このすば! 俺はまた魔王を倒さなきゃいけないようです 作:緋色の
暑いのは苦手なので、はやく秋になってほしい。
冬でもいいです。
「ふひっ」
固いベッドの上で目を覚ました。
昨夜は久しぶりに荒れた。また魔王を退治しなくてはならないという現実を黙って受け止められるほど、俺の心は強くない。
大体どうして俺はこうなるんだ。昨日だって、神器が壊れないように取り上げて、騒ぎを鎮めようとしただけで、こんな目にあう理由なんかない。
ちょっと考えただけで、また酒を飲みたくなった。
今夜もまた荒れることを予感して、俺は宿を出てギルドに行く。
軽めの朝食をとった俺は掲示板の前に立っていた。
金がないので、依頼で稼がないとならない。
貧乏はするもんじゃねえ。
「また蛙……あっ」
その時、俺は気がついた。気づいてしまった。どうして依頼をこなさなくてはならないのだろうか。
元の世界で俺は日本にいた頃の知識を使って、様々なものを作り、それをバニルに売って富を築いた。
それと同じことをすればいい。
「早速ウィズの店に行くか」
振り返って歩くと、
「うぎゅ」
「おっと、すまない」
「こちらこそすみません」
「!」
目の前にいる人……めぐみんを見て、俺は驚きの声を上げそうになったが、声を押し止めた。
眼帯を着けている。無性に引っ張ってやりたくなったが、その欲求は今度にして、今はウィズの店に行かなくては。
「それじゃ、俺は急いでますんで」
「待ってもらおうか!」
横を通り過ぎようとしたら、杖で邪魔をされた。
めぐみんを見ると、不敵な笑みを浮かべている。
たっぷりと間を置いて、自信満々に言った。
「あなたが低レベルなのはわかっています」
いいえ、違います。
「長いことこの街にいる私は冒険者の顔を覚えています。あなたを見るのは今日がはじめて。つまりあなたは最近ここに来たのでしょう」
合ってます。
「先ほどあなたはジャイアントトード討伐依頼の紙を取り、しかし諦めた様子で戻しました。そんなことをする理由はただ一つ!! あなたにこれができるようなレベルはなかったからです!」
いいえ、大した稼ぎにならないからです。
それと何をどう見たら諦めた様子だったのか教えて下さい。
「しかし、何も問題ありません!」
問題しかありません。
バサッと大袈裟にマントをはためかせて、めぐみんが自己紹介をはじめた。
「我が名はめぐみん! アークウィザードを生業とし、最強の攻撃魔法、爆裂魔法を操る者! その私が一緒に請けてあげます! ふっふっふ、喜びなさい。本来ならたかが蛙に私は役不足だというのに、我が友にして上級魔法を操りしアークウィザードも同行するのですから! 出でよ、ゆんゆん!」
「我が名はゆんゆん! アークウィザードにして、上級魔法を操る者! やがては紅魔族の長になる者!」
大人しく仕事して下さい。
お前らだけで、普通に依頼をこなせますよね? お願いですから巻き込まないで下さい。
「ふっふっふ。驚きで声も出ない様子」
「いえ、呆れてるだけです」
「どんどん驚いて下さい。私とゆんゆんと言えば、アクセル最強コンビと名高いのですからっ! ……今、呆れてるって言いました?」
「言いました」
「……ま、まあ、駆け出し冒険者なら私達を知らなくても不思議ではありません。私達は紅魔族にして、一位二位を争うほどの才能の持ち主。その私達があなたの依頼に同行しましょう。何も遠慮することはありません! 私達先輩はあなたのような後輩を育てる義務があるのですから!」
「……目的は何です?」
俺の言葉に、めぐみんはどこか満足げな様子でゆんゆんに話しかけた。
「ふっ、どうやら私の目に狂いはなかったようですよ、ゆんゆん」
「ええ、本当に? 怪しまれてるだけじゃ……」
「それはありませんよ。全く、ゆんゆんはいつまで経ってもだめですね」
「はよ」
「今日、私は神に夢で告げられたのです。昼前の掲示板の前で冴えない顔をした男がいる。その人はあなたたちにとってかけがえのない仲間になると!! そして、夢の通り! 冴えない顔をした男がいたのです!」
「いたのですじゃねえよ! 何だよ冴えない顔って! お前らふざけんなよ! こっちはネタ種族のネタに付き合ってる時間はねえんだよ!」
「な、何おう! ネタ種族とは何ですか! ネタ種族とは! 言ってくれますねえ! こっちが下手に出てればいい気になって!」
「お前がいつ下手に出たんだ! 少しは下手に出るってのがどういうことか教えてもらえ!」
「うぬぬっ。大体夢がなかったらあなたみたいな冴えない顔をした童貞に話しかけたりしませんよ!」
「ど、どどど童貞ちゃうわ!」
「その反応が童貞の証でしょうが! 童貞!」
俺とめぐみんの口喧嘩にゆんゆんはおろおろとしていて、ギルドにいた少数の冒険者たちは酒を片手にこちらを眺めていた。
「この童貞! 童貞で恥ずかしくないんですか!」
「うるせえ! ネタ種族だけじゃ飽きたらず、ネタ魔法も習得してるネタみんに言われたくねえわ!」
「ネタ!? 紅魔族をばかにするのでは飽きたらず、我が爆裂魔法をネタ扱いとは! いいでしょう! そこまで言うのなら覚悟はできていますよね! 見せてあげますよ、我が爆裂魔法を!!」
「やべえ、頭のおかしいのが爆裂魔法使おうとしてるぞ!」
「そこの小僧、さっさと謝れ!」
「やめて、お願いだからやめてめぐみん!」
「謝るなら今の内ですよ」
めぐみんは目を紅く輝かせ、杖を構える。
職員の方も俺に謝れと言ってきている。
ここで爆裂魔法を発動したらギルドは吹っ飛ぶし、周囲への被害も相当なものになるだろう。
厄介なのはこの頭のおかしい爆裂娘はマジでやっちゃうタイプなのだ。
「私はやると言ったらやる女です」
ニヤニヤとこっちを見ている。めぐみんは勝利を確信しているらしい。それもそうか、普通なら爆裂魔法を使うと脅されたら降参する。
「爆裂魔法は確かに最強の魔法だ。しかし、非常に大きな欠点があるのを忘れていないか?」
「はて、何のことでしょう」
俺はめぐみんの肩に手を置いてドレインした。
「!?」
「爆裂魔法ってのはばかみたいに魔力を使う。だから一日に一回しか使えない」
「な、何をしたのですか……」
「これでお前は今日爆裂魔法は使えない」
体力と魔力を結構奪ったので、めぐみんはふらふらしていて、杖を支えにして立っている状態だ。
ゆんゆんも何が起こったのかわからないみたいで、戸惑った様子で俺とめぐみんを何度も見た。
「う、ううぅ……。これしきのことで我が爆裂魔法は、や、やめて下さい!」
まだばかなことをしようとしてる様子なので、俺は眼帯を引っ張る。
めぐみんが杖でぽかぽか叩いてきたので、俺はにやっと笑った。
「やめ、やめろおおお!」
手をはなした。
ビュンと空気を切り裂き、眼帯は在るべき場所へと帰っていく。
ビシャン! と勢いよくめぐみんの目にぶつかった。
「いったぁい! 目があぁあ!」
これまた大袈裟に目を押さえて、仰け反った。ギルドにめぐみんの叫びが響き渡る。
「へっ」
俺は勝ち誇ったように笑った。
ちょっとした騒ぎを起こした俺は迷惑料として、その場にいた冒険者に酒を一杯奢った。
「んぐっ、ごくっ」
俺の目の前には一心不乱に蛙の唐揚げを食べるめぐみんと、申し訳なさそうにしつつ唐揚げを食べるゆんゆんがいた。
「ありがとうございます」
ご飯を奢る前に聞いた二人の話に俺は呆れを隠せなかった。
やはりめぐみんは問題児で、誰彼構わず喧嘩をするし、爆裂魔法のせいで依頼を達成してもお金を差し引かれたり、一部依頼はめぐみんを断ったり。めぐみんのしでかしたことに、ゆんゆんが上手いこと弁解したり、ごまかせたらいいのだが、それは無理だった。
そういうわけでまともに依頼をこなせていなかった二人は二日間まともに食べれてなかったらしい。
めぐみんを見捨てない所はゆんゆんのいい所であり、駄目な所だろう。
食事が終わったのを見て、二人に聞いた。
「夢の話をでっち上げて、俺に依頼を請けさせる気だったのか?」
「でっち上げとは失礼な。夢は本当です。銀髪の女神様が私に言ったのです」
「銀髪の女神……もしかしてエリス様のこと言ってんのか?」
「言われてみればエリス様とそっくりでしたね」
「めぐみん、いくらなんでも女神様を利用するのはどうかと思うよ」
「私がそんなことをするわけないでしょう。いくら生活が苦しくてもしませんよ」
めぐみんの話は本当かもしれない。
元の世界のアクアやエリス様が手を回していてもおかしくない。
だけど、俺にコンタクトがないのはどうしてだろうか。いくら神器が関わっているとしても、連れ戻すことはできそうだが。
そういえば、昨日は泥酔して寝た。サキュバスの夢も熟睡してたら駄目だと聞くし、ひょっとしたらそのせいで見れなかったのかもしれない。
色々と疑問はあるが、今は置いておこう。
「もしかしたらお前らの生活を見かねて助言したのかもな」
「まるで私達が酷い生活をしているみたいではありませんか」
「そうなる一歩手前だったじゃない。お金ないから泊まる所なくて、今夜はギルドでこっそり寝ようって……」
「そんなことは言わなくていいんですよ!」
馬小屋にすら泊まれないのは、相当酷い生活をしている証だ。
俺は二人を見て、ぽろりと涙を流した。ここまで、ここまで酷い生活をするなんて……。
「や、やめろお! 私達を見て泣くんじゃない!」
「う、ううううううぅ……」
「俺は借金まみれになって最悪の人生と呪いもしたが、寝食はあった。めぐみん、ゆんゆん、お前らがナンバーワンだ」
「「うわああああああああ!!」」
俺の憐れみに耐えられなくなった二人はとうとう顔を伏せて、うっうっと嗚咽をもらす。
しばらくして落ち着いた二人は明らかに俺と目を合わせないようにしていた。
目を合わせなくても、聞いてもらえたらそれでいいので、俺は話した。
「蛙を倒しに行くか」
ジャイアントトード討伐。二人のためにやるようなものだ。
依頼達成したら二人に譲ろう。俺は昨日の分が残っているので、今回のはもらえなくても大丈夫だ。
「……あの二人も連れていくんですか?」
受付の人が不安そうに聞いてきたので、俺は安心させるように言った。
「何かやったら裸にひんむいて謝らせますんで」
「いや、それはそれで不安になるんですが!」
「楽しみにしてて下さい」
「何を!?」
受付の人を安心させた俺は、入り口で待つ二人と合流して、蛙が確認された場所へ向かう。
「何かトラブル起こしたら、裸にひんむいてやるからな」
「「!?」」
この二人がばかなことをしないために軽く脅すと、二人の顔は恐怖に染まった。
これで今日の蛙討伐は問題なく終わらせられるだろう。
「めぐみん、本当にあの人大丈夫なの?」
「何かしそうだったら殺って構いません」
後ろから不吉な言葉が聞こえたが、もしもそっちがその気ならこちらにも考えがある。
俺のスティールが勝つか、ゆんゆんの上級魔法が勝つか、それは神のみぞ知る。
……ま、子供の裸には興味ないから頑張らないけど。
「めぐみんは魔法使えないし、ゆんゆんが上級魔法で一掃してくれ。俺が囮になってなるべく一ヶ所に集めるから」
「……私は何をすればいいんですか?」
「……ゆんゆん、俺も巻き込むなよ。合図を出したら使ってくれ」
「わかりました」
「私は何をすればいいんですか?」
「間違っても爆裂魔法みたいな広範囲魔法はやるなよ。それと俺に見向きもしない蛙がいたり、ゆんゆん達に向かったりしたら倒していいぞ」
「はい。あと私はめぐみんと違って爆裂魔法は使わないので安心していいですよ」
「おい、露骨に無視するのはやめてもらおうか」
「だってお前、爆裂魔法しか使えないんだろ?」
「そ、それはそうですが。しかし、ゆんゆんとカズマだけに任せるというのも気が引けるというか……」
「俺と囮やるか? その場合蛙に食われる可能性があるぞ。言っとくけど食われたら、蛙の粘液でぬるぬるになって、蛙臭くなるぞ」
「カズマ、ゆんゆん、頑張って下さい」
めぐみんはとびっきりの笑顔を見せた。
驚くぐらいスムーズに蛙の討伐は完了した。
語ることがないぐらいにあっさりと終わったものだから、俺は夢を見ているんじゃないかと思ったほどだ。
俺が囮になって蛙を一ヶ所に集め、ゆんゆんが魔法で一掃。それが綺麗に決まったもんだから、ギルドへ帰るのもすぐだった。
「思ったよりはやく終わりましたね……」
結果を聞いた受付の人がわなわなと震えていた。
「問題もないようですし、この調子で頑張って下さい。こちら、今回の報酬になります」
「ほら。これはお前達にやるよ」
「えっ、で、でも」
「そうですよ。私がもらえないならともなく、カズマがもらわないと言うのは」
「だったらご飯を奢ってくれたらいい」
蛙討伐の報酬とは比べものにならないほどのお金を手に入れる方法があるので、そこまで欲張るつもりはない。
別の世界とはいえ、めぐみんとゆんゆんが生活に困窮しているのを聞いたらお金を譲らなくてはと思う。
それに魔王を倒した男が蛙の討伐報酬に執着するのはあまりにもださい。
「二人で宿をとったり、生活用品を買うのを考えたら必要になるだろ。またあとでな」
二人が俺を尊敬の眼差しで見る。
元の世界だったら何を企んでるんだと疑う所だが、ここまでの俺を考えれば当然のことだ。
しかし、この二人の眼差しがクズを見る目になるのも時間の問題だ。
どうせ理不尽にカスマとかクズマとか言われるだろう。
二人と別れて、ギルドを出た俺はライターに必要なものを集めるために急ぎ足で移動する。
蛙討伐が思ったよりはやく終わったとはいえ、それでも結構時間を食ったことには変わらない。
はやめに集めて、ライターの製作を行い、明日にはウィズの店に納めたい。
ライターは前にも作ったことがあるので、本気でやれば明日には完成させられるはずだ。
ライターでお金を得たら、次のものを作って更にお金を得る。
それを繰り返せばはやい段階で働かなくてよくなるはずだ。
はやく楽な生活を送りたい!
働くなんてばかなことしたくない!
俺はゴロゴロしたいんだ!
ここからカズマのセクハラ異世界生活がはじまるかもしれません。
特にゆんゆんなんて、カズマさんにいいように言いくるめられて……。
その内子供が欲しいと言うかもしれません