このすば! 俺はまた魔王を倒さなきゃいけないようです   作:緋色の

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お知らせがあります。

この作品のタイトルを短編集っぽいものから、『俺はまた魔王を倒さなきゃいけないようです』に変更しようと思います。

理由は、ぶっちゃけ全然短編集してないからで、メインがもはや俺魔王なので。

二つ目はタイトル変更にあたり、短編集っぽいものの一話目を削除します。するとは言いましても、中にはわりと好きだと言う人もいると思いますので、こちらは俺魔王一話目のあとがきに移します。

小説情報も変更する予定です。

上記は一週間以内にするつもりですので、ご了承下さい。


第六話 領主の悪事を暴け 中編

 俺は準備をするため、自分が泊まっている宿に戻ってきた。

 

 俺の立てた予想は、悪行の限りを尽くした領主は悪魔を使役しているというものだ。

 

 領主が悪魔を使役しているという証拠を掴むため、俺はクリスことエリス様と屋敷に忍び込むことに決めた。

 

 俺は素顔を隠すため、かつて使った仮面を手にとり、

 

「これ左目も穴空けないといかんな」

 

 ちょいと改造した。

 

 今回の侵入では、王都で購入した凄い弓を持っていけない。あれ持っていったらすぐに特定されちゃう。

 

 予備の弓も特定される危険があるので使えない。

 

 そうなると、明日捨てようと思ってそのままにしていた、安い弓を持っていくしかない。

 

 まさか、こいつがここに来て役に立つとは。

 

 俺は謎の感動を覚えてしまった。

 

 今までだめだめだった奴が、勇気を出して強敵に立ち向かうところを見た気分だ。

 

 最後までとっとこう。

 

 寝て起きたら忘れてそうな気がするけど、それまではこの安物の弓を大事にする。

 

 弓以外にも、使うことになりそうな道具を持って、宿をあとにした。

 

 三人が待つ宿に戻る途中で、考える。

 

 屋敷に侵入すると聞いたら、ダクネスは反対する可能性がある。

 

 証拠を手に入れるために犯罪を犯すのは、と言ってくるかもしれない。

 

 それか、カズマにそんなことはさせられないと言ってくるか。

 

 どっちにしても、ダクネスを説得しないといけないのは面倒だ。

 

 ……何だか、ずっと面倒なことばかり起きてないか?

 

 ちょっと前にデストロイヤー討伐があって、それより前にベルディア討伐があって、更にそれより前にこの世界に飛ばされて……。

 

 どうして少ししたら面倒なことが起きるんだろ。

 

 その上魔王討伐とかいう頭のおかしいイベントを抱えているし……。

 

 魔王討伐はまだまだ先の話だが、でもさあ、少しはゆっくりしたいわけじゃん。

 

 デストロイヤー討伐という強制イベントをこなしたんだから、もうちょっとゆっくり休ませてくれよ。

 

 まさかとは思うが、こんな調子でこの先もやっていくことになるのか?

 

 ないわ、それだけはないわ。

 

 こんなハイペースでやるのって、特別な力や武器を持った主人公の役目でしょ。

 

 俺はそうじゃないから。

 

 俺はマイペースにやっていく主義で、そんなハイペースで物事を進めていくタイプじゃないし。

 

 つーか、ハイペースな奴とは相容れない可能性が十分にあるんだけど。

 

 そんな俺に、こんなペースでイベントをやらせたら過労死するに決まってる。

 

 今回の件が終わったら、一週間ぐらい例のサービスを堪能しよう。

 

 ああ、極上の時間が待ってると思うと、お父さん元気が出てきて、やる気もみなぎってくる。

 

 はっ!?

 

 今、俺はとんでもない真実に気付いた。

 

 面倒臭いだけで俺に何の得もないイベントが終われば、極上の時間が待っているわけだが、考えようによっては、くそイベントは悪くないのかもしれない。

 

 くそかすイベントが終わった時、俺は疲れきっている。

 

 解決したところで、お礼はされても、お金とかもらえるわけではない。

 

 俺が二十億失わずに済むだけで、本当に何も得しない、いや得しないも何も、領主がちゃんとした人だったなら、そもそもこんなことにはならなかったわけで。

 

 つまり、このくそかすごみイベントは、簡単に言うと、骨折り損のくたびれ儲け。

 

 それをわかってて、やる気を出せるのは、領主の悪事は許せない! とか真顔で言っちゃう正義感溢れる系の奴だけで、俺のようにある程度のメリットを求める現実主義者は手をつけない。

 

 手をつけたのは、領主の悪事は絶対に許せない! とかいう正義感からではなく、放置したら、あとで凄く面倒臭いことになるからであって、決して正義感からではない。

 

 まあ、正義感はともかくとして、俺は身心ともに疲れきってしまうのは確定している。

 

 そんな俺が、疲れるだけ疲れた状態で、極上の時間を迎えたらどうなるか。

 

 普段以上に極上の時間を楽しめるのではないか?

 

 全ての疲れを癒すことができるのではないか?

 

 極上の時間を、究極的なものにできるのではないか?

 

 そう。

 

 くそかすごみうざイベントを終えた後に、更なる高みに至った夢を見ることができるのだ。

 

 それがどれほどの威力を誇っているのかは、この俺の煩悩を持ってしても予想できない。

 

 一つ言えるのは、新たな歴史、伝説が生まれるということだけだ。

 

 待っていろ、大悪魔!

 

 貴様を倒し、俺は究極の夢を見る!

 

 そして、その時、俺は安らぎを得ることができる。

 

 俺は決意を胸に、あいつらが待つ宿へと走り出した。

 

 さあ、領主の悪事を終わらせよう!!

 

 一分後、俺は引き返した。

 

 気分が盛り上がっていたのは認めるけど、宿の前で走り出すとかまぬけもいいとこだ。

 

 顔が熱くなってるのを感じながら、俺は三人が待つ部屋へ戻った。

 

「今戻ったぞー」

 

 戻ってきたら、三人が着替えているというありがちな展開を期待したのだが、そんなことはあるはずもなかった。

 

 一言で言うと、がっかりした。

 

 戻ってきた俺に、ダクネスは紅茶を淹れてくれた。

 

 それを飲んで、やっぱり紅茶を淹れるのは上手なんだなと思った。

 

「下準備は終わった」

 

「そうか。で、どうするんだ?」

 

「正攻法に攻めてもだめなのはわかるな? だから、領主の屋敷に侵入して、証拠を掴んでこようと思う」

 

「侵入? いくらなんでも危険すぎる。何があるかわからないんだぞ。お前にそこまでさせるぐらいなら」

 

 あれ、予想と微妙に違う。

 

 犯罪、だめ、絶対! って言うと思ってたのに。

 

 俺の身を案じてくれている。

 

 予想と違ってて、調子が狂う。

 

 めぐみんとゆんゆんは、口を開こうとせず、ことの成り行きを見守ってる。

 

「お前は俺を信じてないのか?」

 

「お前はいざという時は誰よりも頼りになるとは思うが、その……、可愛いメイドを見たらミスをやらかしそうで」

 

「「ああ……」」

 

「おい! 今のは何だ! まさか、俺がメイドの着替えを見たりするのを優先すると言うのか!? いくら俺でも優先することがあれば、そっちからやるぞ!」

 

 俺の弁解を聞いたゆんゆんが、目を細めて、冷たく言った。

 

「誰も着替えなんて言ってないんだけど」

 

「あ、ああ……!」

 

 は、はめられた!

 

 こいつら何食わぬ顔で俺をはめやがった!

 

 何て巧妙の罠なんだ!

 

「カズマ、悪魔を口実にメイドの着替えを覗くつもりだったんですか?」

 

「こ」

 

「こ?」

 

「これは罠だ! ダクネスが俺を陥れるために仕組んだ罠だ!」

 

「い、いきなり何だ!?」

 

 いきなり悪者にされたダクネスは、理解が追い付かない様子であった。

 

 しかし、今は自分に向けられた疑惑を晴らすためにも、ダクネスを追い詰める。

 

「考えてみろ。領主が悪魔を使役してると露見されれば、貴族全体の信用に関わる。そして、ダクネスは貴族だ。それもただの貴族じゃない。わかるな? こいつは貴族連中を守るために、領主の悪事を隠し通すつもりなんだ!」

 

 不思議なことに、ダクネスは俺の話を聞いても動揺しなかった。

 

 めぐみんとゆんゆんの目が冷たくなってるんだけど、どういうことだよ。

 

 ダクネスは一息吐くと、胸に手を当てて、強い意志を感じさせる声で言った。

 

「私はダスティネスの名にかけて、今回の件は解決する。奴が悪魔を使役しているというなら、それを暴き、世に出すまでだ!」

 

「おお……、ダクネスがとても格好いいのですが」

 

「それに比べて……」

 

 くそお!

 

 ダクネスの奴が、今までで一番輝いてる!

 

 もう、本当に滅茶苦茶格好いいんだけど。勇者クラスの格好よさなんだけど。

 

 それに比べて俺はどうだ。

 

 仲間を悪者扱いして、しかもそれは自分の疑惑を晴らすためだけというクズ行為。

 

 勝てるビジョンが浮かんでこない。

 

 追い詰められていたのは俺の方だったようだ。

 

「降参だ。あとは全部任せた……」

 

 しゅうりょー。

 

 もう俺にできることは何もない。

 

 こいつらならどんな困難も乗り越えられるだろ。

 

「もう俺なんかいらないな。お前たちならどんな敵だって倒せる。俺は影ながら見守ってるよ」

 

 引退だ。

 

 冒険者をやめて商売人になろう。

 

 元々俺は商売人向きなんだ。

 

 これからは危険なことはせず、のんびりと生きよう。

 

「じゃあな」

 

 寂しさを胸に、三人に軽く笑って、俺は部屋から出るためにドアノブを握った。

 

 ダクネスに肩を強く掴まれる。

 

「そういうのいいから」

 

「あっ、はい」

 

 真面目にやろう。

 

 これ以上ばかなことに時間を使うわけにいかないので、というか使ったら作戦を話す時間がなくなるので、三人は俺の話を黙って聞く。

 

「今夜、領主の屋敷に侵入する。潜伏や敵感知を使えば、よほどのことがない限り、 問題は出ない。とはいえ、相手の悪魔は強いと思われるから見つかる危険もある。見つかったら逃走するが、場合によっては戦うことになる。そうなったらダクネス達の出番だ」

 

「ふむ。アルダープがどれだけ悪魔を使いこなせているかにもよるが、基本的には見つからずに済みそうだな」

 

「それでカズマさんは何をとってくるの?」

 

「悪魔関連のものだな。何を呼び出したか知らないけど、召喚したとなれば、何かを使ったのは確実だ」

 

「……なるほど。力がある悪魔ともなれば、有名の可能性もありますね。そうなると、資料も多く用意しているでしょうから……、しかし資料だけでは弱くありませんか?」

 

「そうだな。めぐみんの言う通り、資料だけでは弱すぎる。もっと強い証拠が欲しい」

 

 今回の侵入は、領主が危険な神器を隠し持っていることを前提にしているものだ。

 

 資料なんてものははじめから眼中にない。

 

 もちろんメイドの生着替えも興味ない……、興味なんかない。

 

 神器のことを隠しながら、でも何かを持っている可能性について触れることで、潜入捜査の見直しが起こらないようにする。

 

「領主がいつ悪魔を召喚したかはわからないが、噂が出てきた頃に召喚したと思う」

 

「そうだな。悪魔の力で証拠が出ないのだから、カズマの読み通りになるだろう。それがどうしたんだ?」

 

「噂そのものは、あいつが領主になる前からあったわけだが、俺の知識が確かなら、悪魔は代価を求めてくるはずだ」

 

「うん。悪魔は契約を守るけど、何かを叶えてもらうには代価を支払う必要があるわ」

 

「契約の内容はどうあれ、あいつは今日まで代価を支払ってきたことになるわけだが……、契約当時のあいつに代価を支払えたのか? 支払えたとしても、あいつみたいなのは増長していくんだから、その内絶対に支払えなくなるんだ」

 

「なるほど。だが、奴は今日まで無事にいるぞ」

 

「ですが、常に悪い噂がついて回る領主が大きなものを望まぬはずがありません。何度も叶えてもらってるはずです」

 

「悪魔が要求する代価を毎回用意できるとは思えない。考えられるのは、領主は悪魔を従えさせる類いのものを持っているんじゃないか?」

 

 俺の話に三人は腑に落ちたのか、否定してくることはなかった。

 

 悪魔の代価を長年問題なく支払えていることの方が不自然だからな。

 

 お金を無計画に借りまくっているのに破産しないようなものだ。

 

 そんなのは絶対におかしいとわかる。

 

「そんなものが出てきたら、大変な騒ぎになるだろうな」

 

 領主の不祥事が発覚したあとのことは予想できているくせに、ダクネスは何でもなさそうにしていた。

 

 俺はダクネスでよかったと思った。

 

 こいつ以外の貴族だったら、今回の件は闇に葬ろうとしていただろう。

 

 降りかかるものは火の粉なんてものではなく、激しく燃え盛る炎の可能性もある。

 

 炎を恐れ、事件が露見しないように隠す。

 

 それこそ、俺達の方を消して、アルダープの不祥事を見なかったことにする。

 

 だけど、ダクネスはそうじゃない。

 

 こいつは降りかかる炎で身を焦がすことを恐れちゃいないし、それどころか炎を纏う覚悟さえしている。

 

 今のこいつにはどんな脅しも通用しない。

 

 誰もが思い描く、強くて格好いい理想の勇者様みたいだ。

 

 ……いつもそうだといいんだけどなあ。

 

 

 

 

 

 日付が変わり、俺達は宿の前でクリスと合流した。

 

「おいっす」

 

 クリスは片手を上げて、やあ、と挨拶を返した。

 

「領主も眠りについてるだろうし、いい時間帯だと思うよ」

 

 クリスが参加するとは言ってなかったので、三人は驚きを隠せない。

 

 特にダクネスは驚きが大きく、口をぱくぱくさせて、俺を見てくる。

 

 どういうことだと聞いてくるダクネスに俺ははっきりと言った。

 

「クリスが一番信用できるから協力を頼んだ」

 

「そういうわけだよ。ていうか、カズマはあたしのこと話してないの?」

 

「その方が面白そうだったし」

 

「君って奴は……」

 

 クリスは呆れた様子で、額に手を当てて、首を左右に振る。

 

 俺の茶目っ気たっぷりの行動は、どうやら不発に終わってしまったようだ。

 

「それじゃ行くか」

 

「行くか、ではない。クリスが加わるなら言ってくれ。こんな直前になって」

 

「まあまあ。文句を言いたい気持ちもわかるけど、今は領主を優先しようよ」

 

 クリスが間に入って、ダクネスを宥める。

 

「詳しいことは、目的地に向かいながら話そうか」

 

「ああ、そうしよう」

 

 何か、クリス相手だとやけに素直じゃないか? これが俺だったら文句の一つや二つ言ってくるのに。

 

 ちょっとだけ、納得できない気持ちになった。

 

 いつもならこの気持ちを晴らすところだが、今は時間がないので見逃す。

 

「目的地まで、人と会わない道を調べてるよ」

 

 クリスの案内される形で、俺達は領主の屋敷へと向かう。

 

 その道すがら、ダクネスはクリスに質問した。

 

「お前たちはいつから仲がよくなったんだ? 会う機会なんてそんなになかったろうに」

 

「それは私も気になってました。二人が会ったのって、宴会の時だけだと思うのですが……、裏でこそこそ会っていたのですか?」

 

「ねえ、めぐみん。その言い方だと、あたしとカズマが、その……、まあ、ちょっとした関係みたいで困るんだけど。あたし達はそんな仲じゃないよ」

 

「それじゃ、何でこんな危険なことに手を貸すの? 普通なら断るわよ」

 

「えっと、それはね、そのね……」

 

 三人の質問されて、あっという間に追い詰められた。

 

 領主の屋敷に忍び込む前に、いきなりピンチになるとか、マジ勘弁してくれ。

 

 クリスが助けを求めるように、俺をちらちら見てくるので、三人に言ってやった。

 

「俺とクリスには、二人だけの秘密があるんだ」

 

「「「なっ!?」」」

 

「か、カズマ! 言い方ってのがあるでしょ」

 

「「「認めた!?」」」

 

「違う、違うの! 三人が思ってるのとは違うから! カズマなんか興味ないから!」

 

「そこまできっぱり言われると傷つくよ、俺でも。まあ、甘い関係でないのは確かだよ」

 

 俺の言葉に、めぐみんとゆんゆんとダクネスはじゃあ何なんだよ、とばかりに見てきた。

 

 クリスを見れば、こちらはもう余計なこと言わないでと目で伝えてくる。

 

 ふむ。

 

「人の話したくないことを話させようとするのはどうかと思いまーす」

 

 小学生がするような、生意気な言い方で言ったら、めぐみん達の目付きが怖くなった。

 

「そ、そんな目をしたって怖くないぞ」

 

 超怖いんだけど。

 

 クラスで多数の女子に睨まれたぐらいには怖いんだけど。

 

 こんな下らない流れで、命の危機を感じてしまった俺は、やはり下らない話で解決することにした。

 

「わかったよ、言うよ」

 

「カズマ!?」

 

「前の宴会でスティール対決したろ? クリスがあれで悔しい思いをしたからって、リベンジしてきてな、まあ、その時に俺のパンツを剥いだから痴女認定したんだ。それだけの話だよ、なあクリス」

 

「そ、そうそう。あたしが男のパンツを剥いだなんて知られるわけにはいかないからね」

 

「えっ、カズマさんに仕返しとかされなかったの? あのカズマさんが、仕返ししないわけがないと思うんだけど」

 

「しようとしたけど、パンツを剥いだことに凄いダメージ受けたのを見たら、流石に良心が痛んでな」

 

「「「「良心!?」」」」

 

 この時、俺は泣きかけた。

 

 いくら俺でも、そこまで酷いことはしないのに、どうしてみんな驚いているんだろ。

 

 おかしいな……。

 

 俺にだって良心あるのに。

 

 仲間のために頑張ったりしたのに、信用されていないのか……。

 

「帰りてえ……。うう、あいつらのところに帰りてえ……。はやく魔王倒して帰りてえ……」

 

 みんなは知らないと思うが、目から出る液体は汗じゃない。

 

 それは涙というものだ。

 

 右腕を両目に当てて、俺は泣いてるように見せるため、うっ、うっ、と呻きながら歩いた。

 

「おい、カズマが泣いてるぞ」

 

「あの男にも涙はあったのですね」

 

「涙なんか金にならないとか言って枯らしてそうよね」

 

 こいつら!

 

 俺が泣くことがそんなにおかしいのか?

 

 心外だ。

 

「お前らが俺をどう思ってるかよくわかった。アルダープの前にお前らからスティル!」

 

「ほら! やっぱり泣き真似でしたよ!」

 

「カズマさんが泣くとは思えないものね!」

 

「カズマ、むしろやってくれ! クリスのを見て、興味があるんだ!」

 

 他人には理解されない理由から、聖戦がはじまろうとした。

 

「さあ、来い! 容赦なくやってみろ! お前の非道を見せてみろ! この私を辱しめられるものなら辱しめてみせろ! むしろ、やってくれ!」

 

 両手を広げて、ばかなことを口走るダクネスに、俺は言葉を失った。

 

 ……ダクネス、お前、いい加減にその変な性癖を何とかしてくれ。

 

 俺だけじゃなくて、めぐみんとゆんゆんもドン引きしてるぞ。

 

 クリスに至っては、もはや可哀想な子を見る目になっている。

 

 今、クリスは何を思っているのだろうか。

 

 わざわざ願いを聞いて、お友達になったのに、肝心のダクネスはとんでもない変態だったわけで。

 

 性癖がなければ文句なしなんだが、肝心の性癖が全てを台無しにするレベルだからどうしようもない。

 

 例えるなら、物語に出てくるような格好いい勇者様が実は風俗マニアって感じかな。

 

 ……話は逸らせたろうし、いいかな。

 

「クリス、侵入してからのことなんだけど」

 

「何々?」

 

「領主が悪魔を従えさせる類いのものを持ってるかもしれないから、それを探そうと思ってるんだ」

 

「なるほどね。わかったよ」

 

 神器のことを口にしない俺を見て、クリスは意図を読んでくれた。

 

 これがどこぞの女神様なら、空気を読まずに全てを暴露していたことだろう。

 

 改めてクリスでよかったと思う。

 

 何か後ろから、ここで放置プレイとはわかってるな! って理解したくない言葉が聞こえたが、俺のパーティーにそんなことを大声で言う変態はいないので無視した。

 

「そういえば屋敷の下調べとかはどうなの?」

 

 ゆんゆんが今更すぎる質問をしてきたのは、ダクネスのことを見ないようにしているからなのか、それとも一応確認したいだけなのか、どちらかは定かでないが、これにはクリスが答えた。

 

「ばっちりだよ。悪魔のいる場所やカズマの言うような道具の在処も目星はついてるんだ」

 

「本当ですか? もう特定できてるなんて、やけに手回しがよくありませんか?」

 

「カズマが今日持ってきた話なのに、そこまで調べがつくというのはできすぎだな」

 

「そんなことないよ。あたしぐらいになれば、頼りになる情報屋ぐらいあるんだよ。言っとくけど、これは極秘だからね」

 

 情報屋からと聞いためぐみん達はそれ以上疑うことはなかった。

 

 質問攻めを簡単に切り抜けたクリスを見て、どうしてさっきは今のができなかったんだよと文句をつけたくなった。

 

 話を蒸し返して、ピンチになるわけにはいかないので、俺は無言を貫いた。

 

 ダクネスは、クリスに悪魔と道具の在処を尋ねる。

 

「それでどこにあるんだ?」

 

「地下だよ。寝室から行くみたいでね」

 

「寝室? おい、奴が寝ている可能性もあるんだぞ。見直した方が」

 

「その必要はねえ。ちゃんと考えはあるよ」

 

「そういうこと。ダクネス達は待ってていいよ」

 

 ドレインタッチで動けなくすればいい話だ。

 

 地下は人を寄せ付けたくない場所だろうから、騎士が来る可能性はかなり低いと見ていい。

 

 一番の問題は、悪魔にばったり遭遇した時に、クリスが悪魔滅ぼすべし! と暴走しないかが問題なのだ。

 

 打ち合わせの時、クリスはとてつもなく恐ろしい雰囲気になったほど、悪魔に嫌悪を抱いている。

 

 悪魔に対する容赦のなさは、確実にアクアを圧倒している。

 

 この分ならアンデッドにも容赦はなさそうだ。

 

 何か理由があってリッチーになった者、例えばキールのような人でも、お前の理由なんか知ったことではないと言って、滅する可能性が高い。

 

 義賊をしたり、危険な神器を回収したり、ひっそりと世界のために働いている人とは思えないほどだ。

 

 侵入する前に念を押しておこうかと思ったが、そんなことをしたら悪魔の味方をする気なの? とか言ってきそうだ。

 

 そうなったら、もはや屋敷に侵入とかそういう話ではなくなる。

 

 悪事を暴くために、些細な問題から目を背けることにした。

 

 

 

 屋敷が見えて、見張りの騎士に見つからないところまで来て、俺達は最後の確認をした。

 

「お前達三人はここで待機。万が一悪魔と戦闘することになったら、その時は派手に知らせる。俺とクリスは道具の回収を最優先だ」

 

 俺の話に四人は黙って頷いた。

 

 作戦そのものはシンプルだ。

 

 俺とクリスがへまをしなければ、戦闘もなく、安全に終わらせられる。

 

 俺が求めるものは安全だ。

 

 ドラマチックな展開とかそういうのはいらないから、安全に終わってほしい。

 

 そんな俺の願いは、隣で張り切っているクリスによって砕かれかけている。

 

 どうしようか、この人がやらかしそうな未来しか見えないんだけど。

 

 クリスは俺に顔を向けて、

 

「それじゃ、行こうか」

 

 胸の前に拳を作り、やる気を見せた。

 

 俺はエリス様に今回の件が無事に終わるように祈りを捧げた。




はい、やらかしましたよ。

悪魔さんは次になりますね。

悪気はないんですよ。

ただ、前の話のあとがきはフラグだと思うので、気づいたらやらかしました。

暑いのが悪いんです。

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