このすば! 俺はまた魔王を倒さなきゃいけないようです   作:緋色の

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そろそろサブタイトルを省略しないといかんかもしれない。

そうなるとこれからのサブタイトルは俺魔王になるかな。




第四話 ベルディア襲来

 一撃熊、初心者殺し、アクセルでは大物モンスターたちを倒した俺達は有名になってきた。

 

 ジャイアントトードの依頼を請けた俺はこの前買った弓矢でバンバン倒した。貫通力が凄まじく、木の矢でも蛙を余裕で貫通する。

 

 新しい弓の性能の高さを改めて知ってご満悦していると、後ろから不満の声が飛んできた。

 

「カズマ、一人だけ満足するのはどうかと思うんですが」

 

 爆裂魔法を使いたそうにそわそわしているめぐみんを見て、俺はお願いした。

 

「めぐみん、今の台詞もう一回」

 

「カズマ、一人だけ満足するのはどうかと思うんですが」

 

「もう一回」

 

「カズマ、一人だけ満足するのはどうかと思うんですが」

 

「もう一回」

 

「……か、カズマ、一人だけ満足するのはどうかと思うんですが……」

 

 ようやく意味がわかったらしく、めぐみんは顔を赤くして、恥ずかしそうに言った。

 

 わっしょい。

 

「もう一回」

 

「い、いい加減にして下さい!」

 

 真っ赤な顔で激昂した。目を紅く輝かせ、杖を俺に向けて構えた。

 

「怒るなよ。ちょっとからかっただけだろ。ほら、その怒りをあそこの蛙たちにぶつけていいから」

 

「あなたにぶつけたいんですよ!」

 

「そんな、めぐみんったら……大胆」

 

「エクス」

 

「ストップ! めぐみんストップ!」

 

 ゆんゆんがめぐみんの口を押さえて、魔法を止めた。

 

 ここで爆裂魔法を使われたら大変なこと、というよりもダクネス以外消し飛んでしまう。ゆんゆんが止めてくれたおかげで生き残れた。

 

「さっ、蛙退治するか」

 

 勢いに乗ってる俺は蛙を退治しようとして、敵が一ヶ所に集まってるのを見て、ゆんゆんにお願いした。

 

「ゆんゆん、手を」

 

「えっ、何する気?」

 

 疑いと恐れが混ざった表情で見てくる。

 

「何もしねえよ。ほら、蛙が集まってるから爆裂魔法で一掃するんだよ」

 

「使えばいいだろ」

 

「俺だけじゃ魔力足りないから、ゆんゆんから魔力を吸いとるんだよ」

 

「吸いとる……。まさか、ドレインタッチ?」

 

「あれ、使えるの言ってなかった?」

 

「はじめて聞いたよ。……だから、あの時めぐみんの爆裂魔法を防げたんだ」

 

 ゆんゆんは腕を組んで、納得した様子でうんうんと頷いた。腕を組んだことで十三歳にしては豊かなお胸が強調され、俺の視線はそこに向かうしかなかった。

 

 何て圧倒的なんだ……!

 

「ゆんゆん、手」

 

「あ、うん」

 

「さっ、爆裂魔法で蹴散ら」

 

「『エクスプロージョン』!」

 

 めぐみんが爆裂魔法で数匹の蛙を爆裂魔法で一掃した。

 

 めぐみんを見ると、いつもなら倒れてるのに、今はぷるぷるしながらも何とか立っていた。

 

「させません! させませんよ! あんな絶好のシチュエーションは譲りませんよ!!」

 

 言い終えると、めぐみんは力を失ったように倒れたので、俺はいつものように背負った。

 

「食われたらぬるぬるになると聞いたのに……詐欺だ」

 

 俺に小声で文句を言ってきたダクネスを冷たい目で見て、舌打ちをしてから顔を背ける。

 

「んっ、ふう……!」

 

 ジャイアントトードの討伐は完了したので、俺達は街への帰路についた。

 

「そうだめぐみん。今日のは七十点だ」

 

「なっ!? どうしてそんなに低いんですか!?」

 

「お前、俺よりはやくと焦って撃ったろ。そのせいで爆裂魔法の威力が出しきれてない。体に伝わる衝撃も、熱風もしょぼかった」

 

「うっ……。言われてみれば確かにそうですね。それにしてもカズマはどうしてそんなに正確に爆裂魔法を評価できるんですか?」

 

 めぐみんの爆裂散歩に数え切れない付き合ったことで身に付いたものだ。

 

 そういえばその爆裂散歩のせいで魔王軍の幹部ベルディアを怒らせてしまい、多くの冒険者と一緒に戦って、何とか勝利したけれど多額の借金を背負うことになった。

 

「ふふっ」

 

「な、何故笑うのですか?」

 

「いや、昔のことを思い出してさ。懐かしいなって思ったら何でか笑えたんだ。借金地獄で四苦八苦してたあの頃には戻りたくないのにな……不思議だ」

 

 あんな生活を二度としたくないのは本当だ。

 

 それなのに、本当に不思議なことだが、元の世界にいた時のように苦く思わない。

 

 この不思議な感覚に俺に戸惑いとかはなくて、自然と受け入れていた。

 

 おっと。めぐみんに爆裂魔法の評価をできる理由をちゃんと答えてねえ。文句言われる前に答えないと。

 

「脱線したな。俺が爆裂魔法の評価をできるのは腐るほど見たからだぞ」

 

「あ、そ、そうですか。……カズマは昔の方が楽しかったりしますか?」

 

「ん? そうだな……何だかんだで悪くなかったな。だからってまた借金地獄になるのは嫌だけど」

 

「そうですか」

 

 めぐみんの様子が変だ。

 

 不安そうにしている。こっちのめぐみんとは短い付き合いだが、元の世界では長年の仲間なので、こいつが不安そうにしていればわかったりする。

 

「なあ、カズマは前住んでた所に戻ったりするのか?」

 

 ダクネスも不安そうにしながら問いかけてきた。

 

 それに俺は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は魔王を倒したらこいつらを置いていく……?

 

「魔王を倒したら戻れることになってる」

 

 めぐみんのお尻を揉み揉みしながら、笑いながら言った。

 

「カズマ、下ろして下さい!」

 

「カズマさん、最低……」

 

「うはははは、胸はなくてもいいケツしてんじゃねえか!」

 

「この変態! 変態!」

 

 俺の背中でめぐみんは激しく暴れる。

 

 髪の毛を引っ張られたり、耳を引っ張られたり、叩かれたり、なかなか痛いので、俺はこの猛獣から手をぱっとはなして、お望み通り下ろしてやった。

 

「いったあ!」

 

 地面にお尻を強く打ち付けためぐみんが非難の目を向けてきた。

 

「どうしたどうした、そんな目をしても怖くないぞ。ねえ、今どんな気持ち? どんな気持ち?」

 

「ええい! こんな男いなくなればいいんですよ! セクハラを生き甲斐にしてるような男なんか追い出すべきです!」

 

「ふはははははは! 俺が怖いなら怖いと言えばいいじゃないか。カズマが怖くてたまらないので、もう勘弁して下さいと言ったらどうだ? この臆病者め!」

 

「何おう!? 臆病者、この私が臆病者!? 言ってくれますねえ! いいですよ! カズマとはここで決着をつけようじゃありませんか!」

 

 言い終えためぐみんは俺の鳩尾を全力で殴った。

 

「やりやがったな、クソガキ!」

 

 街の近くまで来た所で、俺とめぐみんの喧嘩ははじまった。

 

「ほーら、高い高い!」

 

「ぬあああああああ!」

 

 めぐみんが物理で来るならと、俺は小さい子供を扱うようにめぐみんを持ち上げて精神的に責めた。

 

 数分後。

 

 俺もめぐみんもお互い引き下がることはしなかったので、最終的にゆんゆんとダクネスが喧嘩を止めに入ったので引き分けに終わった。

 

「次は負かします」

 

「やれるものならやってみろ。いって……」

 

 めぐみんに結構やられたので、顔中傷だらけで、体もあちこち痛い。

 

「帰るか」

 

 

 

 

 

 次の日、俺はウィズの店に来ていた。

 

「ウィズ、この前約束したライターだ」

 

 ライターを五個納めると、ウィズはお礼を言いながら深々と頭を下げた。

 

「そうだ、この爆発するポーションをもらっていくかな」

 

「ありがとうございます!」

 

 これでダイナマイトを作れば、ベルディアとの戦いに役立つだろう。偽爆裂魔法を見たら、めぐみんは怒るかもしれないが、これも街を守るためだ。

 

「あっ、そういえば前に話した知人の件ですが」

 

「おお、どうなった?」

 

「ライターを見せて、カズマさんの話をしたら乗り気になってくれまして、少ししたら来るとのことです」

 

「おお! いい感じに話が進んでるな」

 

 来るにしてもどうやって来るのか気になる。

 

 バニルは幹部であるし、そう簡単にやめられるものではないが……、ひょっとしたら王都や紅魔の里を攻めてなんちゃって討伐されるつもりかもしれない。

 

 王都に行きそうだな……。

 

 あそこならバニル好みの悪感情を味わえそうだし、とことんからかってきそうだ。

 

「バニルによろしくな」

 

「わかりました…………んっ?」

 

 気分よくウィズの店を出た俺は軽い足取りで俺はギルドに向かう。

 

 もう少しだ、もう少しで俺は金持ちになれる!

 

 何て素晴らしいんだ!

 

 以前のような借金地獄はなく、はやい段階から裕福になれるなんて……、まるで夢のようだ。

 

 俺は上機嫌でギルドに入って、愛する仲間達に挨拶をした。

 

「よう」

 

「凄く機嫌いいね。何かあったの?」

 

「それは秘密だ。一つ言えるのはこのまま行けば俺は働かなくて済むほどのお金が手に入る」

 

「どんな犯罪をしでかしたんですか?」

 

「してねえよ。全うなことだよ」

 

「むしろ全うなことで大金という方が犯罪より恐ろしいものを思わせるのですが」

 

「お前は俺をどうしたいんだよ!」

 

 何をしても危険扱いしてくるめぐみんに俺はちょっと苛ついた。

 

 そりゃ、いきなり一生遊んで暮らせる金が手に入ると聞いたら、怪しく思えるだろけどさ、もっと俺を信じてくれていいじゃん。

 

 ダクネスとゆんゆんも俺がとうとうやったか、みたいな感じで見てくるしさ。二人も俺を信じてくれていないという事実に、俺は泣きそうなぐらいにショックを受けた。

 

「お前らが俺をどういう目で見てるかよーくわかった! そんなお前らに言ってやる! 最初の話とは別に法には触れないやり方で大金を得る方法がある。だけど、それをしないのはしちゃいけないってわかってるからだよ」

 

「……一応聞いとくが、お前の言うやり方と、最初の話は本当に関係ないんだよな?」

 

「そうだよ。さっきの話も、俺の国では有名な犯罪だけど、この国では犯罪でないってだけだ。……誤解されないように言っておくと、大金を得る手段というのは……、これを見たらはやい」

 

 俺は三人にライターを見せる。

 

「こうすると」

 

「わっ、火が出た!」

 

「何だこれは? 見たことがないぞ」

 

「なかなか便利なものですね。これがあれば野宿の時とか簡単に火を起こせますね」

 

「俺の知識で作ったものだ。他にも色々あるから、それを売ったりすれば……」

 

「それで稼ぐのね。はじめから言えばよかったのに」

 

「まだ確定してないから、濁したんだよ……。そしたらお前らが俺を、この犯罪者が! 底辺が! 社会の敵が! 人間のクズが! って目で見るんじゃねえか……」

 

 仲間からこんなに信用されないなんて、されないなんて……、よく考えたら元の世界でも全然信用されてなかったな。それなのにみんなにはいざという時に頼られてるとか意味わかんねえ……。

 

「そこまで酷い目で見てませんよ」

 

「そうだよ。カズマさんは隙あらばセクハラする人だけど、犯罪を平気でやれる人じゃないってのはわかってるもん」

 

「そうだな。こいつはセクハラとか、そういうのはできても大きな犯罪は無理だ。そうだな、よく考えたらカズマに大金を奪うような犯罪をやる度胸はない」

 

「おいおい、俺がへたれって言いたいのか?」

 

「そういえば前にカズマが酔って転んで、ゆんゆんを押し倒して胸を触って、ゆんゆんがえろい声を出したらマジでびびってはなれましたね」

 

「えろいって言わないで! それにあれは事故だから!」

 

「び、びびってねーし!」

 

 ゆんゆんの胸はすげえ柔らかいのに弾力があって……不思議なもんだった。できることならまた揉みたい。

 

 俺が蠱惑的感触を思い出していると、いたずらを企む子供のような表情をしためぐみんが言った。

 

「びびりでもへたれでも無いと言うなら、ゆんゆんの胸を揉んでみたらどうですか? ほら、ほら!」

 

「やめて! 私を使わないで!」

 

「大丈夫ですよ。カズマみたいなへたれは自分から触れるはずがありませんから!」

 

 悔しい! こいつにすっかりと見抜かれてるのが悔しい!

 

「やめてやれ、めぐみん。可哀想だろ」

 

 ダクネスのその言葉に俺は怒りを覚えた。

 

 こいつら、俺をへたれだ何だとばかにしてやがる。どうせ俺にはできないんだと、女の子のおっぱいも触れないへたれだと思ってやがる。

 

 いいのか、カズマ。こいつらからこんな辱しめを受けて、ただ黙って俯くだけなのか? 違う、違うだろ、それは。俺は……、俺はここで見せるべきなんだ!

 

「そうかそうか。お前ら、俺を散々ばかにして、覚悟はできてんだろうな?」

 

「か、カズマさん……? そんな、まさか、いや、いやああああ…………あれっ?」

 

「きゃああああああああ!? どうして私なんですか!?」

 

 そりゃ、ゆんゆんは関係ないし、煽ったのお前だし。いくら俺でもこの状況でゆんゆんはない。可哀想すぎるだろ。

 

 俺はめぐみんの慎ましいお胸をさわさわして、その素晴らしいかんしょ……?

 

「人の胸を触っといてその反応は何だ? どういうことか聞こうじゃないか!」

 

「ぺっ!」

 

「よろしい! 今度こそ決着をつけてあげますよ!」

 

 勇気なんか出すもんじゃない。

 

 

 

 

 

 俺はここ三日間、ベルディア対策に取り組んでいる。

 

 思ったよりも多くのダイナマイトを作ることができた。それと平行して俺はターンアンデッドを習得しようとして、何と上位版のセイクリッド・ターンアンデッドも習得できることが判明したので両方習得した。

 

 爆裂魔法を習得できたのもめぐみんが使う所を何回も見たからだ。それと同じでセイクリッドを習得できたのもアクアが使う所をたくさん見たからだろう。

 

 この勢いでアクアの持つスキルを習得して、いつでも追放できるようにしておこう。

 

「あとはミスリル合金のを買えば完了か」

 

 これでベルディアが来ても少しは戦えるだろう。

 

「んん?」

 

 ここで気づいたけど、何で俺ベルディアと戦う準備してるんだろ。よく考えたら戦う必要なんかないし、逃げることを優先すべきだ。

 

 俺は自らの愚かさに呆れ……かけた、その時だった。

 

 サキュバスのお姉さん達がこの街にいる!!

 

 馬鹿か俺は!? 守るべきものがあるのに、どうして逃げようとするんだ。戦う、戦ってベルディアを倒すんだ。

 

 誰よりも強い決意を胸に、俺は窓から街を眺めて、

 

「……つうか、爆裂魔法撃ち込んでないからベルディア来ねえだろ」

 

 元の世界でベルディアが来たのはあくまでも調査のためで、アクセルを襲うためではない。それがあんなことになったのは爆裂散歩のせいだ。

 

 そのことに気づいた俺は胸からそっと決意を消した。

 

 死にたい……。

 

 来るはずもない敵に備えてセイクリッドを無駄習得して、命をかける覚悟をして、この上ない決意までして、全部俺の早とちりって……。

 

 珍しくやる気出したらこれとかないわー。べたすぎてないわー。

 

 もう今日は何もしたくない!

 

 どういうことなの!

 

 こういうのがあるからやる気なんか出したくないんだよ。こうやって空回りしたらすげえ恥ずかしいし、悲しい。

 

 世の中くそだわ、マジで腐ってる!

 

 あー、もう、やってらんねえ。

 

 サキュバスのお姉さんに癒されに行こっと。

 

 この日は無茶苦茶夢を満喫した!

 

 

 

 

 

 俺が意味のないベルディア対策をしてから一週間が経過した。

 

 今、ギルドにはろくな依頼がない。一撃熊やら初心者殺しといった恐ろしいものはあるのに、ジャイアントトードのような弱いモンスター関連がなくなっているのだ。

 

 四日か五日ぐらい前からこの状況になり、そのせいで俺達のように一撃熊とかを倒せないパーティーは何らかのバイトをしている有り様だ。

 

 前にもこんな状況を体験した気がするのだが、どうにも思い出せない。

 

 こうやって思い出せないなら大したものじゃないことの方が多いので、俺はのんびりと飯を食べる。

 

 三日前に一撃熊を討伐してお金を稼いだので、バイトに出かける必要はなく、俺達はわりと余裕を持って過ごせていた。

 

 ちなみに一撃熊は、ギリギリまで弱らせて動けなくなった所をダクネスにやらせて経験値を稼がせた。動けない相手に何発も外すとは思わなかったけど。

 

「先ほど聞いた話では、どうやら魔王軍の幹部の一人が街の近くにある小城を乗っ取ったらしい」

 

「もしかして、それで弱いモンスターいないの?」

 

「魔王の幹部ともなれば相当な強者ですからね。怯えて隠れるのも無理ありません」

 

「迷惑な話だな。このままだと凶悪な依頼しかなくなるぞ」

 

 掲示板にある依頼で、難易度が一撃熊と同じぐらいのは言うほど多くない。自分の利益を優先するなら、それらの依頼をどんどんやればいいのだが、それだと他の冒険者に迷惑をかけるだけでなく、恨みや顰蹙を買うだけだ。

 

「毎日請けるのはよした方がいいな」

 

「そうだな。少ない依頼を一人占め、というのはいい顔はされない。私達は三日前に請けたから、浪費しなければしばらくは持つだろう」

 

「助け合いの精神って奴ね!」

 

 ゆんゆんがやけに嬉しそうにしている。里では一人でいることが多かったと聞いたので、こういう口に出さないで協力し合うことに喜びを覚えたのか。

 

 そんなゆんゆんにめぐみんは呆れていたが。

 

 一つ息を吐いて、めぐみんは問いかけた。

 

「しかし、幹部は何故来たのでしょうか?」

 

「そうだなあ。何でだ?」

 

「アクセルに高レベルの者はほぼいない。幹部が来るほどの理由はないはずだが」

 

「周辺モンスターも弱いのばかりだしね」

 

「そうなると謎はますます深まります……はうあ!!」

 

 突然大声を上げて仰け反っためぐみんに、俺達はびくんっとなった。

 

 めぐみんは立ち上がると、小さな笑い声をもらした。

 

「ふふふ、ふあーはっはっはっ! わかりました、わかりましたよ! 何故幹部が来たのかわかりましたよ!!」

 

 めぐみんは興奮した様子でテーブルを両手で力一杯叩いた。そのままの勢いでテーブルに足を乗せて、目を赤く輝かせた。パンツは黒か。

 

 ギルドにいる人みんながめぐみんを見てる。

 

 お願い、どうせあとで違うとか言われるだけだから、これ以上目立とうとしないで。

 

 俺の願いが届くわけもなく、めぐみんは腹の底からばかみたいな大声を出した。

 

「いいですか!? アクセルが無くなれば、弱いモンスターでレベル上げできる場所も無くなります! これが意味する所は……」

 

 誰かがごくりと唾を飲んだ。

 

 俺は止めることのできない無力な自分が憎くなった。この勘違い娘の口を塞ぎたいが、それはできそうにない。

 

 何を思ったのかギルドにいる人達はめぐみんの言葉を待っている。別の意味で不安になった。

 

 たっぷりと時間を置いてから、めぐみんは手を前に出した。

 

「人類滅亡への第一歩です!!」

 

「な、何だって!?」

 

「魔王は我々人類を滅ぼさんがため、私達駆け出し冒険者もろともアクセルを消すつもりです。アクセルが消えれば、他の街に行く冒険者もいなくなり、それは冒険者の減少に繋がります。そして、魔王は次に他の街を襲い、アクセルと同じ運命を辿らせるつもりです。すると今度は高レベルになるはずの冒険者もいなくなる……」

 

「そ、そんな、そんなことって……!」

 

「そうです! 奴らは初心者や中級者を皆殺しにすることで、冒険者という戦力の補給を絶とうとしています! しかも、アクセルやその他の街を魔族の陣地にして王都を挟み撃ちするつもりです!」

 

「め、めぐみん……!」

 

「ふっ。私でなければ見落としていましたね」

 

 すげえ! 何がすげえって筋が通ってることだよ。しかも、作戦として立派に機能するものだ。

 

 十中八九間違っているだろうけど。

 

 めぐみんの話通りなら幹部は小城を乗っ取らずに攻めてくるはずだ。アクセル程度なら幹部一人でも簡単に落とせるのだが、何かよくわかんないけど、今の話を聞いたみんなは盛り上がっていた。

 

 魔王軍の侵略だと騒いでいるみんなを見て、この街の先行きが不安になった。

 

 ギルドのお姉さんが王都の騎士団にこのことを報告しなきゃとか言ってたのを、俺は聞こえなかったことにして、気づかれないようにギルドから出た。

 

 この日は別の所で飲み食いして、帰った。

 

 次の日、俺はギルドに行きたくなくて、持ち物のチェックを行う。

 

 しばらくギルドに行くのは避けるべきかもしれない。

 

 昨日は途中で逃げたので、どんなことになったのかわからないが、アクセルの冒険者達のことを思うと、おかしな方向に転がってそうなので、関わりたくない。

 

『緊急警報! 緊急警報! 冒険者の皆様は装備を整えて街の正門までお願いします。街の住人は直ちに避難して下さい!』

 

 緊急警報? いくら冒険者達がばかばっかりとはいえ、昨日の内に何かしてきたとは思えない。

 

 となると、この警報は本当に突然のものだろう。

 

 まさか、めぐみんの予想通り、魔王軍の幹部がアクセルを滅ぼすために攻めてきたんじゃ……。

 

 ばかは俺だった!

 

 仲間の言葉をはじめから信じず、間違いと決めつけて……、俺は何様のつもりなんだ! 大人が子供をばかにして話を聞かないのと同じことをしてしまった。そうされるのがどんなに辛いか知っているはずなのに、俺って奴は!

 

 俺はダイナマイトなどの道具を持って、正門に向かう。

 

 ベルディアが来たら逃げようとか、そんな考えはなかった。

 

 サキュバスがどうこうではない。

 

 俺は、俺はあいつらと一緒に戦う。

 

 そして、ベルディアを倒したら、正直に言って謝るんだ。

 

 すまない、めぐみん。

 

 お前を信じようとしなくてごめん。

 

 魔王の企みを見事に見破っためぐみんに謝りながら、一秒でもはやくと全速力で正門に行く。

 

 正門には既に多くの冒険者がいて、先頭に仲間を見つけた俺は駆け寄って合流した。

 

「勢揃いか?」

 

 恐ろしい。

 

 やはり幹部は何度見ても慣れない恐ろしさがある。

 

 魔王の幹部ベルディア。剣の達人であり、神聖魔法に対して高い耐性力がある。

 

 ベルディアは単体で来たようで、部下の姿は見られない。

 

 俺は感じる恐怖を押し殺し、ベルディアを睨み付ける。

 

 アクセルは、仲間はやらせない!

 

「ふん。こいつらの中に本当にいるのか?」

 

 ん? んん? いる? ちょっと、お願い、ちょっと待って。

 

 もしかして、というか、やっぱりめぐみんは間違えてたんじゃ……。

 

「わけのわからないことを言って混乱させようとしているんですか!」

 

 めぐみんが前に出て、見当違いのことを言った。

 

「何だ貴様は……」

 

「我が名はめぐみん! この街随一の魔法の使い手にして、魔王の企みを看破せし者!」

 

「……めぐみんって何だ! ばかにしてるのか!」

 

「ち、ちがわい!」

 

「あっ、こいつ紅魔族だから、ふざけてるわけじゃないから」

 

「ああ、なるほど……」

 

 ベルディアは納得したように何度も頷く。

 

 納得いかない顔のめぐみんにゆんゆんが、今はそんなことより本題よ、と言って促した。その本題間違ってますよ。

 

「あなた達の目的はわかっています! ここアクセルを落として駆け出し冒険者のレベル上げポイントを減らし、更にここを起点にして他の街を落とし、初心者や中級者クラスの冒険者を根絶やしにすることで冒険者という戦力の補給を絶ち、そして攻め落とした街を陣地にして王都を攻めるという企みは既に見抜いています!」

 

 言っちゃった。

 

「……何だそれ? 何で我々が貴様らのような木っ端を……いや、それはいいな。貴様の話はそのまま魔王様に話すとしよう。きっと気に入っていただけるだろうな」

 

「え、えええ!?」

 

 余計なことをしてしまった。

 

 魔王軍によくできた作戦を与えてしまった。

 

 めぐみんは自分のしたことが間違っていたという事実に戸惑いを隠せずにいる。

 

「これでこの国を落とせそうだ。感謝するぞ、愚かな紅魔族の娘よ」

 

「あ、あああ……」

 

 めぐみんの顔がどんどん青ざめていく。

 

 周りの冒険者もどういう状況かわかってきたようで、みんながめぐみんに目を向ける。

 

 こうなったらめぐみんは脆い所があるので、自力での巻き返しは困難だろう。

 

 俺は頭をがりがりと掻いて、助けに出る。

 

「流石は魔王の幹部だな。作戦を見破られても、さも見破られてないようにするとは」

 

「はっ?」

 

 俺はビシッと指をさして、先ほどのめぐみん以上に堂々と言った。

 

「こんな駆け出し冒険者に魔族最大の作戦を見破られたと知られてみろ。魔王をはじめとした魔族は考えが浅いとかあほとか変態とか思われる。そうならないために、お前は見破られていないように見せ、しかも見破っためぐみんに責任が行くようにして、その頭脳を葬ろうとした……。今の一瞬でここまで考えるとは流石だ。俺じゃなかったら見逃してたな」

 

「か、カズマ……」

 

 めぐみんがお礼を言いたそうにしていたが、軽く頭を振って今はいいと伝えた。

 

 あとでたっぷりとお礼をしてもらおう。

 

「頭を手に持つモンスター、デュラハン。となれば、お前ベルディアだろ」

 

「そうだ。そこの娘はお前の仲間か?」

 

「ああ」

 

「ならば、その娘を憎むことになるだろうな。ばかなことを口走ったせいでこの街は滅ぶのだから」

 

 周りの冒険者を見れば、俺とベルディアの会話に少し混乱している。どっちを信用すればいいかわからないようなので、俺を信じられるようにする。

 

「そういえば昔、この街に来る前のことだ。俺は旅をしていて、その途中で二人の魔族を見つけたんだ。気づかれる前に隠れて、ついでに盗み聞きしたんだ」

 

「つまらん話ならはやく終わらせろ」

 

「その話を聞いて、俺は驚いた。何と女トイレに頭を置き忘れたり、女風呂に頭を置き忘れる奴がいるらしい」

 

「ま、待て! 頼む、待ってくれ!」

 

 わかりやすく慌てた変態にトドメをさす。

 

「しかもそいつは手が滑ったとか言って美人魔族のスカートの下に頭を転がしたり、転んだとか言って頭を投げて女性の胸に当てたりしたようだ」

 

「やめ、やめろおおおおお! 何でお前がそんなこと知って……はっ!?」

 

「サイテー!」

 

「ただの変態じゃねえか!」

 

「あいつの話なんか信じられるかっ! ぺっ!」

 

「あの人、凄く最低……」

 

「ち、違う! 俺は幹部だぞ! そんなことしなくても女なんぞ向こうから来る!」

 

「童貞はみんなそんなこと言うんだよ!」

 

「ど、どどど童貞ちゃうわ!」

 

 童貞だったんかい!

 

 おっと、そんなことはどうだっていい。

 

 今はこいつを倒さなくては。部下を引き連れてないのはチャンスだ。

 

「悪いな、ベルディア。お前はここで終わりだ」

 

「貴様が、貴様が余計なことを言わなければ! 貴様だけは今殺す!」

 

 ベルディアの手が動く前に俺は手を前に出す。

 

「『スティール』!」

 

 元の世界でこいつが、レベル差がなかったら危なかったと言ったのを俺は忘れていない。今の俺は最弱職とはいえ高レベルだ。

 

 手にずしりとした重さを感じる。

 

「えっ、俺ってスティールされるの? ……小僧、今すぐ俺を戻せ。さもなくば……」

 

「ベルディア。俺はお前の弱点を知っているんだ」

 

「「「ひいっ!」」」

 

 笑顔で言ったら、ベルディアだけでなく周りの冒険者も短い悲鳴を上げた。何故だ。

 

 ベルディアの顔を手で覆う。

 

「『クリエイト・ウォーター』」

 

「うぶっ! ごばっ! ぎゃ、めっ!?」

 

「『クリエイト・ウォーター』」

 

「げぼっ、きさっ、ころっ」

 

 おおっと、体の方が俺に向かってきているではないか。ここはダクネスに任せよう。

 

「ダクネス、あれを止めてこい。その間に俺はこいつを弱らせる!」

 

「う、うむ!」

 

 ダクネスの突進を受けたベルディアの体は後ろにぶっ飛んだ。

 

 攻撃を受けた所を見ると、頭がこうなってると見えないのか。これなら何とかなりそうだ。

 

「『クリエイト・ウォーター』! ダクネス、戻れ! ゆんゆん、あの体に上級魔法を撃ち込め!」

 

「う、うん! 『ライト・オブ・セイバー』」

 

「ダクネスは万が一に備えて、ゆんゆんを守ってくれ。めぐみんはいつでも爆裂魔法が使えるようにしてくれ」

 

 仲間に指示を出して、俺はベルディアを溺れさせるだけの簡単な仕事に戻る。

 

「『クリエイト・ウォーター』」

 

「ま、待て! うぼあ! おえっ! はあ……はあ……。は、話をしよう。見逃してくれたら、俺も何もしない」

 

「ははは『クリエイト・ウォーター』。相当参ってるみたいだな『クリエイト・ウォーター』。俺はお前を倒すつもりなんだよ『クリエイト・ウォーター』。見逃してもらえると思うなよ『クリエイト・ウォーター』」

 

「鬼畜すぎるだろ」

 

「悪魔だ……」

 

「こええ……」

 

 何故か周りの冒険者が恐怖の声を上げていた。

 

 ベルディアは何度も溺れさせられたせいで、はじめの威圧感は無くなっていた。結構弱っていそうだ。

 

「『セイクリッド・ターンアンデッド』」

 

「ぎゃああああああああああああ!」

 

 あまり効かないと思われたが、意外と効果はあったようだ。それでも消滅させられないのは、やはり俺の弱さが原因だろう。

 

 ベルディアの顔を下に向けて、地面に置く。頭を囲むようにダイナマイトをあるだけ置いた。

 

「今度、は、何を!?」

 

「みんな、はなれろ。……はなれたな。よし、『ティンダー』」

 

 ダイナマイトに初級魔法を放つ。

 

「ぎゃあああああああああああああああ!!」

 

 あるだけ使ったせいで大爆発となった。火傷するかと思うような熱さが駆け抜け、爆風が俺や他の冒険者を吹っ飛ばした。

 

 地面に背中を打って、ごろごろと何回か転がった。

 

「けほっ、みんな、無事か?」

 

 あちこちから、何とか、という声が出てきたので、俺はほっと一息吐いて立ち上がる。

 

「ふっ、ははは、ははは! つい、に……戻った! よ、よくも、や、って、くれたなあ!」

 

 何てことだ!

 

 あの大爆発でもベルディアは死ななかった!

 

 それだけではなく、頭は体のある場所に戻った。

 

 何という悪運の強さだ!

 

 流石は魔王の幹部だ!

 

「『スティール』! 「『セイクリッド・ターンアンデッド』!」

 

「嘘だあああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 まあ、スティールしてセイクリッドするだけですけど。

 

 さっきのダイナマイトで頭は結構ボロボロになっていた。もう少しだな。

 

「カズマさん、もう結構上級魔法やりましたよ」

 

「おっ? 『セイクリッド・ターンアンデッド』」

 

「ぎゃああああああああああああ!!」

 

 ゆんゆんに言われて、体をよく見ると、かなりダメージを負っているなと思えるぐらいにボロボロになっていた。何発上級魔法撃ち込まれたのやら。

 

「『クリエイト・ウォーター』。ほら、戻れ」

 

 頭を体の方に蹴り飛ばして、ワンドを手にし、

 

「『セイクリッド・ターンアンデッド』」

 

「うぎゃあああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 体もまとめてセイクリッドしたら、ここまでで一番のダメージを与えられた。

 

「行け、めぐみん!」

 

「この時を待っていましたよ! 幹部を討ち滅ぼせ! 『エクスプロージョン』!」

 

 トドメの爆裂魔法が撃ち込まれる。

 

「ばかなあああああああああああああああ!?」

 

 ベルディアの断末魔が響き渡った。

 

「めぐみん、カード見てみ」

 

「……ベルディア討伐とありますね。やりましたよカズマ! 私達、魔王の幹部を倒したんです!」

 

 めぐみんのその言葉にみんなは喜びの声を上げた。

 

「うおおおおおおお!」

 

「幹部をやっちまったぞ!」

 

「マジかよ!?」

 

「すげええええええええ!」

 

 あのベルディアを一方的に倒すことになるとは……。スティール強すぎだろ。

 

 俺は絡んでくる冒険者に適当に返しながら、みんなと一緒に街へと戻った。

 

 ……あいつ、マジで何しに来たんだよ。

 

 俺はまたしてもベルディアがここに来た理由を知ることはできなかった。




というわけでベルディアさん討伐されましたと。

スティールされて、散々溺れさせられて、上級魔法の的にされて、セイクリッドされて、爆裂魔法やられて、こうして見ると酷い話だ。

次の敵はデストロイヤーか。

無理ゲーや。

次の話は出せるかどうか不明です。

ベルディア討伐報酬の多くを費やせば可能にできるとか、テレポートで可能になるとか、そういうことはないですからね。

本当ですよ。

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