このすば! 俺はまた魔王を倒さなきゃいけないようです   作:緋色の

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お気に入りが急増して、びっくりしてる緋色です。

増え方がそれまでと全然違うからびびりました。

デストロイヤー、そんなによかったのかな。

もしそうなら、今回は戦闘があるわけではないので、むしろ次に繋げるための話なので、退屈かもしれません。


第六話 領主の悪事を暴け 前編

 デストロイヤーとおまけの幹部を討伐してから数日後、俺達はギルドに集まっていた。

 

 前回は思わぬ不幸でテロリスト扱いされ、死刑寸前まで追い込まれたが、今回は迷惑がかからない場所に捨てたので、デストロイヤー討伐報酬が受け取れる。

 

「お待ちしておりました! では、まずはこちらからどうぞ」

 

 ベルディアの時にも、最初に特別報酬とは別の賞金が渡されたわけだが、その中身は以前よりも多い。

 

 それだけデストロイヤーが危険とされていた証だ。

 

 特別報酬は期待できそうだ。

 

「そして、こちらがデストロイヤー討伐の特別報酬……二十億エリスになります!」

 

「「「に、二十億!?」」」

 

 俺も額を聞いてびっくりした。

 

 えっ、ちょ、ちょっと待って。

 

 に、二十億? そ、そんなに賞金かけられてたの、デストロイヤーって?

 

「デストロイヤーは長い間、この大陸を荒らしてきました。それこそ破壊されていないものを探すのが難しいほどです。魔王に次ぐ脅威と言われるほどの宿敵ですので、この賞金になります」

 

 話を聞いて、納得した。

 

 そうだ。デストロイヤーは大陸全土を荒らしたと言われるほどの大物賞金首だ。危険度で言ったら、魔王の幹部より上かもしれない。

 

 二十億エリスの賞金がかかっていてもおかしくはない。

 

 でも、元の世界だと、そこまでのお金は戻ってこなかったんだよな……。

 

 もしかして、悪徳領主にごまかされたお金が存在する?

 

 そんな不正は悪徳領主一人ではできないので、確実に手伝った人がいるはずだ。

 

 帰ったら取り戻す、そう決めた時に気付いた。

 

 時間が経ちすぎてることに。

 

 俺がこのことで調査をはじめても、空振りで終わるように手を打たれていそうなんだけど……。

 

 手遅れだ。

 

 知りたくなかった……。

 

 俺が隠された真実に気づいて言葉を失っているのを、金額の大きさに驚きを隠せていないと勘違いしたルナさんが次の話をした。

 

「カズマさん、忘れていないですよね? あなたは魔王の幹部ルシフェルを討伐しています」

 

「へっ? ああ、コロナタイトの転送先にたまたまいて死んじゃった、会ったこともない可哀想な奴か」

 

「……そう聞くと、本当に可哀想な方ですね。本来なら激戦を繰り広げるはずたったんでしょうが……。まあ、その話は置いて。このルシフェルの討伐報酬もありまして、こちらが特別報酬五億エリスになります!」

 

「おお……、おお? ……ピンハネしてません?」

 

「そう言いたくなる気持ちもわかりますが、これがルシフェルの賞金です。ルシフェルはある時から見かけなくなりまして」

 

「それで賞金の額が落ちたと?」

 

「はい……」

 

 他にも危険な連中はいるから、姿を現さなくなった奴にお金をかけるわけにはいかない、そういうことだろう。

 

 ……まあ、おまけだから仕方ないか。

 

「あれ、特別報酬とは別の賞金は? デストロイヤーやベルディアにはあったのに、こいつにはなし?」

 

「いえ、それは最初にお渡しした分に含まれております」

 

「あっ、そうすか。ここでもおまけ扱いなのか、こいつは」

 

 ルシフェルはとことんおまけ扱いされるようだ。

 

 合計二十五億エリス。

 

 これだけのお金を手元に置いておくのは、恐怖しかないので、俺は仲間と一緒に銀行へ行くことにした。

 

 一人は怖い。

 

 この俺の行動を見て、他の冒険者は流石のカズマでも二十億エリスは怖いようだと笑ってきた。

 

 お前らの野獣のような目を見て、怖くならない奴がいるわけない。その目にダクネスが興奮していたのは……、もはや何も言うまい。

 

 ちなみにめぐみんとゆんゆんは俺の気持ちがわかるようで、はやく銀行へ行こうと急かしてきた。

 

 野獣達の視線を背中に受けて、ギルドを出る。

 

 俺達は細心の注意を払い、銀行へと向かう。

 

 な、何てことだ……!

 

 これが金の魔力とでも言うのか!?

 

 横を通った通行人が、ただの一般人にすぎない通行人が、まるで俺達の金を狙う盗賊に見える。

 

 疑いだしたらきりがない。俺達は駆け足で銀行へと向かう。

 

 ……あ、あそこのおばさん、今絶対に万引きしたって! あっ! 気づいた店員が追いかけた!

 

 こええ! やっぱり、泥棒は近くにいたんだ!

 

 となると、俺達の金を狙う輩が出てきてもおかしくない。

 

 最悪、俺の狙撃で……。

 

 全てが敵に見えかけてきた時、俺の目に救いの施設、銀行が映った。

 

 到着するのが、やけにはやくないか? 俺的には、それこそ一分経ったかどうかなんだが……。

 

 だけど、そんなことはどうだっていいんだ。

 

 やっと、やっと、お金を預けられるのだから。

 

 俺はお金の魔力から解放される喜びに身を震わせて、銀行へと入った。

 

 受付の人、デストロイヤーの時にお金数えた人だ。向こうも俺のことを覚えていたようで、討伐について褒め称えてきた。

 

 なぜかめぐみんが、全て私がやりましたとばかりの態度になった。文句を言っても、カードの記録を見せつけてくると思われるので、何も言わないことにした。

 

 英雄扱いも悪くないが、本来の目的を忘れてはならない。

 

 俺はデストロイヤー討伐で得た賞金を預けたいと言った。

 

 相手はそれを聞き、俺達を応接室へと案内した。

 

 金額が金額だけに、立場が上の人、前に俺に怒鳴ってきた野郎が対応した。大金を見ても、驚きで固まらずに、次から次にお世辞を言ってきたのは流石だと思う。

 

 少し時間はかかったが、無事に預けることができた時は、みんな揃ってほっと一息吐いた。

 

 デストロイヤーの一件で銀行を変更してもよかったのだが、あの時は緊急事態だったから、とダクネスに宥められたので、継続することに。

 

 まあ、街が壊滅するかもしれない時に金を下ろしたいと言われたら、俺なら殴ってるしな。

 

 金を下ろしたと言えば、あの時二億使ったんだよな。

 

「そういや、マナタイトのお金ってどうなるかな?」

 

「お前が自分から用意したようなものだからな……。そこが引っかかってくるな」

 

「あくまでも冒険者がモンスターを討伐した、という話で終わるのか」

 

 このことで話をしても、支払われることはないだろう。

 

 俺なら、あなた方冒険者はアンデッドを倒す時に聖水を使っても聖水の購入費用は請求しませんよね、と言って支払う義務はないと主張する。

 

 俺でも思いつくのだから、権力者が思いつかないわけがない。

 

 ダクネスは頼むように、それでいて諭すように言ってくる。

 

「金額が金額だから返してもらいたいと思うのはわかるが、ここは引いてくれないか? そのことを追求したら、税金を出されかねない。お前達はあまり知らないだろうが、冒険者は税金を免除されているんだ」

 

 税金、税金かあ。日本は結構高かったような気がするけど、こっちはどうなんだ?

 

「それは初耳ですね。……今回だと、どれぐらいとられるものなんですか?」

 

「額が額だから、最大の四十パーセントになるな」

 

「二十五億だから、十億が税金」

 

「まあ、何だ。マナタイトを用意したのは、百パーセント善意からで、後で返してもらおうと思ったわけじゃない。他の冒険者にも迷惑をかけるわけにはいかないからな。二億は寄付したと思って、諦めよう」

 

「お前……」

 

「この男、税金を知るや、あっさりと手のひらを返しましたよ!」

 

「二億が二十億になった、それだけの話じゃないか。それなのに経費として寄越せと言うのは、あまりにも横暴じゃないか。街は救われて平和、それでいいじゃないか」

 

「十億とられるよりも安上がりよね」

 

 そうだよ。

 

 十億も持っていかれたら、マナタイトも含めて十二億の損だよ。それなら免税される方を選ぶよ。

 

 俺の平和を愛する姿を見た三人は、それはそれは薄汚いものを見る目になったとさ。

 

 大人はみんな薄汚いんだよ。綺麗な奴は現実を知らないだけだ。

 

「それにしても、どうして免税なんかしてるんだ?」

 

「それはな、本来冒険者というのは貧乏だ。強い人達は別として、多くは不安定すぎる生活を送る。それなのに命をかけて討伐の依頼をこなしたりする。そこで国は感謝と支援の意味を込めて免税するように決めた」

 

「何ていい話なんだ……」

 

 涙が出そうになるほど、いい話だった。

 

 今の世の中に必要な優しさが詰まった話だ。

 

「もうね、あからさますぎて、何も言えないわ」

 

 ゆんゆんがとうとう呆れを通り越した目になった。

 

 

 

 ギルドに戻ってきた俺達はデストロイヤーとおまけ(ルシフェル)討伐記念宴会に参加した。

 

 さっき気づいたのだが、ギルドに置かれている酒が増えている。量ではなく、種類という意味で。増えた酒はどう見ても高級なものばかりだ。

 

 ここぞとばかりに、隠すことなく稼ぎにきてるギルドに俺は何とも言えない気持ちになった。

 

 思わぬ伏兵だよ。

 

 後日支払うことにして、俺は一番高いのをボトルで注文して、一口飲む。

 

 その味に感動する。

 

 興味が出たダクネスも一口飲んで、俺と同じように感動する。

 

 この酒、すげえ。

 

 きつくも、しつこくもなく、だからといって軽すぎることはなく、重厚と言えるものだ。飲み込めば、口内に素晴らしい香りと余韻を残して……。

 

「これは俺が知る中で一番だ!」

 

「これほどの酒を用意するとは……。このギルドも侮れないな」

 

「それな。ほら、ダクネス」

 

「ありがとう。何だ、カズマも空じゃないか」

 

「おお、サンキュー」

 

 注ぎあって、酒をゆっくりと味わって、つまみを食べて。まさに至福の時間だ。

 

 この日は大金が入ったこともあって、かなり騒いだ。

 

 

 

 

 

 本命とおまけの討伐報酬をもらってから三日が経過した。

 

 依頼を請けるわけではないが、俺はギルドに来ていた。

 

 めぐみん達に挨拶をして、雑談をする。

 

 一時間ほどして、数人の珍客が訪ねてきた。

 

 相手方の身なりは貴族ほどではないが、俺達冒険者よりはずっといい。

 

 農業関連の人達というのを聞き、俺は何かを思い出しかけた。何だっけ。もの凄く嫌な感じがするのだが。

 

「それで、俺に何の用ですか?」

 

「実は、資金援助をお願いしたいのです」

 

 あー、待って、待ってくれ。

 

 本当に嫌な感じしかしない、というか、くそ領主に関係してるんじゃないのか、これ。

 

「内容をお聞きしましょう」

 

「穀倉地帯が、先日のデストロイヤーで荒らされまして、我々は生活が困難になりました。そこでデストロイヤーで多くの報酬を得たあなたにお話を持ってきた次第です」

 

 知ってる、俺これ知ってる。

 

 くそ領主が責務を放棄したから起きてることだよ。思い出した。そのせいで面倒なことになったんだよ。

 

「それは領主がどうにかすることじゃないか?」

 

「そうなのですが……。領主様には、命が助かっただけでも儲けものだろうと罵られ、責任は穀倉地帯を守れなかった冒険者にあると言われ、そいつらに請求しろと言われたのです」

 

 ほらあ!

 

 やっぱり責務放棄だよ!

 

「ちなみに金額は?」

 

「二十億エリスです」

 

 知ってる、どっかのクルセイダーが背負った借金と同額だもん。

 

 でも、どうして今回はダクネスに行かないんだ? もしかして、ベルディアの時に建物の弁償がなかったからか?

 

 そういえばバニルが言ってたな。洪水で出た弁償金の大半を負担したダクネスに慈悲を求めたって。それであいつは借金したわけだが。

 

 なるほど。今回はベルディアの時の前例がないから、泣きつくようなことはできなかったのか。

 

「それは領主の責務で、果たさないとなれば責務放棄になるんだから、そこを出せば」

 

「それで領主様は出しません。お願いします! どうか援助を……!」

 

 何でそれで引き下がるんだ?

 

「国に報告すれば、解決するはずだ。領主の交代さえある」

 

「そんなことをしても無駄です。領主様の言われたように、冒険者から出してもらう他ありません」

 

「どうしてそんな滅茶苦茶を聞くんだよ」

 

 おかしすぎる。

 

 領主の言い分はあまりにも酷く、とても聞けるようなものじゃない。国に報告すれば、何らかの形で事態は解決するのに、こいつらはそれをしない。

 

 まるで催眠にかけられたような……催眠?

 

 そういえば、元の世界のダクネスも同じことを言ってたな。

 

 それに領主の言い分を一方的に聞くのは、裁判でもあった。

 

 領主が死刑にしろと命じた時、セナはそこまでしなくてもと反論したが、領主がじっと見つめたら意見をころっと変えた。

 

 あの時、セナは自分で言ったのに、困惑した様子で首を傾げていた。

 

 あまりにも強引すぎたことで、催眠は完全にかからず、結果として違和感を与えたのだろう。

 

 そのあとアクアは事実を曲げるような悪しき力を感じたと言った。

 

 ……くそ領主がやったのか? けどなあ、あいつに何かできるとは思えないんだけど。

 

 裁判中に一瞬で催眠にかけるという、かなり高度な催眠を使えるとは思えないし。

 

 そうなると領主以外の誰かがしたか、アクアのでたらめになるんだよな。

 

 催眠は確かにあるんだから、でたらめはない。

 

 そうなると見落としがあることに……。

 

 ん?

 

 待てよ。

 

 アクアはダクネスの親父を助けた時、こう言ってなかったか?

 

 かなりの悪魔に呪いをかけられていた、と。

 

 なぜか出てこなかった悪事の証拠といい、催眠といい、奇妙なことだらけだ。

 

 あの領主に全ての悪事を隠し、高度な催眠をかけるなんて芸当ができるとは思えない。

 

 でも、それらが全て、強い力を持った悪魔の仕業だとすれば、どうだ?

 

 元の世界ではバニルが黒幕とされたが、こっちではまだいないので白となる。

 

 それにバニルは理由はどうあれ人間を大事にしている。あいつがやったと言うよりは、弁解の時に言っていた、頭が壊れている大悪魔がやったんじゃないか?

 

 そういうことか。

 

 俺が答えを出した時、長考しているのを見かねたダクネスが話を進めようとしていた。

 

「私が全てを出そう」

 

「し、しかし、あなたは……」

 

「やめろ、ダクネス。出さなくていい」

 

「カズマ、そういうわけにはいかない。私には」

 

 ダクネスは俺を睨みながら、何かを言おうとした。それが何なのかわかったから、ダクネスの言葉を遮った。

 

「お前が何を言いたいのかわかる。だけど、ここは俺に任せてくれないか?」

 

「お前に?」

 

「ああ」

 

 領主との結婚とかいう誰得イベントをやられたらたまったものではない。

 

 前回と違って、ベルディアの時の弁償金がないので、回避はできるかもしれないが、知らない所でピンチになりそうな気がする。

 

 俺は彼らにお願いをした。

 

「少し時間をくれ」

 

「時間と言いますと、どれほどで……」

 

「一週間ぐらいかな。だめなら、その時は素直に二十億出す。だから、時間をくれ」

 

 俺の話に彼らが反対する理由はなく、聞き入れた。

 

 彼らが去ったあと、ダクネスは身を乗り出し、俺に問いかける。

 

「どういうことか説明しろ」

 

「まずは座って、落ち着いてくれ」

 

「そうですよ、ダクネス。カズマにも考えがあると思いますよ。二十億を支払わないようにする考えが」

 

「言い方! 誤解を招く言い方はやめろ!」

 

 まるで借金を踏み倒すような言い方だった。

 

 ダクネスは呆れたようにため息を吐いて、椅子に座った。

 

「話せ」

 

 無性に茶化したくなったが、やったら恐ろしい目にあいそうなので、ここは素直に話す。

 

「おかしいと思わないのか? 領主の言い分は滅茶苦茶そのもので、それこそ何らかの処分が与えられるものだ。この地を預かる者が民を守ろうとしていないんだぞ」

 

「この地の領主、アルダープの黒い噂は聞いたことがあるはずだ。守ろうとしなくて当然だ。だから、私がやらなくてはならないんだ」

 

「ま、待って下さい。何でダクネスがやるんですか? 関係ないじゃないですか!」

 

 そうか、めぐみんとゆんゆんはまだ知らないんだ。

 

 ここでダクネスのことを話すのは気が引ける。ダクネスも説明しにくそうにしている。

 

「場所を変えよう」

 

 俺の提案を三人は聞き入れた。ギルドから一番近いのはめぐみん達の宿だったので、そこに移動することになった。

 

 短い道を、俺達はシリアス全開で歩いたわけだが、どういうことなのか、俺が三股してるみたいに見られ、今から責任をとらされるんだと噂された。

 

 何でだよ!

 

 あらぬ疑いをかけられ、心に傷を負いながら、めぐみんとゆんゆんの部屋に到着した。

 

 帰りてえ。

 

 既に俺はシリアスモードをオフってるのだが、未だにシリアスしてるダクネスが、深呼吸をして、ゆっくりと名を明かす。

 

「私の本当の名はダスティネス・フォード・ララティーナという。……そこそこ大きな貴族の娘だ」

 

「だ、ダスティネス!? ダスティネスと言えば」

 

「王家の懐刀と言われるほどの貴族ですよね。まさか、ダクネスがそんな立派なお家の人とは……」

 

「やめてくれ。ダスティネス家の者なのは確かだが、ここにいる私は冒険者で、お前達の仲間のダクネスだ」

 

 寂しげに笑うダクネスを見て、性癖がなければなあ、と思ってしまった。今のこいつはどこから見ても美女そのものだ。本当、性癖がなければなあ……。

 

「私には民を守り、助ける義務がある。だからこそ、アルダープが放棄した役目を私はこなすつもりだ」

 

 ほら、また変なこと言ってる。

 

 本当にすべきなのは、アルダープに役目を果たさせることなのに、そうしようとしない。

 

「ダクネス、お前、自分がどんだけ頭の悪いこと言ってるかわかるか?」

 

「頭が悪いとは何だ!? 貴族として当然のことをしようとしてるまでだ!」

 

「それが頭悪いってんだ! めぐみんとゆんゆんはわかるよな!?」

 

「な、何を?」

 

「アルダープに責任をとらせることを優先するべきなのに、ダクネスはそうしないで自分がやると言い張ることだ」

 

 俺の話を聞いて、二人はわかったようだ。

 

「カズマの言いたいことはわかります。確かに領主に責任をとらせるべきです。しかし、時間がないというのもありますよ。あの人達を見た限り、とても余裕があるとは思えません」

 

「カズマさんの話は正しいと思うけど、こういう時の処分って時間がかかるものよね? 証拠を揃えたりしないといけないし」

 

「まずいな、証拠か……」

 

 問題が出た。

 

 悪魔がいる限り、証拠は出てこない。

 

 そもそも悪魔がいる限り催眠は続くので、説得をしても徒労に終わるだけだ。

 

「参ったな。証拠なんか絶対に出てこないぞ」

 

「えっ? どうして?」

 

「奴の悪事や不正の証拠はまだ見つかっていないが、絶対というのはない。必ず見つける。それまで彼らの生活を守らないと」

 

 悪魔の存在を知らないダクネスは、証拠は全て巧妙に隠されていると思っている。

 

 まともに探しても見つからないことを教えないと。

 

「ダクネス、よく聞け。どうやっても証拠は出ない。俺の予想が確かなら、領主の一件は簡単に片付くものじゃない」

 

「カズマ、それはどういうことだ?」

 

 ダクネスだけでなく、めぐみんとゆんゆんもわからなそうにしている。

 

 俺は、三人にほぼ限りなく事実に近い予想を話す。

 

「悪事などの証拠は発見されない。今日来た人達も、どういうわけか領主の責任は追求せず、素直に聞き入れる。ダクネスと協力すれば、問題の解決に繋がる可能性は高いのに。おっと、ダクネス、何も言うな。どうせ現実的でないとか、そんなことを言うんだろ? それなら俺の話を黙って聞け」

 

 図星だったようで、ダクネスは開きかけた口を閉ざして、何か言いたそうにしながらも俺の話に耳を貸す。

 

「証拠は出ない。誰も何もしない。どうしてか? それは……」

 

「それは?」

 

「アルダープが、強い力を持った悪魔を使って、自分に有利になるようにしているからだ!」

 

「「「!?」」」

 

 俺は自信たっぷりに、言い切った。

 

 この地を預かる領主が、裏で悪魔を使役していたなんてのは単なる不祥事で済まされない。

 

 領主ほどの地位の人物がしていたと知られれば、貴族全体の信用問題に発展しかねない。

 

 それほどの不祥事だ。

 

 ゆんゆんは話を信じきることができないまま、言ってくる。

 

「あ、悪魔なんて……」

 

「悪魔を使役できるほどの力があるとは考えにくいのですが……、しかし……」

 

 ダクネスは思案顔になる。

 

 こいつは何度も会っているから、あの領主に人間離れしたことができるとは思えないのだろう。それか、全ての証拠を上手く隠せるような男ではないと考えているのか。

 

 考えをまとめたダクネスは俺を見据えて、自分の意見を話す。

 

「仮にカズマの言う通りなら、悪魔の存在を公にすれば、アルダープは問答無用で牢獄送り、いや死刑の可能性が高い。当然奴の財産も没収になり、ダスティネス家が管理することになろう。そうなれば、今回の一件も解決できる。……しかし、それには悪魔の存在を示すものが必要だ」

 

「悪魔のことは否定しないんだな」

 

「信じがたい話ではあるが、あの男ならやりかねんからな……」

 

 いい噂を見つける方が難しい悪徳領主だからな。

 

 おかげでダクネスが信じてくれた。

 

 これが表向きまともな奴だったら、絶対に信じてもらえなかったんだろうな。

 

 相手が俺よりクズでよかった。

 

 ダクネスは真剣な眼差しを俺に送り、問いかける。

 

「カズマ、どうする?」

 

「考えはある。だから、少し時間をくれないか? 準備ができたら作戦を話す」

 

「わかった」

 

「それじゃ、少し待っててくれ」

 

 三人が、俺なら何かやってくれると信じて、疑いを持たずに了承してくれた。

 

 そんな三人の気持ちを裏切れねえよな。

 

 さっ、屋敷に侵入する準備するか。

 

 

 

 

 

 さてさて、いくら俺でも領主の館に一人で忍び込むのは怖い。

 

 大悪魔がいる可能性が極めて高い以上、仲間が欲しいわけで、その仲間に心当たりもあるわけで。

 

「というわけで、俺と一緒に来て下さい」

 

「どういうわけなの!? さっぱりなんだけど!」

 

 街中を歩いていたクリスを捕まえて、連れていこうとしたのだが、失敗した。

 

 俺はクリスの耳元に口を寄せて、囁く。

 

「義賊楽しいですか、エリス様?」

 

「や、やっぱり、やっぱり知ってたんですね!」

 

「そっちこそやっぱり知ってたんですね!」

 

 クリスもといエリス様の言葉を聞き、俺もつい言っちゃった。

 

 エリス様は、今の大声が原因で、周りからじろじろ見られていることに気づくと、羞恥から顔を赤らめた。

 

「こんなところで立ち話もなんだから、ね?」

 

 そんなわけで俺達はアクセルの街の外れにある、こじんまりとした喫茶店に来た。

 

 エリス様は紅茶を一口飲んでから、話をする。

 

「何から話すべきでしょうか。……あなたのことは、向こうの私から少しだけ聞いています。あなたをどうするか、話し合いました。この世界に来た理由がこちら側によるものならよかったのですが、あくまでも神器の力で一時的に来ているので、神々の力による帰還はなしとなりました」

 

 まあ、そんなことだろうとは思った。自分から来といて、甘えるんじゃねえってことか。

 

 厳しすぎるだろ。

 

 現実の厳しさに泣きたくなるが、残る疑問をぶつける。

 

「それでも、ほら、別の世界の俺がいたら、本来いない人物がいることで不具合が」

 

「カズマさん、あなたの理屈ですと、異世界転生そのものができなくなりますよ」

 

「ですよねー」

 

 そうだよ。平行世界も異世界みたいなもんだよ。転生通用してる時点で、平行世界への移動も影響ないですよねー。

 

 くそが。

 

 じゃあ、何だ、やっぱり魔王を倒さないといけないのかよ。

 

 とっくの昔にそうしないとだめなんだろうなと思っていたが、こうしてエリス様の口からはっきりと言い渡されると気が滅入る。

 

 そんな俺を見て、エリス様は申し訳なさそうに謝る。

 

「お役に立てなくてすみません」

 

「いえ、エリス様のせいではありませんよ。悪いのは全部、あいつらなんで」

 

 本当に嫌な事件だった。

 

 俺はコーヒーを飲んで、気分を変えるために尋ねる。

 

「俺のことを何て聞いたんですか?」

 

「異世界転生され、魔王を倒した方とだけ。教えてもらえたのはそれだけです」

 

 本当に少しだけだった。

 

 よく考えると、詳しく知ってたらスティール勝負なんて仕掛けてくるわけがない。それに俺がエリス様とクリスのことを知ってると教えられたなら、もっとはやくに接触してきたろう。

 

 あれ、でも、そうなると、めぐみんの夢に出たのは……。

 

「カズマさんは何をしようとしていたんですか?」

 

 夢のことは今度でいいか。今はくそ領主の件に集中しよう。

 

「領主の屋敷に忍び込もうとしてました」

 

「領主?」

 

「はい。まだ仮定の話なんですが」

 

 俺は悪魔が関わっている可能性と領主が神器を持っている可能性について話した。また、領主のせいで苦しんでいる人もいて、このままだとダクネスが何をしでかすかわからないこと。

 

 全てを聞いたエリス様は考えるように目を閉じて、数秒後かっと目を見開いた。

 

「いつ決行しますか?」

 

 雰囲気が様変わりした。

 

 普段の柔らかな、優しい雰囲気はどこへやら。今は恐ろしい殺意を感じさせる。

 

「下調べ」

 

「前々から候補に挙げていましたから、問題ありませんよ」

 

「打ち合わせをして、今晩早速」

 

「わかりました」

 

 あかん。

 

 はやく宿敵を滅ぼさせろと、圧力かけてきてる。

 

 アクアより容赦ないとは聞いていたが、まさかここまでとは……。

 

 帰りたくなってきた。

 

「ここから侵入をして、次は」

 

 こんな時に限って、この人は今まで見たこともないぐらい緻密に計画を立てていく。

 

 悪魔が関わっているから、エリス様の気合いの入れようが半端ない。

 

 打ち合わせはそこまで時間はかかってないはずだが、恐ろしい圧力のせいで長く感じられた。

 

「こんなものでしょうか。……ここがアクセルだからか、領主の警備も恐れるほどではありません」

 

 ようやく打ち合わせが終わり、俺は一安心した。

 

 これでやっと、エリス様に雰囲気のことを言える。

 

「そ、そうすか。あの、そろそろ普通になってくれません? ぶっちゃけ怖いです」

 

「えっ? いつも通りですよ? おかしなことを言いますね」

 

 マジかよ!

 

 駄目だこの人。自分がどんなに怖い雰囲気になってるかまるでわかっていない。

 

 もしかして、この状態のエリス様と仕事するの? ないわー! そんな神経すり減らすような状況ないわー!

 

 俺の気持ちなど欠片も理解してくれなかった女神様は、質問をしてくる。

 

「あの、向こうの私とあなたはどういう関係なのですか?」

 

 あっ、質問したら戻った。

 

 悪魔が絡まなければ怖くないのか。よかった、本当によかった。

 

 俺は一安心して、質問に答える。

 

「そうですね。あなたが隣にいないと、と言われるぐらいですよ」

 

「え、ええええ!? そ、そんなこと……でも、この人は……、あり得なくは……」

 

 エリス様が耳まで真っ赤にして、わかりやすすぎるぐらいに混乱したので、白状した。

 

「まあ、嘘ですけど。本当はたまに仕事を手伝うぐらいです」

 

「あな、あなたって人は!」

 

 真っ赤な顔のまま怒って、俺の頭をぽかぽかと叩いてきた。やっぱり、エリス様は可愛いのが一番だ。

 

「まあまあ、落ち着いて下さい。ちょっとしたジョークじゃないですか」

 

「むうう。ジョークだからって許されると思わないで下さいね」

 

 ふんっ、と顔を背けたエリス様に、俺は優しいジョークであったことを教える。

 

「まだ可愛いジョークですよ。俺の世界だと、あなたは胸パッドと噂されてますし」

 

「はあ!?」

 

「アクシズ教徒の中では揺るぎない事実にされていて、そのせいで巨乳のエリス教徒は胸パッド扱いされてますよ。ちなみにそれは世間にも漏れていて、胸パッドを理由にセクハラされたり」

 

「あなたの世界はどうなってるんですか!? そんな話いったいどこから出たんですか!?」

 

「こっちでは出てこないと思うから」

 

「そ、そういう問題じゃないんですよ! どうして私が胸パッドなんて……!」

 

 胸を手で隠して、冤罪を着せられてるばかりに言ってくるエリス様もといクリスの慎ましい胸を見て、

 

「とある女神様が、自分の信者がエリス様に傾いた時に、エリスの胸はパッドと吹き込んだもので」

 

「な、何て迷惑な……!」

 

 アクアの名前を出さなかったのは、仲間のよしみだ。

 

 エリス様は怒りでふるふると震えて、ぶつぶつと文句を言う。

 

 ちょっと面倒そうな空気が出てきたので、逃げることにした。

 

「それじゃ、あとで落ち合いましょう」

 

「は、はい。……カズマさん、わかってるとは思いますけれど、広めたら許しませんからね?」

 

 エリス様はそう言って、口に指を当てて、いたずらっぽく笑う。

 

 すっごく可愛い。これは紛れもない事実なんだけれど、それ以上に怖かった。

 

 広めたら何をされるかわからない。

 

 俺は恐怖で何も言えなくて、それでも了承を伝えなければと、必死に何度も首を縦に振った。

 

 エリス様、怖いです……。




次の話で、領主の一件は解決するはずです。

私が調子に乗って脱線しなければ……解決するはずです。

脱線しすぎて、屋敷の前に集まって終わりとかいう展開はないとは思いますのでご安心を。

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