていないのもわかる。

 そう考えると俺達は突然ロリに襲いかかった紳士ということになる。

 しかし、俺はめぐみんの言葉の裏を読み切っていた。

 

「変なものは……か。それはめぐみんから見て、変なものなんじゃないか?」

「!?」

「本当のことを言え! さもなくばお前の魔力は俺のスティールとなる!」

「か、カズマさん最低……」

 

 ゆんゆんは恐怖で引きつった顔で俺を見て、ダクネスは額に手を当てて呆れた風に呟く。

 

「どういう脅しなんだ……」

 

 たまにはパンツを剥ぎたいから、とことん抵抗してくれていいぞ。むしろしろ。

 

「何もないからお好きにどうぞ」

 

 俺に完全に見抜かれていることを察してるはずだが、なぜか何も持ってないと言い切った。

 おそらく賭けに出たのだ。

 ここで、恐ろしい脅迫をされている状況で何もないと言うことで逆に信用を勝ちとるつもりだ。

 脅されても意見を変えなかったことで、あほ二人はめぐみんを信用しはじめる。

 これはいけない。

 仮に今ここでスティールしようものなら、間違いなく俺が責められまくる。

 これはシュレディンガーの猫と同じだ。

 今めぐみんは変なものを隠し持ってると言えるし、本当に何もないと言える。つまり二つの可能性が同時に重なりあってる。

 厄介。

 もちろん確認すれば済む話なのだが、何となく、やりにくい。それは仲間を信用してないと思われることへの抵抗なのか。

 それとも仲間を信用せずにそんなことをする自分への反発なのか。

 めぐみんめ……!

 そう。めぐみんは何もないということで、罪悪感すら刺激してきたのだ!

 見た目は幼女、頭脳は中二、その名もめぐみんなだけある。

 しかし。

 

「そうか。疑って悪かったな」

「わかればいいのですよ。わかれば」

「ああ。俺が馬鹿だったよ。よく考えたらめぐみんは仲間思いだからな」

「?」

「お姫様の前で奇妙なことをしたら、リーダーの俺は責任をとらされて打ち首もあるし、ダクネスはお怒りを受けてどうなることやら。ゆんゆんももしかしたら打ち首あるかもな」

「……」

「ま。めぐみんは何だかんだで頭いいから、そんなことになるようなおかしな真似はしないよな」

 

 だらだらと汗を流し、不自然に顔を逸らしためぐみんを俺達三人はじーっと見つめる。

 めぐみん、お前が罪悪感を刺激するなら俺もするからな。

 それから五分後、めぐみんは見事な土下座を決めた。

 

 

 

 茶番はあったが、指定された時刻を過ぎることなく、アイリスとの対面を果たすことに成功した。

 したんだけど、じろじろ見んなよこの野郎と付き人のクレアに言われてしまった。

 元の世界でも言われたし、予想してたからダメージはないんだけど、わかっててもむかつくものはむかつくわけで。

 

「帰っていい?」

「カズマ!?」

「平民に見られるの嫌みたいだし、話はお前がすればいいだろ」

 

 こっち見んなカスと言われたら、話す気も失せるわけで。

 俺はふいと顔を逸らす。

 ダクネスが驚きの悲鳴を上げる中で俺は内心で作戦が決まったと悲しむ。

 こうすればアイリス達に嫌われるから、城に連れていかれることはない……! これは確定的である。

 こういう器の小さいのをあからさまに見せてくるような男は嫌われるものである。

 泣きそうになる俺の耳に届いたのは。

 

「謝罪しますので、お話をしてもらえませんか?」

「「「アイリス様!?」」」

「彼はこの国最大の危機になりかねない例の一件を解決したり、魔王軍の幹部を次々と討ち取ってきた冒険者です。例え相手が王族だろうと、黙って屈することはしたくないのでしょう」

「ですが」

「そんな人だから、多くの強敵を倒せてきたのではありませんか?」

「それは……」

 

 何なのこれ。

 拗ねたら、何か勝手に評価あがったんだけど。

 あいつらの目は節穴か?

 俺が目の前の現実に愕然としている中、アイリスはふっと笑みを浮かべる。

 

「王族が相手でも恐れない冒険者の話、ますます聞きたくなりました」

 

 両手を合わせ、目を輝かせながらそんなことを言ったアイリスにクレアがハンカチで鼻を押さえた。

 ここでもかよ。

 俺の知ってる駄目駄目な姿になぜか安心感を覚えたが、多分同類だからだろう。

 クレアの気持ちはわかる。

 アイリス可愛いもんな。

 

「カズマ様、どうかお願いします」

 

 若干上目遣いで言ってくる。

 それがもう可愛いの何のその。

 アイリスのハイパーアルティメット超絶可愛いオーラに俺とクレアは気絶しそうになったが、何とか踏ん張ってみせた。

 アイリス、何ておそろ可愛い子……!

 

「お姫様にそこまで言われては……」

 

 決して、アイリスに見えないように俺に殺意を向けてたダクネスにびびったわけではない。

 さて、と。

 話をするにしても愚かなことはしない。

 最初の作戦通り、いつもみたいに誇張しないで話すのだ。俺は弱いけど、仲間が助けてくれたからみたいに進める。

 そう。

 俺一人では何もできないことを強めることで、なぜか上がった評価を下げるわけだ。

 文句のない、まさに完璧な作戦である。

 単純……、しかしそれこそが最強!

 その完璧かつ究極的作戦は。

 

「素晴らしいです! 自身の弱さを素直に認め、その上で仲間の力を生かすなんて」

 

 何でだよ!

 何で評価上がるんだよ!

 この世界おかしいだろ!

 普通下がるんだって。下がるように言ったもん。

 アイリスは凄く感動した様子で言った。

 

「弱さを認めることで、カズマ様は他の方とは違う強さを持てたのですね」

 

 まあ、悔しいけど、自分の弱さはよくわかってるよ。悲しくなるぐらいわかってるよ。

 ……それにしても、言い方次第でよく聞こえるんだな。俺がいい感じに仕上がってるし。

 ますます俺に興味を持ってしまったアイリスの表情は誰が見ても太陽のように眩しくて……。

 

「カズマさん、何だかんだ言って私達のこと認めてくれていたのね」

「正直カズマなら誇張しまくると思っていたのだが……、ふふっ」

「あんな風に思われてるとは。少し照れてしまいますね」

 

 お前らの評価も上がるんかい!

 何これ。

 本当に何これ!

 この流れには覚えがある。これは、これこそは……酒と宴会と借金と堕落の女神アクアが全てを台無しにするあの感じだ。

 あいつ、世界規模ではなれててもこういう流れを引き起こすのかよ!

 本当にどういうことなの。

 アクア菌が繁殖してこうなったの?

 予定では見込み違いでしたね、とか言われてスキルを見せずに済むはずだったんだけど。

 ……いや、待て。

 その時希望が芽吹く。

 弱いからいいスキルなんかないと主張すればいい。

 既に土台はあるのだから、改めて他人に弱いのを見せるのは恥ずかしいものがあるとでも言えば引き下がるだろ。アイリスはいい子だからな。

 まだだ。

 まだ終わってない。

 俺の名前は佐藤和真。魔王を倒した冒険者。

 二週目のプレイで詰むような真似はしない……!

 俺はまだ使ってないスプーンを小刻みに動かしてぐねぐねさせる。見せびらかしたい気持ちがあったわけではなく、無意識にやってた。

 気持ちを落ち着かせようとやったのかもしれない。

 しかし、それが。

 

「カズマ、何ですかそれは!」

「スキルとか使ってないんだよね!?」

「何だそれは?」

「へっ?」

「それはどうやってるんですか!?」

 

 仲間だけでなく、アイリス達の興味を引いた。

 この現象の名前はラバー・ペンシル・イリュージョン。目の錯覚で曲がったように見えるだけのものだ。

 しかし、ラバー・ペンシル・イリュージョンを知らないアイリス達は驚きと興奮の眼差しを俺に向けている。

 なので優しい俺は種も仕掛けもない簡単な小技であることを教える。すると、早速アイリス達は練習をはじめた。

 スプーンは先端が重くてバランスが悪いので、ペンでやることを勧めた。

 ラバー・ペンシル・イリュージョンそのものは難しくないので、それこそすぐにできてしまうものだ。

 事実アイリス達はすぐにできるようになる。

 これからラバー・ペンシル・イリュージョンはアイリス達によってこの世界に知れ渡るだろう。

 特に小さい子供にとってラバー・ペンシル・イリュージョンは面白いと気に入られる。

 そして、子供が大人になると、今度は彼らが子供にラバー・ペンシル・イリュージョンを教えるわけだ。

 俺はまた一つ、この世界に向こうの知識を輸出してしまった……。

 

「でも、これ何なの本当に」

「単純に目の錯覚だよ」

「あまりはやく動かすとぐねぐねしないですからね。いい感じのはやさでないとぐねぐねしてくれません」

 

 みんな楽しそうに、それでいて感動したようにペンをぐねぐねさせる。そんな中で一人可哀想な子がいた。

 

「ダクネス、お前って奴は……」

「そ、そんな目で見るな! 私だって好きでできないわけじゃない!」

 

 変なところで不器用なところを見せたダクネスに俺は憐れみを抱く。

 そんな俺にダクネスは涙目になるので、こいつでもできることを教えることにした。

 

「面白いものをみせてやろう」

「まだ何かあるんですか!?」

「目の錯覚は面白いんだ。例えばこれだ」

 

 紙に同じ長さの二本の線を横に引く。

 

「それをどうするおつもりで?」

「二つの線の左右にこれをつけるんだ」

 

 一つにはくの字と逆くの字をつけて内側を向くようにする。もう一つは外を向くようにすると、あら不思議。

 

「あれ? こっちのが長く見える!」

「同じ長さの線でしたのに!」

「カズマ、これも錯覚なのか?」

「ああ。俺のいたところだと目の錯覚の例として出されるものだぞ」

 

 こういう簡単なのはいくつか覚えてるけど、難しいのは流石にわからない。

 しかし、こんな簡単なものでもアイリス達には心を撃ち抜かれるほどのインパクトがあったようで。

 俺に次を求めてきた。

 アイリスが可愛いから覚えてるの全部出した。

 作戦とかもう知らね。

 今はただアイリスを喜ばせよう。




ごめんなさい。
短いし、中途半端ですけど、これで投稿します。

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