やはり俺とセカンド幼なじみの関係はまちがっている。   作:キラ

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第1話 幼なじみとの再会が、彼の心をしめつける。

 人生に間違いはつきものだ。どんな優秀な人間だって、何十年も生きていれば失敗のひとつやふたつはやらかしてしまう。それが些細なミスであろうと取り返しのつかない失策であろうと、とにかく間違いを犯すことに変わりはない。

 

「ねえ知ってる? 今日転校生がやって来るらしいよ」

 

「しかも中国の代表候補生だとか」

 

 間違いを犯した後、人は大小関わらずそのことを後悔する。ああすればよかったんじゃないか。こうすればうまくいったんじゃないか。そんな思いが、頭の中を駆け巡るのだ。

 ……でも、それはすべて過ぎ去ったことだ。いまさら何を思ったところで、過去を変えられるわけじゃない。

 だから俺は、自分自身に言い聞かせる。

 仕方がなかった。あの時は、ああするしか方法がなかったのだと。

 後悔なんて、するべきじゃないのだと。

 すべては、もう終わったことなのだと。

 決して、間違いなどではなかったのだと。

 そうやって、強く、強く自らに語りかけ。

 

「職員室に行ったら転校生の子見つけたよ! 凰鈴音って名前だって!」

 

 ――そうして、終わってなんていないという現実に、向き合うことになる。

 

 

 

 

 

 

「凰、鈴音……?」

 

 4月も終わりに近づき、ようやくIS学園での生活に慣れてきたころ。

 朝のホームルーム前にクラスメイトからもたらされた情報に、俺は愕然としていた。

 目の前が真っ暗になったかのような感覚とともに、猛烈な寒気に襲われる。

 

「……一夏? 顔色が悪いが、どうかしたのか」

 

「いや、大丈夫だ。なんでもない」

 

 幼なじみの篠ノ之箒が、心配そうな顔つきで俺を見ている。異常な反応を気取られないように、俺は平静を装って返事をした。

 

「一夏さん。体調がすぐれないのでしたら、保健室へお連れしましょうか?」

 

「心遣いはありがたいけど、本当になんともないから心配しなくていいぞ」

 

「そうですか」

 

 同じく声をかけてきたセシリア・オルコットの提案もやんわりと断りつつ、必死に心を落ち着けようとするも、胸の動悸はそう簡単には収まらない。

 

「ホームルームの時間だ。全員席に着け」

 

 その時、担任教師の千冬姉がドアを開けて教室に入ってきた。厳格な鬼教官の登場で、転校生の話題に湧いていた生徒たちはいっせいにに着席する。

 サンキュー千冬姉、いいタイミングで来てくれたよ。

 心の中で礼を言い、俺は思考を『話題の転校生』以外のことに切り替える。たとえば……そうだな、昨日セシリアから教わったIS関連のことについて復習してみよう。

 

 

 

 

 

 

 1時間目の授業が終わるころには、すっかり俺の心も落ち着きを取り戻していた。代償として授業内容があまり耳に入ってこなかったのは痛いが、この際仕方がない。幸い千冬姉には注意という名の制裁を受けずに済んだし。

 

「というより、ばれてたけど見逃してもらったが正解か」

 

 周りには極力勘付かれないように気をつけたのだが、さすがに何年も俺を見てきた姉の目をごまかすことはできなかったらしい。

 でも、とりあえずは持ち直した。次の授業のことを考えることもできるし、このままなら普段通りの俺でいられるはずだ。

 

「ほら凰さん、1組はこっちだよ」

 

「ちょ、ちょっと、引っ張らないでよ」

 

 もっとも、それはこれ以上俺の心に刺激を与える出来事が起きない場合に限るのだが。

 

「あの子が転校生?」

 

「ちっちゃくて可愛いね」

 

「でも中国の代表候補生ってことはすごく強いんでしょ?」

 

 2組の生徒に手を引かれ、教室に入ってきたひとりの少女を見て、周りの女子たちは口々に感想を述べ合って盛り上がる。

 

「ほら、あそこの一番前の席にいるのが噂の織斑くんだよ」

 

 転校生をここまで案内してきた女子が、俺を見つけて近づいてくる。

 おそらく、彼女は善意で凰鈴音を『ISを動かせる貴重な男』である俺のもとに連れてきたんだろう。腕をぐいぐい引かれている転校生の表情を見る限り、あっちの方から望んで俺に会いたいと申し出たわけではないのは明白だ。

 ……まったく、余計なことをしてくれたもんだ。

 

「………」

 

 小柄な体格に、美少女と評しても差し支えないほどの容貌。そして……快活な印象を与える、ツインテール。

 

「………」

 

 いや、違う。最後のは、ただの幻覚だ。一度まばたきをして改めて見れば、彼女が長い髪を真っ直ぐに伸ばしていることはすぐにわかった。

 

「あれ? えっと、2人ともどうしたの?」

 

 無言のまま、俺と彼女は視線を交錯させる。

心臓が異常なまでに早鐘を打つのを感じながら、俺は声に出すべき言葉を必死に探す。

 

「……久しぶりだな」

 

 背中を冷たい汗がつたっている。軽く眩暈を覚えるほどの緊張感の中、先に口を開いたのは俺のほうだった。

 

「久しぶりね。織斑」

 

 そして、彼女も同じような挨拶を返してきた。

 

「え、え? 2人とも知り合い?」

 

「でも、なんだかすごい気まずい雰囲気になってるんだけど……」

 

「あんな様子の織斑くん、見たことないよ」

 

「いったいどういうことですの……?」

 

 教室中が、俺たちの間に流れる空気を察してざわめき始める。

 

「とりあえず、これからよろしく」

 

 俺を見つめる彼女の瞳は、どこまでも冷え切っている。多分、俺も同じような目つきをしているはずだ。

 

「ええ、よろしく」

 

 さて、これでひとまずの挨拶は済んだ。あとは凰が2組の教室に帰っていけば、それでこの場を収められる。

 

「ねえおりむー。おりむーと転校生さん、どんな関係なの~?」

 

「……のほほんさん」

 

 だが、そんな俺の希望は、意外と鋭いうえに思ったことはずばずば言うタイプののほほんさんの手によってあえなく打ち砕かれた。

 

「そういえば、朝も転校生の名前を聞いた途端様子がおかしくなっていたな。一夏、どういうことなんだ」

 

「気になりますわね。ぜひ説明していただきたいです」

 

 のほほんさんの一言を皮切りに、箒やセシリアも俺に疑問をぶつけてくる。どうやら、素直に答える以外に選択肢はなさそうだ。

 

「俺と凰は、小学校と中学校が同じだったんだ。何度か同じクラスになったこともある」

 

 ええーっ!? と驚く声が教室にこだまする。『運命の再会!?』だとか『つまり幼なじみってことだよね!』だとか『でもそんな空気じゃないよね……』なんて声が飛び交う中で、俺は深くため息をついた。

 

「一夏、私は知らなかったぞ」

 

「そりゃ、お前が転校したのが小4の終わりで、こいつが俺の学校に来たのが小5の初めだからな。そもそもいる時期が被ってない」

 

 怪訝そうな顔つきをしていた箒に補足説明を行い、俺は再び凰に視線を移す。

 

「それにしても、まさかこんなところで再会するとは夢にも思わなかった」

 

「あたしもよ。アンタがこうしてIS学園に通っているなんて、想像もできなかった」

 

「あ、やっぱり凰さんもそう思った? そうだよね、男の子がIS動かせるなんてびっくりだよねー!」

 

 彼女をここに連れてきた女生徒が、なんとかこの場の空気を整えようとして凰の言葉に頷く。どうやらこの状況を作ってしまった責任を感じているらしい。

 

「違うわよ。あたしが驚いてるのは、織斑がIS学園って空間の中で平気で暮らしてるという事実」

 

「え、それってどういう……」

 

「おい」

 

 無意識のうちに、俺は凰の言葉を止めにかかっていた。

 

「ごめんなさい、ちょっとしゃべり過ぎたわ」

 

 凰自身も失言だと思ったのか、素直に頭を下げてきた。

 

「じゃあね」

 

 休み時間残り1分のところで、ようやく凰と2組の生徒は教室から出て行った。

 

「はあ……」

 

 どうにも、これから面倒なことになりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 その日は、休み時間も昼休みも質問攻めに悩まされた。質問の内容は、当然凰との関係について。

 

「なんであんなに険悪なのか……か」

 

 別に、仲が悪いってわけじゃない。かといってもちろん仲が良いわけでもないのだが、あくまで俺たちの関係はその中間なのだと声高に叫びたい。

 

「さっさと夕飯食べて寝たいな」

 

 放課後のIS訓練を終えて、体も心もすでにくたくただった。寮の部屋のシャワーは箒が先に使うことになってるし、俺は少しの間学園の敷地内をぶらぶらしていよう。

 

「あっ」

 

「ん」

 

 そんな矢先、ばったりと凰に出くわしてしまった。

 

「……よう」

 

「偶然ね」

 

 とはいえ、会ったからといって話すこともない。1年ぶりの再会に喜ぶなんて、普通の幼なじみならともかく、俺たちに関してはありえないからだ。

 

「ちょっと待ちなさい」

 

 そのまま脇を通り過ぎようとしたところ、意外なことに向こうから呼び止めてきた。

 

「なんだよ」

 

「アンタ、1組のクラス代表なんだ? しかも随分熱心に練習してるらしいわね」

 

「よく知ってるな」

 

「聞いてもないのに勝手に周りが教えてきたのよ」

 

「それで? お前には関係のない話だろ」

 

 俺がクラス代表であろうとなかろうと、放課後に訓練していようといまいと、彼女が気にするようなことじゃない。

 

「そうね、確かに関係ないわ。あたしはクラス代表でもないんだし。……でも、ひとつ聞いておきたいことがあるのよ」

 

「聞いておきたいこと?」

 

「アンタ、まだ治ってないんじゃないの」

 

 その問いに、俺は思わず体を強張らせる。

 

「いきなり何を言い出すんだ。俺はいたって普通にしてるだろ」

 

「右手」

 

「………」

 

 制服のポケットの中に突っ込んでいる右手。左手も反対側のポケットに入れているのに、こいつは右手だけに視線を向けている。ということは、見抜かれているってことなんだろうな。

 

「……ねえ。アンタは――」

 

「少し、立ち入りすぎなんじゃないか?」

 

 これ以上何か言われる前に、俺ははっきりとした拒絶の言葉を口にする。

 

「俺とお前の関係は、そうじゃないだろ」

 

「……そうだったわね」

 

 一瞬だけ、何か別の感情を宿していた凰の瞳が、再びもとの冷たさを感じさせるものに戻る。

 

「あたしたちは、ただの同級生。互いが何をしようが、知らぬ存ぜぬを貫き通す」

 

 そう、その通りだ。

 それが、あの日俺たちの間で交わされた取り決め。

 

「じゃあな、凰」

 

「じゃあね、織斑」

 

 俺の選択は、最善ではなかったのかもしれない。

 だけど、最悪なものでもなかったはずだ。

 だから、きっと間違いなんかじゃない。

 不干渉を保つこの関係は、まさしく俺が望んだものなのだから。

 




はじめまして。あるいはお久しぶりです。キラと申します。

僕はセカン党なので、セカン党らしく鈴ヒロインのお話を書くことにしました。6話くらいで完結予定です。
作風は(僕の主観で)シリアスのつもりです。あらすじも珍しく真面目に書きました。

いきなり一夏と鈴の関係がヒエヒエですが、これからも読んでいただけるとうれしいです。
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