やはり俺とセカンド幼なじみの関係はまちがっている。   作:キラ

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第2話 忘れたころに、少年は過去に向き合わされる。

 中学に入ったばかりのころ、俺はやんちゃばかりしていた小学生時代を省みて、これからはもっとスマートに生きていこう、なんて粋がっていた。

 でもそれを実践するには、俺という人間はあまりに子供すぎた。加えて周りの連中は、どういうわけだか行動力のありあまった騒がしいやつばかり。だから、俺がみんなにあっちこっち振り回されるのは必然の結果だったのである。

 そのことで文句を言うつもりはない。むしろ、あいつらと過ごす日常は楽しいことばかりで、さほど時間を置かずして俺の方が周りを振り回すことも起こり始めたくらいだ。

 あの時間はとても幸せなものだったと、あとになって振り返るたびに強く思う。将来のことも深く考えず、毎日友達と一緒にやりたいことをやるだけの日々。だけど同時に、すごく充実した日々にも感じられたのだ。

 

「今日はゲーセンに寄っていかないか?」

 

 五反田弾は、スケベでお調子者だがなかなか人情のある男で、雰囲気を盛り上げるのも得意だった。

 

「お、いいね。新しいシューティングも入ったらしいし、丁度いい」

 

 御手洗数馬はいわゆる常識人ポジションで、暴走気味の俺たちのフォロー役兼ストッパーを担っていた。

 よく俺とつるんでいた男友達は、この2人。

 

「ほら一夏。なにぼーっとしてんのよ」

 

 そしてもうひとり、いつも俺の近くにいた女の子がいた。

 

「さっさと行くわよ。ま、今日もあたしの圧勝だろうけどね!」

 

 ツインテールがトレードマークの彼女は、少し言葉遣いが乱暴で、言葉よりも先に手が出るタイプで、一言で表せば『男勝り』。

 でも案外面倒見がよくて、話も面白くて、たまに見せる邪気のない笑顔がとても印象的で、俺は――

 

 

 

 

 

 

 視界に入ってきたのは、シミひとつない見慣れた天井。

 

「……最悪の目覚めだ」

 

 久しぶりに、昔の夢を見た。去年の秋ごろからはまったく見なくなっていたのに、俺の脳味噌はいったい何を考えているのだろうか。

 

「原因はわかりきってるか」

 

 これっぽっちも祝うことのできない再会の影響で、記憶がほじくり返されたのだろう。忘れよう忘れようと努力していたのに、迷惑な話だ。

 

「箒は……いないか」

 

 剣道部の朝練に出かけたのか、同居人である箒は部屋にはいなかった。今の寝汗でびっしょりの姿を見られたらいろいろと追及されそうなので、少しほっとした。

 時計を見るとちょうどいい時間だったので、のそのそとベッドから出て朝の支度を始める。

 

「よし」

 

 シャワーを浴びて制服に着替えたころには、夢を見たことによる動揺も消え去っていた。朝食は何にしようかなんて考えながら、鞄を持って部屋を出る。

 

「………」

 

 廊下に出た瞬間、最も会いたくない人物に出くわした。昨日と言い、呪われているのではないかと疑いたいほどの遭遇率である。

 

「……よう」

 

「おはよう」

 

 ひょっとしなくても、こいつも今から食堂に向かうところだろうか。そうなると、必然的に進路が同じになってしまう。

 

「これから朝飯か?」

 

「ええ、そうね」

 

「俺もだ」

 

 というわけで、どっちが道を譲るということもなく、2人で食堂までの道を歩くことになった。あくまで不干渉を貫くというだけであって、わざわざ凰から逃げるなんて面倒なことをするつもりはない。

 

「………」

 

 道中、俺たちは当然のごとく無言だった。互いに目を合わせることもせず、ただ足を前に進め続ける。

 

「……なあ」

 

 沈黙に耐え切れなくなった……というわけではないが、目的地まであと半分といったところで、俺はおもむろに口を開いた。

 

「お前がこの学園に来たのは……100パーセント、国の意思によるものなのか」

 

「何が言いたいわけ?」

 

「つまりだな……お前自身は、ここに来ることをどう考えていたのかってことだ」

 

「なるほど」

 

 それまで視線を前に向けていた凰が、はっきりと俺の顔を見た。

 

「……アンタに会いたかったからここに来た。そう答えたら、どうするの?」

 

 試すような目つきで、彼女は俺に鋭い視線をぶつける。何を意図してのものかはわからないが、どうやら俺を揺さぶりに来ているらしい。

 

「……どうもしないな」

 

「なら、わざわざ答える必要もないわね」

 

「それもそうだな」

 

 彼女の返答がいかなるものであろうと、俺が何か行動を起こすことにはつながらない。考えてみれば、最初からこの質問には意味がなかったのだ。

 

「変なこと聞いたな。忘れてくれ」

 

「そう」

 

 凰は再び俺から視線を外し、感情のない声でそう返してきた。

 その後、食堂に着くまで一言も言葉が交わされることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 さて、今さらな話ではあるが、IS学園は非常に合格倍率が高い。特例により試験なしで入れた俺を除けば、全員が激しい受験戦争を勝ち抜き狭き門をくぐり抜けた、いわゆる猛者たちだ。

 彼女たちのほとんどが、IS学習を授業カリキュラムに取り入れた中学の出身であり、加えて説明すればそれらの中学はすべて女子校。

 つまり、彼女たちは男子というものをよく知らない。よく知らないからこそ、興味津々に知りたがる。

 今回、凰の転入により『男女間のいわくありげな微妙な関係』という要素がIS学園に投入された。その結果、女子たちは大いに刺激を受けたらしく――

 

「ほらほら2人とも、早く食べないと昼休み終わっちゃうよ?」

 

「1組と2組でクラスは違うけど、仲良くお話ししましょう」

 

 クラスメイト数人に『織斑くん、お昼一緒に食べない?』と誘われて学食に行ったところ、そこには2組の生徒が4人待ち構えていた。その中には、苦虫を噛み潰したような表情でこちらを見ている凰の姿もあったわけで。

 

「ハメられた……」

 

 俺たちを引き合わせるために、各々のクラスの人間が俺と彼女を連れ出し、打ち合わせ通りに合流する。だいたいこんなところで間違いないだろう。

 

「なんでこんなことしたんだ」

 

「いや、だっていきなりあんなの見せられたら気になるじゃない?」

 

「何か喧嘩してるのなら、仲直りした方がいいんじゃないかなーって」

 

 まあ、わからなくはない話だ。仮に俺の周りに俺と凰のような人間がいたとしたら、もしかすると首を突っ込んでしまうかもしれない。

 だが、それはそれ。これはこれだ。

 

「いただきます」

 

 手を合わせた後、食事をしながらの雑談が始まる。

 

「へえ。2組の担任ってそんな感じなんだ」

 

「そうそう。あーあ、私たちも織斑先生のクラスが良かったなー」

 

「実際あの人の授業受けてみたら、そんなこと言えなくなると思うけどな」

 

 俺は、おそらく初対面である2組の女子たちと他愛もない話で盛り上がり。

 

「凰さんってISの勉強始めたの去年からなの!?」

 

「本格的に取り組みだしたのはそのあたりからね。まあ、いろいろ運がよかったのよ」

 

「それでもう代表候補生かあ。すごいねえ」

 

 凰の方も、1組の生徒と楽しそうに話している。

 でも、俺と彼女は一度も言葉を交わさない。他の人とは気軽に会話をしながら、2人の間にだけ見えない壁を作り出していた。

 

「ね、ねえ……織斑くん。凰さんと、話さないの?」

 

 さすがに話し続けていると簡単に気づかれたようで、俺の隣に座っていた女子がおそるおそるその事実を指摘してきた。

 

「必要がないからな」

 

「で、でもさ」

 

 取りつく島もない感じを意識してみたのだが、彼女はそれでも食い下がってきた。

 

「幼なじみなんだし、やっぱり仲良くした方がいいと思うよ?」

 

「………」

 

 いい加減うんざりしてきた俺は、机を思い切り叩いて立ち上がる。その瞬間、周りの女子がびくりと震えた。

 

「ごちそうさま」

 

 空になった食器をトレーに乗せ、席から立ち去る。……これくらいはっきりした態度をとれば、俺たち2人の関係に口出ししてくる物好きもいなくなるだろう。

 

「せっかく誘ってくれたのに、気分悪くさせてごめん」

 

 振り返って、謝罪の言葉を口にする。みんな俺の顔をなんとも言えない表情で見ていたが、ひとりだけはラーメンに視線を向けて黙々と食事を続けていた。

 

 

 

 

 

 

 凰鈴音の転入から、2週間が経過した。

 あの日の一件が効いたのか、それ以降俺と凰の関係を追及する声はほとんど消えていた。せいぜい、たまにのほほんさんが何気なく聞いてくるくらいだ。

 

「いいことだ」

 

 俺だって、あんな感じの悪い態度をみんなの前でとりたくはない。凰のことが絡みさえしなければ、普通に仲良くやっていけるのだから。

 

「ん~っ」

 

 屋上に出た俺は、授業で凝り固まった体を存分に伸ばしていた。たまにひとりになりたい時は、こうして昼休みに屋上を訪れるのが習慣になっている。

 ここには建物の構造上日陰になるポイントが存在し、そこでごろんと横になって青空を眺めるのが俺にとっての至福の時間だ。

 

「………」

 

 だが、今日に限っては先客がいた。

 

「どうしてこうも行動パターンが被るのか……」

 

 俺の昼寝ポジションは、悲しいことに凰に占領されていた。この2週間、会話はほとんどなかったものの、彼女の姿を偶然見た回数は結構多い。

 寝転がってぼーっと空を眺めている彼女は、どうやらまだこちらに気づいていないらしい。先に場所をとられては諦めるしかないので、潔くこの場を離れることにしよう。

 

「……あ」

 

 くるりと回れ右をしようとした矢先、彼女の視線が俺をとらえた。

 

「……アンタも、ここを使いに来たの?」

 

「まあな。けど、今日は帰ることにする」

 

「待ちなさいよ。あたしが教室に戻るから、アンタはここで寝ていいわ」

 

「え?」

 

 予想していなかった発言に、俺は思わず間抜けな返事をしてしまう。

 

「あたしはもう十分満喫したから」

 

 俺の反応などお構いなしに、凰は立ち上がって制服をはたき、すたすたと出口へ歩いていく。どうやら本当に場所を譲ってくれるようだ。

 ちなみに、昼休みが始まってから10分しか経っていない。

 

「変わってないな、そういうところ」

 

 無意識のうちに、俺の口からはそんな言葉がこぼれていた。

 

「………」

 

 無言のまま、彼女は屋上から姿を消した。

 残された俺は、厚意に甘えさせてもらう形で日陰に寝転がる。心地よい涼しさと春の陽気が混ざり合い、今にも眠ってしまいそうだ。

 

「今回は、あいつに感謝だな」

 

 昔から、妙なところで気が利くやつだった。それは1年経った今でも同じらしい。

 そう。凰鈴音は、そういう人間なんだ。

 

 だからこそ、俺はあいつを遠ざけた。

 

「………」

 

 気がつけば、右手が小刻みに震えはじめていた。()()始まった……いや、いつもよりも震えが大きい。

 

「くそっ」

 

 左手で右手首を引っ掴み、どうにか静止させようとする。深呼吸をしながら、はやる鼓動を抑えつける。

 

「……はあ」

 

 数分後、ようやく右手の震えが止まった。くっきりと左手の跡が残っていることに、思わず苦笑いが出る。

 

「久しぶりだな。こんなになったのは」

 

 昔のことなんて、思い出すもんじゃないな……

 

 

 

 

 

 

 日常を壊しかねない要素さえも、日々が過ぎれば日常の中の1ピースになってしまう。

 凰が現れてから1ヶ月。俺は彼女の存在にすっかり慣れて、クラスのみんなも俺たち2人の関係についての話は口にしなくなった。一度箒にそれとなく尋ねてみたのだが、俺がいない時でも話題に上がることはないそうだ。

 とりあえず、これで一安心といったところか。ようやくISの勉強に集中できる……もちろん、今までもできる限りは一生懸命に取り組んできたのだが。

 

「一夏さん。頑張ってください」

 

「絶対に勝ってこい」

 

「ああ。なんとかやってみる」

 

 そして、今日は大事なクラス対抗戦。俺の実力を確かめるため、そして学食のデザートフリーパスが欲しいというクラスメイトの期待に応えるため、全力を出し切らなければならない戦いだ。

 初戦の相手は、2組の代表である大嶺裕子さん。代表候補生というわけではなく、専用機も持っていないそうだ。

 

「そう考えると、俺は恵まれてるよな」

 

 そもそも大半の生徒はこの時期に専用機なんて持っていないわけで、白式という機体をもらっているだけでも相当有利なんだと思う。代わりに操縦する本人の技量と知識が足りていないので、総合するとどっこいどっこいになりそうではあるが。

 

『それでは両者、規定の位置についてください』

 

 観客席がぎっしり詰まったアリーナに出て、大嶺さんと向かい合う。緊張してきたので、大きく深呼吸をして肩の力を抜くことにした。

 

「すー、はー」

 

 ……よし、落ち着いた。大丈夫だ。

 

「よろしくね、織斑くん」

 

「こちらこそ」

 

 彼女の選んだISは打鉄だった。これは俺にとってはかなりありがたい。近接戦しかできない白式にとっては、同じく近接戦メインの打鉄は戦いやすい部類に入る。この1ヶ月間箒とセシリアにいろいろ鍛えられた結果、俺が出した結論がそれだった。

 

『では、試合を開始してください』

 

 アナウンスと同時に、試合開始を告げるブザーが鳴り響いた。

 それと同時に、打鉄が一直線に俺の方へ突っ込んでくる。先制パンチを食らわせて、戦いの主導権を握るつもりか。

 

「ていっ!!」

 

 5メートルの距離を一瞬で詰め、大嶺さんは刀型のブレードを勢いよく振り下ろす。

 ……避けられる。そう判断した俺は、体をひねらせることでダメージを回避し、お返しとばかりに雪片弐型で斬撃をお見舞いした。

 

「うわっ」

 

 確かな手ごたえ。おそらく打鉄には少なくないダメージが加わったはずだ。

 一度向こうが距離をとってきたので、俺もその時間を利用させてもらって戦況を分析してみる。

 

「いける……よな」

 

 細かい動きなどがどのくらいのレベルなのかはわからないが、少なくとも刀捌きは箒の方が断然上だ。そして、俺はあいつと練習で何度も手合せしている。過信は禁物だが、大嶺さん相手になら機体の性能込みで十分に立ち回れるはず。

 

「よし!」

 

 自らを鼓舞して、今度はこちらから仕掛けるべく加速の体勢に入る。セシリアから教わった『瞬時加速』で、相手の懐に一気に潜り込んで――

 

 刹那、爆音とともにアリーナ全体を大きな衝撃が襲った。

 

「なっ……!?」

 

 ISのハイパーセンサーが伝えてきた情報に、俺も大嶺さんも目を見開く。

 ……アリーナのシールドを破壊した所属不明のISが、爆発によって生じた煙の中に身を隠している。さらに、そいつが狙っているのは俺たち――

 

「………っ!?」

 

 声を出す暇もなかった。がむしゃらに右に動いた瞬間、さっきまで俺がいた場所を熱線が貫いたのだ。

 

「な、なんなんだよこれ」

 

「わ、私にも何がなんだか……」

 

 砂煙の中から姿を現したのは、全身装甲の灰色のIS。大嶺さんと合流して話し合うも、お互い今の状況をまったく理解できていなかった。

 

『織斑くん、大嶺さん!』

 

「山田先生! いったい何が起きてるんですか!?」

 

 山田先生から通信が入り、俺たち2人は謎のISの動きに注意しながら耳を傾ける。

 

『あのISは私たちにも何者なのかわかりません。ですから、今すぐ先生たちが制圧に向かおうとしているのですが……』

 

 先生たちが来てくれるのか。だったら俺たちは一刻も早くここから逃げて――

 

『落ち着いて聞いてください。現在、何者かの手によってアリーナの遮断シールドが最高レベルに設定されています。解除しようと動いていますが、システムが厳重にロックされているのでどのくらい時間がかかるかわからない状態です』

 

 アリーナからの離脱に思考を切り替えていた俺は、先生から告げられた情報に愕然とするしかなかった。

 

「そ、それって……私たちは閉じ込められてるってことですか」

 

『そういうことになります。ですから2人とも――』

 

 逃げられない?

 あの正体不明のISを前にして、逃げることが許されない?

 

『……織斑くん?』

 

 今までは、あくまでスポーツとして、試合としての戦いだったから、ISを目の前にしてもなんとか平静を保っていられた。

 だが、アレは得体の知れない未知の存在で、俺たちを狙っていて。

 

「……あ」

 

 ドクンと、ひときわ大きく心臓が波打った。

 

「ハァ、ハァ、ハァーッ」

 

 息が乱れる。これからどうするべきなのか、どうしなければならないのか。そんな思考がすべて吹き飛ぶ。

 

 ――怖いか? 怖いよなぁ。

 

「……っ!?」

 

 駄目だ、思い出すな。今思い出したら、俺は。

 

 ――私はな、他人が恐怖に怯えるツラを見るのが大好きなんだ。

 

「ハァ―ッ、ハァ―ッ、ハァーッ」

 

 怖い。怖くて、怖くて、何も考えられない。

 

『――夏、一夏! 聞こえているか! 一夏!!』

 

 誰かが、俺の名前を呼んでいる気がする。

 でも、応えられない。全身の感覚が失われて、口を動かすこともままならない。

 

『今――レイ――――ルドを――』

 

 やがて、周りの音が何も聞こえなくなった。視界もぼやけて、何がなんだかもうわからない。

 聞こえるのは、あの時のあいつの声だけ。見えるのは、あの時俺の目に映っていた光景だけ。

 

「俺は、俺は……!」

 

 怖いよ、千冬姉――

 




一夏の心をえぐる過去の傷が……今回はそんなお話でした。というか関係が冷え切っている一夏と鈴を描くのにものすごい違和感があります。これは間違いなく以前書いていた作品のせいです。

感想等あれば、気軽に書いてもらえるとうれしいです。

では、次回もよろしくお願いします。
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